第133話

「報告は、以上になります」

「おう……わかった」


 テレポートゲートで帰って来て、食事も終えて解散し、さぁ部屋に戻って寝るぞ!

 と思っていたんだけど、俺が帰って来た事をどこから聞きつけたのか、寮監経由で王様からのお呼び出し。

 ぬおおおおおおおおお!と叫びたい衝動に駆られながらも、なんとか城まで来てご報告申し上げた。


「それにしても、問題を起こして各家で内々に処分しているはずの者が、どういうわけか今回の事に関わっているとなると、大々的に調査せざるをえんな……」

「仮に一度何か問題を起こして処分されていたとしても、その後秘密裏にとは言え、真面目に教会で勤めていた人たちまで色々掘り起こされちゃうんでしょうね」

「まあ、本来それも許されんことなんだろうが、そこを突くと何が起こるか分かったものではなかったからな。まったく……あのバカも余計な事をしてくれたものだ……」


 ここで言うバカとは、第1王子の事なんだろうか。

 王子と言いつつそこそこいい歳だったから違和感あるけど、あいつにそこまで色々と考えられる頭があったとも思えない。

 それこそ、周りから色々吹き込まれたんだろうなぁ。


 あ、そういえば、王様に渡さないといけないものあったんだった。


「王様、これ、第1王子の遺灰……砂?です。儀式に魔力を使い過ぎて粉々になってしまったので集められるだけ集めておきました」

「おう……ペットボトル?」

「他に密閉できるよう気が見当たらなかったので……。そのままほっといたら風で飛ばされそうだったし……」

「いや、よくやってくれた。こういう物が残っているかどうかで、死亡確認の難易度が格段に変わるからな。『アイツはまだ生きているかもしれない』と少しでも思う輩が出てくるだけで、何かの火種になりかねないのが貴族や王族という物だ」


 そういうもんか。

 なんか、徳川埋蔵金みたいな感じだな。

 あると信じている人が多少なりともいれば、それを目当てに人生を狂わせてでも求めてしまう人も出て来ちゃう。

 今回しっかり王子の死亡確認ができたのはよかったのかもしれない。

 ……あの粉末状態から復活するって事は無いよな……?

 黒魔術の何かでとか……。

 うん、もしそんな事できるならそろそろドヤ顔で復活アピールしてるなあのバカは。

 大して話してないけどそういう感じがする。


「桜井風雅と日下久作についても、こちらで捜索しておこう」

「お願いします。一応風雅の手足は、かなりぐちゃぐちゃになるまで叩きましたし、日下についても右腕を切り落としているので、本格的な行動を起こせるようになるまで回復するには数週間はかかるかと」

「大試、幼馴染を手に懸けられるか?」

「アイツは、幼馴染というより既に俺の婚約者を害そうとした狼藉ものです。更に、国家転覆に繋がりかねないことまでやりました。今回も、もう少し時間があれば息の根を止めてクビを持ってきましたよ」

「そうか……いや、お前が気に病んでいるのではないかと少々不安になっただけだ。だが、大丈夫そうで安心したぞ」


 そりゃなぁ、仲のいい幼馴染ならそうなのかもしれないよ?

 仮に聖羅が俺を本気で殺しに来て、銃口を向けてきたとしたら、正当防衛だとしても力をふるう事に躊躇するだろう。

 でも、風雅とは正直そこまででもなぁ……。

 俺は仲良くしたかったけど、結局大して仲が良かったわけでもないんだよなぁ……。

 その状態で銃口向けられれば、そりゃ命を奪いに行く事に躊躇はないよ。

 それが、開拓村で培われたドライさだ。


「……ところでだな、イチャつくなら謁見の間を出てからにしてくれないか?」

「俺も何度か外で待っているように言ったんですけどね……」

「無理、我慢しすぎて死にそうだった。今日1日は大試を離さない」


 実はさっきから、聖羅がくっついています。

 この部屋の温度は、別に特別高いわけではない過ごしやすい状態だけど、流石に女の子がピッチリ体を寄せていると暑くなる。

 聖羅も暑いだろうに、そんな事より接触がお望みらしい。


 因みに、有栖も同じようにしようとしていたけれど、周りのお付きの人たちから必死に止められ、不貞腐れながら謁見の間の扉の前で待機している。

 実の父親の前で娘さんにくっつかれていたら、俺としても胃が痛い思いしただろうから、お付きの人たちには感謝しかない。


「よし大試!ここからは、国じゃなく教会側からの問い合わせだ!」

「つまり、面倒な話が始まるって事ですね?」

「そうだな!」


 息子さんが死んだせいか、さっきまでちょっと暗い雰囲気で話していた王様だけれど、その話が終わったからか一気にいつもの調子を取り戻した。

 この切り替えの早さが王には必要なのかもしれない。

 一々落ち込んでられないもんな。


「教会の至宝だという転移の宝玉なんだが、取り返すことが出来ていたら返してくれないかと言う事だ!対価でいくらでも払うと言ってきているぞ!」

「いくらでも……」


 いくらでもって、いくらまでいいの!?

 町が作れるくらい貰ってもいい!?


 いや、落ち着こう。

 それはつまり、この宝玉にはそれだけの価値があるって事だ。

 安売りすべきではない。

 大丈夫、俺は冷静だ……。


 お金欲しい……。


「対価は確かに魅力的ですが、残念ながら日下が持ち去ってしまったようですので、俺には何とも……」

「そうか……いや、斬り落とされた腕に宝玉が握られていたんだとしたら、その辺りに落ちているのではないかと捜索したが、出てこなかったらしくてな!」


 申し訳ない。

 そりゃ出てこないよ。

 俺が持って帰ったし。

 内緒だけど。


「転移の宝玉なんてもの自体、俺は日下があのガラス玉みたいなものを持ち上げて大声で名前を発表した時に初めて知りましたからね。もし事前にそんなものがあるとわかっていれば、素早く無力化して奪っていたかもしれませんが、俺にはそれがただの宝玉なのか、もしくは爆発する物なのかすらわかっていませんでしたから、奪取することはできませんでしたね」

「うむ……まあ仕方ない!宝を盗まれるやつらの責任だろう!」

「そうですね!その通りです!」


 実際、俺はその宝玉で被害を受けた側だから、猶更文句を言われる筋合いはないさ。

 大事な物はしっかり管理してくれよ教会!

 いや、そう言う風に定期的に大事なものが盗まれるからこそ、ゲームのイベントが発生するのかもしれないけど。

 リアルだと、早々ドラマチックな事態が発生することも無いからなぁ。

 ぼーっ生きてたら、モデルになったっていうゲームの学園3年分なんてすぐ終わってしまうだろう。

 時間は、常に有限だ。

 いつ自分が神様の兄妹喧嘩に巻き込まれて爆殺されるかなんてわかったもんじゃないからな。

 必至に頑張って訓練をしないと。

 その頑張りが、自分を長生きさせる一番のコツだ。


 それはそれとして、部屋戻って寝たい……。


「話は分かった!疲れているだろうし、とりあえず今日は帰っていいぞ!扉の向こうの有栖のこともよろしくな!」

「かしこまりました。精一杯務めさせていただきます」

「頼むぞ!ただ、俺の前ではイチャイチャするの控えてくれよ?」


 それは……俺は、そうしたいけどさ……。

 流石に聖羅みたいに力の限り抱き着かれているのに、無理やり引きはがすわけにもいかなくなるから、有栖次第なんだよなぁ……。

 魔力操作とエクスカリバーによる強化で、有栖のパワーも最近ドンドンゴリラっぽくなってきているからなぁ。

 エクスカリバーを本気で一振りするだけで、竜巻が起こることもあるらしいし……。


 とはいえ、きっとこの後もお付きの人たちが止めてくれているだろう。

 俺は、彼らを信じる!


 俺が退出するために謁見の間の重厚な扉へ近づくと、衛兵が主導で扉を開いてくれた。

 それと同時に、白いつむじ風が俺の腹へぶつかってくる。

 しかも、そのまましっかりと抱き着いてきた。


 うん、これ有栖だわ。

 腰の入ったタックルだなぁ。

 ラグビーとかだとエースだぞ?

 とりあえず、有栖は今後気軽に俺に飛びつくの禁止だな。

 じゃないと、俺が死んじゃう。


 そんな事を10mくらいフッ飛ばされながら決めた。



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