第207話
「何!?駅前で平民の民間人2人が例のバケモノ共を倒しまくっていただと!?」
あの日、俺は事件の事後処理に追われていた。
その中で、信じられない報告を受けたのだ。
なんと、上位の貴族たちですら一対一だと倒すのに多少手古摺る程度に強化されていたあのバケモノ共……人妖だったか?
あれを平民、しかも料理屋の店主と店員がバッサバッサと倒して回っていたというのだ。
この世界の常識として、魔力を多く持っている者のほうが強いとされているし、俺自身の経験的にも、大抵はそうだった。
もちろん、特別魔力が多くなくても、効率的な魔力運用によって魔力量の差を埋めてくる者もいるが、それは極少数の例外だ。
そして、この日本という国において、魔力が多い人間は貴族に集中している。
平民でも魔力が多い人間には爵位を与えて貴族にしてしまうのだから、当然といえば当然だ。
だからこそ、平民が今回のバケモノを倒して回っていたという知らせを受け、俺は驚愕したのだ。
もっとも、もう一人正体不明の存在がバケモノを倒して回ったという報告も受けていたが、こちらは後ろ暗い存在なのだろうという予想もされていたので、隠れていた犯罪者か何かだろうと当たりはつけていた。
それを無理に正体を突き止めるより、謎の存在としておいたほうが都合がいいため、それ以上の追求はしなかったのだが、住所も割れている人物たちにそんな強者がいるなんてな……。
「これは、是非とも会いに行かなくてはな!」
そう決意したものの、周りの奴らがそれを許してくれない。
そもそも、王である自分が行けば騒ぎになる可能性もある。
ならばどうするか?答えは簡単だ。
変装していく!
抜け出したことがバレれば絶対に怒られるが、それは明日の俺がなんとかするだろう!
『王風カレーのサタン』、それが件の強者がいるという店だ。
王国で王風を名乗る辺り、確かな自信があるのだろう。
外からでも、とても美味そうな香りが漂ってくる。
食欲を暴力的なまでに刺激してくるスパイスの香りに、人探しとは別の期待も膨らむ。
「頼もう!」
ここまで来て躊躇する理由などない。
すぐさま店内に入る。
どうやら他に客は居ないようだ。
だが、俺の勘が告げている。
この店は……当たりだ!
「いらっしゃい!何人だ!?」
「おう!俺1人だ!」
「あいよ!今席が空いているから、好きなテーブルへどうぞ!」
普通であれば、一人客はカウンターの席に座らされるんだろう。
だが、自由に座っていいと言うなら、当然窓際の見晴らしの良いテーブルに座らせてもらおう。
俺は、テーブルの上に載っているメニューを見る。
どの料理を頼むかはともかく、量は決めた。
王盛……王たる俺がそれを選ばないわけには行かない。
何より、俺の胃がそれ以外許さない。
さて……。
とりあえず、カツカレーをメインにし、これにトッピングを盛ることにする。
トッピング内容は……全てだ。
「注文は決まったか!?」
「おう!カツカレー王盛に、トッピングは全部……ん?なるほど!その場合は王トッピングといえば良いのか!それで頼む!」
「お!?良い覚悟だな大将!あいよ!」
厨房に戻る店主を見送る。
そして、すぐに油で揚げる音が聞こえ始めた。
トッピングは作り置きではないらしい。
カレーに浸して時間が建てば、揚げ物だろうとサクサクとした食感はなくなる。
しかし、それでもやはり揚げたて乗せたほうが美味いように感じるのだ。
人によっては、シナっとした物のほうが嬉しいという者もいるだろうが、俺は揚げたてがいい!
「ヘイお待ち!」
わざわざ揚げてくれたというのに、10分もしないうちに提供されたそれは、正に期待通りの一品だった。
牛肉が惜しげもなく入れられ、舌の上で解ける程に煮込まれていて、激しさの中に繊細さの見えるルー。
そしてカレー用に調整されているのだろうトッピング達。
気がつけば、山となっていたカレーは、全て俺の胃の中に収まっていた。
「ふぅ……美味かった!」
「だろう!?自慢の料理だ!」
「ああ!ここまで美味いカレーは初めてだったぞ!…………ところでだな」
「お前、魔王だろ?」
「……そういうお前は、ニンゲンの王だろう?」
―――――――――――――――――――――――――――
「そして互いの筋肉を認めあった俺達は、いつしかマブダチになっていたということよ!」
「ああ!魔族でもそうそうこのような素晴らしい筋肉は居ない!ニンゲンと魔族、種族として敵対関係にあるとはいえ、認めるところは認めないとな!」
「カレーの行り必要ありました?もっと他に必要な情報ありましたよね?」
「カレーは必要だろうが!」
「そうだ!必要だ!」
王2人がめんどくさい。
良いのか?王様と魔王様が肩くんでんだけど?
「……それで、何故俺が呼ばれたんです?」
「おう!そうだったな!有栖!説明を頼む!」
「はい!お任せください!」
仕事が与えられ、ふんすふんすとやる気に満ちた顔で有栖が前に出てきた。
この場にいるのは、筋肉2人……じゃない、王様と魔王様、そして俺と有栖の4人だけ。
つまり、相当な内緒話をするはずなんだけど、オッサン2人のせいで雰囲気がなぁ……。
「実は、父上と魔王様の間で、非公式ながら友好の盟約を結ぼうという話になったのです」
「本当に!?そんな事可能なのか!?人間と魔族って、互いに不倶戴天の敵って感じじゃないの!?」
「そのとおりです。ですので、まずは両種族の認識から変えていくために、こっそりと人材交流を行っていこうという話になったそうで……」
ふむふむ。
それで俺を魔族の中にぶち込むって話?
やべーよ。
俺が戦慄していると、魔王様が頭痛を我慢するような表情で話す。
「実はな……王都で起きた人妖の事件なんだが、聖騎士だかいう奴がやらかそうとしていたことは知らんが、人妖化させる呪いのアイテムを作ったのが、どうやらウチのバカらしくてな……」
「それって、魔法学園に教師として潜入していた奴ですか?」
「そうだ!知っているのか!?」
「倒したの俺なので」
「なんだと!?犀果君には重ね重ね世話になってしまっているようだな!」
ほんとにな……。
こちとら魔王倒さないとヤベェってなって頑張ってんだけどな……。
「ん?重ね重ね?」
「そうだ!娘が世話になっているらしいからな!」
「あ……、もうバレてるんですねエリザのこと……」
「丁度人妖が湧いたときにたまたま駅前で会ってな!反抗期なのか、俺にイライラしてばかりいたあの娘が、あんなに幸せそうな顔でお前さんやこちらでの生活のことを話しやがるんだ!家出する直前は、『……ッチ!』という会話ばかりだったのにだ!これで感謝しない父親など居ないぞ!」
うちの娘を拐かしやがって!
とか言われないかと心配していたけれど、この感じだと大丈夫そうだな……。
「裏工作で直接の力ではなく姑息な手段で騒ぎを起こす情けないやつが出た以上、このままにしておくわけにもいかん。ただなぁ……。俺がどれだけニンゲンと仲良くやっていこうと思っても、魔族の中にはニンゲンと激しく嫌っている奴も多い!仮に俺が号令を出して仲良くしようとしたら、自分たちで別の魔王を選出して勝手に戦争を始めそうなくらいにな!今回この事件を引き起こしたやつもそんな中のひとりだな!そんな状況で、魔族の人材をこちらに連れてきて、何かトラブルを起こしても困る!だから、まずはニンゲンの中で、魔族に多少チョッカイをかけられた所で跳ね返せる奴に来てもらおうという話になったんだ!」
「なったんだって……ちょっかいかけられてトラブルになったらどうするんですか?」
「むしろそうやって喧嘩っ早い奴らを力ずくでねじ伏せてくれ!それからニンゲンであるとカミングアウトすれば大抵の魔族はそれだけでニンゲンを認めるようになる!力こそ全てだからな!」
ぼてくりこかす事前提の留学だと……?
きっついなぁ……。
なんて思っていると、また有栖が説明をしてくれるようだ。
「……実は、聖騎士団の検挙を他の貴族の皆さんにさせることで、功績を稼がせようという目論見だったのです。最近、大試さんが個人でどんどんと活躍しているせいで、他の方々が焦っておられるようで……。なのに今回、人妖になってしまっていたとはいえ、聖騎士団長を大試さんが倒してしまったので、更に状況が悪化してしまい……」
「ほとぼりが冷めるまで、しばらく国を離れろってこと?」
「そういうことです!」
ひどい話だ!
「もちろんお一人では行かせません!私もご一緒させていただきます!」
「え?王女が行っていいのか?」
「はい!魔王様の娘であるエリザベートさんがこちらに来てしまっているので、バランスを取るために……という面もあります!あ、エリザベートさんとファムさんも一緒に里帰りすることになっています!……というか、既に昨日からもう魔族の領域に連れ去られているんです……」
言われてみれば、昨日見なかったな?
どこかで食いだおれしているのかな程度にしか考えてなかったけど、既に計画は進行していたらしい。
まあ、本来なら人質みたいにしておくのが良いのかもしれないけど、俺の具現化している剣が現状エリザ達の命綱みたいなもんだからな。
だから、帰らせても問題ないということだろう。
飯がまずいと言っていたし、エリザもファムも喜ばないかもだけど……。
「へぇ……。聖羅は?」
「絶対に無理です……どう納得してもらえば良いのか、一緒に考えていただけないでしょうか……?」
聖女は無理だよなぁ……。
「で、いつからいつまでの予定なんですか?」
何故かしらんけど、魔王と腕相撲していた王様に聞いてみる。
「無論!今日この後すぐに行ってもらう!」
「俺が魔力任せにテレポートすれば一瞬だぞ!帰りたくなったらまた一時帰宅くらいなら一瞬でできるから心配するな!よし行くか!?」
いやちょまっ
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