第81話

 問題はその後。


 寮に戻ってすぐに寝て、次に目が覚めたら猫になっていた。


 うん、言葉の通り猫の姿に。


 人間サイズの。


 最初は、我が目を疑った。


 その直後に、このままだと自分が魔物だと思われて討伐されるんじゃないかと怖くなった。


 だから外に逃げて隠れたけれど、事態は何も解決しない。


 時間が経っても変身が解ける事は無かったし、お腹は空いていく。


 このまま衰弱して死んじゃうのかななんて思っている時に、彼は来てくれた。


 今話題の犀果大試君。


 それと、メイドのファムさん。




 2人に助けられて、私は1日ぶりのご飯が食べられた。


 しかも牛丼!久しぶりだったなー!




 ピンチの時に助けてくれるなんて、本当に王子様みたいな人だったな……。


 この国の王子様の良い話って、あんまり聞かないけどね。


 私にも、あんな素敵な男の人が婚約者になってくれたらなぁ……。


 ……もう3人もいるんだよね、大試君には。


 だったら私にはチャンスも無いか。


 ……逆に、3人もいるんだからいけるかも?




 うー……やっぱり私って嫌な人間だな……。


 だけど、そんな醜い私が本当の私なんだ。


 もし運命の人がいるなら、きっとそんな私も受け入れてくれると思う!


 なんて乙女チックな事を考えてしまう程度には、彼の事が好きになってしまったみたい。


 これが、恋に落ちるって事なんだろうな。


 自分ではどうしようもないんだ。




 だから、私なりにちょっと大胆に大試君に迫って見たりもした。


 聖女の聖羅さんたちに悪い気もしたけれど、この気持ちにだけは嘘がつけない。


 その後も、会長に毎日抱きしめられたり、大試君と毎朝会ったりと、短い間に生活が一気に変わった。


 それも、今までの人生よりも、この1~2週間の方が楽しいと思えるくらいに。




 ゴールデンウィークになって、私たちは会長の実家の神社へ旅行兼アルバイトに行くことになった。


 本当は、私が行く予定じゃなかったんだけれど、大試君が行くっていうから無理やりついていく事にした。


 ……んだけど、出発の日、大試君の婚約者の聖羅さんからちょっと話をされた。




「貴方は、大試の事が好きなの?」


「え!?えーと……うん、そうみたい。ごめんね?私も最低だとは思うけれど、この気持ちだけは誤魔化したくないんだ」


「ん?別に構わない。大試は、私が一番好きな人。それを他の女が好きになるのは当然。だから、変に無理やり迫ったりなんて事をしなければ私は気にしない。だけど、貴方は大丈夫?仮に貴方が大試に受け入れられても、それは4番手以降。私にはよくわからないけれど、侯爵家ってなるとその辺りがめんどくさそう」


「……え!?そう言う心配!?えーと……私なんて末っ子だし、その辺りはあんまり……」


「そう?なら頑張ると良い。自分の立場がちゃんとわかっているなら、私に文句は無い。ただ、覚悟をしておいてほしかっただけ。だって、大試の一番は全部私だから」




 凄いなこの人……どうやったらここまで自信を持てるんだろう……?


 私には、聖羅さんほどの自信を持って彼を好きだと口に出して言えるかな?




 今はまだ、自信は無いかもしれない……。


 でも、私にも好きだって気持ちは絶対にある!


 だから、この旅行中に彼に好きだって言えるようになってやる!




 そう思っていたせいか、アルバイト当日にとんでもなく破廉恥な巫女服になるようにラッキーガールが発動していた。


 色仕掛けかぁ……でも、手段を選べないのも事実かも!




 アルバイト、炎華祭ではずっと大きな動物を狩った。


 前に襲われた猪も大きかったけれど、こっちの鹿はそれ程では無いにしても十分大きい。


 鹿を除くと大きな猪もいたけれど、1頭だけ。


 うん、びっくりはしたけれど、2日目の昼に会った龍のお爺さんの方がインパクト大きかったな。


 しかも、その孫娘が私の先輩にあたる人だったっていうのもビックリ。




 そのお爺さんに無茶をさせないために私たちで動くことになって、大きい鹿たちの親分の鹿って言うのを狩ることに。


 大試君は、ボスボス鹿って言ってたっけ?


 私たちの先輩、みるく先輩に案内されて辿り着いた先には、確かに大きな鹿がいた。


 それに関しては、大試君たちが問題なく倒してくれた。


 問題はその後、得体の知れないという言葉がぴったりなナニカが現れた。




 本当に、何者なのかわからない。


 人間みたいな背格好だけれど、それが何者なのか把握できない。


 ただ一つ、とても強いという事だけは分かる。


 命がけで戦えば勝てるかもと思ったけれど、




「理衣たちは今すぐ逃げろ」


「味方が何人いても、アイツには勝てない気がする」




 そう大試君に言われたら、私は引くしかなかった。


 こんな強いナニカ相手だと、私なんて足手まといでしかない。


 それが悔しかったし、寂しかったけれど……。




 走って逃げながら、涙が溢れる。


 この涙は、悔しさなのか、寂しさなのか……。


 違う、ここで逃げたら、私はきっと一生大試君に好きって言えない気がするからだ!


 もう、あの人を囮にして逃げるだけの女の子でいたくない!


 私に出来る事で、あの人の力になりたい!




 私に出来る事……ラッキーガール!


 今こそ、このよくわからないギフトを使いこなさないといけない!




「会長!私、やっぱり残ります!」


「何言ってるの理衣さん!?あんなの相手に勝てるわけないでしょ!?」


「でも!私は、もう逃げたくないんです!例え怪我だらけになっても、大試君の隣で戦いたい!」


「……そう、わかったわ。だけど、無理はしないようにね!私たちは、大試君の指示通り動くから!」




 ごめんなさい会長、多分、とっても無理をすることになると思います……。




 会長たちが走って行ったのを見送ってから、自分の心の中に語り掛ける。


 ラッキーガール……初めての時は、とても迷惑な代物だと思った。


 だけれど、これのおかげで大試君の目に留まったし、その後も色々な力を使えるようになった。


 でも、どんなに便利な物だとしても、今この時役に立ってくれないと、私にとっては無意味な気がする!




「お願い!応えてラッキーガール!私は、大試君を助けたい!だから力が欲しい!最強の……神様とだって戦える力!あの人に好きだって言える私になるために!!」




 生れてはじめて、全身全霊で願う。


 神社にいようが、お寺にいようが、教会にいようがここまで祈った事は無い。




『ふん?今願ったのはお前か?』




 頭の中に声が響く。


 もしかして、ラッキーガールの効果?




『これが何の力によるものか私にはわからんが!助けを求められれば応えるが私!』




 なんだろう、凄く暑苦しい感じ。




『さぁ!力を貸そうぞ乙女よ!私の名を叫べ!』




 名前?


 そんなの分からないけれど……?


 誰ですか?




 なんて思っているのに、自然と名前が口から出てしまった。




「変身!魔法少女!武田てふ子!」




 直後、かなり恥ずかしい変身シーンが開始されたけれど、ここは割愛していいかな?






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