第13話

「おはようございます!」


「……おはよう」




 入学式を除けば、初めての登校……学園だから登園か?まあ登校でいいや。


 さぁ、行くぞ!寮の玄関を出ると、朝日を浴びてその白い髪を輝かせる王女様がいた。


 すっげー目立ってる。




「初日ですので、一緒に校舎まで行きませんか?クラス発表もありますし……」


「わかった。一緒に行こう」


「はい!」




 春の陽気に包まれて、キラキラと輝くような石畳の通路を歩きながら世間話をする。


 寮の料理人がいなくて困ってるとか、仕方ないから俺が料理したとか、学園内の地図がほしいとか。


 いやー、美少女との会話は楽しいなぁ!




 ……さてと。




「現実逃避はやめよう。本題に入ってくれ」


「はぁ……そうですね……。このまま取り留めもない会話だけ続けていられたらいいんですけど……」




 ため息をつきながら、有栖は鞄から何かの機械を取り出し、スイッチを押して作動させた。




「防音装置です。これを起動していれば、私たちの会話が外に漏れる事はありません」


「スパイガジェットみたい」


「スパイが使う物よりもっと高性能ですよ?」




 あれれ?


 どうしてスパイが使ってる道具を知っているんだい?




「まあ、わざわざ男子寮の前まで迎えに来た時点で、何か面倒な話があるんだろうなとは思ってたけど、どうした?」


「昨日、あの後兄への尋問が行われたそうです」




 朝一でシリアスですかそうですか。




「どうでした?」


「……希望が潰えた……と言った所ですね」




 潰えましたか……。




「実は、兄には洗脳魔術がかけられていた可能性があったんです。あまりにも普段の兄の印象とは違う行動でしたので」


「あ、そうなんだ?普段はあんな感じじゃないのね」


「はい。取分けて優秀というわけでもありませんが、あそこまで周りに迷惑をかけるような行為なんてするはずがないと、関係者なら誰もがそう考えたと思います。」




 そこまで言って悲しそうに目を伏せる有栖に、俺は何も言えず続きの言葉を待つしかない。




「昨夜、聖羅の回復剣を兄が受けたのは覚えていますか?」


「回復剣……?あ、ズタボロになった第3王子が回復しながらぶっ飛んだあれ?」


「そうです。そして、聖女の回復魔法には、共通して状態異常を消してしまう効果があるとされていて、これは聖羅の協力によって、ある程度証明されております」


「へぇ、あいつそんなこともしてるんだ。」




 リンゼが言うには、聖羅は正ヒロインらしいけど、一緒に育った俺からするとなかなか実感湧かないんだよな。


 美人だとは思うけど、アイツがギフトではなく称号として聖女と呼ばれるような事をしていると聞くと、ついつい信じられなく思ってしまう。




「洗脳とは、魔法による状態異常とされています」


「……あー、もし洗脳魔法によって王子がトチ狂っていたとしたら、聖羅のあの回復剣とかいうのを食らった時点で解除されてないとおかしいのに、尋問時にまだ同じことを言っていたって感じ?」


「正にその通りです……」




 それは、ご愁傷様としか言えないな。


 きっと関係者たちは、藁にも縋る思いで確認したんだろう。




「王子とその取り巻きたちってこの後どうなるんだ?」


「兄は、どこか誰も知らないような場所で軟禁生活。取り巻きの方たちは、何をしたかにもよりますが、何名かは実家で謹慎処分にされたのち、行方不明になる予定らしいですよ。風雅さんは、教会側預かりのため、我々の方では関知しておりませんが」




 怖い……。


 流石スパイガジェットを持つ女……。


 怒らせないようにしよ……。


 にしても風雅、どうなっちゃうのかなぁ……。


 主人公様なのに……。




「中でも、生徒会から王子の取り巻きに参加していた数人は、生徒会という責任ある立場にありながら学園内で犯行に及んだとして、正式に処刑となる可能性もあるようですね。ただ、大試がギリギリで誤魔化せる範囲にしてくれたおかげで、公にせずに済む可能性もあるそうですが。そのせいか、貴族の当主方に数名、木刀剣士スター☆ライトのファンが出来たようですね」


「恥ずかしすぎる!」


「ふふっ」




 ピエロ……俺はピエロ……。


 にしても、やっぱり処刑されるやつら出て来ちゃうか。


 そりゃなぁ、聴衆の目の前で公爵令嬢に狼藉働いちゃったからなぁ……。


 多少誤魔化したところで、無罪放免というわけにもいかないだろうし、それは流石に俺が許せない。


 リンゼ、泣いてたし。




「因みに、今回新しく生まれた大試さんの一番のファンは、公爵らしいですよ?」


「公爵……?」


「あ!噂をすればです!」




 有栖の目線を辿るとそこには、校舎入り口前に佇む金髪の女神がいた。


 元女神か。




「……おはよう」


「おはよう。具合が悪かったりしないか?」


「平気。それと……お父様が、今夜家に来てくれないかってさ」


「リンゼの父親?……もしかして、ファンの公爵って……」


「ファン?よくわからないけど、お礼がしたいって言ってたわ。それ以上の事は、私も知らないけど……」




 有栖の方を見ると、ニヤッとしている。


 なんつう上の立場の人間に目をつけられてんだ……。


 正直、そこまで改まってお礼言われる程の事だとは思っていないけれど、これを断る方が俺の立場としては難しそうだ……。




「喜んでお邪魔させてもらうよ。リンゼに、旨い物奢ってもらう約束だったしな」


「……それは、ちゃんと別の機会に、2人で行ってあげるわ!」


「そうか?じゃあ、まあ、そういうことで」


「ええ!」




 昨日の騒動以降、なんだかしおらしい雰囲気だったリンゼだったけど、ようやく元に戻ったようだ。


 これでこそ爆殺女神だぜ!




 話がまとまったところで、3人でクラス分けが表示されている掲示板を見る。


 どういう基準でクラスが分けられるのか知らないけど、恐らく俺は落ちこぼれ集団に入れられるんだろう。


 だって、入学試験の実技が50点ですよ?


 俺が試験官なら、間違いなく落としますね。


 不合格ってものがほとんど存在しないから何とかこうして登校して来てますけど。




 えーと、犀果大試はっと……。




「……ん?」


「アンタ、アタシと一緒のクラスじゃない!」


「私とも一緒です!」




 確かに、何故か成績優秀な2人と俺は同じクラスだった。


 1年1組、そこが俺のクラスらしい。




「そして、私とも一緒」


「そんな気はしてた。おはよう聖羅」


「おはよう」




 いつの間にか背後に立っていた幼馴染に挨拶する。


 聖女って、隠密系の能力もあるんだろうか?


 メインウェポンは木刀だし、聖女ってなんなんだろうな。




「あんなに俺の成績って悪かったのに、なんで成績上位者と一緒のクラスなんだろ?」


「最後の技がすごかったんじゃない?試技エリアがあそこまで徹底的に消し飛ばされたの初めて見たわよ?」


「どうかなぁ……。案外、俺という問題児も、リンゼと有栖と聖羅が纏まれば止められるんじゃないかと期待して、とかかもしれないぞ?」


「問題児扱いされるのが板についてきたわね……」




 折角あの太々しいリンゼが戻ってきたと思ったのに、もう呆れ顔リンゼになってしまった。


 悲しい……。




「どんな理由でもいい。大試と一緒ならなんでも」


「私も、数少ない友達たちと一緒で嬉しいです!これから1年、よしなにお願いしますね!」


「……アタシも、アンタたちと一緒で嬉しいかも?」


「このメンバーなら、退屈しなさそうだなぁ……。」




 楽しみなような、そうでもないような……。


 まあいいか!美少女と仲良くできるだけで俺は幸せだ!


 問題は、ここに主人公様とやらがいない事だけども。






 何度か探してみたけど、掲示板に貼りだされたクラス名簿に、桜井風雅の名前は無かった。








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