第87話

「それで、大試君はイカ釣りに行かないといけないのね?」


「らしいんですよ。会長はどうします?」


「私は……そろそろ生徒会の方に顔を出さないといけないのよね……」


「それならそっち優先してください。王様のサボりに付き合う必要は無いです」


「うーん……そうね!じゃあお言葉に甘えさせてもらうわ」




 というわけで、今回一緒に神社へ行ったメンバーは、会長以外は参加することになった。


 まあ、マイカたちエルフ組は誘ったわけじゃなかったんだけど、イカを食べてみたいと無理やり参加することにしたらしい。




「ワシ!イカ食べたこと無いんじゃよなー!」


「イカヤキというのを食べてみたいです!」


「……イカ飯……楽しみです!」




 との事。




 理衣に関しては、イカはともかくとして、一緒にご両親へ挨拶するためにも参加してもらった。




「そういえば、毎年この時期はうちの父がどこかからイカを釣って持ってきてたんだけど、もしかしてアレって魔物だったのかな……?」




 と何かに気がついてしまっていたけれど、とにかく参加してくれるらしい。




 聖羅が不参加なのはもうわかっているから、後はリンゼと有栖か。




「有栖は、イカ釣り行ってみる?」


『えーと……お気持ちはありがたいのですが、私、生きているイカが苦手でして……。小さい時に父が捕って来たイカに吸い付かれて以来……』


「そうなのか!?じゃあやめといた方が良いな」


『うぅ……一緒に過ごしたかったのですが……』


「いやそんな大層な事でもないしさ。落ち着いたらまた連絡するよ」




 有栖は不参加っと。




「リンゼはどうする?」


『アタシは参加するわよ?でも、アンタたちと一緒じゃないけどね』


「ご家族とでも約束しているのか?」


『違うわよ。……はぁ……いい?アンタに一応教えておいてあげるけれど、これはオンラインゲーム版で月1開催されていた釣りイベントなのよ』


「釣りイベント?」




 なんでファンタジーなオンラインゲームで釣りのイベントが月1で開催されてたんだ?


 おかしくね?




『釣り機能は、後から実装された要素だったんだけれど、その出来があまりにもよくて釣りをするためだけにこのゲームをやり始めた人たちが大量発生するくらいの人気だったのよ』


「へー……変な所に力入れたんだなぁ……」


『まあ、同社の釣りゲーのシステムそのまま持って来たらしいんだけどね……で、アタシも釣りにハマった1人ってわけ!』


「おー。ツリキチってやつか」


『そうよ!因みに、ツリキチって称号は釣りを総計100時間やった者に与えられていたわね。アタシは当然持ってたわ!他にも、釣り上げた魚を水槽で飼育するアクアリウムって要素も人気だったわ!この世界でもアクアリウムは貴族の嗜みになってるわね!ウチの家族なんて、アクアリスト界隈だと「アクアリウムの魔術師」って呼ばれているわ。そのまんまだけど!』




 なるほど、ガチ勢だったのか。


 それだと俺みたいなエンジョイ勢と一緒じゃ足手まといかもしれんな。


 前世のリアルの釣りだと、そういうエンジョイ勢に教えるのが生きがいみたいな釣り人も結構いたけれど、リンゼは己を高みに導く求道者タイプらしい。




「じゃあ現地で顔合わせた時はよろしくな。応援してる」


『ありがとう。アンタも頑張りなさい!』


「ああ!」




 頑張る事なんだなイカ釣りって……。


 俺は、イカを舐めていたのかもしれない……。


 なんだか緊張してきた……。


 そもそも、魔物のイカって普通に考えてヤバいんじゃ……?


 前世でもダイオウイカとかダイオウホウズキイカなんてアホみたいにデカい奴じゃないにせよ、普通に食べられているアメリカオオアカイカですら、危険性的にはかなりヤベェって言われてたしな……。




 沖漬けにするイカだとイメージはスルメイカとかだったけど、魔物ってくらいだから大きいんだろうな。


 捕るのが漁師じゃなくて貴族って言うのも、相手が魔物だからかもしれないし……。


 うーん……大丈夫か?


 道具は王様が全部用意してくれるって言ってたけど、どんな凄い素材の釣り糸なら魔物を釣り上げられるんだろうか?


 ピアノ線とかか?




 不安だ……。


 ペーペーの素人ばっかりで海の魔物釣りなんて……。


 王様1人で面倒見切れるもんじゃなさそうだし……。


 となると、例えその手の事に関しては素人でも、なんとかパワーで解決できる程度の戦力が欲しいな。


 誰かそういう知り合い……あ、いたわ。


 しかも、食べるの大好きだから簡単に来てくれそう。




 スマホの連絡先から、登録してからまだそんなに経っていない相手に電話をかける。


 やや時間がかかりながら、その相手がでた。




『どうしたの大試ー?なんか用事ー?』


「エリザ、イカって好きか?」


『うん!大試にお金貰って食べ歩いてたから、何度か食べたよ!美味しかったー!』


「ならさ、明日イカ釣りに行かないか?経験者曰く、釣りたては美味しいらしいぞ」


『ホントー!?いく!ファムー!大試がイカ釣り行こうって!』


『ネコにイカはあんまりよくないんだけどニャ……まあ多少なら大丈夫だけど』


『ファムも行くってー!』


「じゃあ明日朝7時に寮の玄関に迎えに行くわ」


『わかった!楽しみにしてるねー!』




 よし!


 これで未来の魔王候補と、転移が使える魔王軍元幹部という最強の仲間を巻き込むことが出来た!


 エルフ組はともかくとして、他はゲームでも名ありの重要キャラたちだし、それなら毎月開催の釣りイベ用イカになんて負けないだろう!


 さぁこい魔物デビルフィッシュ!


 こっちの準備は万端だ!






 だが次の日、俺は驚愕の事実を目にする。




「スルメイカじゃん!」


「違う!魔スルメイカだ!」




 王様が誇らしげに釣り上げた魔物イカ。


 その見た目は、ちょっと光るだけの普通サイズのスルメイカだった。


 コウイカならまだ納得もできたか?


 いやそう言う問題じゃないか……。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る