第307話

「だぁ!あだだぁ!」

(小僧!しっかり勉学に励んでくるのだぞ!)

「ああ紅羽!お兄ちゃんと離れるのが辛いんだな!俺もだ!帰るの止めようかなぁ……」

「ばぁ?ばぁぶ!」

(なにを言っている?さっさと王都へ行け!)

「大試、辛いのは分かるけど、私たちも戻らないと……」

「うん、紅羽ちゃんも寂しいと思うけど、できるだけすぐ大試君を会いに来させるから、それまで待っててね!」

「あい」

(いや、私は別に小僧に会えなくても)

「あああああ!紅羽ああああああ!」

「しつこい、行くよ大試」

「じゃあね紅羽ちゃん!それと……義父様と義母様も……!」

「顔を赤くしながら俺たちの事を義父と義母と呼ぶ美少女だと!?大試がこんな可愛い嫁を2人も連れてくるなんて……俺も歳をとったなぁ……」

「あらアナタ、まだ3人もいるのよ?流石私たちの子供よね!」

「そうだなぁ!」

「では、お元気で」

「聖羅ちゃんのドヤ顔久しぶりだなぁ……またな!」

「元気出るわぁ……しっかり大試の首に紐つけておいてね!」

「もちろん」


 こうして、短い帰省は終わった。

 1週間しかいられなかったなぁ……。

 リンゼと有栖は、昨日の夜中にもう帰ってしまっている。

 よっぽど忙しい中抜け出して来たらしい。

 正直嬉しい。


「帰りは、近くに新しくできたテレポートゲートから帰るんだよな?」

「はい、犀果様に他のご希望が無いのであれば、それが最善かと」

「よし、じゃあそうしよう!」


 ……あれ?なんか忘れている気がするけれど、まあいいか。

 多分大したことじゃない。


 アイに案内されて向かった先には、新築のはずなのに遺跡みたいな趣にされた石造りの建物があった。

 その入り口に、ピリカとイチゴが立っている。


「マスター!イチゴ、頑張っていい感じにしたよー!」

「ピリカが全身全霊を持ってお兄ちゃんのために最高のテレポートゲートを用意したよ☆」

「ありがとう、もう素に戻っていいぞ」

「えー?イチゴ、これが素なんだけどなー……?」

「ピリカとしても素だとアイと識別されにくくなるのでどうかと愚考します」


 アイデンティティーの問題だろうか?

 3人とも可愛いから問題ないとは思うけれど……いや、イチゴはお前世界中の危険があぶないからもっと控えろ。


 建物の中に入ると、他のテレポートゲートと同じ間取りになっていて、ホテルみたいな施設がまずあり、その奥にテレポートゲート本体があるらしい。

 今日は、宿泊したりせずさっさと帰るため、ホテルっぽい部分はスルーだ。


「皆いるなー?」

「多分」

「えーと……うん!いるみたいだね!」

「あんまりおっきい声出さないでくれニャ……頭が破裂しそうにゃ……」

「ワシは、頭から雷が発生しそうじゃ……」

「聖羅、この2人は治さなくていいからな」

「わかってる」


 二日酔い2人が非常にグロッキー状態だけど、知らん。

 自業自得だ。

 昨日の夕食の後、親父たちに混ざって樽で酒を飲んでたらしいから……。


「クレーン、もう諦めるが良い……」

「……繊維……繊維繊維繊維繊維……染色もし放題なのに……」


 ドラゴン2人は、この土地が気に入ったらしい。

 特にクレーンさんは、引き摺らないとここまで来なかったくらい気に入ったようなので、俺が学園を卒業して開拓村に帰る時は、率先して移住してくれるだろう。

 有難い話だ。

 きっとこの村にファッション革命が起きるぞ。

 あのメンバーだと、衣服のセンスが蛮族以上にはなり得ないからなぁ……。

 何故か女性陣だけやけにセクシーなんだけど、男は山賊一歩手前だ。

 俺も王都にくるまではそうだったし。

 内面は、今でも蛮族と言われることがあるけども!


 皆でまとまってゲートを起動する。

 光が強くなり、それが治まると、景色はほとんど変わっていないけど、もう王都の俺の家まで飛んだんだろう。

 いやぁ……便利だなぁマジで……。


「テレポートゲートあるの助かるわ。アイたちには感謝だな」

「身に余る光栄です」

「えへへー!ちゅーしてくれてもいいよー?」

「お兄ちゃんの為なら、ピリカいくらでも頑張るんだから☆」


 何故これで恋愛脳なんだろうか?

 元がストロベリーだからか?

 本当に可愛いから理性を働かせるの大変なんだぞ。


 何はともあれ、俺は帰って来た!

 帰ってきた以上、さっさと王都でやる仕事をしないとな!

 何するかって?素材換金とか、王様に挨拶とか……。


 今日これからやるべきことを考えながらテレポートゲートから出て、一先ず着替えるために自分の部屋へと向かう。

 俺の部屋は、一応は家主の部屋ではあるんだけど、ビックリするほど豪華な造りというわけでもない。

 強いて言うなら、ベッドがダブルベッドで、それが入ってても狭くないように、他の部屋より少し広いって事くらいか?

 だから、扉を開けてすぐジャングルが広がっているなんて事は無いはずで。


「……なんだこれ?なんで熱帯雨林がある?」


 吹き出すように濃い青々とした匂いが部屋から漏れてくる。

 どうしたんだろう?

 俺、頭がおかしくなったんだろうか?


「おや?おやおや?」


 俺が中を覗きこんでいると、正面から声がする。


「……なぁソラウ、コレってどうなってるんだ?」

「人間は、植物がそばにあるとリラックスできると聞きましたので、ジャングルを作りました」

「ジャングルって作れるのか……」

「アイさんに空間拡張の技術を教わりましたので、それを応用してこの部屋の中を広大なジャングルにしております。それと……」


 説明を中断し、ソラウが手に持っていた袋から何かを取り出し、こちらに差し出してくる。


「なにこれ?」

「ドラゴン肉です」

「……お前の尻尾は食べないぞ?」

「重々承知しております。それはおいおいで……。このドラゴン肉は、この部屋の中でドロップした物なので、問題なく食べることができますよ」

「ちょっとまって?ドラゴン肉がドロップするっていう状況が大丈夫じゃなくない?」

「そうでしょうか?ただ『ドキドキ!秋の味覚祭りイベント』の事象を解析し、私なりに弄って、春夏秋冬あらゆる食材がドロップするように調整しただけですよ?大試さんに喜んでいただけたら幸いです」


 成程、つまり、俺の部屋は魔界になったのか。

 とりあえず、勝手に建物を改造するなと叱っておいた。


 その日の夜、「なんで置いて行ったんですか!!!!???」と泣きながら1人でテレポートゲートを使って帰って来たアレクシアが喚いていたけれど、それどころではなかったよ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る