第130話
大試は、確実に開拓村にいた時より強くなっている。
別人と言ってもいいくらいだ。
しかも、開拓村にいた時みたいな、真面目なのに周りに興味があるのか無いのかわからねぇ気色悪い目じゃなくなってやがった。
アイツがどんな剣を出せるようになったのかしらねぇが、王都での一件で、確実に氷魔法を扱える剣は持っているのはわかっている。
しかも、俺が何されたのか全く分からない程一瞬で攻撃を受けていた。
今の俺が大試に、近接戦闘を挑むのは分が悪いだろうな……。
アイツは、ここの所自由にレベル上げできただろうが、こっちは暫く監禁されて、その後は王子と一緒に四国まで移動した後ずっと護衛だったからな。
任務とは言え、やっと解放されて自由になったと思ったら、王都で氷漬けにされて四国まで逆戻り。
やってられねぇぜ……。
「風雅!どこにいる風雅!?」
あーあ……またあのクソ王子か……。
今度は何だ?
誰も信用できねぇからっつって船に引きこもってたくせに、わざわざ港まで戻って来て何のつもりだ?
何のつもりだとしても、確実に俺にとっては嫌な事なんだろうけどな……。
「はいはい、んだようるせーな?」
「旗艦を魔物に襲撃され撃沈された!2番艦に移動するぞ!ついてこい!」
「あ?あの無駄に豪華な船沈んだのか?」
信じられねぇほど何の役にも立たねぇなコイツ。
ただまぁ、教会の牢から出してもらった恩は返さねぇとなってここに残ってやっているけど、流石にそろそろ見捨てても良いと思うんだよな。
この基地にも人はたくさんいるが、この王子に好意的な奴なんて見た事ねぇし。
たまに、教会の神官服着た奴がやって来てなんか王子に吹き込んでるが、王子が思ったように動いてくれないのか、胡散臭い笑顔が引きつってて笑える。
こいつの手引きで俺も解放されたんだろうが、多分お前も俺と一緒でついていく相手間違ってるぞ?
自覚はあるだろうけどな。
王子は、この基地の軍人は全員自分の部下だと思ってるみてーだけど、実際には隠神とかいう胡散臭い貴族の私兵だ。
実質廃嫡とかいうのされてるこの偉そうな態度の第1王子の味方なんて、最初から多く集まる訳が無いのは分かっていた。
むしろ、何で今こんな軍港一つ占拠できてんのかがわかんねぇくらいだ。
王子を先導している奴が何人いるのかしらねぇけど、多分そいつらはそいつらで何か考えがあるんだろう。
それを王子の無能っぷりが悉くダメにして行っている気がするんだよな。
日に日にここも雰囲気が悪くなっていくし、王子のウゼェ呼び出しも、ドヤ顔の時より激怒している時の方が多くなってきた。
詳しい戦況とか何も聞いてないし、聞きたくもねぇから知った事じゃないけどな。
危なくなったら逃げるだけだ。
既に四国の海辺に何カ所にも脱出用の船も隠してある。
開拓村にいた時には見たことも無かったモーターボートってやつだ。
魔石でスクリューってやつを回すとすげぇスピードで動き回れる船だな。
まあ、あの村に海は無かったから、使うとしてもデカい川と底がわからない湖や沼くらいでしか使えなかったんだろうが……。
いや、あの辺りの水中には化け物がうようよしてたから、こんなもん浮かべてたらいい餌だな……。
大試の親父が使ってたルアーが大体モーターボートくらいだった気がする……。
うちの親父は、いつも丸太で作った銛だったからわかんねぇけど、化け物の餌はあんなサイズなんだろうな。
俺は、村の大人たちと狩りに行ったことはあるが、開拓村周辺の魔物を1人で倒せた事は殆ど無い。
魔物がデカくて強すぎる。
たまにみる小さい奴らは、俺のギフト『狩猟王』の効果をフルに使っても追いつけないことも多いし、追いつけたとしても攻撃が当たらねぇ。
絶対に当たる射撃技ですら、途中から相手も理解して、肌に触れて当たったという判定が出た瞬間に避けるっていうわけが分からないことをしやがる。
だから、俺の仕事はもっぱら獲物を見つけることだった。
それでも、大人と魔物が戦っている間だったら、俺の攻撃に集中していないせいか当たるから、経験値稼ぎは出来たけどよ……。
そんな魔物たちを大試と聖羅は、村の近くに設置した罠で狩っているらしい。
木刀を撃ち出すとか言ってやがったが、なんで木刀で魔物を倒せるのか俺にはわからねぇ。
撃ち出す弾にする理由もさっぱりだ。
だが、罠でも使わねぇと倒せない辺り、やっぱり俺の方が強いはずだ。
って思ってたんだがな……。
――――――――――――――――――――――――――
いきなり警報が鳴りだした。
人が折角気持ちよく寝てたのに何だってんだ?
王子の怒鳴り声で起こされるのに比べたらマシだけどよ。
『警戒!警戒!周辺海域に魔皇クジラが出現!付近の作業員は避難を……ああああ!』
大きな地響きが起きた。
なんだ?何が起きた?マコウクジラ?
クジラってあの海にいるでけぇ魚だよな?
海の中にいる奴が出たからなんだってんだ。
俺は陸にいるんだから、関係無いな。
そう思っていたんだが、何故か地響きがやまない。
魚が陸に上がってきているわけでもねーだろうし、他の魔物が出てんのか?
俺はとりあえず、建物の屋上に登った。
ここは、普段であれば展望フロアとかいう松山一面を見渡せる場所らしい。
観光客を受け入れて飯を食わせる場所らしいが、今は誰も居ねぇ。
もったいない話だが、俺にとっては都合がいい。
なにせ、超ド級の獲物を見つけたからな。
周りにいる人間に邪魔をされずに済むのはありがたい。
クジラってでけぇ魚が、陸に上がって基地の壁を壊してやがった。
何かを追いかけてるみてぇだけど、ここからは何も見えねぇ。
かなり小さいもんだろうか?
だとしても、俺のスキル『ワイバーンアイ』なら見えるはずなんだが、まったくわからん。
まあ、今はクジラだ。
アイツを倒せば、俺のレベルもかなり上がるだろう!
今の時点で53だ。
大試がどの程度レベル上げしているか知らねぇが、戦闘用のギフトを俺が持っている以上、レベル差が縮まれば俺の方が有利になるはずだ。
だから、あのクジラには俺の成長の糧になってもらわねぇとな!
親父たちは、食う以上の狩りは「その後死体がくせぇからやめろ」って言われてたが、今ここであのクジラを倒したところで、片付けんのはこの基地の連中だ。
俺は、ここから悠々とクジラの弱点に弾をぶち込むだけでいい。
俺が最近使っている猟銃。
名前は知らねぇが、昔から実家にあった奴だ。
「我が家の家宝らしいが、俺は槍しか使わねぇからこんなもんいらん。爺さんは、よく突っ張り棒みてぇに使ってたぜ」なんて親父は言っていたが、この銃はすごい。
普通のライフル弾と比べて、撃ち出す弾丸の威力が跳ね上がってやがって、大抵の魔物は、一発で撃ち殺せる。
俺のスキルにも、相手の急所が分かるスキルはあるが、この猟銃はスコープを覗くだけで急所がわかるし、そこに吸い込まれるように弾が飛んで行ってくれる。
しかも、何故か弾丸が風の影響を受けねぇ。
多分、どれも魔力を使って起きてる事なんだろうが、こんな銃があるなら親父たちももっと使えばいいのによ。
俺のギフトは、別に銃じゃなくても効果が乗る。
槍でも剣でも、ブーメランでも適用された。
だけど、やっぱ近寄らずに倒せるこいつが一番だな。
この前は、大試を捕まえて来いって言われたから仕方なく近づいたが、遠くからならアイツなんてこの銃で……。
っと、クジラだクジラ。
アイツの弱点は……目……は、弾丸は通っても殺せないらしいな。
じゃあ、頭か心臓か……よし、心臓を狙うか。
ドンッ!!!!!
轟音が響いて、弾丸がまっすぐとクジラに当たった。
そのまま皮膚を突き破って、肉を引き裂き、心臓に到達する……と思ったんだが、俺の放った弾丸は、食い込むことすらなく弾き返された。
……なんだあの化け物は?
ギフトの効果で威力を上げたこの銃で無理なら、もう俺にはどうすることも……。
『ドオン』
轟音が響いた。
何が起きたのか最初分からなかったが、どうやらあのバカ王子が基地代わりに使っている戦艦が、クジラに向かって大砲をぶっぱなしたらしい。
俺の銃で傷一つついていないクジラをあんな大砲で倒せるわけが無いだろうが。
……傷、少しついてねぇか……?
ちょっとまて……俺の銃は、あのバカ王子の撃った大砲より下なのか……?
確かに、銃弾を遠くへ正確に飛ばすスキルばっかり上げてきたが、それでも威力は十分高かったはずだ!
なのにどうして……。
俺がショックを受けている間に、体勢を立て直したクジラは、王子の乗ってる戦艦を標的にしたらしい。
そりゃそうだ。
多少なりとも自分に痛みを与えられるやつがいるなら、そいつから狙うだろう。
突撃されて終わりなんじゃね?
なんて思っていたが、光の束みてぇなもんを口から撃ち出しやがった。
流石に一撃じゃあの船も沈まなかったらしいが、その後やっぱり突撃されて撃沈してたな。
周りの船の奴らも、戦う前から逃げ出してやがる。
士気低すぎんだろ……。
その時、俺の視界の中に、見えるはずのないもんが見えた。
一瞬だけ、メインセンターの玄関に入っていく姿が。
なにも無かったはずの所から、すぅっと姿を現したのは……。
「ああ!?大試!?なんでここにいやがる!?あいつ……あいつ!!!!」
そうか!この滅茶苦茶な状況は、アイツのせいか!
だったら、俺がここでブチ殺してやる!
今なら、多分アイツはこっちに気がついてない。
しかも、こっちは絶好の狙撃ポイントにいる。
完全な不意打ちだ。
確実に急所を撃ち抜ける!
いや待て。
冷静になれ。
アイツも今、クジラの騒ぎで警戒心が上がっているはずだ。
だから、万全を期すなら今はダメだ。
多分、王子はもうだめだ。
主戦力の戦艦も失っちまったし、陸上戦力がいくらあったって、籠城戦しかできない島に何の意味があるってんだ。
だから、王子を倒して事態が終息したと大試が思って警戒を解いた時を狙う。
船から脱出したあのバカが、メインエンターに向かってるのも見えるしな……。
丁度いい、面倒な奴らがまとめて死んでくれそうだ。
―――――――――――――――――――――――――
まさか、あんな地獄絵図になるとは思わなかった。
化け物がウヨウヨ湧いて、四国が浮上したと思ったら、その後に四国ごとでっかい化け物に突っ込んだり、してたからな。
大試は、殆ど戦ってねぇ。
周りの女どもが、化け物みてぇな……いや、化け物よりよっぽど強い。
そいつらが、本物の化け物と戦ってやがった。
しかも、あの女たちは、どいつもこいつもすごい美人だ。
なんで大試ばっかり……アイツ!!!
だが、大試は俺が思っていたほど強く無いのかもしれねぇ。
この前俺が負けたのも、実は女どもにやらせてたんじゃねぇか?
だとしたら俺が何もできず負けたのも納得できる。
開拓村で、何度アイツと戦っても俺は負けたことがねぇ。
勉強とかだと一回も勝てた事はねぇが、戦闘なら確実に俺が上だった。
だから、この短い間に俺が追い抜かれるなんて事はそうそうないはずだ。
……ないはず……なんだが……俺の本能が言っている。
「アイツに手を出すな」ってな。
だが、これはプライドの問題だ。
俺は、アイツとの戦いだけは負けたくねぇんだ。
だから、今日、アイツを殺す。
俺の心の平和のために殺す。
悪いな大試、てめぇの事は昔から気にくわなかった。
開拓村なんてクソ田舎で大人しくしてんなら見逃してやったんだが、わざわざこんな所に来たバカなお前が悪いんだぞ?
どうやら、勝負はついたらしい。
ここから見える限り、軍人たちも大試をどうこうつもりはないみてぇだな。
元々、隠神の爺さんに従っていただけで、王子に関しては皆嫌っていたからな。
大試も気の抜けた顔してやがる。
……そろそろだな。
俺は、狙いを定める。
撃ち抜くのは、確実に死なせることができる脳幹付近。
心臓じゃダメだ。
ここからは見えねぇが、もし聖羅がいたとしたら、心臓の穴程度大試が死ぬ前に塞いじまうからな。
距離は、2032mか……風の影響を受けないこの銃なら余裕だ。
しかも俺なら、スキルで重力による放物線状の落下すら排除できる。
だから、スコープの真ん中を大試の頭の真ん中に合わせて……撃つ!
ドオン!!!
よし!完璧なタイミングだ!これで確実にアイツは……あ?なんで反応して……な!?木刀で弾を弾いた!?
ちょっとまて!しかもこっちを見てんのか……!?
くそ!見つかった!だが、まだこっちが有利なはずだ!
アイツは、まだ障害物の陰にも隠れていない!
撃てる!今ならまだ殺せる!
死ね!死ね死ね!
ドオン!!!
この銃に装填できる弾は2発。
1発目は、もう撃っちまってたから、残りの1発を撃ってみたが、当然のように木刀で弾かれた。
すぐに次の弾を装填する。
本当なら、アサルトライフルとかの方が弾も多く装填できるんだが、他の性能が断然この猟銃のほうが上だった。
だから使い続けているが、相手がこっちに向かってくるときには不向きすぎる!
ドン!!ドン!!!
狙いを大雑把にしながら連射してみる。
だがこの銃は、そんなふうに連射するように出来ていない。
だから、弾が大試を掠めるように飛んでいくだけだ。
とはいえ、狙いをつけた所で弾かれるなら、撃てるだけ撃つしかない。
それ以外どうしたらいいのかわからねぇ!
なんだよ!?
どうしてあのライフル弾に木刀を当てられるんだよ!?
しかも、走る速度が速すぎる!
あいつ、身体強化使えなかったんじゃねぇのか!?
そこから数十秒弾を撃ち続けたが、当たりそうなコースに飛んだ奴は全部大試に叩き落されちまった……。
何なんだよアイツ……化け物じゃねぇか……。
まずい!今すぐ逃げねぇと……あ!?エレベーターが動かねぇ!
じゃあ階段……クソ!もう下に大試がいるじゃねぇか!
反射的に撃ってみるが、こんな咄嗟のタイミングでも当たり前のように弾を弾かれた。
「風雅ああああああ!今行くぞおおおおおおおお!」
「なんなんだよお前!!!!?マジでなんなんだよ!!!!」
なんでここには、化け物しかいないんだ?
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