第309話

「さぁいくぞ諸君!」

「いや、ボスは何でそんなテンション高いニャ……?」

「だって洞窟だぞ!?地下世界だぞ!?しかも恐竜だぞ!?」

「一個も理解できないにゃ……」


 洞窟の入り口を前に、俺達探検隊は心を一つにする。

 皆やる気に満ちた顔をしている。

 これから起こる奇々怪々な出来事に胸を躍らせながらも、安全のために細心の注意を払って進む決意をしている者の顔だ。

 隣で一際やる気のありそうなネコミミ隊員が声を上げる。


「そもそもなんでニャーが連れてこられたのにゃ?いっこもやる気ないにゃ」

「有能だからに決まってるだろ。最悪の場合全員の命はファムにかかってるんだぞ?頼むな」

「にゃ……にゃあ……」


 まだぶー垂れたかったようだけど、ちょっと照れているからか思いとどまったようだ。


「うう……できれば、ワシも行きたくないんじゃがのう……」

「あれ?ソフィアさんなら、こういう何があるかわからないワクワクゾーンは好きかと思ってたんですけど」

「普通はそうなんじゃがなぁ……。地中はダメじゃ!ここは、ドワーフたちの領域じゃから、不用意に入ると全滅の恐れもあったんじゃよ……」

「ドワーフと敵対でもしてたんですか?交流はあったって話でしたよね?」

「お互い何百年も生きる種族じゃぞ?近くに住んでおれば、生きている間に何回かは殺し合いするじゃろ」

「えー……ちょっと同意は出来ないですけど、そうですか……」

「あの時はたまげたもんじゃ……。和平の話し合いだとか言うて坑道の中に出向かされたと思ったら、地盤ごと爆薬で吹き飛ばされたんじゃからなぁ……。お返しに、鉱山ごと圧殺してやったが……」

「殺意がすごい」


 意外な弱点を吐露するエルフ隊員だが、彼女の表情には、やる気が満ち満ちているのが現れている。

 それを誤魔化すためか、俺の右腕に抱き着いてブルブル震えているが、ぷるぷるしていて俺のやる気が暴走しそうだ。

 とりあえず、自分の太ももを全力で抓って理性を保つ。


「私も恐竜は初めてですから、どんな味がするのか楽しみですねぇ」

「自分が恐竜みたいなもんじゃん」

「おやおや?私は一向にアースドラゴンですが?」

「やっぱり人型に進化してもドラゴンなの?」

「さぁ?一属一種の特異個体でしょうから、生物学的な見地から言うのであれば、種族名ソラウとなるかもしれません」

「それはそれですごいな」

「でしょう?尻尾の味、気になりませんか?」

「ならん」

「左様ですか」


 尻尾隊員だけは、本当にやる気がある顔をしている。

 頼もしい限りだ。

 家の中のジャングルを移設する作業にキリが着いたらしいので、恐竜関連のイベントならばと連れてきたんだ。

 俺を除くと、この中で唯一探検隊らしい格好をしている辺り高評価である。

 ただ、なぜそんなワンサイズ小さい感じのを着ているのか?

 俺の理性への挑戦だろうか?


「おやおや?今胸に視線を感じましたよ?」

「気のせいだ」

「そうでしょうか?地下の住人達に見つかったのかもしれませんよ?」

「気のせいだ」

「ふむ……飛び跳ねてみますか」

「ばるんばるんしてる……気のせいだ」

「ふむふむふむ!」


 今日は、このメンバーで行きます。

 他のメンバーも連れて行こうかとも思ったんだけれど、正月早々で貴族連中は大忙しだし、万が一の時のための救護要員である聖羅を連れてこの不確定要素だらけの場所に突撃するのも如何なものかと思ったわけだ。

 それ以外の連中は、家に居なかったり酔っぱらってたりで、まったく連れていく者として適格では無かったんだよなぁ。

 あの黒い翼の天使とか、酔って服を脱いで踊ってたらしいし……。

 恐竜に近いという事で、ドラゴンの2人も連れて行きたかったんだけれど、ルージュはカレー屋に行った2人に合流するらしいし、クレーンさんの部屋の入り口には「服が完成するまで開けないで下さい」って張り紙がされていたから無理だった。


「話し戻すけど、本当になんでボスはそんな楽しそうなのニャ?」

「地下に未知の生態系が広がっているとか、巨大空間が広がっているとか、そういうのってワクワクしないか?」

「そこまででもないニャ」

「俺はする!ってか、昔から人々の中には地下世界を信じてる奴らもいるんだ!恐竜がいるとか、恐竜から進化した恐竜人間がいるとか、地底人がいるとか、想像もつかない生き物がいるとか、そう言う感じの作品もゴロゴロしている!俺も好き!以上!」

「あー、そっかぁ……メンドクサイ感じなんだニャ……」


 否定はしない。


「じゃが、本当に広い洞窟じゃなぁ」

「確かに。ここの通路の直径だけで10mくらいありますかね?」

「鍾乳石もあるから、実際に動ける生き物の大きさはそこまででも無いかもしれんが、確かにこれなら恐竜が中を動き回ることも可能かもしれんのう」

「首長竜が出てこれるかはわかりませんが、もしかしたらたまに水没したりするのかもしれませんし」

「そんな事になったらヤバくないかニャ!?」

「その時は、俺かソフィアさんが水操作するから大丈夫だって。最悪ファムが地上まで転移してくれてもいいし」


 実際問題、このメンバーならそこまで苦労するとは思っていない。

 もしこれが洞窟を制覇しろって話ならともかく、俺たちの仕事はあくまで調査。

 この未探索の洞窟なんなの?っていうのさえ調べればそれで終わりなんだ。

 探検できてお金まで貰えるとか、ボーナスゲームかな?


「おやおや、何とも楽な洞窟探索ですね。もう少しスリルがあっても宜しいのでは?」

「スリル……じゃあ、一回地上に逃げ帰る度に皆にボーナス出すってのは?」

「やる気出たニャ!早速帰ろうニャ!」

「はいファム減点ー」

「ニャ!?」

「おやおや、ボーナスですか。では、犀果様の腋の下をぺろぺろさせて頂きたいのですが。どんな味がするのか興味がありまして」

「知識欲も大概にしないと身を亡ぼすぞ……?」

「本望ですなぁ」


 やばいなソラウ……最終的に俺の肉の味を確かめたいとか言い出さないよな……?


「ボーナスなら、ワシ海外旅行したいんじゃが……」

「海外?どこ行きたいんですか?」

「さぁ……南の島とか行ってみたいのう……。とにかくここじゃない場所ならどこでもいいんじゃよ……」

「思ったよりダメージ負ってますね……」

「じゃろ……?手つないでくれてもいいんじゃよ……?」

「右腕に抱き着かれている状態で左腕までソフィアさんに差し出すと戦えないので却下です」

「うぅ……心細いのう……もう少し地上に近い場所なら問題ないんじゃがのう……せめて地下1階にしといてほしいのう……」


 メソメソエルフの頭を撫でながら進む俺達。

 この暗闇の先に何があるのか。

 まだ、誰も知らない。



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