第134話

「もう用事は済んだかの?」

「はい、しっかり聖女様にしがみつかれて、王様にざざっと報告して、王女様にフッ飛ばされました」

「申し訳ありません!申し訳ありません!」


 部屋の外で待っていたソフィアさんと合流する。

 どうやら相当退屈していたようで、城のメイドの美鈴さんと将棋をしていたようだ。

 ……渋いな……。


「でも気持ちはわかる。最近、大試分が足りなかった」

「そうなんです!寂しかったのです!」

「なんだ俺分って?不思議な言葉を作るなよ」


 と言いつつも、やっぱり俺と会えないと寂しいとここまで入れてしまうと、男として嬉しい事この上ないわけだが。

 自然と顔も緩む。


「大試も私たちに敢えて嬉しそう」

「まあそりゃあな。ただ、今日は流石に疲れたから寝たいかな……」

「では、城に部屋をご用意しましょうか?」

「それは良い考えです!麗子、私の部屋にお連れして!」

「いや寮に帰るよ……。婚約者とは言え、結婚前の女の子が自室に男を気軽に連れ込むんじゃありません!」

「そうですか……」


 有栖のがっかりした顔に、思わずやっぱり行く!って言いそうになるけれど、ダメだダメだ!

 俺は、この世界では蛮族寄りの生活スタイルだったけれど、その辺りの情操教育的な物は前世でしっかり身に着けているんだ!

 その割に、婚約者ポンポン作っている現状に思う所が無いでも無いけれど……。


 婚約者といえば、理衣と会長はどうしてるんだろう?

 四国から周りを護る結界が結構凄かったし、あっちに回されてたのかな?


「会長と理衣なら部屋で寝てる。四国に魔術師が回されたから、その穴埋めに2人も頑張ってた。私も手伝ったけど、役割が全然違うから疲れも違う」

「聖羅は、ズタボロの患者が出た時に治す役だもんな」

「うん、結界も張れるけど、それは他の人でもできるから」


 成程、流石に学生をあんまり前線に出すような事はしてないのか。

 戦う気構えが出来ていない状態で戦場に出すと、逆に脚を引っ張る事にもなるしな。

 ってことは、リンゼは学生でも連れて行かれる程に規格外の戦力だと思われてたんだろうか?

 まあ、元女神だしな。


「私は、流石に王女を前に出すわけにはいかないと城で待機していました……皆さんが頑張っている時に申し訳ありません……」

「そりゃそうだろ?別に謝ること無い」

「そうでしょうか?でも……」

「うん、普通に考えてトップの人は前線で戦ったりしない」

「そうかの?ワシがトップの頃は、戦場で味方はワシ1人なんてことも多かったんじゃが」

「戦略兵器ソフィアさんの体験はちょっと参考にならないので……」

「寂しいのう……」


『よよよ……』とウソ泣きをするソフィアさん。

 でも流石に1人で弾幕張れそうなエルフの体験はなぁ……。

 完全にゲームの世界の存在だもん。

 ……いや、俺以外ほぼ全ての奴らがゲームの存在だったわ。


「それで、大試はこれからやっぱり部屋に戻るの?」

「もちろん。明日の夜までぐーたらする」

「じゃあ、私も行く」

「私もご一緒させてください!」

「いや男子寮だから……」


 最近四六時中ソフィアさんやアイがいたり、朝方に会長と理衣とファムがやってきたりと今更感があるけれど、流石に真正面から聖女と王女がやってきたら、寮中の人間が何事かと驚いてしまうだろうしなぁ……。


『ご安心ください犀果様』

「うおっと。アイか、どうした?」

『皆様をお迎えできるように、住宅を購入いたしました』

「は?早くない?」

『インターネットなら即日です』

「凄いなこの世界のインターネット……」


 もしかしたら前世の世界でも、その日のうちに家主になれたのかもしれないけれど、流石にそんな体験したこと無かったからわからんな……。

 ってかさ、探しておいてとは言ったけれど、買っておいてなんて言ってない筈なんだけどな……。

 俺自身すら確認できてないぞ?

 まあいいか……。

 心なしか、アイの声が喜びで弾んでいるような気がするし、それならそれでもいいさ。


「どんな場所なんだ?」

『森の中でございます。元々の持ち主は、社会から孤立したいと考えていた奇特な画家の女性で、彼女が亡くなってからは、10年ほど空き家だったようです』

「俺さ、自宅が欲しいなって思ってたんだけどさ、誰がお化け屋敷探せって言ったよ?」

『ご安心ください。私の処理能力があれば、どんなボロ屋敷でもリノベーションできます。何より重要なのは、土地権利と周りのロケーションです。犀果様の御実家と程近いというエルフの里の周辺地域を参考に選定いたしましたので、ソフィア様はもちろん、きっと犀果様と聖羅様も気に入るかと』


 ほーう?

 そう言われるとちょっと期待しちゃうな……。

 どんな素敵物件なのかな?


「じゃあ、明日はそこを観に行こうか。もう買っちゃったって言うなら仕方ないし。とりあえず今日は疲れたから寮に戻って……」

『申し訳ありません、寮の部屋は先程引き払いました』

「はああああああ!?」


 流石にちょっとまてアイよ!

 どういうことだ!?

 俺の帰る場所は!?


「どうして!?どうして引き払っちゃったの!?」

『さっさと新しいお家へ引っ越したかったので……。荷物は全て確保しておりますのでご安心ください。今、王城までトラックでお迎えに上がりますので』

「トラックでって……もしかしてアイが運転しているのか?」

『はい、今もヘッドセットで通話していることになっています』

「なっているって……いやいや、お前免許はどうしたんだよ?」

『それも問題ございません。データ上では、私は大型免許を取得してから5年が経っているゴールドドライバーですから』

「問題しか無い気がするけど……まあいいか……」


 今日は後寝るだけだと思ってから、いったいどれだけのタスクを熟せばいいのか?

 流石に脚が震えてきた……。

 てか、10年放置されていた空き家に、その日のうちに入れるもんなんだろうか?

 中って結構酷い事になってるんじゃね?


「はぁ……ってことは、この後廃墟の片づけとかしてからじゃないと寝られないのか……」

『いいえ?犀果様がご到着する頃には、ピカピカになっているかと』

「え?どういうことだ?業者でも雇ったのか?」


 即日数時間で廃墟をピカピカにできるってどんな業者だよ?

 魔術師か何かか?

 大工系魔術師か?


『私の量産型が50体まで完成いたしましたので、皆で頑張って片付けております』

「量産型って……」

『見た目は犀果様の好みに合わせた私のままです。ただし、メイン端末である私と比べ、妊娠機能がございませんので、犀果様をどこまで喜ばせられるかは……』

「相変わらずお前は俺を何だと思っているんだ?」


 まあいい。

 ちゃんと奇麗になっているというなら、それでいいよもう。

 疲れたから何も考えたくない。

 お金がどこから出ているのかとか、これからその50人をどう養えばいいんだよとか、色々言いたい事はあるけれど、そんな気力も残っていない。


「ねぇアイ、もしかして、その家なら私たちも住めるの?」

『可能です、部屋数は十分にございます』

「部屋数は足りなくてもよかったのに……」

『そう言うわけにはまいりません。聖羅様はヒロインポイントが高すぎるため、犀果様と同室にするとすぐにアレがアレしてしまうでしょう。そうしたら、きっと犀果様が責任を感じてバッドエンドです』

「なら仕方ない。やっぱりそういうのは卒業してからにすべきだと私も思う」

『はい、私の集めた情報でもその方がよろしいかと。もっとも、学生ではない私はその限りではありませんが』

「は?」


 聖羅から何かのオーラが発せられている気がするけれど、無視だ無視。

 その隣では、有栖もウッキウキの顔をしている。


「私も住めますか!?」

『スペースとしては可能ですが、仮にもまだ王女である有栖様が、本当に宜しいのでしょうか……?』

「宜しいのです!私の部屋もお願いします!」

『畏まりました』


 宜しいのかなぁ……?

 畏まられてるけど……。


 アイに説明を受けながら王城の玄関から出た。

 そこは広いロータリーになっていて、大きな車でも十分止まるようになっている。

 パレードなんかに出発する時には、きっとここが大いに役に立つんだろう。


「というわけで、来ました」

「どこからこんなトラック持って来た?」

「買いました。インターネットで」

「インターネットって言っておけば何でも許されると思ってないか?」


 まだ明るい時間だというのに、ビッカビカに光るデコトラ。

 その窓から、親指を立ててノリノリさをアピールするうちのメイド。

 カレーライスの上にプリンを乗せたくらいの違和感だ。

 もしかしたら旨いかもしれないけどさ……。


「さぁ乗って下さい!行きましょう!」

「テンション高いな……」

「私たちの新しい家楽しみ」

「どんなところなのでしょうか!?私、ガーデニングというのがしてみたいです!昔サボテンをぶよぶよにしてしまったことがあるので、次こそは!」


 聖羅も有栖もこのままついてくるようだ。

 トラックに座席なんてそんなにないだろって思ったら、座席が2列になっているお高いタイプのトラックだ……。

 このトラック、この後どうするんだ……?


「まあ、ワシはいずれにせよ大試の部屋で寝るから何でも良いがな」

「いや、部屋がいっぱいあるなら、ソフィアさんも100m以内で別々の部屋に住めるじゃないですか」

「なんじゃと!?くっ!ぬかっておった!」


 ソフィアさんがぐずらないようにアイには、ソフィアさん用の部屋に、エルフをダメにするソファーを用意しておいてもらう事にした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る