第206話

 いかすみすぱげってーが解け、煙のように消えていく。

 それと同時に世界が歪む。

 気がついたら、元の世界に戻っていた。


 あれ?元の場所だよな?

 なんかボロボロだぞ……?


「あ、おかえり大試」

「聖羅?なんでこんなにこの辺り荒れてるんだ?」

「変な気持ち悪いのがいっぱい出てきて、それを聖女パンチと聖女スラッシュで倒してたら壊しちゃった」

「……あ、つまり壊したのは聖羅なのな……?」


 とはいえ、タイミング的にさっきのリーダー君の人妖化と無関係ではないだろう。

 人妖か、それに準じたものかな?

 聖羅が対応していなかったら、大変なことになっていたかもしれない。


「流石聖羅だな!」

「これでも聖女だから」


 ドヤ顔である。


「私も頑張りましたよ!」

「アタシも。というかね、王都中であのバケモノが発生していたらしいから、大変なことになってるわよ」

「え?マジか。まあ何にせよ、有栖もリンゼも無事でよかった。理衣と会長は?」

「観客の避難誘導と事後対応中。アタシたちは、アンタが結界に閉じ込められてるっぽいから、出てくるのを待ってたってわけ」


 どうやら心配させてしまったらしい。

 俺は悪くないと思うけど、申し訳ない。


「うぷ……まだあの気持ち悪い呪いの臭いが残ってる感じがするのう……」

「私無事なんですね……よかったぁ〜……」

「変なルールが設定されていない隔離空間で助かりましたね……」


 一緒に巻き込まれたメンバーも、無事に戻ってこれたらしい。

 今日は、試験内容自体はわりとエンジョイできたんだけど、それ以外が散々だったなぁ……。


「……よし!王都中で問題が起きているなら、俺達もその終息に協力しよう!」

「わかった」

「そうですね!」

「良いけど……、アンタ、戦いが不完全燃焼だったとかそういう理由でしょ?」

「何を言う?俺ほど人々の平和を願っている男もいないぞ?」

「ああそう……」


 信用されていない……。


「いやもういいじゃろ……?ワシもう休みたいんじゃが……」

「ソフィアさん、ここで逃げるのは、一応は貴族社会の一員である俺達には許されないと思うんだよ」

「シガラミってのは面倒じゃなー……」


 ソフィアさんはうんざり中、っと。


「犀果さん、隔離世界からでて妖精の力が使えるようになったので、人妖が他に居ないか索敵しました。それによると、王都内には既に人妖はもういないようです。発生自体は大量に起きたようですので、相当スムーズに対応なさったんですね」

「え?そうなの?なんだ……もう敵居ないのか……いや、良いことなんだけどさ……」

「アンタね……」


 リリアさんの妖精術は、初めて使ったときと比べると随分と上達しているようだ。

 頼もしい限りだな!

 リンゼ、その呆れた顔はやめてください。


 戦力としての手助けができないのであれば、むやみに協力しても邪魔になるか?

 非常時に指揮系統に組み込まれていないポっと出の子供とか、使う側からしたら悪夢だろうさ。


「先程の魔物がもういないのであれば、私は王城へ一度戻りたいのですが……」


 有栖が躊躇いがちに提案してくる。

 まあ自分の家族の安否を確認したいというのは当然か。

 俺の両親みたいに、無事かどうか心配する必要がないくらい強い人なんてそうそう居ないしな……。


「戻るのは良いけど、1人での移動は禁止だ。リンゼ、一回自分の実家によってご家族の安否確認してから2人で王城まで行ってもらえるか?」

「そうね……、確かにアタシも一回家に帰っておきたいわ。アンタは行かないの?」

「俺が行くと、なおさらややこしいイベントが発生しそうな気がするんだよな……。王城に行く度にハチャメチャなことが起こってるし、流石に今日みたいな状況で行くのは辞めておこうかなって……」

「あぁ……」


 たまに、俺はこのゲームをモデルにした世界だと、疫病神に近い存在なのではないかと思うことがある。

 やっぱりトラブルが起きないとゲームとして成立しないもんな……。

 主人公が居なくなっちゃったから、代役状態の俺がトリガーになってしまっている気がする。


「というわけで、俺は会長の方の手伝いしてくるよ。王様の周りよりは、イベントがおきたとしてもそこまで酷いことにならんだろ。聖羅とリリアたちもこっち手伝ってもらっていいか?」

「わかった」

「私も大丈夫です」


 そこからは、スムーズに事が進んでいった。

 会長と合流して学園内でトラブルが起きている場所を回ったけど、流石は将来的に魔物と最前線で戦うかもしれない者たちが通う魔法学園らしく、人妖たちは直ぐに討伐されて被害も殆どなかった。

 王都全体で見ても、奇跡的に、人妖化した者たち以外の死者が発生していなかったらしい。


 ただ、一番被害が大きかった場所で、正体不明の人物が人妖を狩っていたらしい。

 他の地域では、聖騎士団や、彼らと繋がりのあるモノたちの近くにたまたま戦力が居て対応が早かったらしいけど、その被害が大きかった場所だけは、他とは別系統で隠されていた拠点であり、その正体不明の人物が居なければ、相当な数の死人が出ていただろうということだ。

 何者だったのか知らないけど、名乗るほどの者ではない的な感じだろうか?

 一回やってみたいな俺も……。


 俺の周りの人達が、俺が今回の実技試験を楽し……集中して挑めるようにと気を使って内緒にしていたらしいんだけど、どうやら聖騎士団長が謀反を計画していて、それを潰すために俺に対してちょっかいを出している隙をついて一網打尽にする計画だったんだとか。


 そのマークしている奴らが、いきなり同時多発的に人妖になったもんだからハチャメチャな状況になったけれど、スムーズに自体を解決に導けたらしいよ。


 全く気がついていなかった……。




 でも、とりあえず最悪の事態にならなくてよかったね!

 なんて思ってた俺の頭をひっぱたいてやりたい。


「おう!大試!ちょっと魔族の学校へ留学してきてくれ!」

「はい?」


 いきなり呼び出された王城で、王様にそう言われた俺。

 隣には、何故かいい笑顔のカレー屋の店主が。


 うん、さっさと帰って寝よっと……。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る