第11話

 リンゼを寮に送り届け、俺はパーティ会場へと戻る。


 本当は、このまま帰って寝て明日の朝何もかも忘れて登校したい所だけれど、流石に王子相手に大立ち回りしておいてそれは無理だろう。




 第一、今更気がついたけど、俺は男子寮の場所を知らない。


 女子寮の場所すらリンゼに教えてもらったのだから、このまま帰ることはできない。


 それらの説明を受けるチャンスを悉く潰されているため、現在とても不安な気持ちで桜花殿へと向かう。


 自分が通った道を辿るだけならいくらでも可能だ。


 大して目印があるわけでもない森の中を自分の庭のように歩き回れる俺にとっては造作もない。


 だけど、行った事がない場所までは分からん。




 まあ、都会の方が今の俺にとって迷路レベルで慣れない地なんだけどもな……。




「事情聴取終わってから、食事残ってるかなぁ……」




 寝床に辿り着けなくても、王子の行動が理解できなくてもいい。


 でも、死なないためにも飯だけは食べたかった。




 桜花殿に辿り着くと俺の不安を余所に、新入生たちは、王子の奇行も忘れたように盛り上がっていた。


 見た所、その中心には聖羅がいるようだ。


 今日一日で随分人気になったらしい。


 あっちはとりあえず放っておいても大丈夫だろう。




 俺は、会場の隅で衛兵から報告を受けている会長と有栖に近づく。


 どうやら、周りの生徒たちは詳細情報を敢えて聞かないように離れているようだ。


 賢いなこいつら……。




「リンゼは寮までしっかり送り届けてきたぞ。こっちは、何か動きあったか?」


「おかえりなさい大試。どうやら、聖女を出世の道具にしようとした神官がいたらしく、その者に煽られて兄が暴走したようですね」


「教会側は、聖女関連の事だからすごいキレっぷりだよ。この短時間で、もう黒幕まで判明したみたい。あそこの人たち、8割ぐらいは聖女様絶対主義者だからさ。残りの2割のうちの1人が、『聖女様は王子と結婚することで平和な世を作り出す』的な伝説があるって吹聴したみたいだね。そこに、王子がホントに聖羅ちゃんに惚れちゃってあのザマってこと。事後に調べるのも良いけど、そこまでできるなら先になんとかしろってのよね」


「もう少し、やり方あっただろうに……」




 それこそ、婚約破棄なんて卒業式でやれよ!




 有栖も会長も、かなりお疲れの表情。


 身内がやらかした者と、自分の監督するイベントでやらかされた者。


 うん、シンプルに可哀想。




 でも、また聞きのまた聞きくらいの奴が吹聴したからあんな変な設定を王子が叫んでたのか。


 王子、俺たちの生まれ故郷がどこにあるのか知ってるか?


 俺は知らない。


 全国地図で教えてくれ誰か。




「しかもさ、今回聖女ちゃんの護衛の風雅君……だっけ?彼まで王子に与してたわけでしょ?もう、教会の上層部はカンカンだよ。事態が事態だから大っぴらにはできないけど、流石に何も無しって事にはできないんじゃないかなぁ」


「ほんと、何を考えてたんだか……。あんなんでも、村では小さいころから狩りの手伝いまでして貢献してたんだけどな。それなのに、いつからか髪の毛を牛の尿で脱色して尖がって行って……」


「えっ何それ凄い。やりたくはないけど見てみたい」


「会長、話が逸れてます」




 会長とどこまでも脱線していきそうになっていたのを有栖に止められた。


 でも、実際問題何が原因でアイツがあんなことをしているのか俺にはイマイチわからない。


 聖羅のことが好きなのかとも思っていたけれど、今日は王子様の婚約者にしてしまおうという企みにのっかっていたわけだしなぁ……。




「大試に嫉妬しているだけ」




 後ろからの声に振り返ると、大人気木刀聖女様が立っていた。


 先程まで周りを生徒たちに囲まれていたのに、俺たちの方に来ただけで人が波のように引いていく。


 まだまだ子供とは言え、やはり彼らはかなり訓練された貴族らしい。


 リスク回避は、社会人の基本だぞ?




「あいつが俺に嫉妬する要素あったか?俺よりもよっぽど小さい時から村に貢献してたし、顔もアイツの方がどう考えてもイケメンだろ?聖羅の護衛に選ばれたのだってアイツだし」


「風雅は、狩りしかできなかった。だから、林業の代金計算とかを手伝ってる大試が羨ましかったみたい」


「そんなショボい事で対抗心持ってたのか……?」


「あの村の大人たち、計算なんて面倒な事したがらない人ばっかりだったから、他の人でもできる狩りよりも、帳簿つけられる大試の方が皆褒めてた。それにチマチマした作業も苦手だから、材木の加工とかも皆嫌がってやってなかったし。そう言うの見て、風雅も拗らせたんだと思う。そこだけはちょっと可哀想かも。」




 確かに俺の両親を始め、あの村の住人達は、3度の飯より戦闘が好きってくらいのバトルジャンキーが多かった。


 だから、地味な作業とか伐採計画なんかを立てるのは、大してギフトで役に立てない俺の仕事だったんだけど、まさかそんな事してるだけで嫉妬されるとは……。






「俺はてっきり、風雅が聖羅を好きで、良いとこ見せようとしてあんな事になってるのかと思ってたんだけど、王子と聖羅をくっつけようとしていた辺りそうでもなかったんだなぁ」


「風雅は最初、私の事好きだったみたい。だから、自分を引き立てるために私の前で大試の事をずっと悪く言ってた。強引に私と一緒に居ようともしてたし。面倒になって顔面を殴ったりしてたら、堂々とは言わなくなった。王都に来てからは、王子にくっついてれば美人の女の子にモテると思ってただけみたいだけど」


「そんな事になってたのか……」




 一時期から、聖羅と風雅が仲悪くなったように感じてたけど、痴情の縺れ?的な奴だったのか。


 それに、思ったより下らん理由で幼馴染が幼馴染を王子に売ってたらしい。


 嫌だなぁ……。


 せめてもう少し世界のためとか、そういう高尚な理由がよかった……。




「気になってたんだけど、風雅ってレベルどのくらいだったんだ?俺が全力とは言えフェイント目的で振った木刀を避けられずに直撃してたんだけど、あれってワザとじゃないよな?」


「大試は誤解してる。大試と風雅が正面から戦ったら大試の方が断然強い。トレントを黙々と斬ってた大試と違って、風雅は、獲物を探して歩き回り、やっと見つけた奴を倒してただけだから。あの村を出た段階ではまだ30レベルにも満たなかったらしいよ。作物を成長させたり、ケガの治療するだけでレベルが上がってた私でも45レベル。50レベルになってる大試がおかしい」


「そうなのか……」




 あの名前のついてないトレント、やっぱり経験値凄かったんだな。


 あの村に生えてるってわかっただけで、この世界作ったリンゼがドン引きしてたくらいだし……。




「大試たちの子供の時の話、もっと聞かせてくれますか?皆さんだけ思い出あってずるいです!」


「朝までかかっても話しきれない」


「問題ありません!よしなに!」


「それより、そろそろこのパーティーお開きだからね?あと、私とキミら3人は事情聴取あるから覚悟してよ」


「な!?まだ大試とダンスというのをしていない!」


「私もまだダンスして頂いていません!」


「あ、会長、俺のごはん……」


「時間切れだね」




 結局、パーティが終わってからも衛兵たちとしばらく狭い部屋でおしゃべりさせられ、解放されたのは夜中だった。


 知らなかってけど、この衛兵たちは学園所属であって、警察とは別組織らしい。


 よって、学内で内々に処理してしまうそうだ。


 まあ、警察に届けたとして何の罪なるのかはわからんけどな。




 衛兵から解放され、教えられた道を辿り男子寮まで辿り着く。




「今何時だと思ってるの!?もっと早く来なさい!」




 と寮母さん?っぽい人にすごく怒られながら鍵を受け取り、空腹と遣る瀬無い気持ちを抱えたまま、俺の寮生活は始まった。


 俺は、多分そこまで悪くないよな……?






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