第14話
「犀果大試です!そこの聖女様と同じ村出身です!数日前に父が貴族にされてしまったため、急遽入学する羽目になりました!おなしゃす!」
1年1組に配属されて初めてのホームルーム。
それは、忌まわしいイベントによって彩られる。
自己紹介とか言う、面倒な自己表現を強制される地獄のような時間だ。
そりゃ、陽キャ集団にとっては楽しくてしょうがないのだろう。
だが、俺のような控えめ(良く言えば)な人間にとってこれほど嫌なものはない。
てかこれ必要か?
どうせ俺は、卒業後はまた村に帰ることになるんだぞ?
普通の貴族であれば、貴族同士でご近所付き合いとか必要なんだろうけど、近所ってどこだよって場所だもん。
聖羅たちは、魔王だかなんだかを倒しに行くのかもしれんけど、俺はその手の活躍が求められてないからなぁ。
どっちかっていうと、村で木トレント斬ってクマを解体してる方がこの国に貢献できる気がする。
「質問いいかしら?」
さっさと終わってくれないかなって思ってたんだけど、質問タイムが始まってしまった。
てかお前ら、さっきまで誰に対しても質問とかしてなかっただろ!
悲鳴を上げたい気持ちを抑えながら、茶髪に編み込みアリのハーフアップな女の子に応える。
「どうぞ?」
「貴方は、聖女様の何なのかしら?」
漠然とした質問は、できればやめてもらえないか?
どう答えたらいいのか、範囲が広すぎる。
「幼馴染だな」
「本当にそれだけ?」
「本当に幼馴染だな」
「違う、婚約者」
「「「キャー!!!!!」」」
俺が否定しているのに、誰も聞いてくれない。
というのも、このクラスで一番最初に自己紹介をした出席番号1番の天野聖羅さんが、
「天野聖羅、開拓村出身、聖女と呼ばれてる。大試の婚約者。」
と宣ったため、一部の女子のテンションがおかしい事になっているからだ。
この世界だと、高位の貴族は大抵親が決めた相手と婚約する。
だから、一般市民が愛し合って結婚をするというシチュエーションに過剰な憧れを持っている者も多いらしい。
そして、そんな彼女たちにとって、俺と聖羅は愛し合って結婚の約束をした仲になっているようだ。
つまり、俺が否定した所で、照れによるごまかしくらいにしか見られない状態という事だ。
よし、スルーしとこ……。
多分、野次馬精神的には、リンゼと有栖に昨日のことで質問したいと思ってる奴らは多いだろうけど、どう考えても地雷が埋まりまくっていて誰も質問しない。
結局、俺が晒し者になっただけで終わった。
あと、どこから来たかについては俺も未だに詳しく知らない。
北海道のどこかだと思うんだけど、早く全国地図を寄越せ。
探しに行くヒマすらなかったぞここ数日!
1日目は、どの授業も軽い説明で終わってしまうようだ。
詳しい内容を教える前に、まずは実践してみろと言い出す先生が多い。
中でも、今やっている攻撃魔法の授業はその傾向にあるようで、
「これがファイアーボールだ。全員それはわかっているな?では、これを更に威力を上げて撃つにはどうしたらいいか、各自考えながら時間いっぱいまで試してみるように!」
と言って、後は生徒たちを鋭い目線で見張っているだけだ。
因みにこの授業の担当は、入学試験の最終種目で俺を担当していた上善寺先生。
相変わらずのこわもてっぷりだけど、そんな目で見られても俺にはどうしようもない。
剣魔法以外の魔法を習得することが俺には無理だから、もし撃つとしたら、ファイアボールを撃てる剣を出さないといけない。
そして、今そんなもんは無い。
またボルケーノしてやろうか?
いや、威力下げる事は可能だけどさ……。
「犀果、何故ファイアボールの練習をしない?」
とうとう痺れを切らしてやって来ちゃった。
理由を説明すると俺の弱点が露呈する気もするけど、秘密にしながら学校生活を送るには余りに大きすぎる欠点でなぁ……。
「俺、ギフトのせいで一つの魔法しか使えないんですよ」
「ほう?この前の火柱を上げる奴か?」
「あれは、俺の魔法を使って起こした現象であって、それ自体が魔法とか魔術と表現していい物なのかよくわからないです」
「よくわからんが、まあそう言う事なら仕方ない。だが、単位を与えるためには何かさせておかないといけないのでな。校庭の周りを走ってこい!」
「……はい」
1人ブートキャンプ楽しいです。
この世界だと、簡単な魔法や魔術であれば、適性やギフトに関係なく誰でも使えるそうだ。
それこそ、小学校とかで教える程基本的な技術らしい。
もちろん、魔力の操作や保有魔力量によってその威力は全く異なってくるので、引き起こせる結果に関しては差が出るけれど。
そして、貴族は比較的この方面で秀でている場合が多い。
だからこそ貴族足りえるとも言えるんだろうけども。
皆良いなー。
俺なんて、剣と魔法の世界希望したのに、剣を魔法で出すことしかできないんだぞー。
俺もママーンみたいにドカンドカンやりたい!
パパーンくらい速く動く事なら木刀バフでできるようになってきたけど、剣術という意味では全く敵わねぇし!
レベルアップして、新しい剣を出すことに集中するか?
でもなぁ……、俺がなんぼガチャしても木刀だったしなぁ……。
途中から笑えて来たもん……。
木製の物しか出てこないのは、俺達一家共通の事柄だったから、家族間での勝敗はつかなかった。
そういや、今なら運勢カンストしてそうな知り合い結構いっぱいいるから、代わりに引いてもらえばいいんじゃね?
となると、ガチャチケ入手のためにどこかでレベル上げしたいな。
東京周辺でそんな事できる場所あるんだろうか……?
そういえば、ダンジョンがどうこうって聞いた気もするけど、俺でも入れるのか……?
「考え事ですか?」
「うん、新しい剣欲しいから、どこかでレベル上げしてガチャチケ手に入れたいなってさ」
「それでしたら、王家で管理しているダンジョンに入るのはどうでしょう?私も付き合いますよ!」
「そんなもんあるんだ?……てか、よく俺がランニングしてる所に普通に走って追いついて、そのままファイアボールの練習しながら走れるな?」
「鍛えましたから!」
良い笑顔で良い放つ王女。
確かに鍛えに鍛えているらしい。
もちろん俺だって全力で走っている訳じゃないけど、それでも中々のスピードのつもりだ。
「アタシだってそのくらいできるわよ!」
「私もできる!」
リンゼと聖羅も参戦し、グランド周りに設置されている的に流鏑馬の如くファイアボールを撃っている。
君ら、何がしたいんだい……?
「それで、何の話してたのよ?」
「いや、そろそろ強力な新しい剣欲しいから、レベル上げしたいなって話したら、有栖が王家が管理しているダンジョン行かないかってさ」
「アタシも行ってあげてもいいわよ?」
「私も行く!」
わーお、王女様に公爵令嬢様に聖女様、ついでにまともに魔法使えない田舎者野郎とは、なんて贅沢なパーティーなんでしょう!
ガチャ引き要員としても、とても頼りになるな。
「じゃあ今度4人で予定が合う時にでも行ってみようか。ダンジョンていうのがどんなもんかわからないけど。有栖、手続き頼める?」
「お任せください!父に言って、いくらでも予約入れますので!」
「そこまで大事にする事でもないんだけど……いや、王女が行く時点で大事か……?」
この会話中、俺を除いた3人はずっとファイアボール撃ってます。
もう全部こいつらだけでいいんじゃないかな?
「お前らそんなに連射して疲れないのか?俺は自分で撃てないからわからないけど、他の奴らは5発くらい撃っただけで息切れしてるっぽいぞ?」
「アタシ、レベルが47あるから!」
「私は、45」
「50です!大試とお揃いですね!」
おっかしいなぁ。
風雅ですら30くらいだった筈じゃ?
戦闘せずにレベルがあげられる聖羅と違って、他2人は魔物倒してそこまで稼いだんだろうけど……。
「全員集合!」
上善寺先生に呼ばれ集まる。
流石に、張り合って更に連射とランニングのペースを上げた我がパーティーメンバーも息が上がっている様子。
現状体力に余裕があるのは、このクラスで俺だけかもしれない。
だって、俺だけ撃てないもん!
「各自、1発ずつ今撃てる最大火力のファイアボールを撃って今日は終わりとする!次回までに今回考えた火力強化方法についてレポートをまとめておくように!では始め!」
この先生、結局なんにも教えてないんじゃ……?
そういう教えないことも魔法には重要な事なんだろうか……。
そんな事を考えながら、体育座りで皆を眺める俺。
魔法の強化方法に関してなら、撃てない俺もレポート書けてしまうから、とりあえず今のうちに考えるだけ考えておこう。
どうせ、仮に俺が何か特殊な技術でファイアボールを撃てるようになったとしても、あの3人には敵わんし……。
対魔法加工とやらがされた的を消滅させた美少女たちを横目に、自分で撃てもしない魔術論を考える今日この頃。
皆さん、いかがお過ごしですか?
俺は、心で泣いてます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます