第60話
『なんでソフィアがいるのですか!?』
「フフン!あの世から舞い戻ってやったんじゃよ」
『そんなことあるわけ……でも、反応は確かにソフィアなのです……』
「今のワシは、この体の持ち主であり、そしてワシ自身でもあるからのう」
エルフ管理用人工知能ピリカちゃんは、あの媚び媚びキャラを出すのすら忘れてソフィアと話している。
そりゃそうだろう。
だって死んだ奴が何故か生き返ってるんだもん。
ビビるって。
しかも、学園の生徒たちからしたら伝説の存在であるエルフであっても、ここでは豊富に存在するエルフ。
そんなのが、精霊としてやってきたんだから何事かと思うだろうな。
テレポートゲートからエルフの集落までの道のりを魔物を殲滅しながら進んできた俺達。
俺もレベルが上がったけれど、他のメンバーもかなり経験値が美味しかった様子。
なにせ、ソフィアさんのサーチアンドデストロイっぷりがすごくて俺が何かをする隙すらなかった。
この人に匹敵するとしたら、俺の母さんくらいしかいないんじゃないだろうか?
しかも今の時点で自分の体じゃなく憑りついてる状態での限定的な戦い方だって言うんだから驚く。
「さて、ピリカ!ワシからの最後の指示を出すぞ!」
『最後?戻ってきてくれたのではないのです……?』
「すまんが、これは一時的なもんじゃ。この体も返してやらんといかんし、何より死んだ者はさっさと消えた方が世のためじゃろう?それが自然という物じゃよ。自然の流れで作られたわけではないワシらであってもそれは変えられんし、変えん方が良いじゃろ」
『……了解したのです。マスター、ご指示を』
そこで、それまでの少しだけニヤっとした顔をやめて、きりっとした顔になるソフィアさん。
その凛とした表情で一瞬俺とその後ろにいる娘を見てから、声を出した。
「現時点を以て管理者権限をワシらから、そこにおる犀果大試、栃谷マイカ、リンゼ・ガーネットへと委譲する!」
「後任が決まるまでですけどね」
「……私ですか!?」
「なんでアタシ!?」
「マイカは、ワシと同じ異性愛者だからのう。エルフの色仕掛けでどうこうなることも無さそうじゃろう?そしてリンゼ、おぬしの遠い先祖はワシらエルフの生みの親じゃ。であれば、当代のガーネット家の者を管理者に据えるのは理に適っとるじゃろ?」
なんかとんでもない情報投下された気がしたけど、今それを聞く雰囲気でもないか……。
「アタシの御先祖様がエルフ作ったの!?」
聞きに行ったわ。
「そうじゃな。おぬしにそっくりな女性じゃったよ。おぬしと違って、同性が好きじゃったがのう……。政略結婚で子供だけ産んだと言っていたわ」
「そ……そうなの?まあアタシは、その……異性って言うか……大試が好きなだけで……」
やめろリンゼ。
恥ずかしいから。
『命令を受諾しました。これより、エルフ管理用人工知能ピリカは、犀果大試、栃谷マイカ、リンゼ・ガーネットを管理者とします。ソフィア、長年の献身感謝するのです』
「うむ!」
そこからはスムーズだった。
ソフィアさんを手伝ってピリカのデバッグ作業を行い、ナノマシンの異常が起きないようにした。
これで、100歳以上になってもエルフがナノマシンのエラーで死ぬことはなくなったらしい。
よかったよかった。
「あのぉ……どうして私たちエルフから管理者を選んでいただけなかったのでしょうか……?」
忘れてたけど、そういや今回もアレクシアがいたんだった。
言われてみれば、ここを今の所管理しているっぽいアレクシアも管理者で良かったんじゃないかって気も……。
「いや、今の世代のエルフは機械からっきしじゃろ?しかも皆、可愛い女の子から『お願いお姉ちゃん♡』とか言われたらすぐ言う事聞いてしまうじゃろ?」
「くっ……!否定できません……!あともう一回『お願いお姉ちゃん♡』って言ってくださいソフィア様!」
「『お願いお姉ちゃん♡』」
「ぐふううううう!?」
ダメだな。
早く後任見つかると良いなぁ……。
アレクシアの痴態を眺めていると、俺の隣にリンゼが立った。
なんだか、今日はちょっと悲しそうなんだよな……。
「……大試。アタシ、今日は全然役に立てなかったわ」
「何か気にしているっぽいなとは思っていたけど、そういうことか」
「……だって、アタシの家は魔道具の専門家だし、御先祖様はエルフの生みの親なのよ?なのに、アタシはお父様たちに上手くこの管理システムについて聞くことすらできなかった。情けなくて嫌になるわ……。そんなアタシが、管理者になっていいのかしら……」
聞いたところによると、このエルフの管理システムについて、リンゼは両親にちゃんと聞こうとしてみたそうだ。
ただ、あまり詳しい事を話してエルフの集落についてや、テレポートゲートまでバレてしまいかねないと思うと、あまり上手く説明することが出来なかったらしい。
それを気にして、こうして珍しくシナシナしているようだ。
正直、そうなるんじゃないかと予想していながらも任せた俺としても罪悪感もある。
ぶっちゃけかなり難しいミッションだったと思うんだよな。
だから、別に成功できなくてもどうということも無いんだけど、本人がそうやって納得できるかというと話は別なわけで……。
うーん……。
「リンゼはさ、将来どんな大人になりたいんだ?」
「……何よ突然?」
「リンゼのご両親は、別にリンゼに魔道具造りの道へ進んでほしいわけじゃないと思うんだよ」
「……アタシ、そっち方面の才能無いもの……」
「そうじゃなくてさ、リンゼは魔法を自分で使う方の才能がすごいしさ、きっとご両親もそういう面を伸ばしてほしいと思ってるんじゃないかな?だってさ、魔法使ってる時のリンゼってすごい楽しそうなんだよ。初めて俺の所まで飛行魔法で来た時のあのドヤ顔ときたら……」
「アンタどういう覚え方してんの!?あの時アタシ結構必死だったのよ!?」
知ってるよ。
結構疲れてたし、ちょっと汗くさ……頑張った感じがしてたから。
それでも、あの輝くような表情のお前が忘れられないんだよ。
だから、10年ぶりに会った時にも、すぐにお前だったとわかったんだ。
「リンゼは、魔法使いとして成長していけばいいんだよ。魔道具関係の事はそのオマケくらいの考えで良いと思う。仮にどれも成功せずにいたとしても、俺はリンゼの隣にいたいと思うし、リンゼの事を情けないなんて思わない」
「な……何いきなり恥ずかしい事いってんのよ……?」
「いや、珍しくへこんでるの見て、そう言えばこういう話をリンゼとあんまりしたこと無かったなって思ったから、ついでにイチャつこうかと?」
「ホント……何なのよ……!」
リンゼが逃げようとするので、手を繋いで離さない。
少しの抵抗はあったけれど、すぐに大人しく指を絡ませてきた。
本当に可愛いなコイツ……。
本人曰く女神らしいけど、俺にはただの女の子にしか見えない。
女神みたいに魅力的だとは思うけども。
「お互い自分の事を結構情けないって思ってる同士かもしれないけどさ、これからもよろしくな?」
「……そんなの、断れるわけないじゃない……」
そう言って、俺へと体を寄せてくるリンゼ。
慣れてなくて動きがたどたどしいけれど、それすら可愛らしく感じる。
もう何されても可愛く感じるんじゃないだろうか?
「……ところで、聖羅がじーっとこっち見てるけど、ほっといていいの?」
「大丈夫、あの視線は『後でちゃんと私にも同じことして』って目だ」
「じゃあ有栖のあの目は?」
「『もう片方の手は私が握っても宜しいでしょうか……?』って感じかな」
「……なら、今は私の手だけ握ってなさいよ」
「はいはい」
エルフの集落で割と大変な目にあったけど、まあ、婚約者と仲良くなれたし、悪くなかったかな?
「ワシもそういう事してみたかったのう……今からでもしてくれんか?」
「ごめんなさい。1時間……30分でいいんでそういうノリ我慢してください」
「むぅ……ワシ寂しい……」
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