第312話

 亀の甲羅は、実は脱皮する。

 脱皮をすることで成長して大きくなり、傷も修復され、健康を維持できる。

 普通、自然界で生活していると勝手に何かと摩擦した際に剥がれるが、飼育されている亀の場合は、摩擦が足りなくて剥がれないことも多く、飼い主が剥がしてやる必要が出ることも多い。

 それらを怠るとどうなるか?

 甲羅の形がゆがんだり、病気になったりする。

 それらを防ぐためには、甲羅に日の光を当てることも重要らしい。


 じゃあ、そんな甲羅の上に森が出来てしまっているコイツはどうなるかというとだな。


「「とても痒いのです」」

「痒い……?」

「「痒いのです」」


 痒いらしい。


「じゃあ、もう甲羅の上の物全部落としちゃう感じでいいのか?」

「「可能であればそのように願います。昔は、岩の隙間などを通ることで無理やり甲羅の上を掃除していたのですが、流石にこの大きさとなるとそれもままならず……」」

「成程なぁ……まあいいよ。その位ならやってやる」

「「感謝します」」


 というわけで、いきなり大掃除が始まったんだ。

 と言っても、皆で亀の甲羅の上の物を落としていっただけだけれど、ガッシリと根が張っている植物と、それらが堆積することで出来上がったと思われる腐葉土を排除するのは、かなりのパワーと体力が必要だった。

 おかげで、戦闘もしていないのに割と疲れてしまっている。

 俺なんて、ソフィアさんを背負いながらだし……。


「おやおや?この植物は新種では?図鑑にもインターネッツにも載っておりませんでしたねぇ」

「よくそんなん一々気にしてられるにゃ……」

「ファム殿も暇なときにでも調べてみると宜しいかと。食虫植物の項目など楽しいですよ?」

「例えメシ食う以外何もやる事が無いくらい暇でも御免にゃ。それくらいなら、まだちっちゃい生き物調べた方が楽しい気がするにゃ」

「おやおや……。では、ゴールデンハムスターは、今でこそそこら辺で買えるようになっておりますが、200年ほど前までは、ツチノコと同クラスの幻の獣とされていたのはご存じですか?」

「何それ知らないニャどういうことにゃ?」


 何だかんだとあの二人も頑張ってくれている。

 パワーがすごいソラウがゴリゴリと表面の土ごと植物を押し出し、どうしても無理そうなものに関してはファムがテレポートさせてしまうという感じで、あっという間にデカい甲羅の表面が露になった。

 ついでに甲羅の脱皮も行われたようで、そのデカい甲羅に見合うデカい表皮が落ちている。

 何かに使えそうだから貰っていこう。

 収納カバンにぶち込む。


「「おお!何たる解放感!ああ……蕩けてしまいそうです……」」

「これでいいか?じゃあ俺たちはまだ奥の調査に向かいたいから、これで失礼するぞ」

「「奥?奥に何かあるのですか?」」

「それを調べたいんだよ」

「「奥……」」


 亀が考え始める。

 考えるのはいいけれど、俺たちが行ってからゆっくりしてもらえないだろうか?

 害意はなさそうとはいえ、デカいだけで中々怖いものがあるし、しかも尻からも頭が生えているヘンテコ生物だ。

 できればあまり関わりたくない……。


 だけど、本人はそれを良しとしないらしい。


「「では、私も連れて行ってもらえないでしょうか?」」

「は?連れていく?」

「「はい。長年この奥に何があるのかは気になっていたのですが、小さい時には怖くて見に行くことができず、大きく成長してからは、通路を通ることができませんでしたので」」

「じゃあ、連れて行こうにもここから出してやれないだろ?」

「「何か方法はございませんか?私が知らない技術も貴方たちえあれば知っているかもしれませんし」」


 って言われてもなぁ……。

 俺からしたら、お前のトンデモさのほうがすごいとしか思えないんだよなぁ……。

 街中に現れたら、それだけで大災害認定されそうな大きさだしさ……。


「ではでは、私に一つ提案がございます」


 俺がどう断ろうか考えていると、その隣で謎の生き物相手に目をキラキラさせながら居たソラウが口を開いた。


「提案?」

「はい、私であれば、この方をここから連れ出すことも可能です」

「どうするんだ?」

「簡単ですよ。私と同じように、進化させてしまえば宜しいのです」

「進化……」


 なんだ?またヘンテコさを増すのか?

 小さくなる代わりに頭が4つになるとか?


 でもまあ、めんどくさいしそれでもいいか……。


「……じゃあやっちゃってくれ。亀様もそれでいいですよね?」

「「もちろん、私もそろそろ暇をしておりましたので」」

「まあ、そりゃそうだよな……」

「ではでは!第五の絶滅!」


 ソラウがあの進化の絶滅を使った。

 あれ、他人にも使えるんだなぁ……。


「この進化、蟲とかに使ったらどうなるんだ?」

「ある程度の知能が無いと、自分の体を制御しきれず……」

「しきれず?」

「全身がん細胞になって死ぬでしょう。最悪の場合、がん細胞だけの生物という恐ろしいものになるかもしれませんねぇ」

「こっわ……」


 なんて思っている間に、目の前のデカい亀がどんどんと小さくなっていく。

 どんな化け物になるのか……。


「って思ってたのに、結局人間じゃん。しかも2人になってるし……」

「おやおや、別個体として進化したようですね」

「「これは……これが私ですか……そしてもう一人私が……」」


 何かのパラドックスでも起こしそうな事を言っている元亀。

 勿論全裸だったので、先ほど排除したジャングルの植物で適当に隠さないといけない所を隠した。


「……なんでだろう、逆に卑猥な感じがする」

「ボスは、ちょっと下半身で考えすぎニャ」

「そうかなぁ……まだお上品な方だと思うぞ……?」

「童貞ならそうなのかもしれないにゃ~」

「おやおや、この中で性交の経験のある物などいないでしょうに」

「おっまえ何カミングアウトしてくれてんにゃ!?」


 騒がしい……よく目の前でこんな不思議現象が起きてここまで元気にしていられるな……。

 亀が人間のお姉さんになって、しかも2人になってるんだぞ……?


「「ふむ、では、私の名前を付けて頂けないでしょうか?貴方たちの文化で、恥ずかしくないものが良いです。いつまでも『私』では、分かりにくいので」」

「あー……んー……じゃあ、でっかい亀といえば玄武だし……クロコとタケコで」


 サクッと名前を決めて奥へ行こう。

 そう思ったんだけれど、名前というのは重要らしく、揉めた。


「「では私がクロコで貴方がタケコ……いえですから私がクロコで……成程、戦争ですね?」」


 ぺちぺちと同じ顔で叩き合う人間なり立ての2人を待つのに10分の時を要した。




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