第169話
佐原 京奈さわら けいな。
リンゼによると、フェアリーファンタジーの1作目と2作目では、一応攻略できるヒロインとして存在していたらしい。
ただ、他のキャラに比べて専用のシナリオが少なく、人気はあるのにあまりイチャイチャできないと苦情が殺到していたらしい。
後から、この委員長に関する問題は、発売日に間に合わせるために仕方なくそうなったというカミングアウトがプロデューサーからされて、かなりの大炎上をしたらしい。
そのせいかどうかはわからないけれど、3作目では謎の大抜擢を受け、初の女性主人公になったそうだ。
因みに、3作目は男性主人公も選べたが、その男キャラは、この世界だと現時点でご退場済みだ。
いつだって?リンゼをパーティで害そうとして木刀で叩きのめされた生徒会連中の中に居たらしいよ?
全く顔が思い出せないんだけどな……。
忘却は使われてないと思うんだけど、もしかしたらよくある地味な感じの主人公だったんだろうか?
目が隠れてるような……。
この委員長、見た目は生粋の大和撫子って感じで、姫カットというか、前髪ぱっつんにしつつもおしゃれな髪型なんだけど、喋ってみると案外元気がある感じの非常に喋りやすいキャラだ。
しかも、名前も忘れるような俺相手でもちゃんと喋りかけてくるよううな聖人君主だからな。
そういう女の子キャラがモテないわけねぇんだよなぁ!
なんでそのキャラのシナリオ削ったプロデューサー?
フェアリーファンタジー3は、1と2と違って、和テイストというか、和製ファンタジーな感じだったらしい。
これだけ現代ファンタジーというか、ほぼ現代な町並みのゲームだったらしいのに、それとは打って変わって異世界っぽいものになったそうだ。
舞台は、ほぼ孤立させられている古都、京都。
そこで出てくる魑魅魍魎を倒したりしながら勧めていくんだけど、ある程度進むと京都から出て1や2で行ったマップにも行けるようになるんだとか。
ゲーム自体は、いきなり雰囲気が変わったので賛否両論が激しかったらしいけど、BGMに関して言えば、最も人気が高い作品なんだとか。
和ロックっていうのか?日本の伝統的な楽器が使われ、なおかつ軽快なテンポで奏でられる楽曲が多く、雰囲気がとても良かったらしい。
まあ、全部リンゼが言っていることだから、もちろん俺は知らんのだけど。
BGMはともかく、テーマソングはCMで聞いて気に入ってたから、カラオケではよく歌ってたな。
一人カラオケでな。
リンゼからは、今回は京都の様子見をしてくるように言われている。
具体的に言うと、100レベルの俺に倒せないような敵が居ないかの確認だ。
オンラインゲームの場合は、100レベルに到達していないとまともにプレイできないくらいのゲームバランスだったらしいけれど、京都周りでそういうモンスターだらけだとしたら、いつの間にか王都の周りも魔境と化してしまう可能性もある。
少なくとも、リスティ様とあってすぐに王都の周りを走り回ってみた感じだと、そんな規格外に強い敵は見当たらなかった。
だから、京都の周りもそうであれば、とりあえず人口密集地周辺なら、100レベルもあれば安全と考えても良い気がするんだ。
町から離れたら、当然だけどやけに強いモンスターが出てくるのは当然だけど、それに関してはそんなエリアにいかなければ良いという話だし……。
まあ、俺の生まれ育ったところは、正にそんな魔境だったんだけど……。
あのヒグマみたいな魔物って、何レベルくらいで丁度いい相手だったんだろうか?
絶対初心者向けの相手じゃないと思うんだが……。
あれ?でもあそこって1作目のスタート地点なんだっけ?
だとしたら最初から異常だったのか……?
エルダートレントの森みたいに、母さんたちのせいかもしれんが……。
モンスターに関してもそうだけど、実は委員長についてもちょっと気になっている。
というのも、この世界の委員長は、攻略対象なのか、女性主人公なのかって所だ。
攻略対象だとしたら、他のキャラに比べて使える技とか、新しい力を得るイベントが少ないらしい。
だけど、もし3の主人公としての委員長だとしたら、当然だけど相当な将来性がある人間ということになる。
何より、現時点で俺が知っている主人公が1人もまともに味方サイドに居ないんだ。
できれば、是非委員長には主人公ムーブしてほしい。
もちろん、委員長が主人公らしくない感じに成長していたとしても、俺としては、自分の大切な人達を守るために魔王討伐だのなんだのはやろうと思ってるけどさ。
それはそれとして、やっぱり主人公に味方になってほしいんだよ!
なんでどいつもこいつもやらかしていなくなってんだよ!?
「最果君?どうかした?」
「いや、ちょっと考え事をね。委員長ってさ、今何レベルなの?」
「レベル?えーと……今30だって」
30か……。
100レベルになった俺からしたら低く感じるけど、学園1年生だと十分高かったはず。
春に皆でレベル上げしたのが効いているな。
「犀果君はどうなの?」
「今100レベル」
「えー?絶対嘘でしょー?」
嘘じゃないけど、やっぱり100レベルは冗談に聞こえるくらいに高レベルらしい。
なにはともあれ、流石は委員長だ。
もう既に歩き始めてから1時間は経っているというのに、俺が無理なく会話を続けられている。
これが聖羅あたりだったら、そろそろ「んっ(喉乾いた)」「んっ(ほら水)」「んっ(ありがと)」って具合のディスコミュニケーションになっているだろう。
いや、あれはある意味パーフェクトコミュニケーションかもしれんが。
うん、委員長は良いんだ委員長は。
問題はさぁ……。
「…………」
「……フフフ……京奈とあんなに楽しそうに……フフフ……」
お父様、お兄様、ちょっと殺気抑えてくれません?
確かに俺は怪しいかもしれないけど、まだ何もしてないよ?
なんなの?
そういや、この一家のこともリンゼからちょっと話を聞いてたな。
佐原侯爵家。
委員長が言っていた通り、日本屈指の酒造であり、宗教儀式に使われるような特殊な酒を買うとしたら、まずここのが選ばれる程度には人気があるらしい。
その分土地の管理に関してはそこまで積極的ではないらしくて、貴族としては異端な存在なんだとか。
貴族にも色々いるけれど、佐原侯爵家は子沢山だ。
だけど、理衣の実家である猪岡侯爵家のように、嫁や愛人が多いというわけではなく、佐原侯爵の場合は嫁さん一筋らしい。
だけど、侯爵夫人が「男の子もいいけど、1人くらいは可愛い娘がほしいわ……」とのつぶやきを聞いた侯爵は奮起し、その結果、佐原侯爵家には5年で5人の子供が生まれたそうだ。
委員長が生まれたことでその赤ちゃんフィーバーは止まったらしいけれど、侯爵夫人はすごい頑張ったんだなぁ……。
そんなこんなで、男ばかりの5人兄妹の紅一点となった委員長は、蝶よ花よと溺愛されて育ってきたわけだ。
そんな娘が怪しい男を連れてきたんだから、そりゃ睨みたくなる気持ちもわかる。
納得はいかないが!
ちょっと雰囲気を変えるために、雑談でもしてみるかな?
「……あの、佐原侯爵。あとどのくらい歩けば目的地に到着するんですか?」
「…………ん?あぁ済まない。このスピードで歩いていけば、あと2時間といったところかな?」
2時間……。
既に駅から1時間以上歩いているんだが、この世界の京都ってどれだけ僻地になってんだ……?
それはそれとして、俺が話しかけるまで、完全に害獣を狩る目だったよな?
やめてくんない?
「犀果君、そろそろお腹すかない?お弁当作ってきたんだけど食べる?」
「え!?食べたい!女の子が作ってくれたお弁当なら無条件で食べたい!」
「よかった!お父さんも兄さんもそれでいい?」
「あぁいいよ。京奈のお弁当なんて、どんなにお金を払ってでも食べたいくらい楽しみだね」
「うん、そうだね父さん……他のやつになんて食べさせたくないくらい……」
うん、しばらくは仲良くできそうにない。
ってか、多分仕事が終わって王都に帰る段階でもわかりあえてるとは思えない。
委員長のお弁当は、なんというか、これぞお弁当!って感じの基本に忠実な素晴らしいお弁当だった。
もちろん美味しかったです。
とろけた顔で食べる侯爵とお兄さんが気になって集中できなかったけど……。
ドオン……ドォン……。
お弁当を食べ終わり、そろそろ移動を再開しようかという話をしていたところ、何か大きな音がしてきた。
段々と大きくなり、地面の揺れまでするようになってきた。
俺が何事かと戦々恐々としていると、委員長が笑いながらこの音の正体を教えてくれた。
「大丈夫だよ犀果君!これは、京都を守るために徘徊してる式神の足音だから、こっちから攻撃を仕掛けたりしない限りは危険はないよ」
「式神?式神って、もっとこう……白い折り紙で作ったヒトガタに何かを憑依させるスタイリッシュな感じじゃないの?こんな怪獣映画みたいな音するやつなの?」
「うーん……犀果君がどんなのイメージしているのかわからないけど……。あ!ほらあれ!あれがその式神だよ!」
そう言って委員長が指さした方向。
木々の間から見えるその異様は、俺の中のイメージだと、絶対に式神なんていうものとは結びつかないものだった。
なんていうのかな……20mくらいの高さの鬼が歩いてる。
鬼!?あれ鬼だよな!?
色は赤!角は2本!パンツは虎柄!
これで鬼じゃなかったらなんなんだってくらいの鬼さ!
「あれ本当に式神なのか!?鬼じゃないの!?」
「鬼だよ?式神って、陰陽師さんが自分で倒した魔物を使役して作り出してるものだから、あれは鬼の式神なんじゃないかな?」
「そうなのか……モンスターをゲットしていく感じなのか……」
前世の世界だと、捜索の世界の陰陽師が確かにそういう事していた気がする。
でも実際の陰陽師って、星の動きとかで未来を占う天文学者みたいな人たちだったはず。
まあ、その考えを発展させて、星の並びを足跡で描くことで結界を作ったりもしてたってテレビで見たけど、あんなでかい魔物を手下にしてるのは創作物でもあんまり見ないな……。
怪獣映画の世界だよあれは……。
まあ、ゲームをモデルにした世界だからって納得するしかないか。
この世界では、俺の中の常識こそが非常識なんだろうし。
「あんな強そうなのがウロウロしてるなら、俺達が護衛する必要ってないんじゃないか?なんか、あの式神1体いれば、魔物なんて全部いなくなりそう」
そのくらいの強そうなインパクトはある。
「そんなことはないんだよねぇ……。大きいから、逆に小さいすばしっこいのは倒せないし。それにあの大きさの式神がここらへんに配置されてる理由は……」
ドオオオオオオン……。
委員長が話し終える前に、何か大きな音が聞こえた。
それと同時に、鬼式神の態勢が崩れる。
なんだ?何がおきた?
「犀果君!魔物が出たみたい!隠れるよ!」
委員長が慌てている。
戦うんじゃなく隠れるってことは、それだけ強い魔物なんだろうか?
「必要なら俺も戦うけど?」
「ダメ!危ないから隠れるの!ほらこっち!お父さんたちも早く!」
そう言って俺の手を引いて近くにあった岩陰に隠れる俺達。
委員長が俺の手を握ったのを見たご家族の殺気が膨らんだ気がするけど、流石にこの状況でかまってらんねぇ……。
それにしても、式神をあんなふうに体勢崩す攻撃力を持ってるって、一体どんな魔物なんだろうか……?
「……来た」
お兄さんが短くつぶやく。
それと同時に、ゴゾゾゾゾという大きくて不気味な音が、俺達が今歩いてきた道を通って式神に向かっていったのが見えた。
近すぎてよくわからなかったけれど、すごいデカいクモだったように見えたけど、何だあれ?
「ふむ、牛鬼か。犀果君は運がいいな。なかなかあのクラスの妖怪にはお目にかかれないよ?」
侯爵が、さっきまでの俺への殺気を抑え、シリアス顔で説明してくれた。
殺気抑えられるなら、できればもっと早く抑えてくんねーかな……。
「牛鬼?……ってか、妖怪?」
「ああ。京都の周りに発生する魔物は、妖怪という特殊な種類なんだよ。魔力だけじゃなく、呪いの力までその身に宿しているから、対処するのが面倒なんだ。そこで便利なのが、自分たちも妖怪を使役することで、妖怪への攻撃の有効性を上げられる式神ってわけだね」
「へぇ……」
魔物にも地域差みたいなものがあるのか?
……よく考えたら、3の地域だからシステムが変わったのかもしれん。
「それにしても、あんなバケモノと会うなんて、普通に考えたらかなり運が悪いんじゃないんですか?」
「そんなことはないよ。だって、あの牛鬼って妖怪は……」
そこまで言ってから、貯めを作る侯爵。
何を言うのかとゴクリとつばを飲む俺。
「死ぬほど美味い」
予想外過ぎて、噎せた俺。
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