第310話
「おやおや?アレはなんでしょうか?」
「あれは……カマドウ」
「ぎゃあああああ!言わなくていいニャ!それ以上言っちゃダメニャ!」
「おやや?アレは巨大なコウモリでは?血を吸われたら一発で死にそうですねぇ」
「いや、デカいコウモリは血なんて吸わない……って思ったけど、よく考えたらファンタジーな世界であればあり得るか?どっちにしろ、不潔だから近寄らせるなよ」
「洞窟ってクソみたいなとこにゃ……早く帰ろうにゃあ……」
「下にある土みたいなの、多分本物のクソだぞ。コウモリの」
「ボス後で覚えてるにゃ……」
洞窟を歩く事1時間。
特に何事もなく進めている。
生き物は見つかるけれど、殆どは虫で、後は小さなトカゲとコウモリだ。
そう言えば、水たまりに小さなカニもいたな?
どんな生態系してるんだろうか?
ソラウは、知識欲がかなり満たされているらしく、キラキラ笑顔で歩いている。
ファムは、もうグロッキーな表情で俺を睨んでいる。
すっかり喋らなくなったソフィアさんは俺にしがみつきながらオートマッピングの魔術だけ使ってくれている。
俺の理性よもってくれよ!
うーん、当初の予想では、入って少ししたら大きな空間があって、そこで恐竜と遭遇し戦闘。
そこに颯爽と謎の人型生物が乱入して、俺達が何故ここにやって来たのかを問いただしてくる……的なイベントが来るのかと思っていたけれど、特にそんな事は無いらしい。
ゲームをモデルにした世界だし、ゲームっぽいイベントが挟まると思ってたんだけどなぁ。
スマホでリンゼに問い合わせた所、「そんなイベント知らないわ」との有難いお言葉を頂いたので、少なくとも俺爆死事件までのゲーム内容では無いはず。
もしかしたら、俺が爆死した後に発売なり実装された物かも知れないけれど、今この段階では確かめ様がない。
リスティ様も、あんまり詳しく教えてくれんしな。
だとしてもだ、どこの世界に、遭遇戦も何もない洞窟探索をしょっぱなから1時間以上やらされるゲームがあるというのか?
誰がやりたいんだよそんなもの。
……リアルなのだったら、ちょっとやってみたいかもしれない。
「おや?この匂いは……」
俺が考え事をしていると、ソラウが鼻をひくひくさせ始めた。
アイツは、元がティラ……アースドラゴンだから、かなり鼻が良い。
俺にはまだわからないけれど、何かを嗅ぎつけたのかもしれない。
「どうした?」
「いえ、かなり濃い緑の匂いを感じまして。地下であれば、自生する植物などコケ程度ではないかと思うのですが、これは……」
ソラウが考えを話しているのを聞いていたその時、わずかにではあるが揺れと、そして音が聞こえた。
これは……大型の何かの足音!
「全員静かに!洞窟の脇に避けて隠れるぞ!ソフィアさん、ステルスを」
「うぅ……」
パチンっと、うめき声を上げながらもしっかり指を鳴らして魔術をかけてくれるソフィアさん。
そんな所も可愛いけれど、正直そろそろ背中に当たっている2つのクッションが頭を狂わせそうなので離れてくれないだろうかいや本能的には離れないでほしいと思っているんだけど離れてもらわないと俺は腹を斬らねばならないことになりかねな
「おやおや!おやおやおや!」
「うわぁ……ボス、アレどうするにゃ……?」
自分の中の獣戦っていると、両脇の隊員から声が上がる。
2人の目線を辿ったその先には、大きな何かがいた。
「何アレ?」
「なんでしょう?」
「緑色の何かにゃ」
3人とも、アレが何かをこの時点ではまったく判断できなかった。
その見た目は、モサモサの緑色の物が生えている大きい何か、って所だな。
とりあえず、太くて短い脚が生えているのは見えるけれど、何足歩行かすらここからではわからない。
そして、そんなものが歩いている場所は、今俺たちがいるような直径10m程の洞窟ではなく、かなり広いホールのようになっている場所に見える。
ここからだと、天井の高さは確認できないけれど、下の平地面積だけでも直径は200、くらいあるんじゃなかろうか?
そんな巨大な空間をドスンドスンと地響きを発生させながら動く何か。
って、今気が付いたけれど、割と遠くからそれが分かるくらいに何故か明るい。
どうなっているんだ?
「……ソラウ、どうして明るいかわかるか?」
「おや、言われてみれば。明かりを消しているというのに、大試さんのおいしそうな顔が見えますね」
「食べないでくれよ?」
「もちろんです。ですが舐めるだけなら許容範囲ですよね?」
「今はやめろ。いや、後でなら良いって意味じゃないが」
「おやおや……」
ソラウにも明るく見えているのであればやっぱり俺の気のせいとか、特殊な能力が覚醒したって訳では無いらしい。
「ニャーにも見えるニャ。まあ、優れた魔族であるところのファントムキャットたるニャーは、暗闇でも人間より見えやすいから余裕だけどニャ!」
「コウモリのウンコ踏んでるぞ」
「……もうボス置いて帰ろうかニャ」
「そしたら召喚しなおすだけだ」
「ぐぬぬぬ!」
諦めろ、俺たちは一蓮托生だ。
暫く様子を見ていたけれど、モサモサの生えたデカい何かは、歩いているだけで特に何かをしている様子はない。
俺達を見つけた様子もないので、ただただ歩き回っているだけのようだ。
本当であれば、もう少し様子を窺って、データを完璧に収集してから進みたいけれど、生憎とこのメンバーでそんなゆっくりじっくり腰を据えているのは難しい。
今にもソラウが自身の知識欲を満たすために突撃かけそうだし、ファムは世の中の全てを恨む顔になって来たし、ソフィアさんはしがみつく力が強くなってきている。
こうなれば、サクサク進んで行こう。
「埒が明かないから、ステルスを維持したまま進んでみますか」
「おや、わかりました。アレが何かを早く突き止めたいですねぇ」
「なんでもいいから早くしてくれにゃ……それで帰ろうにゃあ……」
「ううぅ……」
メンバーの状態に不安が残る中、ジリジリとあの開けたスペースへと近づく。
それにつれて、スペースの大きさとモサモサの大きさが、俺が思っていたよりも更に大きい事がわかってきた。
地下にこんな場所があるなんてなぁ……。
しかし、まだあの生き物がなんなのかわからん。
少なくとも前世にあんなのはいなかった。
いたとしても、俺は見たことが無い。
となればだ、恐竜である可能性がある!
「アレが恐竜かもしれないし、ある程度近寄って相手の正体を少し確認してから攻撃しよう」
「どんな味がするのでしょうかねぇ」
スペース入口までやってきて、そこから中を見る。
天井は、高さ200mはありそうだ。
そして、遠くからでも見えていたあのモサモサは、てっぺんまでで20mはあるだろうか?
デカすぎる……。
でも、だからこそこの距離に近寄っただけで、相手の正体が見えた。
モサモサのしたから覗くその頭は、俺たちにとってもそこそこ見覚えのある生き物だったからだ。
「亀か?」
しかし、俺の言葉に対し、ソラウが疑問を持つ。
「亀は、お尻にも頭があるのですか?」
見れば、にょきっと前後に頭があった。
よし殺そうキモイ。
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