第83話

「不愉快な奴だ!私の大魔神てふ子に勝手に乗り込みおって!」


「すまんのう!我は今とても愉快でなぁ!」




 片方がテンション上げると、もう片方が激しくテンション下がるタイプの関係らしい。


 俺としては、とにかく怖いから帰ってくんねーかなーって思ってます。




「さてさて!我を楽しませた戦士たちには、約束通り褒美をやらんとのぅ!」




 ご機嫌なタケミーは、俺たちの様子を余所に何をプレゼントするか考えているらしい。


 こいつは神様らしいけれど、神様基準の褒美で、人間からしたら有難迷惑なもんじゃないとありがたいんだけどな……。




「そうさな……そこの赤い娘!確か、昔にも戦ったな?あれも中々いい戦いだったのぅ!しかも、それを参考に対策を立てて今回に臨んだらしい!素晴らしいのぅ!感動じゃ!ふむ……では、生前の魔力と記憶を維持したまま、この世界に転生する権利などどうかのう?」


「……なんだと?選りにも選って、私に……この武田てふ子に!生にしがみつけとでも言うつもりか?舐めるのも大概にするがいい!」


「いやいや、魂とは循環するものよ。そこをちょちょっと干渉するだけじゃよ。なに、別に世の理を著しく逸脱するというわけでもない。たまに……たまーにある事じゃよ?」




 そう言って、タケミーはチラッとこっちを見る。


 俺が転生者だって事はバレてるんだろうなぁこれ……。


 ……あれ?てふ子様静かになったな……?


 って思ったら、何かしらの力で口を開けなくされているらしい……。


 やべーよ……マジヤベーよ……。




「そしてその依り代になっている娘は……どうしたもんかのう?ふむ……魔力量を3倍にしてやろう!決まりじゃ!」




 なんの確認も無く流れるように決まったけれど、とんでもないことな気がする……。


 まあ、悪い話ではないだろう……俺自身は、魔力量とかあんまり自覚無いからわからんけど……。




「眠っとる龍の娘は……おや?弓が壊れとるのぅ。これは悪い事をした!我は弓にはそこまで強くないんじゃけど……ふむ、知り合いに今頼んで弓を都合してもらったのでそれをやろう!天鹿児弓っていうんじゃけど、神弓じゃから大切にしてほしいのう!」




 ポンポンとんでもないもん寄越してるけど大丈夫なのかこれ?


 人類の歴史変えちゃってない?




「最後に、おぬしじゃな!本当であれば剣をやりたい所なんじゃけど、そうすると嫉妬する神がいるようじゃからな……。というわけで……ほいっと」




 タケミーがそういうと、俺のポケットから不可視の力でチケットが抜き取られる。


 ここに来てからレベルが5ほど上がっていて、チケットの使い方を決めかねていたんだけれど、その内の1枚を手にタケミーが言う。




「この1枚を使って、我所縁の剣が出るようにしてやろう!まあ、この国の剣であれば大体は我が……いやまあそれはいいか……。さてどれがいいか?雷を操る物は間に合っているようじゃし……、天之尾羽張にしておこう!我的に凄く重要な剣じゃ!よいなリスティ?」




 女神様呼び捨てか……。


 まあこっちからしたら、剣なんて最初からランダムだから、何が来てもいいっちゃいいんだけどな……。


 どれもすごい性能してるし……。


 木刀にも使い道があるってわかったから、場合によっては木刀の補給をしようかと思ってたくらいだし……。




「じゃあ、その剣はありがたく受け取りますので……」


「うむうむ!人の身で使うには相当に過ぎた性能のはずじゃが、まあそれなりに使えるようには調整されとるじゃろ!」




 どうやらそれぞれに贈り物をして満足したらしい。


 よかった……。


 とりあえず今回のでまずいのは、みるく先輩の弓くらいだろう。


 俺の剣と違って消したり出したりできるわけじゃないし、存在がバレたら国宝指定じゃ済まんわ……。


 神話級の武装だしなぁ……。


 他の報酬に関しては秘密にしようと思えばできるし……。


 いや俺の剣も譲渡できることがバレたらまずいんだが……。




「さて、名残惜しいが我もあまり長居するわけにもいかんでな。これで失礼するとしよう!またいつか熱き戦いが出来る事を願っておるぞ人よ!さらばだ!」




 その言葉が聞こえたと思った瞬間には、もうタケミーの姿は無かった。


 そもそも本当にいたのか疑問になるくらいあっけなくいなくなった。


 いやぁ……神様っぽい奴と戦うのとかどうなる事かと思ったけど、とりあえず生き残れたっぽいなぁ……。




「んああああああああああああ!これだけ準備して結局仕留められなんだ!人を暇つぶしの道具程度に扱いおって!次こそは……次こそは人の手で地べたに這いつくばらせてやるぞ神よ!」




 ようやく口が開けるようになったらしく、プンスコ怒っているてふ子様。


 とりあえず元気そうだ。


 体は理衣のだし、怪我してたら困る。


 一方みるく先輩は、なんか気持ちよさそうに寝ながら神弓を抱きしめてむにゃむにゃしてる。


 一番幸せなのこの人なんじゃないか……?




「てふ子様、どうから危機は去ったみたいですし、この……なんでしたっけ?大魔神てふ子ですか?これ、元の場所に戻してもらえますか?重要な信仰対象なんですよ」


「……ふむ、まあそうだな。安心すると良い、事態が治まれば自動的に元の位置に元の体勢で安置されるように作られている。私がいなくてもな……」




 そう言うと、てふ子様が光り始める。


 これは……ラッキーガールが解除される時の光か?




「そろそろ限界のようじゃな。とりあえず外に出ようぞ」


「わかりました!てふ子様が消える前に出ないと閉じ込められそうだし!」




 そのまま未だに寝こけているみるく先輩を抱えて外に出る。


 出る場所もやっぱり口だった。


 ホント、このセンスはどうかと思う……。




「さて、私が死んでからどれだけの時が経っているのかもわからぬが、この時代にもしっかり人々の営みは続いているようで、私はそれだけで満足だ!神に勝てなかったのは非常に悔しいが!犀果大試、私の子孫たちは、立派にやっておるだろうか?」


「かなり立派にやってるみたいですよ。男性はちょっと娘離れできていなかったりするみたいですけれど、女性は今でも巫女服が似合う美人で結界術とかがすごい得意らしいです」


「そうか!ならばよい!別に何をしていた所で、既にこの世のものではない私に何を言う資格も無いのだが、それでもやはり立派にやっていてくれるなら嬉しい物よな……」




 その顔は、それまでの魔法少女ではなく、娘や孫を思いやる妙齢の女性のような温かさを持った優しい顔だった。


 この人は、きっと凄く優しい人なんだろう。


 苛烈な魔法を使うけれど、それは自分にしかできないからやっているだけで、それがこの人のすべてではないんだろうな。




「さて、この体の持ち主にそろそろ返してやらんとな。最後に、最果大試」


「なんです?」


「……自分のために命までかけた乙女の心くらい、受け止める度量を持て。私から言えることはそれだけだ!それではな!」




 てふ子様の手が俺の頭を優しく撫でて、それを最後に光は治まり、後には気絶した状態の理衣がいた。


 ……やっぱり全裸で。


 急いで俺のカラーリングだけ赤と白という派手派手だけどデザインは山伏的な服で、脱いでも大丈夫そうな部分を全部取り外して理衣に着せる。


 理衣……あのセクシーなミニスカ巫女服はずっとラッキーガールで維持してたのか……。


 せめて下に何か着ている状態で寝てくれれば、解除される度に俺の服を着なくても済むだろうにな……。




「心を受け止めろ……ね……」




 うーん……そう言う意味……なんだろうか?


 確かにそういう雰囲気は出されているような気もするけれど……。


 いや、誤魔化すのはやめよう。


 何がどういう風になってそうなったのかはわからないけれど、理衣は俺の事を好きになってくれている気がする。


 それも、こんな危ない所に態々来てくれる程に。


 ……もし、本人が望んでくれるなら、その時は……。




「……は!?敵!敵はどこだ!?」


「お早うございますみるく先輩。気絶してましたけど、痛い所ありません?あと、敵はもういなくなってて、先輩がいま抱えている弓がその報酬だそうですよ」


「何?そうか……ってちょっとまて!?この弓は一体なんだ!?神気がシャレにならないんだが!?」




 この人、弓の事隠せそうにないし、いっそのこと宏崇王子あたりに紹介して雇ってもらった方が良いかもな。


 王族の従者とか側近なら神器持ってても言い訳立つだろうし……。




 みるく先輩はほっといても大丈夫そうなので、気絶したままの理衣を運ぼうと持ち上げたタイミングで、裏山全域と、耳につけてるインカムからサイレンが聞こえる。


 どうやら、炎華祭が無事終了したらしい。




『既定の時刻を回りました!これにて炎華祭を終了します!参加者の皆さんは、神社敷地内まで帰還してください!』




 俺達JK巫女が1位だとは思うけど、最終的にどうなったのかは正直よくわからんな。


 会長たちは無事だろうか?


 途中インカムからの音声を聞いている余裕なんて無かったし、俺の放つ爆音でそもそも聞こえなかったから、何かあったとしてもわからない。


 まあでも、上手くやっただろあの人は。


 合宿中はしっかり寝れたらしいからな。


 何でかは知らないけれど、俺の匂いを嗅ぐことで安眠できたって言ってたし……。


 どうなんだろうなぁそれはそれで……。




 何はともあれ、俺達も戻ろう。




 そう思って歩き始めた時、俺とみるく先輩の横を大質量の金属塊が駆け抜けていった。


 ……あ、そう言えば大魔神てふ子って自動的に戻るようになってるんだっけ?


 現時点で大騒ぎしてるだろうけれど、歴史的事件になるだろうなぁ……。




「……なぁ、最果……あれは何なんだ?」


「走る金属製フィギュアですよ。よく小学校の怪談であるじゃないですか」


「やめろ!私はその手の話が苦手だ!」




 後から知ったけど、大魔神てふ子が金属ボディを輝かせながら駆け抜ける姿がネットに動画であげられて、その年の観光客が30倍に増えたらしい。




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