第205話
「うっわ……グロい……」
「中身は、生き物というより、いかすみすぱげってーといった感じじゃなぁ……」
「食べ物で例えないでくださいよ……」
真っ二つになって倒れ伏した聖騎士団長だったと思われる人妖を前に、ドン引きしている俺達。
ぶった斬った俺自身がうんざりしてる。
「人妖は、体を構成する物全てが、己の中にあった呪いに置換されています。ですので、その存在を保てないほどの攻撃を受けると……」
リリアが口を抑えながら見つめる先で、ハーフ人妖が黒い粒子となって消えていく。
何となくこっちの方に来たら吸い込みそうで嫌なので、木刀を全力で振って風を起こしふっとばしておくことにする。
聖騎士団長の人妖が消えるのと同時に、テカテカの空間が剥がれるように無くなっていき、それまでの荒涼とした場所になった。
「これで死んだんでしょうか……?」
アイドルちゃんが、リリアに縋り付くようにして聞いている。
まあ、この場で呪い関係の知識があるのはリリアだけだし、先入観で死んだと勝手に考えてしまうのはまずいか……。
そもそも、あれは生きてると言っていい存在なんだろうか?
「……少なくとも、あの男性は既に滅されているようです。気配がありませんので」
「ワシもそう感じるのう。じゃが、やはり大本の気色悪さは消え失せておらぬ。どこかにおるというあの小僧の成れの果てを倒さねば、やはり脱出することはできんようじゃな」
「呪いとかいう技術考えたやつ死ねばいいのに」
「死んどるじゃろ?大昔からあるんじゃろうし」
「いや、なんかどこかで生きてそうじゃないですか?すげー嫌な場面で出てきそう」
「嫌じゃなーそれ……」
安倍晴明を名乗る人形が稼働してる世界なんだ。
それこそ人妖になって残ってる可能性もありそう。
大体、今回の呪いって本当に実用化されたものなんだろうか?
もう少し使用者に優しい技術にできないと受け継いでいくこともできない気がするんだけど……。
そういえば、オッサンの回想セリフに協力者が杭を用意したって話があったような?
しかも、そいつは第一王子とかにも協力してたって話だけど、最近そういう事を口走ってたアホ……魔族がいたような……。
今考えても仕方ないか。
とにかくここから脱出することを優先しないと。
「それにしても、さっきのリリアがやってくれた進む方向占うアレ、バッチリだったな!」
「そ……そうでしょうか?実は、冗談でそれっぽく図を描いてみただけだったのですが……不安が紛れればと、お守り代わりに……」
「……マジで?」
「はい……申し訳ありません!」
「いやいや、それで結果を出したんだから、それはもう立派な技術なんじゃないか?知られていない秘伝の術をたまたま再現できたのかもしれないし。というわけで……はい!ワンモアプリーズ!」
「えぇ!?」
どうせ宛もなく歩いてるんだ。
ダメ元だろうがやってみる価値はありますぜ!
「ワシからも頼む!1秒でも早くこんな辛気臭い場所からは脱出したいんじゃ!」
「そうです!お願いします!」
リリアは自信がないみたいだけど、諦めろ。
「うぅ……わかりました。頑張ります!」
この時はまだ誰も想像すらしていなかったけど、将来『リリア式本命卦占い』と呼ばれ、JK達やオカルトマニア達の間で大流行する占い誕生の瞬間だった。
みなさんもやってみてください。
リリアと地面に絵を描く用の枝と世界樹製の木刀を用意すれば誰でもできます。
無理なら木刀の代わりにただの枝でもいいです。
再び指し示された方角へ歩く。
相変わらずの薄暗い岩石砂漠っぷりだ。
本当の岩石砂漠だったら、きっとそれはそれで楽しめたんだろうけど、何故か今いるこの隔離空間の中では、全く嬉しいと思えない。
せめて夕焼けとか朝焼けだと感動的なのかもしれないのになぁ。
もしくは、月明かりに照らされてるとかさ。
ここの空は、絵に書いたような鉛色。
『何故だ……?何故負けた……?』
この空の色のように、聞いていると気分が曇るような声が聞こえてくる。
うん、やっぱり方向は合っていたようだ。
「さっきの聖騎士団長の行動を参考にするなら、話を聞くより、その空間を作ってるやつの大事そうなものを焼き払ったほうが早くやってきそうな気がするんだよな」
「うだうだ言い募られても面倒じゃしな!」
「焼きましょう!」
「……あの……いえ、なんでもないです……」
反対意見が無いので、開幕即指パッチンでいきます。
あれ?さっきの聖騎士団長の時みたいにスイッチ押して音声再生する演出ではないんだな?
ってか、特に燃やせるような物が見当たらない。
どうすっかなぁ……?
「ミツケタ……」
近くになにか無いかとキョロキョロして、一瞬目線を正面から外して、すぐ戻したそのほんの少しの間に、どす黒い顔になったリーダー君が現れていた。
「うおっ!?」
「気をつけてください!空間を跳躍してきました!」
咄嗟にリリアが結界を張る。
だけど、リーダー君は、特に何かをしてくるわけではないようだ。
「……蛮族……犀果……」
「なんだ?会話できる程度に知能が残ってるのか?」
どうやら、聖騎士団長よりは脳みそが残っているらしい。
かといって、どれだけ話が通じるかは疑問だけど。
「……俺は……何故負けた……?」
「ん?さっきの試験の話か?ついさっき頑張って説明したはずなんだけど……」
試合後放心状態だったみたいだし、その後すぐこの空間作り出すために自殺してたから聞いてなかったのか?
また改めて説明はしたくないぞ?
「……俺は……優秀なはずだ……貴族だ……なのに……何故、平民上がりのお前に……」
「勝敗に優秀さは関係ない。というより、勝ったほうが優秀なんだ。どんなに高性能でも、毎回トラブルでレースを走りきれないようなレーシングカーを持て囃すやつなんていないだろ?お前のルーツなんて関係なく、自分が優秀だって証明したいなら、勝つしか無かったんだよ」
「……俺は……俺は……」
これ、会話になってるかな?
わからん……。
でも、多分納得してないな。
こうなったら、もう完全に無視して滅すか、または……。
俺は、木刀をもう一本具現化し、リーダー君に投げる。
「……これは……」
「勝敗が納得できないって言うなら、ここで最後のチャンスをやる。一応言っておくけど、お前はもう人間には戻れないらしい。それでもまだ俺に勝ちたいと言うなら、その木刀を拾え。一対一で戦ってやる」
「……剣……剣か……」
あれ?なんか戸惑ってる?
何となく木刀渡したけど、もしかして得意じゃなかったか?
貴族にとって剣術は嗜みなんじゃないのか?
でも、とりあえずリーダー君は木刀を受け取って構えた。
「……俺は……俺は……!」
「なんだ!人間やめてからのほうが、人間らしい顔してるじゃないか!!!」
憎しみと、悔しさと、高揚感。
それが綯い交ぜになった表情のリーダー君と相対する。
「大試よ、手出しは必要ないんじゃな?」
「はい、すぐ終わらせます」
「すごい自信ですね!?」
「……彼を倒せば、きっと外に出られます。犀果さん、よろしくお願いします」
「ああ」
リーダー君の構えは、ちゃんとした剣術を習ったやつの構えに見える。
でも、手も指も、剣を握ってきた者には見えない。
多分、昔習っただけで、最近は全く触っていなかったんだろう。
そりゃ魔法を使える奴らなら、無理に近接戦闘を行う必要もないのかもしれないし、仕方ないかもしれない。
だとしても魔術戦なんて俺にはできない。それじゃあお前は納得できない。
対等な条件で勝てないと嫌なんだろ?
まあ、結局満足できないまま消えてもらうが。
(あぁそうか……俺も……主人公になりたかったんだ……)
斬り飛ばしたリーダー君の頭、その目が、そう言っている気がした。
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