第82話
「戦闘狂の厄介な神よ!ここで会ったが……何年目か知らないが!折角こうしてまたこの世界に顕現したのなら、全力で叩き潰してやろうぞ!」
何が何だかわからないけれど、てふ子様が助っ人に来てくれたらしい。
しかも、最初から戦意マシマシでタケミーをぶっ飛ばした。
ついでに余波でみるく先輩が気絶した。
……話が早くて助かるけれど、それ以上に俺の方が話を聞きたい所だなぁ……。
「して、お前が犀果大試か?」
状況を必死に理解しようとしていると、てふ子様が話しかけてきた。
なんでこの人が俺の名前知ってるんだろうか?
それ以前に、何で生きてんの?
「……そうですけど、どうしててふ子様が俺の名前を知っていて、しかもここにいるんですか?」
「私もよくは知らん!だが、乙女に頼まれたから協力しているだけ!今の私はこの体に憑依しているに過ぎんでな!」
「……理衣か」
ラッキーガールをこんな風にドンピシャなタイミングで使えるようになっているなんて、随分上達したんだなぁ。
と思うと同時に、随分と無茶をしたもんだとも思う。
このタイミングで変な霊に乗っ取られていたら命取りだろうに……。
いやでも、よく考えたら本人の死に直接つながるようなやべーのは今の所一回も呼んでないのか?
そういう縛りでもあるんだろうか……?
「それにしても、お前は良くあの神と正面から戦えたものだな?私が生前奴と対峙したときには、結局大した手傷も負わせられずにズタボロにされ悔し涙を流したものだ!」
「てふ子様もあいつと戦ったことがあるんですか?……てか、神って言いました?」
「うむ!相当高位の神であるのは間違いなかろう!ただ、本当の名前を出すのを極端に嫌がっているようでな!何という神なのかは知らんのだ!」
厄介な相手、って事だけわかってればいいか……。
「しかし、生前の私の体では無い故に魔法の威力も多少下がっている気がする……常人よりは間違いなく魔力が多いとはいえ、私程ではないのだろう!比べるのは可哀想だが!しかし、どうやって戦ったもんか?魔力が足りないのでは、奴対策に私が作り出した切り札を使う事もできんではないか!」
先程の何かをぶち込む魔法でも十分強力に思えたけれど、てふ子様的には満足が行かない物だったらしい。
生前はどんなハチャメチャな魔法使ってたんだか……。
そういえば、魔力さえあればいいなら、俺には丁度いい物があるな?
「てふ子様、魔力さえあればアイツに勝てます?」
「約束はできんが、切り札を切る事さえできれば、かなりいい線行くと思うぞ?」
「なら、この木刀を持って、頭の中で『しゃおら!』って念じてください」
「木刀を?お前は何を言っているんだ?」
俺も何を言っているんだって気はするけれどさ、そうするのが正しい使い方らしいんだもん!
いいからやってみてくれよ!
だけど、口とは裏腹にてふ子様の行動は早かった。
すぐに輝きだす木刀。
魔力の触媒となって消えていくその輝きはつまり、頭の中で「しゃおら!」とすぐに念じたことを表していた。
「お……おおおお!?なんじゃこれ!?凄い魔力ではないか!?」
「世界樹製の木刀で、使い捨てで魔力を大量に入手できるらしいです」
「なんとまぁ……だが!これで私の切り札を切ることも可能になった!」
俺自身ではそこまで使いこなせなかったけれど、やっぱり魔法使いにとってはとてもいい物らしい。
仮に俺が木刀使って魔力をブーストしてからボルケーノ乱射してたら、地図の書き換えが必要な事態になっていたかもしれないしなぁ……。
まあ、てふ子様は地図どころか地形図の修正が必要な攻撃をしてあの温泉宿みたいな神社の土地を切り拓いたって聞いたし、この人に木刀を上げるのは多少怖い所はある。
でも、俺はラッキーガールを信じてみることにした。
何より、理衣を信じたかった。
あれだけ、自分の力をコントロールしようと努力し、ろくな目にあわない状態で、それでも共に戦うために戻ってきてくれた彼女を。
何回俺に裸を見られたかわかったもんじゃねーのに……。
「魔力充填完了!来い!大魔神てふ子!」
てふ子様の言葉に、センチメンタルな物が吹き飛ばされる。
今なんつった?
大魔神?
『説明しよう!』
「おおう!?」
頭に声が直接響いてくる。
この手の念話的な奴最近多いな?
人間みたいに流暢に声で細かく会話するより楽だったりするんだろうか?
前世だと、鳥は案外鳴き声でコミュニケーションを緻密にとりあっているって言われてたけど、この世界だと人間以外の生物におけるデフォの会話手段が念話になってるとか?
無いな。
最近変なのとばっかり関わりすぎてるだけだわ俺が。
それでその……この説明してくれてる声って誰なの?
オジサン声だからてふ子様ではないし……。
『大魔神てふ子とは!てふ子の姿を元に作られた巨大なる神像である!』
ネーミングセンスもアレだけど、なんでわざわざてふ子様の姿にしたんだろう?
作るの逆に大変だろう?
って、ちょっと待て。
それってもしかして神社にあったアレか?
アレが……動くのか?
前世で日曜日の朝にやってたヒーローもののロボットの如く、止めを刺しに飛んできて来てくれるのか!?
『なお!大魔神てふ子に出来る事は物理攻撃のみであり!空を飛ぶことも川を泳ぐこともできない!』
飛べないのか……。
となると、走ってくるのか?
……あれ?それって被害がすごい事になるんじゃ……。
そう思っていると、頭に今度は映像が浮かんでくる。
これは新しい演出だな……。
映像だと、どうやら場所は神社のあのデカい拝殿のようだ。
そこの建物の前面の木材が、まるでCG映像か何かのようにパカパカと動いて巨大な出入り口を作っていく。
あれ、気軽に動いてるけれど、先日近くで見た上に出荷したのも俺だから1本1本がバカでかいのわかってんだよなぁ俺……。
現実味がねぇわ……。
周りの人たちもかなり困惑しているのが見える。
だけど、そんなのはまだ序の口だった。
その直後に、高さ30mのてふ子様フィギュアが動き出した。
地響きを上げながら、一歩一歩感覚を確かめるかのように進んでくる。
いやぁ……本当に動いてるよアレ……。
魔法ってすげぇ……。
外に出た大魔神様は、ある方向を向きそしてぐっと力を入れたように見えた。
その次の瞬間には、境内に大きな足跡を一つだけ残し、風のように走り去っていった。
どこにって?
ここにだよ!
「来たか!」
「てふ子様!アレってなんなんですか!?味方って事でいいんですよね!?」
「もちろんだ!我が武田の当時の魔法技術の粋を集めた神・像・兵器だな!」
「神・造・とかじゃないんだ……」
それにしても、てふ子様がいた時の魔法技術って凄かったんだな。
現代ではロストテクノロジーになっているのか、アレの中身が何なのかもわかっていなかったけれど。
……いや、デカい像の中身の技術なんて早々必要も無いのか……?
「生前、私が全力の魔法を何度も叩きこんで倒せなかったのが、先ほどお前がタケミーと呼んでいたあの化け物だ」
「それって、もうどうしようもないじゃないですか……」
「だから私は考えた!魔法では駄目だというなら別の攻撃方法がいると!そしてたどり着いたのが大魔神てふ子だ!」
どうしてそこに辿り着いたのかなぁ……。
何て思っているうちに、大魔神てふ子が目の前で急制動をかけ止まり、そのまま膝を折ってしゃがみ込んだ。
そして、てふ子様の前にその巨大な手を差し出す。
「この大魔神てふ子は、巨大な鎧なのだ!私が乗って動かすことでその性能を存分にふるうことが出来る!」
そう言って手に乗った後、何かに気がついたようにこちらを振り返るてふ子様。
「ふむ……犀果大試!お前も来るがいい!なんだか、今の私の体は、お前が一緒にいた方が力が出せる気がする!」
「えぇ……?この大魔神って乗っても大丈夫な奴なんですか?巨大ロボってリアルだと乗ったらひき肉になるって相場が決まってたような気が……」
「案ずるな!武田の魔法に不可能は無い!ついでにそこで伸びてる乙女も連れて来い!」
なんなの武田って?
俺の中でてふ子様辺りから全くわからない未知の存在になって来たぞ?
……とはいえ、俺が行くことで少しでも攻撃力が増すならいいか……。
そう思い、気絶していたみるく先輩を背負いながら俺も一緒に手に乗り込んだ。
ここからどうやって乗り込むのかと思ったら、大魔神てふ子様の口が開いて、3人揃って飲み込まれた。
いやいやいや!?
武田の魔法に不可能は無いのかもしれないけどセンスはおかしいと思う!
もうちょっと何とかならんかったのか!?
飲み込まれたのに、気がついたら操縦席みたいなのに座っていたのは、確かに魔法っぽい気がするけれど。
ただ、座席の数が足りなかったのか、みるく先輩は俺の上に座らされている。
補助席かシートベルト……無いみたいだな……。
「私が行きついた答え!それは、火や水や氷なんてものではない!もっと単純な物だ!」
俺の目の前2mくらいの所でてふ子様が仁王立ちしている。
あ、あっちは操縦席とかじゃないのね?
どうも、操縦者の動きをそのまま機体にフィードバックさせる操縦方式らしい。
モニター……って大昔の遺物においてもいうんだろうか?
外を映す壁にタケミーが映し出される。
とても愉快そうな顔で攻撃を待ち受けているように見える。
当然のように先ほどのてふ子様の攻撃ですら効いていないようだ。
「魔法で火球を叩きつけても!濁流にのみ込んでも!氷山をぶつけても効かなかった!ならば後残すは、コ・レ・のみよ!」
そう言って、拳を握るてふ子様。
あれかい?
魔法が効かないならレベルを上げて物理で……っていう?
「鎧を神像にすることで神気を集めた!地脈から流れ込む魔力も数百年分は充填されている様子!行くぞ!神速の踏み込みから繰り出される、全身金属の重さを全て集中させた渾身の拳!神よ!存分に楽しめ!」
一瞬、世界のすべてが止まったのかと錯覚するほどのズシリとした構えをとってから、驚くべき速度で踏み込む大魔神てふ子。
目指すは、目の前のタケミー。
繰り出すは、ただ只管に重い拳。
「てふ子パンチ!」
「パンチって言うのか!?」
唸る轟拳。
発光現象が起きる程の威力で吹き飛ぶ山肌。
その映像を最後に、モニターには土煙しか映し出されなくなった。
さて、タケミーはどうなったのか……。
「いやいやいや!今日ほど興奮した事は初めてかもしれんのぅ!おかげで1000年は若返った気分じゃよ!戦いの種類も豊富で実にいい!あれじゃ!ヴッフェ?好きな物とって食べ放題みたいな感じじゃったな!」
……まあ、倒せてはいないと思っていた。
だけど、流石にこれは想定していなかった。
大魔神てふ子の操縦室に、タケミーは当たり前のように入り込んでいた。
「これも一つの武の極致!我、大満足じゃ!」
大喜びで。
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