第246話
「何!?聖女が魔族の領域に平和を齎し、奴らが戦争を仕掛けてくる火種を尽く潰してきただと!?」
「は……はい!まだ未確認ですが、日本の王城に潜入している者によると、どうやら間違いないのではないかと!」
どういうことだ!?
魔族の領域に聖女が行っていただと!?
そもそも、あそこには未だ人類が自由に行き来するルートなど存在していないはずだ!
だからこそ、軍隊を派遣することもできず、あちらから攻めてくるのを待つだけだったというのに!
神に愛されし我ら人間に仇なす邪なる者共。
奴らに対抗する力を持つからこそ、我々教会という存在が尊ばれているというのに、その魔族と友好関係になってしまっては、存在価値が揺らぐぞ!
教会は、今日では世界最大の宗教の一つだ。
しかし、歴史はそこまで長くはない。
むしろ、世界的な宗教としては、新参の部類になる。
にも関わらず、短い期間で何故ここまで大きくなれたのか。
手段を選ばず信者を獲得していったというのももちろんあるが、一番の要因は、神の奇跡と呼ばれる事象を実際に示してみせたからだ。
過去に、魔物や魔族が人間の領域まで大攻勢を仕掛けてきた時、女神様の御使いと称される方が降臨され、邪なる者共を撃退する力を与えてくださったと伝わっている。
それも、神話や伝説などではなく、事実としてだ。
その女神様の御使いとされるものが女性であり、聖女のギフトの保有者だったために、それ以降聖女という存在は特別な者となったのだ。
初代聖女様が降臨された場所こそが、この教会の総本山であるヴェルネスト聖国だ。
ヨーロッパの一地方でしか無かったこの場所で、聖女様は誕生された。
最初は、その特異性に誰も気が付かなかったという。
しかし、彼女は成長するに従って、その力を周囲の者たちにまざまざと見せつけ始めた。
植物を急速に育て、けが人や病人を癒やし、邪なる者共が入ることを拒む強力な結界を張った。
魔物の領域と呼ばれる場所を浄化し、魔物の発生すら抑制するようになった。
世界中の人々が聖女様を讃えた。
彼女を世界中で讃えるために情報技術が急速に発達し、彼女の力を解析することで魔道具や魔術に関する技術も飛躍的に発展した。
そう!人々は聖女に希望を抱いたのだ!
逆に言えば、希望さえ持てるならば、聖女なんて存在しなくても構わない。
だというのに、まさか私が教皇となった代で新しい聖女が現れるなんて……。
そのせいで、日本の教会が調子に乗り、勝手に自分たちで教皇まで選出した!
あのような極東の島国が!真の聖女の後継者たる我々に盾をつくなど、神を冒涜する行為に他ならない!
だが、聖女様があの国に存在していることもまた事実。
聖女様に最もふさわしい地は、このヴェルネスト聖国だというのに!
口惜しい!なぜ!なぜこの国に生まれなかったのか!?
「……いや、まてよ?ならば、聖女様を連れてきてしまえばいいのではないか?」
私の言葉に、周りの者達の顔色が変わる。
今までにも何度か提案された事だが、その度にあの日本という国から聖女様を連れ去る手段が見つからずに諦められていた。
それでも、それでもだ!
今この時ならば、なんとかなるやもしれん!
「教皇様……それは何度も無理だという結論に至ったはずでは……」
「そうだったな。だが、あの国は今、国内情勢が荒れている。王子がクーデターを起こし、王都を魔物が襲撃した。あの日本の教会も、聖騎士たちが軒並み死んだらしいではないか。今であれば、潜入することくらいできるであろうよ」
「だとしても、聖女様には既に心に決められた相手がいると聞きます。しかも、妄信的にその男に入れ込んでいると。その男は、あの国の貴族となり、将来的には開拓地を治める立場にあるとか。ならば、彼を聖国へ呼ぶことも、無理に連れて行く事も、確実に国際問題となるでしょう。聖女様1人であれば、女神様のご意思と無理にでも言い繕うこともできるかも知れませんが……」
「そこだ。聖女様があの国にいる一番の理由は、恋人の存在があるからだろう?ならば、その恋人が、ある日突然死んでしまったら?そして、そのタイミングで親身に話しを聞くものが現れたら?」
「それは……」
「聖騎士団から腕利きを集めよ。そして、日本へ潜入してくるのだ!できれば、顔の良い男がいいな!聖女様の恋人を暗殺し、聖女様を誑し込め!」
「誑し込む!?それはあまりにも不敬では!」
「何を言う!我々が真に敬っているのは、過去我が国に生まれた聖女様のみ!この国で聖女様として活動して頂けると言うなら話は別だが、あのような島国にいる小娘など、真の聖女様と認めるつもりはない!」
そうだ!
何を躊躇うことがあったのか!?
世界を導くのは、我がヴェルネスト聖国……いや!教皇である私であるべきなのだ!
我が神、創造神リスティ様の名の下に!
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