第304話
「で?俺の楽しい楽しい魔獣狩りの合間の僅かな休息タイムを邪魔してまで、お前は俺に剣で戦ってほしいと?何故?俺に何の得がある?」
「無いかもしれない!強いて言うなら、村のために、家族のために必死で働く愚かな男が、少し強くなれるかもしれない程度だ!」
「……ふーん……」
目の前で土下座している風雅を見下ろす俺。
悪役っぽくない?
悪役転生とかいう神也の部屋にあったマンガのジャンルを思い出す。
でも、仮にどれだけ俺が悪役っぽく見えたとしても、少なくともコイツに対して俺が謝らないといけないことなど無いと思うので関係ない!
断っても何の問題も無い!
とはいえ、あの風雅がここまで真摯に頼み込むなんてのは、少なくとも俺の記憶の内には無いな。
演技とも思えない。
こいつ、演技できる程頭良くないし。
「どういう心境の変化だ?お前、まったく近接戦闘の鍛錬参加してなかったじゃないか。何で今更俺と戦いたいんだ?」
「……護りたい物ができたからだ」
「護りたい物?」
「ああ、家族が出来た!」
「家族……」
あのドワーフの女の子か。
嫁っつってたけど、風雅が常々言っていたような理想のタイプには全く見えないんだよな。
アイツの好みは、胸がデカくて、顔が良くて、自分に従順で、髪が長くて、尻が小さくて、手足がすらっと長い女の子だったはず。
従順かどうかは知らんが、それ以外は全然掠ってもいない気がする。
おまけに、髭まで生えてたし。
「お前の言う事をイマイチ信用できん。いつもの一過性の気の迷いとかじゃないのか?ノリと勢いだけのアレ。だとしたら相手にも悪いからやめと」
「違う!俺は!アイツを……銅子を愛している!腹には子供だっている!俺は、アイツらを養って、護ってやらないといけない!……いや、いけないとかじゃなくて……護りたいんだ!」
……ん?こいつ今何言いやがった?
「お前今なんつった?」
「……護りたいんだ」
「いや、その少し前」
「アイツらをやし」
「もう少し前!」
「あ!?あー……腹には子供だっている?」
「お……おう……」
こいつ!
大人の階段一段飛ばしで登ってやがる!?
そういや、この世界だと15歳で一応成人とかだっけか?
だからっておめーよー!
出会ってからそんな何か月も経ってるわけじゃねーだろ!?
そういうのはもっとこう……大事にしてやれよ!
「お前さ、子供ってのはもっと考えて作らんとダメだろ!護って行ける道筋も無く無責任に何してんだよ!」
「あ!?いや!それは確かにそうなんだが!これは言い訳になるが、実はドワーフの里で酒を飲まされて、そこから記憶が無く!気が付いたらベッドで銅子とヤっててな……」
「お前なぁ……」
いや、となるともしかしたらその銅子の方が一杯盛った可能性も……?
うーむ……まあいいか……。
「ただ!そんな事が無かったとしても、俺はアイツが好きだった!なっちまったんだよ!生死の境を彷徨ってる時に甲斐甲斐しく世話されたら、誰でもそうなるって!それに、確かに見た目は俺の理想とちげーけど、話してみると可愛いんだ!初めて話が合うと思ったんだ!それにアイツの作る料理も美味い!俺が間違ったことをしていたら、注意してくれる度胸もある!だから結婚した!親父さんにしこたま殴られて怒られたけどよ!それでもアイツと一緒になりたかったんだ!親父さんには最後まで認めてもらえなかっが、いつか一人前になったと俺が自信を持って言えるようになったら、また挨拶しにいくつもりだ!そのためにも、俺は家族を護れる力が欲しい!」
なんていうか、こういうのを幼馴染から聞かされるのって、ちょっとキツイものがあると同時に、妙に感心してしまうな……。
「にしたって、何で俺なんだ?俺より親父やお前のとこのオジサンの方が強いだろ?あっちに頼めよ」
「鍛錬なら頼んでいる!だが、村の奴らは強すぎて参考にならない!それに、俺の頭の中に残っている理想の動きは、最後に戦った時のお前の動きなんだ!」
「俺の?」
「……ああ。1人で逃げて、そして死にかけて、愛する女を見つけて、そんなふうに人生が変わる様な体験をいくつもして、初めて気が付かされた。俺は、お前になりたかったんだ……。だから、お前に突っかかって、叩きのめそうとして、そしてこのザマだ……。俺は、俺が思っているよりよっぽどちっぽけな存在だった!」
いや、お前はお前が思っているよりすごい存在だぞ?
主人公様だもん。
力入れる方向がおかしかっただけで。
「頼む!もう1度俺と戦ってくれ!お前と正面から戦って、ダメな俺と決別したいんだ!そうしないと、俺は銅子と生まれてくる子供に、胸を張って父親だと言えない!」
「んー……」
いやぁ……。
なんていうか……。
俺が今まで見てきた風雅とは、覚悟が全く違う気がする。
これが父親になるって事なんだろうか?
童貞の俺にはわからんが……。
それか、やっと本来の真面目な好青年である主人公の側面が出て来たとか?
ま、いいかなんでも。
「戦うのは良いぞ」
「本当か!?」
「だけど、2つだけ約束しろ」
「なんだ?なんでも言ってくれ!」
「別に大したことじゃない。ただ、俺にあれだけ言ったんだから、その……銅子さんだっけ?それと子供、命に代えても……いや、自分も必ず生き残った上で護り切れよ?」
「わかった!お前に言われなくてもそのつもりだったが、俺の全力で!」
「ならいい。もう一つは……」
「もう一つは?」
俺は、木刀を2本具現化して、1本を風雅の足元に投げる。
何も言わなくても伝わったみたいで、風雅がそれを拾い上げて構える。
何だかんだで、構えは様になっている気がする。
元々主人公様のスペックなんだから、真面目に訓練すればいくらでも上達するんだよな。
「二度と俺に土下座で何か頼みごとをしようとなんてするんじゃねぇ!」
久しぶりに幼馴染と剣を交えることにした。
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