第58話
「そう言われてものう……。ワシ、恐らくおぬし等の曽祖父さんや曽祖母さんが生まれる前からソフィアなんじゃが……?」
「そうじゃない!そうじゃないの!ソフィアはソフィアなの!私の癒しなの!」
「うむぅ……?」
すみませんソフィアさん。
ちょっとこの娘こっちで引き取りますね……。
「ちょっと!離して大試君!ソフィアが!ソフィアが!」
「落ち着いてください会長。ソフィアは、天国に行って女神の使いとなり、こうして人に近い姿を得て戻ってきてくれたんです。そんなソフィアに、そうやって取り乱した姿を見せたらだめですよ。安心してソフィア自身の役割を全うできるように応援してあげないと」
「……そ……そうよね……そうかしら?そうよね……うん、きっとそう……なの?」
「ええそうです。現に自分でソフィアと名乗っていたでしょう?さぁ、会長は少し休んでください。俺のベッド使っていいので。登校しないといけない時間になったら起こしますから」
「あ……そっか……私、寝てもいいんだ……うん……ごめんね大試君……ソフィア……」
そして、無防備に即熟睡を始めた会長。
何故か俺の腕を放さずに寝ているけれど、可愛く握っているとかじゃなくてほぼ極めているために非常に痛い。
万が一の時は、聖羅に直してもらえばいいか……。
いや、本当に大丈夫かこの人?
いよいよもってヤバくないか?
猫効果で誤魔化せていただけで、本質的にはどうにもなってないんじゃ……?
そりゃそうか。
なんだ猫効果って?
自分で言ってびっくりしたわ。
「ようわからんが、人間の若者も苦労しとるんじゃな」
「まあ、色々あったんですよ。それで、お話を伺っても宜しいですか?」
「おお!そうじゃったそうじゃった!ちょっと面食らってしまったが、本来の目的も達成しておかんとのう!」
そう言うと、ソフィアと名乗ったそのエルフさんは、指をパチンッと鳴らした。
すると、どこからかテーブルと椅子が部屋に出現し、まるで当然であるかの如くそれに着席する。
更にもう一度パチンッと指を鳴らすと、今度はティーセットが現れ、香りを楽しむように口に含みだした。
この時点で、演出としては十分なんじゃないかと思ったけれど、ソフィアさんはさらに指を鳴らす。
すると、餡子がたっぷり乗ったトーストが出現した。
「ふふふ、やはり朝はこれよの……。まさか、またこうして十勝産エルフ小豆100%小倉トーストを食べることができるとは思わなんだ……」
「それが本来の目的なんですか……?」
「いや違う。しかし、腹を満たさんと話などできんじゃろう?」
そうかな?そうだろうか?
明らかに至福の顔で口の周り餡子だらけにしながら食べてるけど、本当にこれが目的じゃないの?
その後、小倉トーストを3回ほどおかわりするエルフ。
大体10分ほどだろうか?
その間、俺の腕からは2回ほど変な音がした。
会長って、格闘技の経験でもあるのかな?
そして、いつの間にかファムがいない。
アイツ全部押し付けて逃げやがったな……?
「……ふぅ。さて、何から話そうかのう……?」
「では、好きな相手の性別について教えてもらえますか?」
「何?性別……性別?ワシは男が好きじゃぞ?エルフの中では、圧倒的に少数派じゃったがな。故に子もおらぬ。因みにいうと、おぬしは割と好みじゃ。孕ませてくれんか?」
「いえその……その体は、理衣って女の子の物らしいので、勝手にはちょっと……」
「本人も望んでいるようなんじゃがな……まあ良い。それより、管理システムについての話じゃ」
あれ?
もしかしてこの人凄い重要な人物なのでは?
そういや、カッコいいポーズと会長のせいで忘れてたけど、族長とか言ってたような……?
「是非是非お聞きしたいです!」
「そうじゃろうそうじゃろう!恐らくじゃが、この娘の力は、自分の周りの物を幸せにするために霊界の者を呼び出すようなものなんじゃろう?だからこそ、おぬしが求めている情報を持っているワシが呼べたんじゃろうし。都合の良い娘もいたもんじゃ。女神に感謝じゃな」
ソフィアさんはそう言うと、指をパチンッと鳴らしてテーブルやティーセットを消し、今度はベッドに腰かける俺の横に座って来た。
砕かれかけている俺の右腕とは逆の左腕に自分の腕を絡ませながら。
「……あの、やわらかい物が当たっているんですけど……?」
「安心せい。この体の持ち主にはちゃんと了解をとって……何?言ったらダメじゃと?……これは、ワシの意志による押し付けじゃ。今後触りたいときは、本人に了解を得てからにすると良い」
やっぱりラッキーガールって俺にとってのラッキーを届けてくれるやつなんじゃないのか……?
しかも、適度に相手からの押し売りとして処理されそうな塩梅で調整してくれている……やはり神スキル……!
「さて、おぬしは大試というんじゃったな?」
「そうです。名乗りましたっけ?」
「そこのグーすか寝てる娘がな。それに、おぬしがエルフの集落に来たのもあの世から見とった。あの世と言っても、実際に死んでみたらこの世と殆ど一緒の場所にあるだけじゃったんじゃが……少しずれている場所というか……」
「幽霊ってそう言う事できるんですね」
「幽霊ではないぞ?ワシは精霊じゃ」
「精霊……?」
ソフィアさんによると、精霊とは霊の中でも強い力を持った者が辿り着く存在であり、人類が至ることは極めて稀らしい。
ただ、エルフはその限りではないそうだけれど……。
そういえば、エルフは精霊と親和性が高いんだっけ?
ファンタジー……。
「長期間霊として活動しておると自然と精霊になってしまうんじゃよ。ワシは、死んだその日から精霊じゃったけども」
「いつ頃亡くなったんですか?」
「2年程前じゃったな」
「割と最近ですね……例の流行り病でですか?」
「そうじゃ。じゃがまさか、ワシと一緒に副族長の2人も片方は死に、もう片方は意識が戻らないなんて事になるとは思わなかったのう……症状が出てから死ぬまで1時間も無かったわい……」
それ……どんだけヤバイ病気なんだ?
感染症は、適度に症状がゆっくり出る方が感染が広がりやすいっていうけれど、発症して1時間で死ぬとなると、それはもう生物兵器の類なんじゃないだろうか?
「その病気って、人間にも感染するんですか?一応エルフの里にいる間は、感染症を防ぐ能力を仲間には使っていたんですけど」
「それはないのう。なんせ、この病気は実を言うと流行り病ではなく、エルフの体内にあるナノマシンが原因じゃから」
「……それはつまり、ナノマシンを統括している管理システムが原因ということですか?ピリカが犯人……?」
「それはちょっと違うのう。ピリカは、あんなんでも何とかしようと必死じゃったよ。じゃけど、いくら高性能な人工知能とは言え、何百年、何千年と己だけで稼働しておれば、その内深刻なエラーも出るもんじゃ。それがたまたまナノマシンに関連する部分で、尚且つ本人にもどうしようもない場所であっただけじゃな。管理者以外弄ることが許されないブラックボックス化した範囲だったんじゃよ。ワシが生きていれば何とかなったんじゃがな。ワシが死んだあと、影響は100歳以上のエルフにしか現れなんだから、混乱を抑えるために流行り病としたわけじゃろうよ。実際、ワシらを殺すために入れ込まれている物じゃから、ウィルスと大差ないしのう……」
そこまで言って、ソフィアさんはさらに腕に力を入れて、やわらかい物を強く押し付けてくる。
「大試、頼む。ワシと一緒にエルフの集落まで行き、管理者権限を引き継いでもらいたい。その上で、デバック作業を行ってもらいたいんじゃ」
「手伝うって言っても、俺はプログラマーじゃないんでその辺りのことよくわからないですよ?」
「そこは心配いらん。ワシがプログラマーじゃから」
「……え?エルフってプログラマーになれるんですか?てっきりそう言う機械とか使うの苦手な存在なのかと……」
俺の少ないファンタジー知識だとそうだった。
両腕が幸せと激痛に苛まれていて脳がエラー起こしそうな状態でも思い出せる程度に。
「苦手じゃよ?じゃけど、族長や副族長になるには、どうしても管理システムを弄れる能力が必要じゃからな。苦手だとしてもそりゃ命がけで覚えるじゃろ?大体、ワシら人間より頭いいしのう」
くっ!
これだからナチュラルボーン高性能共は!
「いいなー……俺も勉強したらしただけするする知識が身に付く頭が欲しい……」
「頭が死ぬほど良くなる術をかけてやろうかのう?」
「なんか怖いんでいらないです!」
「つれないの……」
結局、今日の放課後にまたエルフの集落に行くことになった。
会長が抱き着いていた腕は折れてた上に、涎でベチョベチョになっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます