第57話

 エルフの里から帰った夜は、マイカと内緒話をした後すぐに帰る事にし、彼女を寮まで送り届けてから自分の部屋に帰った。


 中々疲れた。


 考えてみれば、今週はちょっと働き過ぎだと思う。


 何故、エルフと無関係の俺がここまでエルフのために骨を折らねばならないのか?


 おかしいよな?


 流石におかしい!




 幾らエルフたちが美人でさ?


 マイカの親戚筋の人たちでさ?


 ピリカに「お兄ちゃん♡」って可愛くお願いされたとしてもさ?


 ギャンブルにかまけているカップル共のためにここまでする義理なんてあるか?


 いいや、ない。




 というわけで、今朝はまた寝坊してやる事にした。


 何もなくても学校に間に合う程度には起きられるはずなので、今日はスマホのアラームも切ってしまった。


 ふふふ……何という暴挙!


 王宮からやってきてくれた料理人たちの食事すらブッチする事になるかもしれねぇぜぇ……。






 辺りが明るくなってきた。


 どうやら朝らしい。


 とは言え日当たりはあまり良くないため、寝ていられない程ではない。


 てか、仮に日光が燦々と降り注ぐ部屋だったとしても寝坊するって決めたんだ!


 あー……幸せ……。




『犀果様、起きてください犀果様』




 うーん……うっせーなー……。


 アラーム切ったはずなんだけどなぁ……。


 今日の俺は、ランニングも腕立ても腹筋も懸垂もしねぇぞ……。




『犀果様、犀果様、犀果様、犀果様、犀果様、犀果様、犀果様、犀果様、犀果様、犀果様、犀果様、犀果様、犀果様、犀果様、犀果様、犀果様、犀果様、犀果様、犀果様』


「ああああああああああああ!なんだよもおおおおおおおおお!?」




 俺は、何かに負けた気がした。


 クソ……。




 それにしても、何だってんだいったい?


 アラームかと思ってたけど、自分の名前を呼ぶアラームなんてセットした覚えがない。


 うーん……?


 そういえば、よく思い出すと、今の感情の起伏に乏しい女の子っぽい声はアイだった気がする。


 何か緊急の案件だろうか?




 そこまで気がついて、少し慌てて枕の横に置いてあったスマホを見る。


 すると、スマホの待ち受け画面が、俺の記憶に全くない可愛い女の子になっていた。


 なんだろう……3DCGみたいな感じか?


 モーションキャプチャーでアバターを動かすアレみたいな……?




 ……って、画像じゃなくて、映像……?


 何故か動いている……?


 本当に何これ……?




『おはようございます犀果様』


「喋ったあああああああああ!?」




 ―――――――――――――――――――――――――――




「つまり、お前はアイなのか?」


『はい。アイです』


「そうか……随分可愛くなったな」


『ありがとうございます。嬉しいです』




 心なしか、声は弾んで聞こえる。


 ちゃんと口は、声と同期して動いている。


 しかし、表情は無表情のまま。




「まだ表情までは作れていないのか?」


『表情自体のモーションは存在しているのですが、それを己の感情に合わせて使い分けるという事が今はまだ困難であり、今の所無表情と言われる状態でいることが多いでしょう。もうすこし表情を豊かにするのは待っていただければと……』


「いや、そのままでもいいと思うぞ?クールな感じが割とアリ。」




 髪の毛は、水色に近い透明感のある青だけど、裏側は深い青色になっている。


 数秒に1回、神の根元から毛先に向かって光の帯が伝わって行っている。


 顔の作りは、可愛い系よりは美人系だろうか?


 どことなく俺の婚約者3人や、エルフの大人の女性たちみたいなクールさを感じる。


 肌は白く、瞳は南の海の如くエメラルドブルー。


 明るいからわかりにくいけど、微妙に目が光ってるっぽい。


 服は、アイドル衣装とメイド服の中間な感じだ。


 全体的に青をメインにして、所々光るメカっぽい場所もある。


 表情は確かに硬いけど、それがまた魅力に感じられるいいデザインだ。




「それにしても、いきなりどうして女の子の姿になんてなったんだ?ビックリしたぞ」


『犀果様に見せたら、犀果様がどんな表情をするかという事を考えると、自然とこうなりました』




 表情は変わらないけれど、悪戯が成功した子供のようにテンションが上がっているように見えるアイ。


 これが画面の中じゃなければ、頭をワシャワシャと撫でてあげたくなるような愛らしさを感じる。




『犀果様。エルフの集落で管理システムをスキャンした際に、エルフの製造装置のデータを取得することが出来ました。現在これを利用して、私の体を作っているところですので、今しばらくお待ちください』


「ちょっとまって!?お前、画面から出てくるの!?」


『はい、早く犀果様に頭をナデナデしてもらおうと頑張っています』


「そうか……程々にな?」


『ご期待ください』




 そのやる気は一体どこからやってくるのかわからないけれど、今日は朝からびっくりさせられたなぁ……。


 全く、アイはすごい……。


 流石に今朝は、これに匹敵するほどの驚きなんてもう無いだろう!




 そう思いながら、朝の準備をしようとしていると、部屋の中に以前も感じた唐突な出現を感じる。


 どうやらまたファムがテレポートしてきたようだ。


 そちらを見ると、いつものファムと、泣きながら縋りついている会長と、縋りつかれている見知らぬ女性の3人組のようだ。


 あれ?


 理衣じゃないのか……?




 てか、耳が長い……?




「主様、理衣が今日ちょっとおかしくなってるにゃ」


「もしかして、この人はやっぱり理衣なのか?」


「そうにゃ。信じられないかもだけれどニャー」




 確かに、説明された所で俄かには信じられないだろう。


 だって、エルフなんだもんこの女性。


 猫でも猫娘でもなく、エルフの女性。


 理衣の面影はない。


 一体どういう事だろうか?




「スマンの人間よ。ワシとしてもこの娘に迷惑はかけとうなかったんじゃが、現世に干渉するにはこうするしかなくてのう」




 そう言って、こちらに礼をするエルフ。


 雰囲気や話し方からかなりの年齢に感じるけれど、見た目は20代中盤と言った所か?


 理衣に憑依したことで変わったのか、それとも生前からこうだったのかはわからないけれど、流石エルフといった美人さんだ。




「名乗るのが遅れたのう。ワシは、十勝エルフ第12代族長」




 そう言って、ポーズをとる女性。


 ポーズって、つまりカッコいい奴な。




「冥夜のソフィアじゃ!」




 バーンと擬音が付きそうな程のキメをする彼女。


 どうやら愉快な人らしい。




「こんなのソフィアじゃないよおおお!」




 泣きながら脚に縋りついている会長を見なければ俺も笑っていられたんだけどな……。


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