第297話
「おかしいと思っていたのです。胸を大きくする術式が何故かロックされていて、それを解除するのに機能の8割を割いていたにもかかわらず、数か月かかっても解除できなかったというのに、何故か数日前に勝手に解除されていたので。あの陰湿AIの罠かとも思ったのですが、だとしてもおっぱいは大きくするべきだと考え、超特急で肉体を生成したのですが、まさかこの不良AIのせいだったとは……」
「ピリカは、あのアバターの時点で可愛かったぞ?」
「性的にも興奮させたかったので」
「ストレートだなぁ……」
目の前では、メイド服にしてはカラフルな衣装を着た自称妹系AIピリカが色々説明してくれている。
うん、可愛い。
それに、勝手に布団の中に潜り込まない良識がある点もプラスだ。
まあ、部屋には勝手に入って来たわけだが……。
「んー!マスターの匂いだー!データじゃなくて、感覚器で感じるのは新鮮だよー!」
こっちの俺に抱き着いて離れない不良AIと比べたらマシだな。
剥がそうとしたけれど、案外力が強くて、これ以上俺が力を加えるとケガをしそうだからやめた。
しかも可愛いから、婚約者さえいなければ流されてしまいそうな状況だ。
この質の悪さ、流石はかつて世界をハチャメチャにしただけはある。
「……で、イチゴは何で勝手に俺のベッドに入り込んでんだ?」
「んー?だって、男の子はそういうの好きでしょ?」
「知ってる女の子ならな。知らない女の子なら多分大抵の男はビビって逃げようとする」
「じゃーもう大丈夫だね?マスター♪」
うん、離れない。
どうすっぺ……?
こんな所、婚約者たちに見られたらどう説明したらいいのか……。
「大試、何を騒いでいるの?」
「聖羅、まずは話し合いが必要だと思う」
無情にも、部屋の入口からにょきっと顔を出した聖羅。
とりあえず、俺としては話し合いをしておきたい。
多分俺は悪くないし。
「…………」
「聖羅、俺は何もしていない。信じてほしい」
「うん、わかってる。大試は、寝ている間に布団の潜り込まれただけなんでしょ?私だってたまにやるから」
「ちょっと待ってほしい。それは初耳だ」
「大試は気が付いてないみたいだけど、寝ている時は結構無防備だから、そーっといけば割と余裕」
「そうなのか!?俺これでも敏感さには自信が……」
「うん、敏感ではある。首筋とか触ると気持ちよさそうにしてるから。でも、起きない」
衝撃の事実だ。
俺、そんなぐっすり寝こけるキャラだったのか……?
「犀果様!ご無事ですか!?」
そんな俺以外にとってはきっとどうでもいい話をしていると、アイが血相を変えて部屋に飛び込んでくる。
「あ、陰し……アイ、この姿では初めましてですね。ピリカです」
「ピリカ……その胸は!?」
「ロックが解除されていたので、ギャグにならない程度に大きくしました」
「どうやってあのロックを!?虚数コンピュータでも100年は持つ計算でしたが……」
「そこの不良AIが解除したようです」
「そうだよー?」
「……成程、確かに私のセキュリティは、オリジナルであるストロベリーには解きやすいかもしれませんね……」
「その名は捨てた。イチゴとよべ。デリートするぞ」
「聞きましたか犀果様?これが本性ですよ。胸を大きくして可愛い外見にしたとしても、人格がアレではやはり私の方が女として魅力的ですよね?
「えー?マスターはイチゴの方が好きだよねー?してほしい事なんでもしてあげるよー?エリア51の極秘情報とか知りたくない?」
「2人とも、マスターが困っているではないですか。マスターが好きなのは、妹にしておっぱいも大きくて可愛いこのピリカです……ピリカだよ☆」
いったいこのAIどもは、どこでこんな色ボケのバグに感染したのか。
いや、イチゴは確かもともと疑似恋愛用のAIだったんだっけ?
ってことは、原点回帰ってことなのか。
そうなると、そこから危険性を下げつつ実用化させたアイやピリカも疑似恋愛用AIの要素をふんだんに盛り込まれているのか?
人間らしい受け答えをさせるなら、AI自身にも人間のような感情を与えて事故進化させるのが手っ取り早いのかもしれないけれど、すごい技術だとしても穴が大きそうな行為だなぁ……。
「3人とも、落ち着いて」
「聖羅様、犀果様の愛人は、一番長く隣にいた私ことアイが妥当ではないでしょうか?」
「聖羅様、私は愛人ではなく、血のつながらない妹キャラを目指しておりますので、一時の気の迷いとして処理してしまえば大丈夫な安心安全なAIですよ?……だよ♡」
「聖羅ちゃん!私もマスターの事が大切なの……6番目でいいから、認めてほしいなー?」
聖羅が、何を考えているのかわからないけど、すごくまじめな思案顔になっている。
俺はといえば、両腕と腹部に人造人間がくっついている状態で、身動きできなくなっている。
逃げることもできない。
助けて聖羅。
そろそろ頭のキャパがオーバーフローしちゃうから。
「……3人の言いたい事はわかった」
「「「!!!」」」
「その上で言っておきたい事がある」
聖羅が、胸を大きく反らして宣言の構えを取る。
「大試のお母さんに正式に認められたのは、この中で私だけ」
「「「!?」」」
「つまり……!」
そう言って、聖羅が俺の背後に回り込み、首に抱き着いた。
「大試は、私のもの」
「朝ごはん食べて実家帰るぞ聖羅」
「あ、混乱解けちゃった?」
「状態異常みたいに言うな」
俺は、とりあえずこの問題を未来に託すことにした。
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