第247話

「あ……あのぉ……待ちました?」

「クソ待った。流石に帰ろうかと思った」

「そこは今来たところって言う所じゃないですか!?」

「流石に2時間の遅刻は許容範囲超えてるだろ!だから一緒に家出ようって言ったのに!」

「だ……だって!デートとは待ち合わせするものだって本に書いてありましたし!」

「その本の登場人物たちは、デート当日に寝坊どころか二度寝からの遅刻なんてかまさねーんだよ!ってか、朝と出かける前の2回起こしたから、三度寝までいってるからな!」

「それはもう本当にごめんなさい!」


 折角の休日だけれど、俺は今、街中で無為な時間を過ごしていた。

 駅の一角に、有名なデートの待ち合わせスポットだというハート形のモニュメントがある。

 そこで、俺は3時間もアレクシアを待っていた。

 デートの待ち合わせの場合、男は1時間前には現地に到着しておくべきだと本に書いてあったからだ。

 待ち遠しくて早く来たとかではない。

 全ては、アレクシアの希望によるものだ。


 数日前のあの日、アレクシアは、脱シスコンを誓った。

 しかし、その方法が皆目見当もつかない。

 そりゃそうだ。

 だって、脱宣言しないといけないレベルの危険なシスコンなんてそこまで多くないし、そんな奴はまず脱シスコンなんてしない。

 だから、俺たちは悩んだ。

 悩みに悩んで、行きついた答えが「では、私が男性を好きになれば良いのでは?」というもの。

 でも、そこには大きな問題がある。

 それは……。


「俺以外の男とまともに会話してこなかったから、せめて男に興味を持つ準備として俺に手伝ってほしいって言ってきたのはアレクシアだよな!?」

「確かにそうです!ただ!寝坊したのは、大試さんが昨日夜遅くまで私を寝かせてくれなかったからで……」

「デートプランの相談してただけだろ!しかも、夜9時まで!お前一体普段何時に寝てるんだよ!?」

「は!?夜8時には夢を見ていますが!?起きるのは午前10時です!」

「おっまえ!このっ!あーもう!」


 コアラよりは、多少活動的なようだ。

 駄目だコイツ……これからはもう少し管理した生活させないと……。


 とはいえ、準備に時間がかかったのも事実だろう。

 何故なら、アレクシアの今日の格好は、明らかに普段の彼女ならしないような、それこそデートに行きます!と言っているようなものだからだ。

 だって、薄くだけれど、化粧してるもん……。

 それだけで、十分な顔の良さがすごい。

 元々見た目は120点つけていいと思えるような美女なんだよなぁ……。

 中身が残念なだけで……。


「まあ、今日の服装がすごく似合ってるから、とりあえずは許そう」

「ありがとうございます!……え!?似合ってますか!?」

「似合ってる。世の男たちどころか女までが発狂しそうなくらい似合ってる」

「そ……そうですかぁ!?にゅ……ぬふふ!」

「中身はアレだがな」

「アレってなんですかぁ!?」


 アレはアレよ。

 正確に言うと可哀そうだから言わんが。


「エルフは普通時間に正確に行動したくなる質なんじゃがなぁ。それが嫌で、大抵のエルフはなぁなぁでしか待ち合わせの日時を決めず、そのせいでトラブルも起きるんじゃが……」

「ソフィアさん、今日はいないフリしててくれないとこの茶番が全くの無意味になるじゃないですか」

「といいながら、この3時間ずっとワシと喋っとったじゃろ?今更ではないかのう?」

「いや、アレクシアが来たんだからそれも終了で」

「つまらんのう……」


 ソフィアさんとは、あまり離れることができない。

 なので、当然今日もくっついて来てはいるけれど、姿を消してもらっている。

 美女同伴でデート相手の美女を待つとか、流石にそれはアレクシアじゃなくても雰囲気的にどうかと思うわけで……。


 まあ、別にラブラブな関係だからデートしに来たわけでもないんだけどさ。

 全ては、アレクシアがマイカ相手に発情しないようにするため。

 それさえ実現できるのであれば、多少の無茶は通そう。

 ……まあ、実の所、俺もアレクシアもダメもとで来てるんだけどさ……。


「……で、では!まず映画に行きますか!」

「アレクシアが見たがってた映画は、今日もう上映しないぞ?ここからは謎のサメ映画になる」

「サメ!?何故サメ!?」

「まずな、マイナーアニメの劇場版なんて、1日通して上映なんて中々してくれないんだよ」

「だからってサメ……?」

「珍しくサメが海にいるサメ映画らしい」

「ヒューマンの映画は一体どうなっているんですか……?」


 知らん。

 映画なんて最近まず見ないし……。

 前世ですら、テレビで大して映画流されなかったから、大して観なかったなぁ。


「ではどうしますか……?」

「少し早いけど、昼食にするか……どうせ朝ごはん食べてこれなかったんだろ?」

「う……実はそうなんです……。よくわかりましたね?」

「そんだけお腹鳴らせてたらわかるわ」

「そこは聞こえないフリしてくださいよ!?」

「いいから食べに行くぞ。何が食べたい?」

「イタリアン……の食べ放題……」

「デートっぽいか悩んだ結果デートっぽさを捨てる辺り流石だな」

「お腹が空いたんです!」


 でも、イタリアンの食べ放題なんてあるのか?

 この世界の外食産業ってまだよくわかってないんだよなぁ。

 よく行くのって、ハンバーガーと牛丼とカレー屋くらいか?

 ……俺が思い浮かぶ飲食店も。デートらしさのかけらもないものばかりだわ……。


 なんて考えながらスマホで検索してみる。

 すると……。


「まさか、本当にイタリアン食べ放題の店があるなんてな……」

「いやー!言ってみるもんですね!ピザにパスタにと色々好きに食べていいらしいですよ!」


 そこは、イタリア料理をピッツァやパスタを中心に食べ放題で提供している店だった。

 他にも、カルパッチョやタリアータ、サルティンボッカといった、効き馴染みのないメニューもあるらしい。

 驚くことに、生ハムメロンまで食べ放題なんだとか。

 そんなもんバクバク食べたがる奴がいるかは知らないけれど、1つ位なら注文してみたいな。

 120分1人5000円、そのままギフトマネーで支払うと、すぐに店員さんに中へと案内された。


「まず最初に何を注文する?オーダーバイキング制で、1人同時には2皿までしか注文できないらしいけど」

「もちろんピザでしょう!このお肉がいっぱい乗ってる奴が良いです!あと、パスタは、このお肉いっぱいのやつで!ぼろねーぜ?とかいうらしいです!」

「肉食べたいんだな?」

「今日はお肉の気分です!」


 肉食系エルフか。

 エルフは果物とか野菜しか食べないと思っている奴らに見せたら怒りそう。


「俺は、カプレーゼかなぁ。一回食べてみたかったんだよな」

「かぷれーぜ……?えっ……このトマトとチーズとオリーブオイルだけの料理ですか!?そんな……地味じゃないです?」

「これが美味いらしいぞ?まあ、食べ放題で注文する人がどれだけいるかはわからないけれど、マンガで見てからずっと気になってたんだよ」

「私は、別に止めませんけれど……」


 いんだよ俺は雑食性だから!


(大試!大試よ!ワシはスパニッシュオムレツというのが良いんじゃが!)

(俺も連れも大食いだから4人分払うって言ってあるので、食べたいならこっそり食べていいですよ。ばれないようにしてくださいね?)

(よかろう!ワシのサイレントイーティングの技術を見せてやろうではないか!)

(変な言葉作っちゃって……)


 脳に直接語りかけてくる大精霊のためにスパニッシュオムレツも注文した。

 何だかんだで、俺も楽しみだ。

 食べ放題っていう方式ではあるけれど、冷静に考えるとイタリアンレストランなんて早々入った経験なんて無い。


 他のメニューは多少時間かかるみたいだけれど、カプレーゼはすぐに出てきた。

 なので、俺とアレクシア、ついでにソフィアさんで実食してみる。

 さぁて……チーズとトマトとオリーブオイル程度で俺を唸らせるものができるかな?


「うっまい……」

「こんな大胆にして繊細で奥深い味が出るなんて……」

(酒が欲しくなるのう!)


 マジで美味しかった。

 これだけでも、ここにきて良かったと思える……。


「それで、待ち合わせ場所で会ってからまだ1時間も経ってないけれど、男に恋する気配はないか?」

「ないです!」

「ないかぁ……」


 この茶番には、今の所意味はないかもしれない。


「じゃあ逆にさ、アレクシア的に男を好きになれない理由ってないのか?」

「エルフの集落には、太古の昔のマンガデータが残っております。それらの中で出てくる男キャラは、どうにも気持ち悪いですね。いきなり壁際に追いやられてドンってされたら、反射的に逃げ出すと思います!頭ポンポンされるのも嫌です!」

「そんな事実際にする男なんているのか?見たこと無いが……」

「わかりませんが、そんな作品を見て育ったので男に興味が持てないんです!顔の良さで言えば、二次元のイケメンより我々の方が上ですし!そもそも男女で恋愛するタイプのマンガは、エルフ的観点からギャグマンガとしてジャンル分けされていますから!」


 幼少期から英才教育を受けているらしい。

 これは、想定通りではあるけれど、めんどくさそうだ……。


 先行き不安を誤魔化すように、またカプレーゼを食べる。

 美味い……美味いなぁ……。


「ここの後はどうする?」

「すみませんが、食べ放題中はそういう将来の予定について答えられる程の脳容量が割けないです!」


 ……喜んでくれているみたいだから、いっか……。


 ただ、さっきから誰かに見られているような気配を感じるんだよなぁ。







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