第208話

「てめぇら!席につけぇあ!」




 朝のホームルームが始まるチャイムに被せるように、二足歩行のマンモスみたいな魔族の先生が声を上げる。


 教室の外からでも、鼓膜が破けるんじゃないかという声量だ。


 そして、机と椅子が激しく動く音がいくつも聞こえる。


 生徒たちが、大人しく従っているようだ。


 もっとも、最初からしっかり自分の席に座っていればそんな音が聞こえるはずもないから、そういう部分からもクラスの状態が何となく把握できるな。




「今日は、てめぇらが大喜びしそうなニュースがある!」




 魔物の領域へ飛ばされて3日目。


 この間、俺は色々忙しく動いていた。


 本当であれば必要なかった行動なんだけど、ある理由によってやらなければならなかったんだ。


 具体的に言うと、ある特定の力を体外に溢れないようにするアイテムの捜索だ。




「留学生が4人来やがったぞ!!!」


「「「うおおおおおおお!!!!」」」


「「「キャアアアアアア!!!!」」」




 教室の中は大盛りあがりだ。


 魔族の世界でも、転校生だの留学生だのが来ると盛り上がるのは共通らしい。


 これがゲームなら、美男美女がやってきてロマンスが始まるんだろう。


 でもすまんな女子たちよ。


 多分キミ等はがっかりする。


 逆に男子たちは喜べ。


 美少女しか居ないぞ。




「入ってこい!!!」




 教室の中から先生に呼ばれた。


 ただ、事前の取り決めで、1人ずつ入って自己紹介をしてから次の人が入ってくるように言われている。


 なんだその奇習は?って思ったけど、話を聞いたところ、この登場からの自己紹介の間の所作や漏れ出る魔力などで、魔族たちは自分との力の差などを把握したがるらしく、重要な事なんだとか。


 クラスカーストをこの段階で決定づけられるんだな……。




「よろー!エリザベートだよー!初めまして!お久しぶりの人もいる?わかんないけど、留学中は仲良くしよーねー!」


「「「おおおお!!!」」」


「エリザベートは魔王様の娘さんだ!気分を損ねたら死ぬと思え!次!」




 この魔族の学校では、誰かの気分を損ねたら死ぬ可能性があるのか。


 怖いな。




 あれ?魔法学園でも割と命の危険感じてた気がするぞ?


 おかしいな。




 エリザの自己紹介が終わったようなので、次に有栖が入っていく。




「皆さんはじめまして。有栖と申します。短い間ですが、仲良く学べると嬉しいです!」


「「「おおおお!!!」」」


「有栖もお偉いさんの娘だ!しかもつえーぞ!変なチョッカイをかけたら死ぬと思え!」




 命の危険が増えたらしい。


 まあ、有栖に危害加えるやつは俺が殺すからしょうがない。




 じゃあ次は俺かな?




「犀果大試です」


「…………それだけか!?」




 マンモス先生が驚いている。


 つってもコミュ障がいきなり知らない魔族と出会ってできる挨拶なんてこんなもんだぞ?


 ……流石にもう少し頑張ったほうが良いか……?




「魔王様から、ちょっかいかけて来るやつはねじ伏せるように言われているので、できるだけ喧嘩ふっかけて来ないようにお願いします」


「「「ああああああん!?」」」




 教室に入って、クラスメイト達の顔ぶれを見て初めて、ここが魔族の領域にある学校であることを強く実感させられる。


 わかりやすく悪魔っぽい(とは言っても、本物の悪魔ではないらしいけど)見た目のやつもいれば、体中毛むくじゃらだけどそれ以外は人間だったりする不思議なバランスの奴もいる。


 とにかく姿に統一性がない。


 魔族は、人間やエルフたちと比べて、種族がとても多いらしい。


 人間とほとんど見た目に差異がないエリザみたいなのもいれば、お前どう考えても魔獣だろって見た目のやつもいる。


 そして、この教室にいる奴らは、大半がヤンキーみたいな服装をしている。


 なんでかって?


 俺達が留学しに来たのは、夏休みの間限定の突貫スケジュールにも程がある日程だ。


 つまり、夏休みなのに学校に補習で強制的に呼ばれている彼らは、この学校の中でも特に問題児エリートというわけだな。


 因みにこの学校、魔王高等学校って名前なんだけど、将来の魔王を育成するために作られた魔族の領域屈指の名門校らしい。




(こいつぁヤクいぜ……)


(なんじゃこれ……どいつもこいつも考える前に拳を突き出していそうな顔しとるのう……)


(そんな事言いながら、ソフィアさんもセーラー服のスカートを足首まで伸ばしてますよね)


(どうせワシもこの空間に入らんといかんのなら、しっかり雰囲気を楽しまんとのう!)


(でもソフィアさんが着ると不良感消えてオシャレな感じになるのズルいと思います)


(じゃろー?)




 この学校、制服がちゃんとある。


 男子は学ラン、女子はセーラー服だ。


 しかも、カスタマイズが認められているらしく、ここで個性を出そうとみんな必死らしい。


 因みに、俺と有栖は普通のデザインのままで、エリザは少し動くとパンツが見えるくらいのスカート丈になっている。


 本人曰く、「スパッツ履いてるから大丈夫っしょ?」とのことだけど、個人的にはスパッツも好きなんだが?




 ただ、今回の留学生にはまだ1人同行者がいて、その恰好がだな……。




「シュゴー……シュゴー……」




 俺の自己紹介が終わったのを確認したのか、次は自分の番だとそいつが教室に入ってくる。


 全身を漆黒の鎧で覆い、不気味なオーラを発しながら俺の隣に立った。


 そして、様子を窺うように教室の中を見回す。


 その姿を見て、魔族の学生たちは騒めいている。




「おい……ヤベェよアイツ……!」


「ああ!コイツは、どう考えても魔王候補だ……!」


「男!?女!?男だったらペットにしてもらいたい……!」


「あのテカテカした肩アーマー……好き……♡」




 本物の魔王候補にして現魔王の娘でありエリザよりもある意味注目されているように見えるな……。




「天野聖羅、大試の婚約者。文句がある人は拳で黙らせるのがここでのルールと聞いた。大試に文句がある人がいたら私が殴る。もし私を奪いたいと思うなら大試に挑んで。でも大試は、私のために絶対に勝つ」




 その異形の戦士は、俺が2日かけて手に入れてきた聖なる力が外に漏れ出るのを防ぐ鎧に身を包んだ聖女様でした。


 リンゼに何かいい方法は無いかと聞いたら、ゲームでそう言う鎧があったと聞いて一も二もなく飛びついた。




 うん……最近あんまり一緒にいられなかったから、待ってろと説得するのがちょっと厳しかったんだ……。


 聖女を俺たち以外の護衛も無しに魔族の領域に送り込んだなんて明るみに出たら大問題になりそうだけど、まあその時は王様が何とかしてくれるだろ……。




 鎧入手してから、魔王様に無理やり頼み込んで一時帰宅させてもらって、一緒に来てくれって言った時の聖羅の笑顔がすごく奇麗だったし、頑張った甲斐はあったかな?


 となりの、今となっては残り少なくなった聖騎士の女の人たちの顔色が土気色になってたけど。












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