第131話
異能バトルもののマンガとかだと銃弾は曲がって来たり、もしくは跳弾狙いで撃たれたりする事が多いけど、風雅にそういう技術は無いらしい。
かと言って、ギフトの何割か生き物に対する攻撃の威力が上がるとかいう効果も、所詮は元が普通の銃弾だから大した事は無い。
狙いは正確だけど、正確過ぎてこっちも対応しやすい。
高い威力の射撃が出来るスキルや魔法は覚えなかったんだろうか?
そんなのがあるのか知らないけど、魔力を使って戦うような相手と銃を使ってやりあうつもりなら、当然覚えておくべきものだと思うんだけどな。
まさか、全部不意打ちの暗殺だけで何とかするつもりだったのか?
無理だろそれは……。
実際、今こうして追い詰められている訳だし。
「どこまで逃げる気だ?別に体力の続く限り逃げ続けても構わんぞ?俺の方が絶対に長く走り回れるし、長ければ長い程お前を反省させる時間も増えるわけだしな?まあ、どんだけ反省した所で無罪放免にしてやるつもりは毛頭ないけどな。体の部位がどのくらい残るかが変わるだけだ」
「来るな!来るなっつってんだろ!」
ドンドン!!!
最低限俺に当たるコースに乗るくらいの狙いで素早く連射されるライフル弾。
まあ、こんだけ近ければ指の動きとかでどのタイミングで弾が飛んでくるかもわかっちゃうから、やっぱり対応しやすいんだよなぁ。
危なげなく木刀で弾いてやる。
ついでに風雅の右手の指を一本軽く叩いておく。
適度に痛みも与えておかないと、こういう奴は反省しない。
「ぎゃああ!?」
あ、めっちゃ痛がってる……。
開拓村だったら、皆この程度のダメージ日常茶飯事だった気がするんだけど、随分大げさに悲鳴上げるな?
……そういや風雅って、余計なことして聖羅に殴られている時くらいしか怪我してなかったかもしれんな。
あとは、親父さんに稽古つけてもらうくらいか?
つっても、風雅の奴は途中から飛び道具ばっかり使ってたから、槍がメインの親父さんとはあんまり稽古してなかったんだよなぁ。
槍だって狩猟具なんだから、練習しておけば役に立っただろうに。
今とかさ。
「クソ!クソがああ!!」
「しばらく会わない間に随分ボキャブラリー減ったな?せめて会話を成立させてくれよ」
今度は、左手の小指を叩く。
先程とは違って、折るように。
「ああああああ!?」
「良い声で鳴くじゃないか。女の子一人を寄ってたかって甚振ろうとしてた割にさ?」
きっとコイツ、パーティー会場でやらかしたことについて、何の反省もしてないんだろうなぁ。
あの後、他の馬鹿どもは、貴族たちが内々に何かしたらしいけれど、詳細は聞いてない。
それに比べて、コイツは逃げてのうのうと生きていたんだ。
反省せず、責任も取らず、贖罪もせずにこの場にいる事、絶対許さんからな。
この世界には、聖羅程では無くても治癒魔法を扱える人はいる。
だから、即死じゃなければ、多少痛めつけても死にはしない。
それはつまり、適度になら体を壊して罰を与えてもいいわけだ。
って言っても、この国の法律でそれが合法なのかは知らんけどな。
開拓村のルールだったら合法だ。
「今は折ってるだけだけどさ、その内斬るからな?木刀だから奇麗には斬れないだろうけど」
「な!?おまっお前!?」
「未だに俺がお前を殺してない理由なんて、一応幼馴染だからって事くらいしかないぞ?俺の婚約者を害そうとした上、独立計画にまで加担してたなんて、今すぐ殺したって多分法的にも何の問題も無いぞ?」
「なんでお前ばっかり!なんでだよ!?」
うん?
やっぱり会話成立してないよな?
うーん……パニックになり過ぎだろ。
これじゃあ、甚振りながら反省促しても無駄か……。
仕方ないので、銃を蹴り飛ばして風雅から離してから、脛を叩き折るつもりで蹴る。
一応風雅も魔力を纏って骨を強化していたみたいだけど、俺の身体能力を上げまくっている脚の方が硬かったらしく、かなり豪快に折れたようだ。
支えを片方失った風雅は、そのままの勢いでこの展望フロアみたいな場所の床を転がっていく。
そのまま逃げられても面倒なので、足で踏みつけて止める。
「おい、落ち着けよ?反省も何もかも、まずは落ち着いてもらわんと話にならんぞ」
「お前のせいだろ!お前が悪いんだ!」
「理屈が分からんが、悪いのはお前だ」
この世界に、絶対の正義なんて無い。
だから、誰が悪いかなんて言い合ってもしょうがない。
ルールを決めても、それを無視することが罷り通る程の力があるなら、そいつは悪いと認められないかもしれない。
逆に、ルールを破った上に、こうして俺に踏みつけられている今、間違いなく悪いのは風雅だ。
本人は、絶対認めてくれないだろうけど。
別に、認めなくたっていいんだ。
重要なのは、コイツはリンゼに危害を加えようとした奴であり、同時に俺に銃口を向けた奴だって事。
特に、俺に銃口を向けたのはダメだ。
殺す気だったって事だからだ。
どの国、どの文化圏、どの世界だとしても、銃口を向けた時点で相手から殺されても文句は言えない。
だから、最後まで認めないならそれはそれで、コイツの息の根を止めて世界をまた少し平和にするしかなくなる。
まあ、別に殺したいというわけでもないんだけどさ。
むしろ殺したくない。
倫理的に良い悪いの話だけじゃなくて、血が出たりしたらこっちまで汚れるからなぁ。
例え洗い物だとしてもこれ以上、コイツのために苦労したくない。
例え、コイツの死後だったとしてもな。
「なぁ風雅、ここから生き残る方法を考えて提案してくれよ。この状況なら殺す方がよっぽど簡単なんだよ。逆にお前を生かしておく理由付けが難しくて困ってんだ」
「俺を殺すのか!?同じ村で育った俺をか!?」
「お前次第だって言ってるだろ。必死に考えろ。今すぐだ」
「な……なんでお前にそんな事指図されねぇといけねぇんだよ!?なんでお前は、すげぇ武器ももらえて、聖羅も、他の美人の女たちも手に入れていて、俺はここで殺されるだけなんだよ!?」
俺がどうこうは知らん。
だけど、今ここで風雅が死にかけているのは、間違いなく風雅が自分で蒔いた種だろうに……。
どうしよう?
やっぱり説得なんてめんどくさいし、生かしたまま連れて帰るのも大変そうだからここで……。
『犀果様!敵です!』
「何!?うおっ!」
アイの通信のおかげでギリギリ避けられたけれど、目の前を矢が飛んで行った。
1本目の後に、2本3本とずばずば飛んでくる。
矢って事は、多分風雅じゃないんだろうけど、なんだ?
「やれやれ……少し私が外出しただけでこの騒ぎとは……まったく、キミがついていながらなんて体たらくだ?」
そこには、教会の神父?神官?そんな奴らが着るような服を着た男が立っていた。
歳は、俺達と似たようなもんか?
てか、教会の人って武器持つのね。
「誰だお前?」
「……風雅君、まさか私の事を覚えていないのか!?」
なんだ?
有名な奴なのか?
それとも、以前にどこかで会っていたのか?
風雅はよく覚えてないようだけど……。
手足を結構ぐちゃぐちゃにされている状態でこんな流れだから、イライラしてるな。
邪魔が入る前に切り落としておけばよかったか?
「俺にも教えてくれよ。いきなり人に向かって矢を放つなんてどこのバカだ?」
「犀果大試……!貴様!貴様のせいで私はこんな事になっているというのに、その貴様が私を忘れたというのか!?」
「えぇ……?」
知り合いの方ですか?
正直、全然覚えが無いんですけれど……。
「………………………………いいだろう、貴様ら無能共に合わせてもう一度名乗ってやる。私は、
……まずい、名乗ってもらってもやっぱり思い出せん。
本当に知り合いなの俺ら?
だとしたら、相当興味なかったんだろうなぁ俺……。
「すまん、誰だかわからん」
「王立魔法学園で、貴様と決闘した男だ!」
「え?……あー、あの手を踏みつぶされて泣きわめいてた奴か!」
「黙れ!」
矢が飛んできた。
木刀で落としておく。
なんでこいつがここに?
「なぁ、お前って処刑されただか軟禁されただかの処分下った類の1人じゃないのか?なんでここにいるんだ?」
「秘密裏に教会に出家することで罪を償ったのだ!」
「つまり、今まさに秘密裏にしてくれた奴らの努力全部水の泡にしているのか……」
可哀想だなぁ親兄弟たち。
相当お金使って生かしてやったんだろうに。
でも、教会にいたって事は、もしかしたら隔離された風雅を連れ出したのもコイツか?
碌な事しねぇな。
しかも、王子死んでるからもう神輿も無いだろうに……。
「なぁ、今起きているこの事態って、お前の手引きの結果だったりするのか?」
「フフフ……そうだ!第一王子に王位を簒奪して頂き、私が宰相として裏からこの国を牛耳ってやる!私を追放した学園も!生徒も!そして王にすら復讐するのだ!そのために犀果大試、お前は邪魔だ!今ここでころ」
「悪い、話の途中なんだけどさ、第一王子死んだぞ?」
「……なに?」
おいおい、そんなことも気がついていなかったのか?
さっき留守にしてた的な事言ってたけど、状況全く理解していないみたいだな。
そりゃびっくりしただろう。
塀がなくなり、四国が浮いて、黒い靄がかかったと思ったら、それが全部魔法で消し飛ばされてたんだから。
でも、もうコイツの作戦は根本から失敗が確定しているんだよなぁ……。
「風雅君!王子は死んだのか!?」
「建物の中だったからよく見えなかったけどよ、多分死んでると思うぜ?」
「なんと言う事だ……!」
俺に決闘申し込んできたときもそうだけど、コイツは相変わらず自分に都合の良い思い込みで周りに迷惑かけているんだなぁ……。
「……仕方ない!ここは引くぞ!」
「何言ってやがる!?ここからどうやって逃げろってんだ!?」
「安心しろ!転移の宝玉を教会本部から借りてきた!これで一度だけ他の町へ飛べるぞ!私の魔力量からすると2回目は発動しない!」
「何!?よくやった!いいぞ使え!」
「さらばだ犀果大試!お前はいつか殺し」
随分悠長に話していたから、木刀を使って日下の右腕を切り落としておいた。
転移の宝玉も一緒に床へと落ちる。
これで転移を防げたかと思ったけれど、もうすでに魔術が発動する条件を満たしてしまっていたらしい。
シュッと耳元を何かがすごいスピードで通り過ぎるような音がした。
それが、転移を行った音だというのは後から知ったけれど。
最初から切り落とすつもりだったとしても、あの早さで転移されてしまうと難しいな。
それでも、日下の腕は片方落とした。
聖羅でも無いと、欠損した部位の再生は難しいから、相手への深刻なダメージになるだろうな。
テレポートゲートと一緒で、仲間だったら一緒に飛べるようで、風雅もいなくなっている。
あーくそ!
今日であのバカとの因縁を解決したかったのにな!
まあ、風雅は風雅でかなりダメージを負っていたから、暫くは派手な動きをしないだろう。
体内でバラバラになっている骨折って聖羅以外の回復魔法で、元通りの形に戻るかな?
無理だろうなぁ……。
『犀果様、今の敵の反応が周囲5km内に存在しません』
「転移の宝玉とか言うの使ってたからな。どこに飛んだんだか……」
アイに状況説明をしながら、足元に落ちている日下の腕と、教会が持っていたという転移の宝玉を
眺める。
これって……もしかして伝説のアイテムか何かなんじゃないか?
テレポートって、確か今のこの世界だと失われた技術らしいし……。
「なあアイ、この宝玉って俺が拾って持って帰っても怒られないと思う?」
『無理でしょう。バレればの話ですが』
「落ちてたものを拾っただけだしな……よし!この宝玉の事は、俺とアイだけの極秘事項ということにしよう!」
『畏まりました』
「それじゃ、皆の所に戻るぞ」
これで本当に終わりだろうな?
もう嫌だぞ?
今夜から自分のベッドで寝るぞ?
……無理かなぁ……?
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