第86話
新幹線が減速しながら、巨大な駅へと滑り込んでいく。
ここは、新幹線の王都駅。
連休初日に、ここから俺たちは新幹線で出発し、会長の実家へと向かったわけだ。
そして今戻って来たわけだけど、前世から含めて俺はあまり大きな駅とは縁が無かったから、ついつい緊張してしまう。
電車に乗るとしても、何とか毎回小さい駅で乗り降りできるように調整して乗っていたからなぁ……。
東京駅だの新宿駅だの、俺からしたら魔窟だよ!
ダンジョンだよ!
こっちの世界でどうなのかは知らないけど……。
幸いと言っていいのか、登校にも何にも電車を使わずに済んでいるからなぁ……。
前世の満員電車は、もう二度と経験したくないなぁ……。
実際に経験するまで、駅員が客を電車に押し込んでるのなんてネタでしかないと思ってたんだよなぁ……。
さて、前世の事を思い出して鬱になるのはその辺りにしておこう。
現実逃避は良くない。
今は、とにかく現実を見つめないといけない。
何をって?
何故かこのクソでかいホームに人っ子一人いないのに、たった一人いるのが王様って事かな……。
ニッコニコ顔なんだよなぁ……。
一緒に帰って来たメンバーは、それを見た瞬間また席に戻っていった。
あれ?
もしかしてこれ、俺一人で対応しろって言う感じ?
王様を?筋肉の塊を?
嫌だなぁ……またお休みが減りそう……。
しゃーない、俺が降りて行かないとあのニッコニコキングは帰る気配がないし、覚悟決めるか!
「おう!よく帰ったな大試!いや!義息子よ!」
「……どうしてこんな所で待ち伏せてたんですか?そんな気軽にこんなとこ来れる立場じゃないですよね?」
「まあな!久しぶりに本気で走って護衛を播いてやったわ!」
堂々と言うな!
何してんだよ王様!
「……で、何の用です?」
「それなんだがな、実は困ったことになっていてなぁ……」
俺としては、今この瞬間が一番困ってるんだけど……?
「毎年この時期は、俺が内密に東京湾で魔獣の群れを間引いているんだけどよ……」
「いや王様が何してるんですか……」
「はっはっは!気分転換よ!それでな、今年はその魔物の群れが例年の数十倍の規模になっているらしくてな!極秘作戦に協力出来て秘密を守れる都合の良い奴を探してたのよ!」
「都合がいいって……そういうの王国の人員にはいないんですか?」
「サボろうとしてる時に部下を連れて行ってどうする!」
「サボりなんだ……」
これはどうなんだ?
ゲームに存在するイベントか?
それにしてはなんか中途半端な気がするんだけど……。
劇的な何かがあるわけでもなさそうだしなぁ……。
何作目のイベントだ?
2作目のヒロインらしい会長のメインイベントっぽいのが終わったばかりでってことは、同じ作品では無い気がするしな。
「なんなら友達も連れてくると良いぞ!今年は暑いからもう海で遊ぶことも可能かもしれん!うちの娘も喜ぶだろう!」
「いや……まあそれはちょっと魅力的かもしれないですけど、ちょっと今は別ののっぴきならない用事が合ってですね……」
「おうあれだろ?猪岡のとこに婚約を申し込みに行きてぇんだろ?」
「……まあそうなんですけど、どこから聞いてくるんですか……?」
「王だからな!つまりだ!猪岡も一緒に呼び出せば解決だろう?」
今までの婚約は、まず前提として相手の親公認だったけれど、理衣に関しては2人の間で言っているだけ。
だから、ご両親に「娘さんをください!」って言いに行かないといけないんだけれど、それを王による呼び出しで行うのは果たしてどうなんだろうか?
大体、貴族間での婚約申し込みってどうやんの?
菓子折りもっていくような感じでもないよな多分……。
いや、山吹色のお菓子とかならありなのか……?
何はともあれ、王の権威を借りれるなら、相手への印象はともかくとして成功率は上がりそうか?
実の所、理衣のご家族の事よく知らないから、どの程度難航する相手なのかもわからないんだけどさ。
理衣曰く、父親以外の家族は、むしろ権力争いとは無縁そうで田舎に引っ込む相手ならもろ手を挙げてGOサインだしそうって事だったけれど、理衣自身ですら父親に関しては予想が出来ないというし……。
うん、どっちにしろ王の指示じゃ拒否出来ねーわ!
「わかりました!でもギャラ下さいよ!」
「おう!……それにしても、聖女は何故きていないんだ?俺はてっきりここに来ていると踏んでいたんだが……大試の事を説得するには聖羅と一緒に話すのが一番手っ取り早いと思っていたんだがな!」
そういえば、ムキムキの大男がニコニコしてたインパクトで忘れていたけれど、確かに聖羅なら俺が帰ってきたら我先にと会いに来そうではある。
何か他に用事があったんじゃないかと普通なら思うかもしれないけど、事それが聖羅であるとなると話は変わってくるわけで……。
一応電話で連絡しておくか。
スマホに登録されている数少ない連絡先から、聖羅の番号を選択して電話をかける。
「もしもし?聖羅か?」
『……大試、迎えに行けなくてごめん……』
「いやそれはいいんだけど、何かあったのかとおもっただけだ」
『……うん、よくわからないけれど、教会関係者たちに外出禁止令がでているらしくて……強行突破しようとしたんだけど、泣いて止められちゃって……』
「大人しくしといてやれよ……。あ、それと、直接会った時に言おうと思ってたんだけれど、そういう事なら先に言っとくか……。すまん!婚約者が2人増えた!」
『知ってる。おめでとう。私も鼻が高い。これで大試は、この国の宗教のトップに近い人間を2人も手中に収めたことになる。王女とも婚約しているから向かうところ敵なし』
「あー……うん、まあそうだな……。聖羅が怒ってないならそれでいいや。話は変わるけど、王様からサボりに付き合えって言われてるんだけどさ、そこに理衣のお父さんも呼んでもらえるらしくて……」
『良いと思う。楽しんでね』
楽しいかはわからんが、魔物の数が揃っているならレベル上げにも都合はいいかもだしな。
「というわけで、なんか聖羅は来れないみたいですよ陛下」
「何があったのかこっちには知らせは来ていないがな……。まあいい!何かあれば部下から連絡が来るはずだ!では、早速明日から海で釣りをするぞ!」
「釣り?漁って釣りなんですか?」
「おう!釣ったら食えるぞ!沖漬けがお勧めだな!!」
沖漬け……なんだっけ……確か、前世のオヤジが好きだった気がする……。
それの材料といえば……。
「もしかして、その魔物ってイカですか?」
「ああ!これがまた非常に旨くてな!実は、貴族たちもこっそりとやってくる毎年恒例のお楽しみというわけだ!」
イカ釣りすることになりました。
タコなら美少女フィギュアで釣れるって聞いたことあるけどイカは知らん。
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