第308話

「あけましておめでとうございます、陛下」


「おう!おめでとう!よく来たな大試!」




 陛下への新年のご挨拶。


 事前に聞いていた話では、全員ではないにせよ、貴族家の当主たちが集まって一斉にやるって事だったんだけれど、今陛下の前にいるのは俺一人。


 陛下の傍に控えているのも、宰相の爺さんだけ。




 うん、嫌な予感しかしない。




「では、挨拶も済ませたので、俺はこれで……」


「まあ待て!色々積もる話もあるだろう!?」




 くっ!絶対に逃がしてもらえないという雰囲気がある!




 とりあえず、いったん逃げるのを諦めて大人しくする。




「有栖がお前とゆっくり食事が出来たと嬉しそうだったぞ!公務続きでストレスが溜まっていた様子だったから助かった!」


「それはよかったです。俺も、有栖と一緒に居られるのは嬉しいので」


「そうかそうか!親としても嬉しい話だ!」




 これは、ジャブだ。


 重要な話題に入る前の準備運動。


 こんなごくごくありふれた話題で安心していてはいけない。


 有栖と一緒に居られて俺が嬉しいと思うのは当たり前なんだ。


 それでも敢えて聞いた。


 つまり、とりあえず場の雰囲気を良くしてからじゃないと言いにくい話題だ。


 人払いしないと話せない話題でもあるはず。


 イコール面倒な話題だ!




「……で、本題なんだが」




 来た!




「なんでしょう?」


「大試!恐竜は見たことあるか!?」


「ありますよ」




 自称ドラゴンで、今うちの中に作ったジャングルを外の温室に移築作業してるけど。




「あるのか!?」


「まあ、ダンジョンから出てきた奴で、どう見ても恐竜ってだけで、種類としてはアースドラゴンに分類されるそうですが」


「あーそういう!」




 王様が、随分ホッとした顔をしている。


 見れば、横の宰相もホッとしている。


 何だというのか?




「実はな!これを言うとオカルトに目覚めたのかとでも言われそうで、少し躊躇していたんだ!」




 王様はそう言うと、玉座から立ち上がって俺の方に歩いてきた。


 何かを差し出してきたので受け取る。


 確認すると、それは1枚の写真だった。




「そこに何が映っているかわかるか!?」


「ネッシーですかね?」


「ねっしー?」


「UMAですよUMA。未確認のとんでも生物の代表格です。まあ、作り物だったって証言している人もいるんで、もう信じている人はそこまで多くないかもしれないですけど」




 あ、この世界ではどうなんだろう?


 前世ではそんな感じだったはずだったけど。




「よくわからんが!これは国内で撮影されたものだ!しかも、日付を見てみろ!」


「日付?」




 写真を見直すと、右下に年月日が入っている。


 懐かしい感じの写真だな?


 これ、もしかしてデジタルじゃなくてフィルムカメラか?


 えーすごい!ちょっとほしい!




「このカメラどこで買えるんですか!?」


「いや!カメラの事はどうでもいい!」




 どうでもよくない!




「問題は、その写っているものだ!今は緘口令をしいているが、それは合成でもなんでもなく、本物だ!」


「確かにこの写真は本物ですね。デジタルには無いねとっとした感触があります」


「カメラが好きなのか!?」


「人並みには」


「なら今度買ってやるから、まずはお前に対する指示を聞いてからにしろ!」




 そう言って、王様が宰相を見る。


 心得たとばかりに宰相が前に出てきて、封筒を渡してくる。




「犀果大試、其方に恐竜調査を申し渡す」


「台本はありますか?森の中入ったら丸太が転がってきて、わざわざそれを手で受け止めたりとか」


「そう言いたくなる気持ちもわからんでもないが、これは、正式なものである」




 最後の望みを絶たれた俺は、大人しく封筒の中身を見る。


 そこには、多くの犠牲を払って写真の恐竜……いや、分類上は恐竜じゃなくて首長竜っていう奴か?を仕留めるに至った経緯や、仕留めた後の写真。


 解剖した恐竜の写真などが載っていた。


 これ……解剖までできたってことは、あの秋の味覚をもらえるトンチキイベントとは別なのか?




「調査って、どういうことですか?」


「巨大洞窟が見つかってな!どうもその恐竜は、そこから出て湖に住み着いたようなんだ!」


「洞窟……地下世界ですか」


「……おい!どうしてそんなワクワク顔になる!?」


「どうしてもこうしても!!!!!」


「お……おう、まあやる気があるのは良い事だ!何を世迷いごとをといわれるのに比べたらな!」




 そう言って、王様は玉座へと戻る。


 その顔は、いつになく疲れているようだ。




「しかし、この任務は極秘で行ってもらう!」


「わかりました。内容が内容なので、オカルトがどうのと騒がれるのを防ぐというのと、更に件の恐竜の戦闘力から、事態が大きくなる可能性があるため、パニックを防ぐと言った所ですね?」


「……そうだ。話が早いな!」


「わかりました。俺が選ばれたのは、内緒で何とかしてくれそうな個としての戦力を持っている人材だからということでしょうか?」


「まあ……そうだな!」


「成程、では早速取り掛かりますので、これで失礼します!!」


「あ!おい待て!」


「なんですか!?」




 早速出て行こうと思ったのに、陛下に止められてしまった。




「一応恐竜の専門家をこちらで用」


「いえ必要ありません。多分その人のレベルじゃついてこれないので」


「ちょっと待て!何をするつもりだ!?」


「洞窟に突っ込むんですよ!当たり前じゃないですか!」


「当たり前なのか!?」


「はい!」




 今度こそ陛下が静かになったので、一礼して走り去る。


 しゃー!ファンタジーなのかどうかは微妙な所だけれど、楽しそうなイベントが発生してくれた!


 ワクワクするな!




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る