第10話
イケメン王子『悪役令嬢!俺の浮気相手によくも嫌がらせをしてくれたな!?婚約を解消してお前を国外追放にする!』
美人悪役令嬢『事実無根ですね』
イケメン王子『貴様!認めないつもりか!?』
正義漢弁護士『異議あり!王子人が提示している罪状と証拠には、法的根拠と信頼性が著しく欠けています!』
ハゲ髭裁判官『異議を認めます。王子人は死刑!』
イケメン王子『ぐぬぬ!』
ってのが学園の卒業記念パーティーとかで行われて、そこで読み上げられる罪状が学園で過ごしている間に行われている筈なんじゃ……?
入学初日にコレってどうなん……?
神也から借りたマンガにはそんな展開無かったし、いくら知らんゲームをモデルにしてる世界っつっても、この展開は無いだろ。
てか、今まさに被害受けてるのがこの世界作った奴だぞ?
クビになったが。
「で……殿下!どういうことでございますか!?」
唖然としていたリンゼが、なんとか頭を再起動させて確認をする。
そうだよな?
俺もどういうことなのか知りてぇわ。
多分、王子とその取り巻きしか自体が飲み込めてないわ。
「ほう、白を切るつもりか?貴様が、聖女である聖羅の事を幼少より虐げていた事は、調べがついているのだ!」
無理だろ。
聖羅がどこ生まれどこ育ちだと思ってんだ?
いくらリンゼが飛べるっつっても、一回来るだけでも汗臭くなる距離だぞ?
「何かの間違いです!私は、聖羅とは1度しか会っていません!」
「その1度で、心に二度と消えない傷を与えたという事だろうが!」
「そんなことはしておりません!」
ここから見えるリンゼの横顔は、既に半分泣いているような状態だ。
そりゃそうだろう。
俺だってあの立場なら泣きたい。
婚約者が衆人環視の元訳わからない事言いだして、しかもこちらが悪い事にされているんだから。
だいたい、なんでこんな話になってるんだろう?
全く正確な情報じゃなさそうだし、誰から話を聞いたんだ?
となりの聖羅は、「何言ってんだこいつ?」って表情で王子を見てるしさ……。
リンゼがあの開拓村に来たのを知っているのは、あとは一応風雅だけど、アイツ何故か聖羅に嫌われてるから詳しい話知らないだろうしなぁ……。
でも、逆にこの訳わからない状態なのが幸いしているのか、会場全体が未だに困惑した空気になっている。
今ならまだ、何か変なレクリエーションイベントが行われたと皆で積極的に脳内補完できる。
誰だってこんな王太子になる可能性の高くなさそうな王子の戯言のために、公爵家にケンカなんて売りたくないだろう。
第3王子が今どんな立場にいるのかよく知らないけど、公爵家の娘との婚約したことによって後ろ盾になってもらったからこその物のはずだ。
王子間のバランスなんかを考えて婚約者を選ばれているだろうに、これ以上事が深刻になればどうなる事か……。
とりあえず、王子とその取り巻きたちの殆どは首が飛びそう。
公爵より力ある奴……いる?
「有栖、これ以上大事になりそうなら、ちょっとお前の兄貴を木刀で殴るかもだけど良い?」
「エクスカリバーは、流石に不味いですかね?」
「木刀使う?いっぱいあるよ?」
「お願いします」
「今年の1年生は頼りになるわね。傍から見てる分には」
会長にも木刀を差し出してみたけど、いらないらしい。
遠慮しなくていいのに。
さて、どうしたものか。
ああは言ったけど、できればこのまま全部茶番劇でしたって事にしたい。
頭をぶつけて意識が朦朧としている王子がちょっとやらかしちゃったって程度で終わらないかな?
それが一番、ここにいる皆にとってベターな展開だと思うんだけどなぁ。
そう!てめぇにとってもだぞ王子!
「衛兵!今すぐにリンゼ・ガーネットを拘束せよ!」
やめてくれぇ!
まじでぇぇぇえ!
「し、しかし!貴方にそのような指示を出す権限はない筈です!」
お?いいぞいいぞ!衛兵の一人が王子に食って掛かった!
王族の言葉を正義に基づいて否定するなんてやるじゃないか!
周りの衛兵も同意している!
これでなんとなく帰ってくれんかな王子様!
「ええい役立たずめ!竜司!健司!風雅!その者を捕らえよ!」
「「「了解!」」」
了解してんじゃないよ!
特に風雅!
お前はダメだろ主人公様のはずだぞ!?
木刀を限界まで具現化しておく。
1本は有栖に、2本は俺の両手に、残りはただの身体能力アップのための道具なので床にばらまく。
流石にSSRで強化してしまうと、木刀でも人を叩き斬りかねないので、今日はもう全部木刀だ。
木刀の使い方は、これが正解なんだろう……。
更に、顔を隠すために秘密兵器も装備しておく。
仮面があればよかったけど、そんなものはない。
俺が持っているのは、パーリィーピーポーっぽい星型サングラスくらいだ。
パーティーだからと一応持ってきておいてよかった。
風雅が今どのくらいの強さなのかは、俺にもイマイチわかっていない。
アイツは、狩りにばっかり出ていたので、魔獣を倒してレベルは上がってるはずだけど、それがどの程度なのかは不明。
ある程度成長してからは、殆ど会話もなく過ごしてきたから。
対して俺は、5歳でやっと木刀以外の武器を手に入れて、それからは延々と謎トレントを倒す日々。
たまにクマやシカがやってくることもあったけど、レベルの上がり方から言ってトレントの方が強かったはず。
それと戦いもせずに倒していたのだから、俺のレベルの上がるペースはそこそこ早かったんじゃないかと思う。
それに加えて、この木刀の強化込みでどこまで狩猟王というギフトに迫れるか……。
いや、迫るも何も戦わずに済むならそれに越したことがないけど。
リンゼに迫る取り巻き3人。
そこで止まれ!マジで!俺に面倒をかけるな!
一人の手がリンゼの腕に伸びる。
あーもー……。
「イタ……!」
リンゼに取り巻きが痛みを感じさせた時点で、これはもう暴力無しでの解決が困難になった。
だから、もう待ってやらねぇ。
俺は、床を全力で踏み込み、リンゼの腕を掴んでいる竜司とか呼ばれていた生徒の側頭部を木刀で遠慮なく叩きつける。
竜司とやらが飛んでいく前に手も叩き伏せ、リンゼの腕を放させるのも忘れない。
「大試!?」
「これから、このイベントを茶番にしないといけないから、ちょっと待っててくれ」
「……え、ええ……」
リンゼも困惑から脱出できていないようなので、じっとしていてもらう。
俺は、リンゼを背に守るような位置取りで立つと、両手の木刀を構えて高らかに叫ぶ。
「我が名は、木刀剣士スター☆ライト!義によって助太刀いたす!」
めっちゃ恥ずかしい。
でも、この場を無理やりにでも茶番劇とするためにも、俺はピエロになるしかない。
その上で、この馬鹿どもを叩いてご退場願う。
観客の皆には、「いやいや絶対これ王子が何かやらかしたんだろとは思うけど、誤魔化された振りしておく方がいいな!」って思ってもらう。
わかるよな?
コレ、俺が本気でやりたくてやってるってわかってくれるよな?
「その木刀……貴様!犀果大試だな!?」
「……お前マジで後で殴るからな?」
何故かは知らないけど、王子は俺の事を知っていたらしい。
「何だ大試、情けなく村に置いて行かれたくせに、諦めきれずにのこのこここまで俺と聖羅を追ってきたのか?惨めだな!」
王子の言葉に殺意を燃やしていて忘れていたけど、近くでニタニタ笑っている風雅と、もう一人取り巻き……名前呼ばれてたけど忘れた。
ソイツがジリジリ距離を詰めて来ていた。
でもさ、お前ら素手だぞ?
風雅はともかく、取り巻きくんはビビってるぞ?
「風雅が何を言っているのかわからないけど、これ以上遣らかすならお前も叩き伏せる」
「やれるもんならやってみやがれ!」
そう叫び、猛然と突っ込んでくる風雅。
2人同時に攻めようとしていたらしい取り巻き片割れ君は、少し遅れての突撃だ。
まず、前にいる風雅を何とかしないといけない。
狩猟王というギフトをもっている風雅にどこまで俺の木刀が通用するかわからないけど、とりあえず全力で振ってみることにする。
俺は、右手を頭上まで上げ、一気に風雅へ向けて振り下ろす。
当然避けられるだろうから、その移動先に左の木刀を
「ぐがああああ!?」
「は!?」
風雅は、右・手・の木刀によって床に叩きつけられていた。
避けられなかったらしい。
地面に倒れ込んで、そのまま動かない主人公。
えーっと……?
「……まあいいや!チェストおおお!」
「おぼぉ!?」
味方の最大戦力らしき風雅が即落ちしたことで動揺し、固まっていた取り巻き片割れ君の腹部に蹴りを叩きこむ。
3m程の高さまで体を丸めながら飛び上がり、そのまま床に落ちてピクピクしている。
「……さぁ、まとめてかかってこい!」
「な……あ……!」
第3王子の孔明さんも驚愕していて機能していない。
ここで攻めるか……?
でもなぁ、どの程度の脅威かもわからない取り巻きがまだ10人ほどいるからなぁ……。
「クソ!お前たち!まとめてかかれ!」
「「「う……あああああ!」」」
その残った取り巻きが皆で行けば怖くないとでも言わんばかりにまとまって向かってきた。
流石にあの人数で固められたら怖いので、床に落としていたバフ用木刀たちを一回消去し、再度手元で具現化しなおした。
その場で落ちていく木刀を向かってくる取り巻きたちに向けて右足で蹴り飛ばす。
木刀によって身体能力がアップしているし、木刀自体がアホみたいに硬い。
結果、取り巻きたちは飛んできた木刀が当たって次々に倒れ、残っているのは3人。
事態が飲み込めていないのか、先ほどの取り巻きの片割れ君と同じように一時停止している。
このチャンス、逃すべきではないよな!
即座に体勢を低くしてダンスホールを駆け、運よく仲間が肉壁となることで助かった3人の股間を木刀で素早く殴りつけた。
すると、糸が切れた操り人形のように地面に崩れおちる。
うん、かなり圧倒的な強さを演出できた気がする!
ちょっと想定外に強すぎたけど、強く見せられるならそのほうがいい。
こいつらは、この茶番劇の悪役として配置されていて、俺に倒されることまでが役割の一つであると周りに感じさせることが出来ただろう。
出来てなくても、そう思ってもらえる程度には力を見せることが出来たはず。
てっきり、有栖と会長も助太刀に入ってくれるのかと思ってたけど、目を見開いて立っているだけだ。
おい!お前らもピエロになれよ!
「さて、残ってるのはお前だけだな?」
「ぐっ……衛兵!王子への暴力を放置するのか!?衛兵!」
そう言って、先ほど自分に対して否定意見を述べていた衛兵たちを睨みつける王子だけど、当然取り合ってもらえない。
俺が今倒した奴らも、本物の刀ではなく木刀で叩き伏せているだけで、殺すには至っていない事はわかっているのだろう。
剣呑な雰囲気は出ていないようだ。
「クソ!……犀果!貴様だけは許さない!聖羅は……聖羅は私の婚約者だ!お前になど渡すものか!聖女は王子と婚姻を結ぶと決まっている!」
……んん?
そう言う話なのか?
後ろを振り返りリンゼを見てみると、首をブンブン振って否定している。
有栖も同様。
「……そんな決まりは無いようだが?」
「王子である私と婚姻が結べるのだ!喜ばない女がいるわけがないだろう!」
どうしよう。
なんて言ったらいいかわからないけど……いやどうしよう……。
「……私は、貴方が聖女である私を皆に紹介する必要があるというからここに立っている」
今まで、沈黙を保っていた聖羅が唐突に話し出した。
ずっと頭の上にはてなマークが浮いていたけど、やっと動きを見せるようだ。
「そのために、しかたなく早めに控室に行ったし、一緒に居たくもない貴方や風雅と行動していた」
話ながら、スカートの中から小さな木の棒を取り出す聖羅。
直後、その棒が一瞬で木刀へと姿を変えた。
もしかして……剣のサイズ変更機能に気がついてなかったのって……俺だけ……?
「本当は、大試と一緒に出たかったのに。大試に迎えに来てもらって、大試とダンスというのをしたかったのに……」
木刀が輝き始める。
何で輝いてるのかわからないけど、多分あれは魔力を込めているんだろう。
そんな機能知らないから、多分聖女の何かだとは思うけど……。
「それで何?私が貴方の婚約者?笑わせないで」
「せ……聖羅……?」
顔を引きつらせる王子。
その前で、木刀を掲げて力を籠め続ける聖羅。
構えとしては、示現流とかそういうの。
「私は!大試の婚約者だ!!!!!」
「違うけどな?」
「ぎゃあああああああああ!!!!」
輝く流星の如く、一筋の光となった聖羅の一刀は、第3王子孔明くんを叩きのめし、そのまま10m程バウンドさせた。
天井が高くて良かったな?
うわぁ……王子様が何か色んな所潰れて大変な事に……あれ?
でもなんか回復してる……?
もしかして、さっきの木刀の光って回復魔法的な……?
どんだけ力いっぱいぶちのめしても、相手を殺さずに済ませるための予防効果っぽいな……。
地面へと落ちた第3王子は、そのまま気絶してしまったようだ。
この状況を残して眠りこけるとはいい度胸だなクソが!
見渡すと、そこかしこにピクピクしているだけの男達が倒れていて、王子まで気絶している。
俺が王子を制圧していれば、最後に適当なキメ台詞残して、この茶番劇に幕を下ろさせて拍手喝采!って思ってたんだけど、ラスト……聖羅ちゃんがキメちゃったねぇ……。
「巨悪は聖女様に討たれた!」
俺がこの後の展開に悩んでいると、横合いからそんな声が聞こえる。
観客に徹していた会長様だ。
良い性格をしている。
「今だ皆の者!悪逆の徒をひっとらえよ!」
その声で、事の成り行きを見ていた衛兵たちが慌てて倒れ伏した男たちを抱え退場していく。
未だに戦闘態勢を解いていなかった聖羅は、倒れている者がいなくなった階段の踊り場でやっと落ち着きを取り戻したらしく、「フシュウウウウウウウ」と息を吐きながら木刀を収めた。
ここだけ見ると、剣豪か何かに見える。
「聖女様……!」
「聖女様!」
「木刀の聖女様!」
何故か、今のアクションで観客の心を掴んだらしい聖羅。
俺が頑張って茶番劇にしようとしていたのなんて、こいつらはもうどうでもいいらしい。
既に、聖女に夢中だ。
聖羅は聖羅で、歓声を受けている以上何かしないとと思っているらしい。
アイツは、基本的にノリは良いんだ。
相手を選ぶだけで。
だから、今は何をしたらいいか必死に考えている表情をしている。
そして……。
「正義は勝つ!」
再び木刀を前に掲げ、そう言い放った聖女。
割れんばかりの歓声が辺りを包む。
もう、変なグラサンをつけて頑張った俺も、婚約破棄を言い渡されたリンゼも眼中にない観客。
いいんだこれで……。
俺はピエロだから……。
「リンゼ、今のうちにここから逃げるぞ」
「え!?あっ……うん……」
こちらに注意が戻らないうちに、リンゼを連れて会場を後にした。
やっぱパーティーって嫌いかも……。
「こんな事になるなら、わき目も振らず料理を食べておくんだった……」
リンゼの手を引きながら、月夜に向かって呟く。
俺、この学校でやっていけるんだろうか……?
「……ありがと」
「いいよ。今度何か奢ってくれ」
「……うん」
俺を爆殺した件も絡ませて、なんか高いもん食させてもらおう。
そう決意を新たにしながら、リンゼを女子寮まで送り届けた。
道が分からなくて、リンゼに聞きながら。
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