第132話

「ただいま。さ!帰るぞ!」

「おか……なんじゃ?随分急いでおるのう?」

「さっさとしないと軍艦に乗ってる貴族たちが乗り込んでくるぞ!めんどくさい事になる前に帰る!」


 仲間が集まっているところに戻って、即退却指示を出す。

 タコ足人外美女タヌキの花子さんと太三郎さんの姿が無いので、多分人が増える前にさっさと退散したんだろう。

 俺達もこれ以上こんな所にいられるか!家に帰らせてもらう!


「やっと見つけたわ!状況はどうなってんの!?」


 おっと、軍艦に乗り込んでいた貴族様第1号がご到着だ。

 空飛ぶ美少女、リンゼが現れた!


「リンゼ、あの後神様と悪霊を倒してから桜井風雅に襲撃されたんだけど、撃退して手足ぐちゃぐちゃにした所まではよかったんだが、日下久作とかいう奴まで現れて、そいつに転移の宝玉とかいうの使われて逃げられた。あと、そこにいる隠神は化けタヌキで、王子に黒魔術で操られてたらしい。今はもう恋の力で元に戻っているから、全面降伏してくれるってさ」

「我輩事ながらまっこと情けない」

「……ちょ……ちょっと待ちなさい。今頭の中で整理するから……!」


 よし、これだけ伝えておけば、今回ここに軍艦で来ていた奴らの総大将に伝えてくれるだろう。

 誰かは知らんが。

 面倒事任されて大変だな!

 俺はもう面倒事終わらせたから関係ないけど!

 よし!俺達は、さっさとここから消えるぞ!

 リンゼも良ければ連れて行きたいけど、仕事残ってるんだろうしなぁ……。


「リンゼ、一応聞いておくけど、まだリンゼは帰れないんだよな?」

「当たり前でしょ!?これからが一番忙し……ちょっとまちなさい、アンタもしかして帰るつもり!?」

「ここまで仕事してたもん!」

「もん!じゃないわよ!……あ、ちょっと!」


 走る。

 リンゼには悪いが、もう帰るよ。

 俺の仲間たちは、俺が大して何も説明しなくても、ちゃんと逃げ出してくれた。

 良いぞ皆!さぁ!帰って寝よう!

 できれば、ファムにテレポートで送ってほしい所だけれど、流石に本人が場所をわかっていないのに飛ぶことはできないだろうしなぁ。


 死にそうな顔になっているマイカとアレクシアはちょっと可哀想だけども……。


「犀果様、この先にテレポートゲートがございます」

「チャージは終わってる?」

「四国に来てからいつでも飛べるように準備しておきました」

「流石!」


 アイナビに従ってマイカとアレクシアを抱えながら走ると、工業地帯の一角に歴史を感じる神社があった。

 その裏手の枯れ井戸の中が入口らしい。

 梯子があったみたいだけど、残骸しか残っていないため、仕方なく俺が最初に飛び降りる。

 その後他のメンバーが飛び降りてくるので、可能な限りふわっと受け止める。

 最後に、明小がポトっと落ちて来て終わり。


「今更だけど、明小はこっちに来て良かったのか?」

「うん!ボク、大試についてく!東京行きたい!」

「なら良いけど……お母さんと一緒に暮らしてもいいんだぞ?」

「独り立ちしたタヌキは親となんて暮らさないよ?」


 野生動物はドライだった。


 皆で部屋の中に進む。

 初めてテレポートゲートに来る明小は、興味津々で部屋の中を見回している。


「ここは大試たちのお家なの?」

「違うけど、この奥から東京に行けるんだ。秘密だぞ?」

「秘密なの!?うん!わかった!」


 皆で転送紋の上に乗る。

 明小は、何もかもに驚いていて面白いけれど、急いでいるためさっさと済ませてしまおう。


「アイ、やってくれ」

「かしこまりました。学園まで飛びます」


 気がついたときには、もうテレポートが終わっていた。

 相変わらず凄い便利だなぁこれ……。

 一家に一台あったら劇的に人生が豊かになりそう。


「あれ?もう終わったの?」

「終わったぞ。ここは地下だけど、もう王都東京だ」

「すごい!」


 俺が何かしたわけじゃないけれど、ついついドヤ顔になってしまう。

 人をノせるのが上手い奴め……。


「じゃが、明小はどこに住まわせるつもりじゃ?大試の部屋は流石にワシとアイと大試の3人がおるから狭いじゃろ?」

「うーん……マンションでも借ります?そんなすぐ借りれるものなのか知りませんけど。今夜は、狭くてもこっそり俺の部屋に泊めるしかないかも」

「犀果様、それよりも一軒家を購入するのは如何でしょうか?隠れ家やセーフハウスとして活用すると私が楽しいです」

「……まあ、予算が許すならそれもいいか……。アイが本気で謎技術使いまくったらどうなるのかちょっと不安だけど」

「お任せください。必ずご期待に応えて見せます」


 何の期待をしていると思ってんの?

 穏便にな?


「……あの……それより早くここから出ませんか……?私……お腹が空いて……あと眠いです……」

「私もご飯が食べたいです!あと痛み止めと湿布を!」


 エルフはやっぱりこんな時でも飯なのか……。

 とは言え、今の時期は寮も長期休暇状態なので食事が出ない。

 市街地までいけば当然飲食店やコンビニもあるけれど、見た感じこの2人はそこまで持たんな……。


 仕方ないので、まだまだ残っている魔鹿肉をガンガン焼いていく。

 テレポートゲートにキッチンがあって本当に助かったわ……。

 もう何度ここで飯を作った事か……。

 ……ってか、他の奴らが作ってくれてもいいんだぞ?

 俺だって同じだけ働いて疲れている筈なんだぞ?


「なんかもう面倒だから細かい事考えずにカレー風味とデミグラスソース風味をつけて鹿肉焼いてみた」

「「「「いただきます!」」」」


 待てを解除された犬の如くがっつく面々。

 エルフたちはもちろん、さっきアレだけデカいタコを食べたはずのエリザまでバクバク食べている。

 明小も体のどこにそんなに入っていくんだって量を食べているけど、化けタヌキの体内ってどうなってんだ?

 アイは、口の周りとベタベタにしている。

 何歳児だ?

 1才にも満たないか……。


 一番お行儀よく食べているのが、一番粗暴そうな感じのファムと言うね。


「ファムって案外食事マナーちゃんとしてるよな」

「これでもお嬢様だからニャー。ドレスとかもしっかり着れるにゃ」

「そうなの?すげー見たいわ」

「見せてやるからギャラとドレス代くれニャ」

「えー……前にお小遣い上げただろ?」

「そんなもんエリザお嬢様と食い倒れしたらすぐなくなるにゃ。ニンゲンの作る料理がおいしいのが悪いのニャ」


 あの金本当に食い問だけで消えて行ってるのか……。

 アクセサリーとか買ったりもしてんのかと思ってたけど……。

 逆にどんだけ食ってんの?


 まあそれは置いておこう。

 今優先すべき問題はほかにいくらでもある。

 そのすり合わせをここでしておかないと、もう皆この後は帰って寝る流れになってるし……。


 俺が一番誰かに相談したいと思っているのは、転移の宝玉の扱いについてだけれど、これはあんまり相談できないからなぁ……。

 今回の全体的な報告書については俺がまとめるとして、後はそうだな……。


「家買おう。アイ、良い場所検索しておいてくれないか?」

「かしこまりました。何か物件に求める条件はございますか?」

「そうだなぁ……部屋が多めで、外から中があんまり見えないとありがたいなぁ。秘密がいっぱいのメンバーが多いから」

「成程、参考にさせていただきます」


 ……あれ?よく考えたら、こいつら全員がいるときに相談できることって、実はあんまりないのか?

 他に思い浮かばないぞ?


「大試よ、他に無いのであればワシからいいかの?」

「いいですよ。何かありました?」

「お主、もしや転移の宝玉持っとらんか?」


 え!?なんで気がついてんの!?

 怖い!


「えーと……それは……」

「今じゃなくても良いんじゃがな、後で見せてほしいんじゃ。懐かしい気配がするんでのう」

「懐かしい?……まあ、いいですけど。あとこの件は内密に……」

「心得た。まあ、他の者たちは殆どが肉に夢中じゃから、聞いとらんじゃろ」


 言われて周りを見ると、そこはフードファイト会場と化していた。

 ほんと、今回のメンバーはどいつもこいつもどうしてこんなに食うんだ……?


 俺は、肉が無くなる前に、冷凍してからカバンに入れていた魔カジキを取り出しながら、この後の予定をボーっと考えるしかなかった。


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