第59話
「つまり、理衣は今ソフィアさんに憑りつかれている状態って事ですか!?」
「ソフィアさんってエルフなの!?」
「精霊!?精霊なの!?」
「これこれ、そう一遍に話すんじゃない。ワシも返事しきれんじゃろうが。順番に、大人しく、じゃぞ?」
「「「あああ!顔がいいいい!」」」
現在、教室で騒ぎが起きています。
中心には、ソフィア(エルフ)が。
しかも、学生服を着ていて、それが死ぬほど似合っているもんだから、周りのクラスメイト達がどんどん撃墜されていく。
本人曰く、享年は1000歳超えているとか何とか聞いたような気がするけれど、その短めのスカートから覗く長い脚にはシミの一つも見当たらない。
どこまでが理衣の体による特徴なのかはわからないけれど、間違いなく美人だ。
理衣が癒しを与えてくれる美人だとしたら、ソフィアさんは攻めに重点を置いたちょっとクール目な見た目の美人だろう。
小倉トースト食べている時以外は。
朝、俺の部屋にファムによって飛んできた理衣ソフィアさんだけれど、放課後にエルフの集落に行くことにしたため、その間術を解かずに過ごすことにしたようだ。
結果、エルフが教室にやってくるという珍事が起きている訳だけど……。
まあ、本当はマイカというれっきとしたエルフがいるにはいるけれど、上手くばれないように生活しているからなぁ。
俺としては、てっきりソフィアさんの魔法で見た目を理衣に戻して過ごすって事だと思ってたんだけど……。
あ、会長は寝たら案外元気になったらしいので一緒に登校して教室に送り届けてきた。
「大試君の腕って……ソフィアみたいな雰囲気がする……」とか危ない事を言っていたのはスルーした。
ギフトやスキルによっては、霊的な存在から力や姿を借りて戦えるという物も確認されているらしく、ソフィアさんは意外と受け入れられているようだ。
流石に、デカい猫みたいになっているのを見つかったらどうだったかわからないけれど、伝説のエルフという存在だからか肯定的な雰囲気。
見た目も良いしな!
「だから大試も協力してるの?」
「違うって。クラスメイトが巻き込まれてるんだから助けてやるのは当然だろ。見た目で言ったら聖羅だってすごい美人なんだし」
「それは知ってる。大試の理想の女は私だから」
「そうなのか……俺の理想のタイプは聖羅だったのか……俺も知らなかった……」
「そう。だから治すために腕に抱き着くのもサービスしちゃう」
「ありがとうな。腕の関節数がやっと戻ったよ」
今朝の出来事を聖羅に伝えると、風のような速さで右腕にくっついてきた聖羅。
そのまま治してくれるのかと思いきや、その体勢自体が重要だっただけのようで、しばらく回復してもらえなかった。
なんらかの罰らしい。
「いや、皆この状況受け入れすぎじゃない!?アタシがおかしいの!?」
「良いのではないでしょうか?変に騒ぎになるよりは……」
「騒ぎになってるでしょ!?他のクラスからまで見物に来てるのよ!?」
「ねぇねぇ大試!ソフィアから美味しそうな甘い匂いするんだけど何!?」
「多分小倉トーストの匂いじゃないか?いっぱい食べてたし……」
「小倉トースト!?何それ!?」
「……エルフの集落の名物……です……」
「そうなの!?じゃあ今日行ったらウチも食べよっと!」
そしてこっちは、既にエルフに良いだけ接触したグループ。
他のクラスメイト程には、エルフで取り乱したりはしなくなった。
「おーい席に着けー。出席をと……誰だ!?」
「そふ……猪岡理衣じゃよ?」
「いや絶対ちげーだろ!?」
「イメチェンじゃよイメチェン。大体、魔力が登録されていない者は校舎自体に入れんように術がかけられておったようじゃし、ここにいるワシが部外者と言う事はまず無いと思うんじゃがの?」
「それは……そうなのか?でも見た目がなぁ……世の中そう言う事もあるか?」
世界の不思議の前に、担任は負けた。
――――――――――――――――
昨日狩ったイノシシは、魔石と食べてしまった肉を残して全て売り払うと、大体300万ギフトマネーだった。
流石に、前回のアホみたいにデカい鹿ほどではなかったけれど、中々の値段になったな。
狩りの貢献度から計算して、マイカに売却額の7割。
解体を1人で行ったエリザに2割。
残りの1割を他のメンバーで山分けと言う事にした。
「……こんなにもらえません……!」
そういってプルプル震えていたマイカだったけれど、無理やり押し付けておいた。
実際1人で狩ったわけだし、その程度は当然受け取るべきだろう。
寧ろ、手伝わなかった俺達までおこぼれを貰っている方がおかしいかもしれないんだから。
いや、鞄にいれて持ち運んでいた聖羅、リンゼ、有栖は仕事したと言えるかもしれない。
だけど俺はマジでなんもしてないな……。
まあいいか。
「ヤッター!これでウチも小倉トースト買えるー!」
「お嬢様!ニャーも買ってほしいニャ!」
「えー?ファムは自分でお金だしなよー」
「そんにゃあ……」
「ウソウソ!一緒に食べよ!」
「やったニャー!」
魔族は煩かった。
――――――――――――――――
そして放課後、俺達は早速とばかりに帯広テレポートゲートへとやってきていた。
なんとか今日中に解決して、今週末はゆっくりしたいもんだ……。
だってさぁ!まだ入学して1カ月経ってないんだぜ!?
盛りだくさん過ぎるよこの世界の元になったゲーム!
まさかだけど、全部のシリーズのイベント持ってきてるわけじゃないよな……?
「改めて、ワシが十勝エルフ第12代族長!冥夜のソフィアじゃ!」
ババーン!という爆発を背負いながら自己紹介をするソフィアさん。
因みに、こっちに来る前にも自己紹介はしているけれど、この爆発演出ありでやり直したかったらしい。
「うむうむ!皆良い顔をしとるのう!大試の好みがわかるようじゃ!」
「余計な事言ってないで行きませんか?俺がへそを曲げますよ?いいんですか?」
「おっと、怖い怖い。では、皆もワシに続け!久しぶりの攻撃魔法じゃから腕が成るのう!」
ここに来るまでに、ソフィアさんと皆でパーティーを組んでいる。
道中の敵を殲滅していくとのことで、経験値をバンバンくれるそうだ。
その代わり、魔石を回収していってほしいらしい。
流石に奇麗に解体していく時間は無いから、魔石以外は打ち捨てていく事になるだろうけれど、経験値だけでも貰えるならありがたい。
「ふむぅ……。やはり元の体と違って、魔力は理衣の体に依存するようじゃな。これは、節約する必要があるのう。人間としては間違いなく魔力が大量にある方なんじゃろうが、流石にワシと比べるのは可哀想よな。となれば詠唱をして無駄を無くしながら最高効率で急所狙いじゃな……『光無き地獄の皇帝よ、その力を以って我が眼前の敵を貫き魂を喰らえ。闇刺突死ダークリーパー』」
ソフィアさんがいきなり厨二病っぽい詠唱とともに指をパチンと鳴らすと、黒い閃光が遠くのイノシシを貫き、そのまま絶命させた。
一見マイカのクラウ・ソラスによる攻撃のようでもあるけれど、こっちは魔眼や神剣など使わずに、素の魔法のみで倒しているようだ。
そして、その技で疲労した様子は全くない。
エルフの体じゃなく、人間の理衣の体を使ってこれをやっているんだからこの人はヤバイ……。
「まあこんな所じゃな。魔石の回収を頼むぞ!」
「ウチやってくるねー!」
エリザが嬉々として解体しに行った。
昨日の豚丼を甚く喜んでいたようだから、肉だけでも採ってこようとしているっぽい。
愛い奴め。
俺は俺の作る料理を喜んで食べてくれるやつには優しいんだぞ?
「あれ?俺今のでレベル上がったっぽいわ」
「ほう、大試はレベルが上がると剣が貰えるんじゃったか?」
「ランダムですけどねー。あ、ソフィアさん引いてみません?俺自身でやると大抵木刀なんで、最近は毎回他の人たちにやってもらってるんですよ。この紙を破ってもらえればできるんで」
「引くじゃと?紙を破る……?まあいいんじゃが……おお!?なんか出てきたぞ?」
「剣ガチャです。ここから出てくるカプセルに剣が入ってるんです」
「ほうほう!これはポンポン引きたくなるのう!」
「ただ、ポンポン引いた結果全部世界樹製木刀だと寝込みたくなりますよ」
「運があるんだかないんだかわからんのう」
そして出てきたカプセルを開く。
冥剣(SSR):冥界と顕界!あの世とこの世を行き来する鍵!ただし行き来できるのは神と精霊と魂だけ!肉体は持って行けない!装備時に身体能力を100%増加!
何これ怖い。
ファンタジーじゃなくてこれホラーだろ?
使うと体中に蛆が湧いてる死んだはずの愛しい妻が追ってくるとかそういうのだろ?
「これ……どうなんだろうなぁ……?」
「なかなか良い剣じゃのう!」
「そう……?ソフィアさんがそう言ってくれるならいいけど、俺ホラー苦手なんだよね……」
「まあ、いつかその剣の真価が分かる時がくるじゃろ。ワシもその時を楽しみにしとこうかの!」
「ホラーゲー展開かぁ……こないでくれぇ……」
「もっと嬉しい流れじゃとおもうぞ?おぬしも楽しみにしておくといい」
意味深な事を言いながらニヤニヤするソフィアさん。
この人にはいったい何が見えているんだろうか。
怖くて聞けない。
そうこうしているうちに、どうやらエリザが魔石を取り出して戻ってきたようだ。
ただし、手に持っているビニール袋には大量の肉が入っているのが見える。
エリザ自身よりあの肉の方が重いんじゃないか……?
「大試ー!今日は焼き鳥弁当っていうのがいーなー!」
…………しゃーなし!
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