第311話

「「反省なさい」」


「はい……」




 俺は今、地下の巨大空洞で正座している。


 目の前にはこちらに体の側面を向け、体の前後にある頭の両方で俺をしかりつける亀の姿が。


 亀って言うか、どっちかっていうと南の島か何かみたいに甲羅の上が植物で覆われてるんだけど……。




「「出会ってすぐ斬りかかっているとは何事ですか?」」


「いえ……その……あまりにもアレな存在に見えたので、先手必勝って思って……」


「「何事も、まずは話し合いから行うべきでしょう?それこそが、理性ある生物のとるべき行動です。貴方の行おうとしたことは、ケモノの所業だという事を自覚してください」」




 まあそりゃそう言われたらそうなんだけど、でもでもだって!




「目の前にいきなりデカくてモサモサで頭が2つある亀が出てきたら、とりあえずヤバイ存在だと判断して排除できるならしようと思うのって普通じゃないでしょうか……?」


「「はぁ……いいですか?貴方には、ある大切な物が不足しています」」


「なんでしょう……?」


「「ラァヴ エァンドゥ プィース」」


「ラブアンドピース……」


「「そうです。相手を思いやり、慈しむ心を持ちなさい。例えそれが、己が今まで知らなかった怪奇なる生物だとしても」」


「はい……」


「「よろしい」」




 何でこんな事になっているかというと、先ほど一気に斬り捨てようと走り寄った時に、




「「無礼者め!」」




 と大声で怒られてしまい、この亀が言葉をしゃべる事に気が付いたため、意思疎通をはかってから殺そうと方針転換した所、こうやって更に滅茶苦茶怒られてしまったというわけだ。


 驚いたことに、頭の中に響いてくるような念話の類ではなく、普通に口から音声を発している。


 何だこの亀?




「あの……亀様は、いったい何者なのでしょうか?普通の動物では無いようですか……」




 尋常ならざる存在なのではと思い、一応確認してみる。


 そもそも、人間と会話が成立している時点で、普通じゃないし……。




「「私が何者か……それは、とても難しい質問です」」




 答えるのは難しいらしい。




「「そもそも、私にとって、こうして会話ができる相手というのは、貴方が初めてなのです」」


「え?なんかこう……大昔からの神々の一柱で、他の神々と仲がいいとかそういうのないんです?」


「「ありません。言葉自体、知識として頭にあっただけで、使ったことはありませんでしたから。なので、私自身が何者なのかと問われても、私は私であるとしか答えようがありません。貴方が呼ぶ亀というものが私の種族名だとしたら、私の他にも私と同じ生物がいるのですか?」」


「いや……亀って生き物はいるけれど、もっと小さいし、頭も1つだけだなぁ……」


「「あ、その辺りは問題ありません。私も生まれた時は小さかったですし、尻の顔は生まれてから1000年目くらいで生えてきたものなので」」


「頭って……生えるんだ……」




 よし、よくわかんねーヤバイ生き物だって事は分かった。




「それでその……亀様は、何を食べて生きているのでしょうか?肉食ですか?草食ですか?」




 最低でも1000年は生きているらしいこの亀。


 安易に狩ってしまうと、生態系が乱れてしまう可能性もある。


 かと言って、生かしておいて俺達に危害を加えられないという保証もない。


 まことに身勝手な理由だけれど、生態次第ではやっぱり狩るしか……。




「「食べる……あぁ、私は食事をとりません。多少の水と、そこに溶け込んだ栄養分があれば生存に支障はないのです。植物と同じように、光を浴びることでエネルギーを生成しておりますので。」」




 うん、狩る必要はないかもしれないけれど、考えようによってはもっとヤバイ生き物かもしれん。


 万が一この生き物が野に解き放たれたら、世界中がコイツの生息地になりそう……。




「……ここから出る気はある?」


「「ありませんね。そもそも通路が私が通れるサイズでは無いですし、私にとってはここが暮らしやすいので。たまに狼藉を働く者が訪れることもありますが、今の所私が負けたことはないので、この空洞はずっと私の縄張りなのです」」




 やっぱり首長竜もここを通って来たのかもしれない。


 で、この亀に追い出されたのかも……。




 それはそれとして、地上に出てくる気が無いのであれば、こんな訳わからん未知との遭遇する必要はない。


 さっさと話しを打ち切って、この亀から距離を取ろう。


 殺さずに済んだのは良かったけれど、とにかく得体のしれない生き物過ぎて……。




「じゃあ俺たちはこの先に行くので……」




 そう言って、とりあえず通路の続きへと向かおうとした俺達だったけれど。




「「待ちなさい」」




 亀に止められてしまう。




「……何か御用でも?」


「「えぇ、あります。貴方のように意思疎通ができる存在がくるのをずっと待っておりました。この機会を逃す手はありません。お願いがあるのです」」


「お願い……」




 こんな所でされるお願いって何だよ!?


 そしてよぉ、自分たちは無関係ですぅって顔で離れてるファムはあとでデコピンな!




「「甲羅の上の掃除をしてください」」


「掃除?奇麗に茂っているじゃないですか」


「「茂っている物を全部引っこ抜いてください」」


「えぇ……?」




 神剣は、草刈り機ではありません。








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