第164話

 合宿中に気になったことがある。

 ハイヒューマンについて、リンゼからなんの説明も受けていないことだ。

 100レベルになる前ならともかく、皆で100レベルになった今、リンゼがそんな重要なことを俺に秘密にするとは思えないんだ。

 だから、リンゼに疑惑を持っているとかそういう訳じゃない。


 リンゼが俺に対して故意に情報を秘匿していたという線を排除して考えるなら、それはそれでかなり不味いことになる。

 つまり、すごい重要な要素をリンゼが把握していないということだ。

 リンゼのゲーム知識によって多くのアドバンテージを得られた俺達だが、ここに来てそんなリンゼすらまったくわからない要素が出てくるなら、ここはゲームをモデルにしてはいるけれど、未知の部分が数多く存在するということになる。

 そうなるとどうなるか?


「よく考えたら、俺自身にはあんまり関係なかったわ。元になったゲーム知らんし」

「犀果様、エビカレーの味はいかがですか?」

「めちゃくちゃ美味いわ。本当に初めて作ったのか?」

「インターネットにレシピがいくらでも上がっていますので」

「便利な世の中だよねぇ……」


 オンラインにするとオートで料理してくれる電子レンジの上位互換みたいな感じだな、このアイってシェフは。


「閃いた!この甘口カレーにアンコを入れたら美味いんじゃないかのう!?」

「やるなら一口分くらいにしておいたほうが……。ソフィアさんの分だけにしてくださいね」

「……美味すぎる!」


 ソフィアさんがスパイスの香りがするアンコを食べて感激しているけれど、本当に美味しいんだろうか?

 信じらんねぇ……。

 でも豆入りのカレーはあるから案外合うのか?


 他の住人たちも、それぞれ自分が好きな味のカレーを食べている。

 量産型アイたちもそれぞれ別々の味だって言うんだから、やりすぎなんじゃないだろうか?


「アンタたち、なんで全員別々のカレー食べてんのよ?」

「あれ?リンゼか。お前もカレー食べてくか?」

「……食べるけど」


 リンゼが、俺と同じエビカレーを食べ始める。

 カツカレーにしようかとも思ったけど、流石にエビとカツは同時に食べるのもったいない気がしたんだよなぁ……。

 エビフライという手もあったか?

 でもそれはエビカレーとは別だし……。


「そうだ、リンゼに聞きたいこと有ったんだけどさ」

「モグモグ」

「……食べ終わってからでいいわ」


 ずっと見ていたくなるくらいには可愛い食べ方するなコイツ……。


「我輩、次カレーを食べるときはツナ缶を入れてほしいのう」

「すごい!このハンバーグの中、チーズ入ってる!」


 今更だけど、タヌキにカレーっていいのか?

 化け狸だから問題ないのか?


「ねぇ大試ー、ウチのホタテたべる?」

「食べる!」

「はいどーぞ!」


 ……あれ?なんでエリザがいるんだ?

 寮に住んでたんじゃ……って、よく考えたらあっちに住み続ける必要もないのか。

 あくまで急場しのぎの言い訳だったし……。


「ジャガイモいらないニャ。ごはんに合わないニャ」

「ジャガイモいらないとか正気ですか!?むしろ白いご飯のほうが不要まであります!」


 この猫耳メイドとポンコツエルフもな。


「もぐもぐもぐ……ゴクンっ!大試が家買ったんなら、寮にこの娘達住まわせておくより、こっちに連れてきたほうが安全でしょ?だから手続き済ませて連れてきたのよ」

「今まで悪かったな。大変だっただろ?」

「まあ、隠さないといけないことが多くて確かに大変だったけど、案外悪くなかったわよ?ファムだってちゃんと最低限のメイドの仕事はしてたし、エリザはびっくりするくらい貴族のマナーできてたし」

「……アレクシアは?」

「えーと……理衣は何も言ってなかったわよ?苦笑いしてたけど……」


 食っちゃ寝しかしてなかったなコイツ……。


「それで?アタシに聞きたいことってなんだったの?」

「あーそうだった。カレーで忘れるところだった……」


 俺は、母さんから聞いたハイヒューマンについてのことをリンゼに聞いてみた。

 話しを聞くにつれて、疑問だらけの表情になっていくリンゼ。

 これが演技だったらなにかの賞やるわ。

 清掃員似の銅像でいいか?


「ハイヒューマンねぇ……アタシは聞いたこと無いわ。アタシがこの世界を作ってるときにそんな要素設定してなかったし、ゲームでもそんな条件無かったと思うんだけど……」

「ってなると、やっぱりリンゼの知らない重要要素が入ってしまってるってことか。まあ、ゲームには無かっただろうなって要素が出てくるのは今に始まったことじゃないけどな。俺自身そんな感じの存在だし」


 さてどうしたもんか。

 っつっても、普通は未来の出来事なんてわかんねーんだから、別に大きな問題でも無いんだけども。

 強いて言うなら、魔王を始めとした各種のラスボスたちがどう行動するのかっていうのがわかんないのは怖いなぁ……。


「ねぇ、思ったんだけど」


 俺が開き直って、エビカレーの残りを平らげようとし始めたとき、リンゼが空っぽになった皿を横に避けながら聞いてくる。


「アンタ、女神と会話できるんでしょ?なんて言ってたの?」


 …………………………あ!


「前回たまたま話してから、今の今までずっと放置だったわ!絶対怒ってる!」

「アンタ何してんのよ……?アタシより今管理しているやつに聞くのが優先でしょうに……」

「神様に祈るってことがまず無い文化で15年育つとこうなるんだよ」


 どうしよう……。

 リスティ様、怒ってるよなぁ……。

 逆に泣かれてても困るけど……。


「なんかお供え物持って神殿か神棚にでも向き合って祈りなさいよ。それで話せるんでしょ?」


 リンゼにそう言われ、俺はあるものを思いだす。

 祈るのにピッタリの施設を。


「近くに新しく神社を建てたから、そこでやってくるよ」

「……何があったら神社を建てることになるの?って、あれ!?隠神侯爵様!?」

「我輩はただの隠神おじいさんじゃ」

「え!?え!?どういうこと!?アンタ何してんの!?」


 違うんだよなぁ。

 俺は、何したわけでもないんだけどなぁ。


 俺は、女性の酒の好みがわからないので、母さんだったらどんな酒を選べば喜ぶかなぁと思いながら、エビカレーに再び取り掛かることにした。

 後から知ったけれど、俺ように作ったエビカレーの鍋の中は、周りから味見のためと奪われまくって、このとき既に空になっていた。



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