第61話

 管理システムに魔石を投入して、当面のエネルギーを確保しておいた。


 更に、地脈からの魔力供給を行うための施設を移設する許可も出しておいたので、これでエネルギー問題は片付くだろう。


 後の問題は、鉱物資源の枯渇と、それを補給しようにも生き残りのエルフが弱くて外部に採取しに行けない事だな。




 いや、施設作ろうにも鉱物資源無かったら無理なのでは?


 エネルギー問題も片付かねぇじゃん……。


 やっぱエルフのレベル上げはさせないと。




「戦力になりそうなのは、副族長の生き残りの方なんじゃが、あやつももう無理じゃろうしなぁ……」


「私が治そうか?」


「聖女の力か……うーむ……いや、やめておいた方が良いじゃろう。ナノマシンにどう作用するかわからん。奴には可哀想じゃが、大人しくワシと一緒にあの世で餡子パーティでも開かせよう」




 というわけで、意識不明の副族長は放置して、他の弱いのにギャンブルばっかりしている奴らを育てなければならない。


 ただ、レベル上げと言う事に関していえば、この辺りは正直あまり効率がいいわけじゃない。


 生き物として存在している魔物は、ある程度自分たちの縄張りを作って距離を保ちながら生活しているから、ポンポン倒していくのにも限界がある。


 勿論、この辺りの魔物はかなり強いから、下手なダンジョンよりは経験値も稼げるだろうけれど、理想を言えばこのレベルの魔物がわんこそばの如く出てくるようなのがいいんだ。


 この森でのレベル上げは、寿命が長いエルフであればともかく、手伝わされる俺たちにとってそれは辛い。




「レベル上げのためにアレクシアをダンジョンに連れて行こうと思う」


「私がダンジョンへ!?」


「元々報酬は戦力としての協力だっただろ?どっちにせよレベルは上げてもらおうと思ってたけど、アレクシアさえレベルが上がれば、その後はアレクシアが他のエルフたちを手伝って集落の周りでゆっくりレベル上げしていけばいいしさ」




 というわけで、有無を言わさず王都へ連れていく事にした。


 問題は、彼女をどういう名目で滞在させるかだけれど……。




「ならば、理衣の侍女として置いてもらえば良いじゃろう。理衣は家の問題で侍女を持っておらんようじゃからな。使用人室も空いておったし丁度いい。……今本人にも確認して了解を得た」


「流石族長!仕事が早い!……ところで、管理者権限を委譲したら満足して成仏したりするんじゃないんですか?なんか普通に話してますけれど……」


「そういうのはないのう。ワシ精霊じゃし。あと、今この娘の術を解くと、変な方向に力が暴走しそうでのう……。おぬしがあんなイチャイチャを理衣に見せよるから……」


「よくわかりませんが、すみません……」




 どうやら、まだしばらくソフィアさんはいるらしい。


 エルフの問題がある程度片が付いたから、もしかしたらラッキーガールの対象にならないかもしれないけれど、理衣に迷惑が掛からない程度に仲良くしたいものだ。




『犀果様、一つお願いしてもよろしいでしょうか?』




 ソフィアさんと話していると、スマホから声が聞こえた。


 この声は、ピリカか?




『アイと同じように、ピリカもこのスマートフォンという物につながりを持ちたいのです』


「構わないけど、性能的に大丈夫なのか?アイもそうだけど、管理用の人工知能ってすごい高性能なんだろ?スマホ程度のスペックで対応できるのか……?」


『ご心配なく。実はすでにそのスマートフォンは中身が別物になっているのです。アイの魔術科学的な干渉によって、虚数空間で演算処理を行えるようになっておりますので』


「……アイ、マジ?」


『……申し訳ありません。不安にさせないように黙っていたのですが、確かにかなりの改造を施しております。ですが、危険性はないのでご安心ください』


「ならいいけど、今度からは先に言ってくれよ?」


『わかりました』




 というわけで、このスマホにはアイだけじゃなくピリカまで同居することになったようだ。


 たまに謎のバイブレーションが発生しているけれど、これはどういうアクションなんだろうか?




 気を取り直して、エルフの集落を後にすることにした。


 ファムにお願いして、皆でテレポートゲートまで飛んでもらう。


 ここからは、王都まで長距離を一気にテレポートだ。


 一々アレクシアが大きなリアクションで驚いてくれて楽しい。




 所でこの人、いつになったらマイカに気がつくんだろうか?


 こんなに近くに妹がいるのに気がつかないってある?




 マイカ自身はどう思ってるんだろう……?


 俺はコソコソと聞いてみる事にする。




「なぁマイカ、アレクシアに名乗らなくていいのか?」


「……私が妹だとわかると、あの人ずっとほっぺをすりすりしてくるので……今は、存在を誤認する魔術を使っているのでバレていませんけれど……」


「そっか……」




 姉妹百合……ってやつ?


 いや、妹の方は喜んでないから百合乱暴か?


 その手のジャンルはよくわからん。




「アレクシアはさ、何か特技とか無いの?相手を倒せる技とかさ」


「気配を消すのは得意なんですけどね……。相手の急所を攻撃すれば、通常よりも数倍の大ダメージを与えられる技もあるにはあるのですが、圧倒的に私自身の身体能力が足りていないので、いかんせん役に立たないんですよねー。あ、私の能力とかギフトについての情報は他言無用でお願いしますよ?」


「なにかバレたらまずいのか?言いふらすつもりもないけどさ」


「嫌だなー!流石に私のギフトがアサシンだってバレたら周りの目が気になるじゃないですかー!」


「……そっか」




 流石に隙あらば頬っぺたすりすりしてくるアサシンに妹だとバレるのは怖いかもしれん。




 何はともあれ、学園ゲートについたためにこれからの作戦会議だ。


 エリザから焼き鳥弁当をリクエストされたので、見よう見まねで作ってみた。


 まあ、つまりは豚串弁当なんだけども。




 当然といえば当然だけど、非常に好評でした。


 特に、エルフ3人に。




「……お肉……おいしいです……!」


「肉なんてエルフの集落では馬を潰す時くらいしか食べられません……!」


「ワシらがいた頃は、毎日のように食わせていた気もするんじゃが……まあ、確かにこの料理は旨いがな?」




 王都で生活しているのに肉に飢えているマイカは、案外肉食系なのかもしれない。




「じゃあ食べながらでいいから今後の方針を決めよう。何回かアレクシアにはダンジョンでレベル上げをしてもらって、ある程度戦える状態までもっていったら集落に帰って周りと協力してレベル上げしてもらう。それまでは、理衣の侍女って肩書で寮に滞在できるようにしてもらうから……でも、理衣には手出すなよ?これ、フリじゃないからな?」


「出しませんよ!?私は、お互いが幸せにラブラブしあえる作品じゃないと興奮できないんです!」


「作品……まあいいか。理衣……ソフィアさんもそれでいいんだな?」


「そうじゃな。理衣もそれでいいと言っておる。やっとあ奴も心が落ち着いてきたらしいし、今夜寝る前には体を返してやれるじゃろ」


「今理衣に体を返したらどうなるんですか?」


「ネコミミのえっちな衣装で大試に飛びついたりするじゃろうな」


「すまん理衣、もうしばらくソフィアさんに憑りつかれててくれ」




 ラッキーが暴走している……。


 いや、この場合何か他の存在が憑りつくことでそうなるだけなのか?


 理衣本人の意思がどう反映されてるのかわからないけれど、本人が望まないエロ展開は可哀想だ。


 そりゃあんな可愛い娘にそんな事されたら俺はラッキーかもしれないよ?


 でも流石にそういうのは互いにこうさあ……ねぇ……?




「安心しろ聖羅。他の女とそう言う事をするつもりはない。だから俺を監禁しようとしてるような目で睨むな」


「大試、変な女に手籠めにされるくらいなら私がにゃんにゃんしたいにゃん」


「可愛いぞ?でも監禁はされたくない」


「にゃん……」




 ごめんな?


 黙ってたけど、俺はどっちかっていうとキツネ耳派なんだわ。






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