第298話
実家に帰らせてもらいます!
と言っても、真っ当な方法だともちろん間に合わないので、内緒でですけれども。
実家に短時間で帰れるのがバレたら、俺達がとんでもない移動手段を確保しているのまでバレてしまうため、王様にも内緒だ。
まあ、ヨーロッパの小国の大聖堂を日帰りでぶっ壊して帰って来た時点で、今更かもしれないけども。
行程としては、まずエルフの集落付近のテレポートゲートへ飛び、そこからいったんエルフの集落へ寄って、アレクシアを里帰りさせる。
その後、イチゴの飛行機でスキャニングしながら開拓村を探すという予定だ。
未だに開拓村の正確な位置は確認できていないので、まっすぐ向かうという事が出来ないのが辛い。
母さんは自力で飛んできてたから、せめて方向だけでも教えておいてもらえば良かったな……。
今回同行するメンバーは、以下の通りだ。
お馴染み聖羅。
生徒会の仕事から解放されて憑き物が落ちたような表情の理衣。
離れたらこの世界からドロップアウトしちゃうため強制参加のソフィアさん。
途中離脱予定のアレクシア。
移住予定地を見ておきたいというドラゴン族のルージュとクレーンさん。
便利そうだからという理由だけで強引に連れてきたファム。
そして最後に、AI3人娘だ。
他のメンバーは、王都で留守番だ。
っつっても、別に強制的に置いてきたのではなく、それぞれ用事があるらしいから各自の希望を聞いた結果の処置だ。
例えばエリザに関しては、親子で過ごしたいらしいので、正月明けまでカレー屋に泊まるらしいし、リリアは、新年からは学園に本格的に留学という扱いになることが決まったので、家でお勉強中だ。
聖騎士の女性たちは、教会の信者は基本年末年始は家族などと静かに過ごすものらしくて、それを実践するために休暇中だし、聖戦士の皆さんも同様に静かに寮で過ごすそうだ。
明小と多三郎さんたちは、大みそかから正月はかき入れ時だからと大忙しらしいのでこちらに来るのは無理。
そんな感じで皆それぞれ自分たちの好きなように過ごすんだ。
あ、仙崎さんだけは、開拓村に連れて帰ると二度と王都に戻ってこなさそうだから、父さんと母さんに確認してからということで、参加は見送られた。
仕方ないので、家でミナミ画伯と一緒に酒を飲むらしい。
あの幽霊、普通に最近飲食してるんだよなぁ……。
リンゼと有栖と会長は、貴族と王族の仕事があって、こっちには参加できず。
正月に暇そうにしている貴族の嫡男なんて、俺くらいなものだとリンゼが愚痴っていた。
「犀果様、テレポートゲートの管理をする必要がある以上、私は絶対に同行するべきですが、ピリカとイチゴは必要ないのでは?ピリカは、久しぶりのエルフの集落なのですし、本来の業務に戻すべきかと。飛行機はイチゴの持ち物かもしれませんが、操作だけなら私でも出来ます。イチゴを連れて行った場合、間違いなく問題を起こしますよ?」
「お兄ちゃん!魔石いっぱいもらったから、エルフの里の管理くらいなら片手間でも余裕だよ☆だから一緒に行きたいなー♪お願いします後生ですから。折角肉体を手に入れたのに仲間外れは寂しいです……」
「マスター、どうせならここから飛行機で行けばいいんじゃないかな?テレポートゲートなんて使わなくても、イチゴの飛行機ならすぐだよ?ねーねー?」
うるっせぇ。
姦しいという漢字の完成度の高さに今更気が付いたわ。
「妹かぁ……楽しみだなぁ……」
俺は、努めて無視して話題を変える。
そこそこイケメンの父さんと、ビビるくらい美人の母さんの娘なんだから、間違いなく可愛いくなるだろうなぁ……。
前世要素のせいで普通以下であろう俺なんかとは比べ物にならないビジュアル強者となるだろう。
将来、彼氏など連れてきたときに、俺は果たして笑って対応できるだろうか?
貴様に妹はやらん!とか騒ぎ出さないだろうか?
うーん、自信がない。
「大試、妹の名前って考えたの?」
「俺は考えて無いけど、母さんたちが考えてるんじゃないか?変なキラキラネームじゃなければ何でもいいよ。だって、妹なんだぞ?その時点で最高だよ多分」
「大試の妹だから、きっと可愛いね」
「俺に似てないといいなぁ……」
「大試に似てた方が可愛いと思う」
あーだこーだと妹談義をしてみる。
実際に見たことも無いのにここまで妹について語れるのは、俺に妹属性でもあったということなんだろうか?
いやまて、血のつながった妹の場合、妹属性と一括りにするとその手の人に文句を言われる可能性が……。
「犀果様、妹という存在に対する犀果様の心理データを記録させて頂いても良いでしょうか?」
「データバンクにアップロードして永久保存にしようよ☆」
「お姉さんに対するデータもほしいなー」
……あれ?
案外仲いいのか?
何はともあれテレポートゲートでエルフの集落付近まで飛ぶ。
そこからエルフの集落へ寄り、アレクシアを放逐。
「あのぉ……私もそちらに混ざっていきたいんですけど……」
「いや、一応族長代理なんだろ?せめて年末年始くらい仕事しろよ」
「なぜ折角の年末年始を仕事に当てないといけないのですか!?
「年末年始以外も休みっぱなしだからだろ……」
「ついて来てッて今更言ったってもう遅いですからね!」という捨て台詞を残し、彼女は故郷へと帰って行った。
頑張れアレクシア。
ソバのカップ麺は渡しておいたから、これで大晦日も安心だぞ。
その後すぐ飛行機を出して飛び始める。
空から探すと案外簡単に見つかるもので、森の中に開けた部分があって、そこに家が幾つか建っていた。
これは、間違いなく開拓村だ。
エルフの集落からこんなに近くにあったのか……。
とりあえず騒ぎにならないように少し離れた所で着陸してもらったけど、なんとなくではあるが、飛行機の中にいたのに村の大人たちと目があった気がした。
こっわ……。
「よし皆、開拓村へいこう」
「久しぶりに実家に帰るから、少し緊張するかも」
「聖羅ちゃんでもそんなふうになるんだね。私は、大試君のご両親に初めての御挨拶だから、すごい緊張だよ……」
「覚悟しておくニャ。ボスのお母さんは割とがちでやべー女にゃ。あんなの今まで見たこと無かったニャ……」
「人の母親の事をよくもそこまで……って言ってやりたいけれど、俺自身あの人はヤベーと思っているから許そう」
素手で熊を即死させる魔術師だからなぁあの人……。
皆で歩いて30分ほど。
やっと森が開けて、懐かしい我が故郷が見えてきた。
そうそう、この辺りにエンシェントトレントの丸太を積み上げて……。
「ん?」
俺は、何か見覚えのあるものが見えた気がして、二度見してしまう。
するとそこには、俺と同じくらいの年齢の男子が、何かの作業をしていた。
この村に俺と同世代の男子なんてアイツしか……。
そこまで考えた俺は、弾かれるように走り出していた。
手には、打刀を持ちながら。
残り100m、50m、20m……。
風のように速く走って相手の元へと辿り着いた。
「な!?大試!?」
その男子は、俺が近寄ってくることに気が付くと、顔を青くしていた。
それもそうだろう。
殺すつもりで剣を持った男が向かってくるんだから。
風雅が、そこにいた。
俺が、後々面倒な事になりそうだから、見つけたら殺しておこうと思っていた相手。
だけど、俺の目的が達せられることは無かった。
「……なあ、説明してもらえるんだよな?父さん」
「はぁ……お前の思い切りの良さはすごいなぁやっぱり……」
開拓村のオッサンたち何人かによって、身動きができないように武器を突き付けられたからだ。
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