第62話
「うわぁ……でっけぇ神社……」
「でしょう?日本全体で見ても最大級よ?」
ゴールデンウィーク初日、俺は、武田水城生徒会長の実家である神社へと来ていた。
直径が5mくらいありそうなしめ縄がつけられているのに、それが相対的に大きく見えないサイズの造り。
見た目だけで圧倒されるわこんなん……。
発端は、前日まで遡る。
――――――――――――――――――――――
学園に通う生徒たちは、大半が連休中に実家へと帰省する。
そのため、俺の前世の世界と比べ連休の日数がかなり長めに設定されている場合が多く、実家に帰れない俺のような存在の方が稀らしい。
特に貴族たちは、連休中に自分たちが管理している土地でのイベントごとに参加しないといけないとかで、帰りたくなくても帰らないといけないという悲しい理由もあるんだとか。
俺は俺で、エルフの集落近くに俺の実家がありそうだという情報を得てはいるけれど、だからと言って実家に帰ってましたと言ったら「どうやってだよ!?」って言われる事請け合いなため、他の用事にかまけていないといけなかったわけで……。
聖羅は、教会側のイベントごとで引っ張りだこらしい。
しかもこの期間、俺は護衛としての仕事ができないそうだ。
なんでも、信者じゃない者を公式行事のメイン側に使うわけにはいかないからだとか。
言う事はわからんでもないけれど、聖羅はキレていた。
結局俺が説得して、毎日夜寝る前に1時間ビデオ通話をすることで決着したけれども……。
教会派閥に属していることになっていて、第一夫人予定の聖羅と過ごせないとなると、有栖やリンゼの家のイベントにだけ参加するわけにもいかない。
そんな事をすれば、やっぱりあの男は貴族社会でのし上がるつもりなんだ!って言われてしまうらしい。
だから、2人とも行動を共にすることが出来ない。
面倒なこっちゃで……。
本当は、明日からの連休中皆でレベル上げにでも行こうと思ってたんだけどなぁ……。
ゲームのイベントがどう絡んでくるかもわからない以上、レベルを上げておくに越した事は無い。
そう思っていたけれど、メンバーが揃わない場合はどうしたもんか?
1人で金稼ぎでもするか?
いや、アレクシアとか暇そうな連中を連れて行けばいいか?
なんて朝から考え込んでいると、本日も部屋に訪問者があった。
ここ数日恒例のファム、会長、理衣……理衣だよな?
「あのっ……おはよう!」
「……おはよう。その耳どうした?」
「これ!?えーと……朝起きたら生えてて……どうしよう……?」
理衣の頭にはキツネ耳が生えてた。
しかも、頭髪が真っ白になっている。
え?なんで?
もしかして俺が前日頭の中でキツネ耳フェチをカミングアウトしたから?
そんなオートで反応するの?
「ソフィアじゃない……ソフィアじゃないよぅ大試君……」
「会長もおはようございます。今日もベッド使っていいんで休んでいってください」
「ごめんね……そうする……」
今日の理衣は、ソフィア(エルフ)にもソフィア(猫)にもなっていない。
ソフィア分が摂取できていない会長がへなへなへなとベッドに横になる。
もちろん俺の腕を極めたまま。
こうなるともはや抵抗など無意味。
極限まで極められた格闘技?によって俺の腕は脱出すること叶わず、関節数が増えないことを祈るのみ。
「ファムは、連休中どうするつもりだ?」
「にゃーはエリザベートお嬢様と王都で食い歩きするニャ」
「それもアリかもな……じゃあその間のお小遣い渡しておくから、護衛も兼ねて頼むわ。何かあったら剣で呼ぶから」
「わかったニャ!にゃーの忠誠心が天元を突破しそうニャ!」
貴族連中の行きたがるような店にもいくかもしれないという事で、かなり多めに100万ギフトマネーを渡すと、喜び勇んで帰って行った。
脳内が一般人である俺にとっては、かなり多い金額だけれど、これで足りる……よな?
それより、金貰った途端女の子2人残していなくなるくせに忠誠心も何もあったもんじゃねーと思うんだが……?
まあいいか……。
「理衣は連休中何か予定あるのか?実家での行事に参加するとかさ」
「私はあんまりそういうのないかな……。お父さん……父には出なさいって言われてるけれど、兄様や姉様たちには、やんわり来ないように言われているし……」
あれ?
なんか重い話題?
ちょっと想定していなかった。
んでも、だったらだったで一緒にレベル上げでもしようか?
侍女扱いでアレクシアも一緒にいるんだろうから丁度いいかも。
「そういや、アレクシアはどうしてるんだ?昨日からそっちに厄介になってるんだろ?」
「あー……えっと、寝てる……。ファムちゃんが揺すっても叩いても起きなかったから置いてきちゃった……」
「えぇ……?森の民ってくらいなんだからそういうの敏感なんじゃ……?いやまて、アイツら一度も自分たちをそんな風に言ってなかったな……。住んでる場所は森の中だったけど、生活は割と俗物的だった……」
まあ、この地に滞在させるためだけの名目だから、いいっちゃいいんだけどさ……。
別に理衣から給料支払われているわけでもないし……。
掛かる諸費用は、俺が出すことになっている。
ところで……さっきからそろそろ我慢の限界なんだ……。
「理衣、頼みがある」
「え?何かな?」
「その耳……触らせてくれ!」
「うぇ!?い……いいけど……優しくお願いします……」
言われた通り優しく触れてみる。
その瞬間ぴくっと反応して動く。
「ひゃっ……ああん……んっ」
俺の部屋に、理衣の艶めかしい声が響く。
いやいやいや、俺そんな卑猥なことしてるわけじゃない筈なんだけれど……?
「なにっ……これっ!こんなの……しらな……いっ!?」
もう少し触っていたかったけれど、いけない何かに目覚めそうだったために強制的に中断する。
危ない……変な劣情を催すところだった……。
「大試君って……キツネの耳が好きなの?」
「かなり。こう……神秘的な感じがするというか……」
「そうなんだ……えへへぇ……」
俺に触られてそんな笑顔になるのはやめた方が良いと思うぞ?
勘違いされるから。
「やること無いなら一緒にレベル上げにでも行くか?どっちにしろアレクシアのレベルを上げないといけないからさ」
「私も行っていいの!?お休み中ずっと一緒!?」
「ずっとって……まあ、それでもいいけど、別に何日かだけでもいいぞ?」
「あ……あのね?ずっと一緒にいてもいいならその方が嬉しいかなって……」
「そ……そうか……?」
え?
何これ?
告白的な?
「話は聞かせてもらったわ……ふぁ……」
「あれ?会長起きたんですか?まだ1時間くらいなら寝てて大丈夫ですよ?」
「ありがとう……でも、大試君の匂い嗅いでたら、変な悪夢も見ずに済むしぐっすり眠れるのよね……。抱き枕のアルバイトしない?」
「しないです。理性がショートしそうなんで」
「してもいいのにー」
「しません」
今日は、腕の関節が増える事は無かった。
どうやら、多少はストレスが緩和されたらしい。
良い事である。
早く理衣に生徒会入ってもらって仕事量緩和すると良いですね。
「それでさっきの話だけれどね?2人とも、連休中私の実家に来ない?」
「会長の実家……例の神社ですか?」
「そうよ。実は、この連休中に神社のイベントで裏山の魔物相手に山狩りする事になっているのだけれど、これが毎年参加者が少なくて困っているのよ。参加したいって人は多いんだけれど、参加できる最低限にすら到達してない人が多くてねー。でも、大試君たちなら大丈夫だと思うの!ちゃんとお給料も出すから!」
「へぇ……なんか面白そうですね。レベル上げもできて素材も回収できるなら美味しいかも?」
「私は、大試君が行くなら構いませんけど……」
理衣、もう少し主体性を持ちなさい。
その言い方だと、俺がいれば何でもいいみたいじゃないですか。
まだこの前の恋がどうこう会長に言われたのを引きづっているのかい?
「それとね大試君」
「なんですか?」
「この行事中は、私は巫女服になります!」
「先輩の巫女服姿……だと……!?」
「ついでに理衣ちゃんにも巫女服を着せます!」
「私もですか!?」
「キツネ耳に巫女服……だと……!?行きます!絶対行きます!」
「えーと……キツネ耳は約束できないかなぁ……?そろそろ解除しようと思ってるし……?」
「えぇ……!?……そうか……わかった。でもまあ、参加しますよ」
「なら決まりね!やった!これでクソめんど……退屈な行事に1人で参加なんて苦行から解放されたわ!」
クソって……。
やっぱり会長はもう少し寝た方が良いんじゃないだろうか……。
あれ?
理衣のそのキツネ耳は解除できるのか?
今日も解除できないから相談しに来てるのかと思ってたけど、もしかして俺に見せるためだけに……?
ええこや……。
その後、登校してから明日からの予定を聖羅たちに話すと、聖羅が理衣を連れて2人で話をしに行った。
何を話したんだろうか?
聖女威圧とか使ってないよな?
戻って来てから聖羅は言う。
「大試、理衣と話はつけておいた。私もこれで安心」
「何の話をつけたんだ何の」
「正妻としての話」
もっとわからなくなった。
「えっとね大試君……末永くお願いします……」
「ちょっとまってくれ!本当に何の話をつけられたんだ!?」
「それは……その……えへへぇ……」
結局わからなかった。
――――――――――――――――――――――
そして今に至る。
移動には、新幹線を使った。
魔物の領域を切り開き結界を張って運用することで、なんとか維持している数少ない交通手段らしい。
それでも、無防備に空を飛ぶよりは安全なんだとか。
北海道新幹線……この世界だとあと何百年かかるんだか……。
いらんか?
人大していないし。
あの感じだと、札幌も函館も無いだろ。
今日のメンバーは、俺、理衣、会長、アレクシア(変装済み)、マイカ(変装に変装を重ねている)となっている。
移動時間は、大体2時間くらいだったけれど、その間にアレクシアとマイカは弁当を5つ食べていた。
「駅弁ってすごいです!ヒューマンソサエティーはここまで発展しているのですね!?」
「……鳥飯弁当……もう一つ買っておけば……!」
見た目は似てないけれど、やっぱ姉妹っぽいな。
食べ過ぎて腹壊すなよ?
「じゃあ皆!さっさと中に入っちゃいましょ!」
そして会長に連れられ神社の敷地内へと入る。
遠くから見てもデカかったけれど、それでもまだまだ距離があった上でデカく見えていたので、広い敷地内を歩けば歩くほど、更に大きく見えてきた。
あの柱とか、1本の木に見えるけれど、屋久杉か何かか?
「これ作るのにどんだけ金かかったんだろ……てか木造だよな?こんなデカい木って……」
「あら?数年前に全体的に改修したけれど、それに使われた木は大試君たちが売ってくれたトレントよ?」
「あー……」
こういう所でアイツらは使われてたのか……。
俺が必死こいて切り倒して乾燥させて皮を剥いだ木材たちは……。
更に進むと、建物の中が見えてきた。
中も広々としていて、まだここからでは全体を見ることはできないけれど、何か大きな像があるらしい。
それを見ようと集中していると、視界外から大声が聞こえた。
「貴様かああああああああ!!!!!!水城を手籠めにした情夫はあああああああああああ!!!!!!!」
え?なになに?何の声?
声が聞こえた方向を見てみると、ムッキムキの体に白装束のおじさんが走って来ていた。
その非現実的な状況にあっけにとられてしまう。
へぇ……高そうな衣装……白い服なのに白い文様入ってるんだ……なんかよくわからないけれどすごい……。
ただ、直後に冷静になる。
何アレヤベー人!?
隣の会長を見ると、「ヤレヤレ……」ってうんざりした表情をしている。
そういう対応でいいの!?
危ない人じゃないの!?
そう思っていると、そのムキムキのおじさんが一瞬で地面に叩きつけられていた。
何が起きたのか全く分からなかったけれど、いつの間にかその隣に巫女服姿の凄い美人が立っていた。
年齢は、20代前半くらいだろうか?
とても会長と顔や雰囲気が似ているから、お姉さんか誰かか?
「はぁ……娘が帰ってきても冷静でいなさいってあれほど言ったのに。皆さんすみませんね。水城ちゃんもおかえりなさい!」
「ただいま帰りました、お母様!」
「まって、この美人さんはお姉さんじゃなくてお母さんなの?」
「まぁ♪水城ちゃん、この方と結婚しなさい!」
「ふふっ、そうしますね!」
「いやいやいや!?」
武田家夫婦とエンカウントした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます