第163話
「腹は無事なんですか?」
「化け狸の腹などいくらでも開けるからのう」
目の前には、腹を切ったはずのおっさんがいる。
袴に白衣で、いかにも神職の人間ですとでも言っているような服装だ。
……王様、やりやがったな?
「で、今の名前とか……いや、そもそもどういう理屈でここにいるんですか?」
「そうじゃのう……表向きは、四国出身の明小の祖父で、長年管理していた神社が、周囲の過疎化と建物の老朽化によって他の地に移す必要が出て、仕方なくここに引っ越してきた哀れな隠神爺さん……という話じゃな」
「あーそう……そうなんだ……貴族って案外死んだことになってても死んでない奴らだらけなのね……」
「我輩の場合は、調査に来た者の前で実際に死体になっとったから、死んだことになっていた者たちとは少々違うがのう。とはいえ、我輩を化け狸だと知っとる爺さん連中と、陛下は勘づいとるじゃろうが」
文字通り、化かしたんだ?
化けて出ているってことになるのか?
和製ファンタジーではあるかもだけど、俺の求めるファンタジーではないなぁ……。
だって、それってどっちかっていうと、時代劇の撮影してるテーマパークに行って見たいやつじゃない?
俺違うの!嫌いじゃないけどそうじゃないの!
もっとこう……観覧車とかメリーゴーランドがあるテーマパークが良いの!
でも忍者屋敷は好き。
一瞬で舞台を真っ暗にされて、ストロボ点滅させながらコマ送りで動いているよう見せる手法とかさ。
演者の動きが案外すごい音出してて、迫力がすごいんだ。
でも、別に近所にそんなテーマパークを作ってほしいとは思ってない。
観覧車もメリーゴーランドもいらない。
なんなら、森でいいんだけども……。
「母さん、俺にばっかり色々集中しすぎだと思うんだ」
「大試はダメねぇ。仕事できる奴だって思ったら、色々押し付けようと考えるのが人間ってものよ?」
「それ、前にも誰かに言われたわ……」
仕事を押し付けられて、それを解決する度に面倒事が増えている気がする……。
「まあ我輩のことは気にせんで良いぞ。ただの雇われ神主じゃ。一応役職こそ宮司扱いじゃが、ボランティアみたいな立場じゃな。元々神社で働く者たちは、奉仕しているというスタンスじゃから、本来の姿に戻るわけじゃな」
「金は持ってるんでしょうしね……。それよりもっと厄介な問題を抱えさせられたけど……」
「ははは!我輩、狸親父じゃから!」
笑い事じゃないんだよなぁ……。
「流石ね大試!母さんが知らない間に、こんなにもいろいろな人達を集めているなんて……。今の大試が反逆を始めたら、多分この国一瞬で終わるわね!母さんも味方になっちゃうし!」
「しないよ……。誰がそんな面倒なこと……」
「そう?残念ね……」
母さんは、たまに本気なのか冗談なのかわからないんだよなぁ……。
本気だとしても実現できちゃう力があるし……。
開拓村の人たちってやけに強かったけど、もしかして全員ハイヒューマンってやつだったのかな?
だとしたら、あの人達が本気になったらすぐこの国終わりそうだ。
そりゃ、第一王子が追放なんてやらかしたときには、その強さを知っている奴らは肝を冷やしたことだろう。
丁度ここに隠神のタヌキがいるって知ったときの俺のように!
「まあいいか!隠神爺さん!これからこの神社よろしくな!俺もう知らんからな!」
「いいのうその開き直り!大事じゃぞそういうの!人生案外諦めざるをえん状況とはあるからの!そうなったら、酒でも飲んで寝るしか無いんじゃ!」
「飲めないうちはどうしたら良いんだ……」
「コーヒーでも飲んどけ。あの泥水が美味いと感じるようになった頃には、とりあえず解決しとるじゃろ」
牛乳と砂糖たっぷり入れていいかな?
もう泥水じゃなくなるけど。
「うちの村ではハーブティーくらいしか飲めなかったものねぇ……」
「あと有ったのは、酒くらいだもんなぁ……。聖羅が成長促進させて収穫した果物をジュースにしても、いつの間にか酒になってるしさぁ……。誰に聞いても自分はやってないって答えるんだけど、どうして酒になるんだろうね?」
「不思議ねぇ?」
ほんとにね?
「大試!ボクは今度からこっちに住むね!」
明小がニッコニコで言ってくる。
コレは流石に断れない。
「じゃあ明小は巫女さんだな。爺さんと一緒にこの神社頼むぞ。参拝客何ているのか知らんが……」
「うん!もすうぐ道路も開通するから多分誰か来てくれると思う!」
また知らない情報が来たぞ。
どんだけ大々的に工事してんだよ……。
「頑張りました」
「アイ、何でもかんでも実現しようとしなくて良いんだからな?」
アイがフンスッとドヤッている。
オーパーツが本気になったら、1週間で神社を作って道路を切り開けるんだからすごいとは思う。
でも、やりすぎじゃない?
対外的に説明できない技術と存在が多すぎるんだ。
自重しよう?
「そうだ、明小がいた神社の御神体ってここに設置したら良いのか?」
「うん!あ、でも、お母さんがいるのに頭蓋骨だけここに置いとくのもどうなんだろうね?」
「俺なら泣くな……」
タヌキの価値観はわからんけどな……。
「さて!母さんはそろそろ村に帰るわね!」
「あれ?泊まっていかないの?」
「もう十分こっちにいたもの!それに、来ようと思えばいつでも飛んでこれるしね!父さん1人にし続けておくと、家の中がどうなるかもわからないしね」
「……家事は父さんのほうが得意だったような……」
「何か言ったかしら?」
「いや、何も?」
いられると厄介だけれど、いざ帰ると言われると寂しくなるものだ。
なんだ?俺はマザコンなのか?いや普通だよな?
「じゃあ帰ると決めた以上長居は無用ね!またね大試!」
俺が返事をするのも待たずに、母さんは飛び立っていった。
いやぁ……、リンゼ以外で飛んでる人間見るとやっぱりびっくりするなぁ……。
リンゼは元女神だけど、母さんはただの人間であんな事してるんだから、やっぱりバケモノだわ。
ちょっとだけ俺も飛んでみたい……。
母さんがいなくなった途端、それまでずっと静かだった人が姿を表す。
よっぽど怖かったんだろう。
「大試よ……、母君はやっばいのう……」
「でしょ?似たようなのがまだまだいるんだ」
「……やっばいのう……それはそれとして、そろそろごはんを食べたいんじゃが!」
「そうですね、何食べます?」
「カレーが食べたいのう!甘口の!」
「私は超辛口のに挑戦したいです」
「アイは毎回冒険しすぎじゃないか?」
「でしょう?」
「なんでドヤってんだよ……」
今日はもう飯食って何も考えず寝るべきだ。
俺の本能がそう言ってる。
なんならずっと言ってる。
「我輩は、カレーにはチクワ派じゃな」
「ボクはハンバーグ!」
悩みのタネの一つたちは、今夜も食事を集りに来るらしい。
何も考えたくないなぁ……。
よし!俺はカツカレーな!ついでにエビ!
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