第56話

 本日のまとめ、妹モノにハマる奴の気持ちがちょっとわかった。




 ピリカのヤケクソ媚びボイスでへにゃへにゃになったアレクシアを残し、俺達はエルフの集落を後にした。


 中々面白い所だったけれど、問題が山積みだったなぁ……。




「とりあえずさぁ、あの競馬場にいた奴等全員、地獄のレベル上げさせた方が良いんじゃねーかな?」


「週3日は多い。私と大試じゃないんだから、デートは週1日にするべき」


「デートの話だったのか?俺は、やる事もやらず賭け事に興じすぎだろって言いたかったんだけど……」


「あそこにいた人たち、殆どがカップルだった。手を恋人繋ぎしてた」




 ヤルことはヤってたってことか!?


 んだあいつら!


 自分たちが危機的状況だってわかってんのか!?




「管理者権限に関しては、アタシの家族に聞いてみるわ!」


「頼む。俺にはチンプンカンプンだった」


「アタシにもよくわからないんだけれどね……。アタシじゃなくて家族が詳しいだけだから……」




 この感じなら、リンゼから下手に高性能管理用AIについて漏れる事はあんまり無さそうか?


 うまく説明できなさそうだし。




「アンタ、今失礼な事考えなかった?」


「リンゼって可愛いなって考えてた」


「……はぁ!?」






 ――――――――――――――――――――――――――――






 さて、今日は帰る前にやりたい事があったんだ。




「マイカ、この前渡した剣で魔獣狩ってもらっていいか?そこらにいる奴らならどれでもそこそこデカいっぽいから良い。魔石や素材を回収したい」


「……わかりました。頑張って、魔石を集めます……!」




 フンスと気合を入れるマイカ。


 その虹色の不思議な瞳で周りを見渡すと、徐にクラウ・ソラスを構える。


 これ、魔眼で障害物も何もかもすっ飛ばして獲物を見てるんだよな……。


 正直、滅茶苦茶カッコいい……。




「……いきますっ!」




 そして、鋭い閃光を放つ。


 何を狙ったのか、ここから肉眼で見ることはできないけれど、大木をぶち抜いてお構いなしに撃ち込んだのはわかる。


 相変わらず、この剣のレーザーみたいなのの貫通力は凄いな……。




「……仕留めました。大きなイノシシです」


「おー、流石!眩暈とかはないな?」


「……問題ありません。やはり、魔術との併用と違い、自分の脳に負荷がかからないのであればなんとかなるようですね」




 以前にも一応確認はしていたけれど、ちゃんと生き物相手であっても使い心地は悪くなさそうだ。


 これで、折角の有能な魔眼持ちが最初からダウンなんて自体は避けられそう。


 あとは、移動にバスを使わせない事かな?


 ……いや、UNOとオセロをやらせない事か……。




 マイカに案内されて獲物の場所へ向かうと、以前俺が倒した巨大イノシシ並みのサイズのイノシシが倒れていた。


 クラスメイトの女子たちを追いかけまわしていたアレ。


 倒した後森の中を引っ張りまわすのが大変だった奴……。




 村雨丸を使って血液を操作し抜き取ってみる。


 生きてる相手だと相手の魔力の関係か上手くできないけれど、死体であれば問題なく体内の水分もある程度操れるらしい。


 流石に生きてる相手の体内にある水分を操れるのは酷過ぎると女神にデチューンでもされているんだろうか?


 いずれにせよ、血抜きがしやすいのは良い事だ。


 野生のイノシシなんて、血抜きが下手だと生ごみ以下だからさ……。




「大試!ウチが解体していい!?」


「いいけど、エリザってそういうのできるのか?お嬢様だったんだろ?」


「自分でやらないと美味しくない物しか出してもらえなかったからね!」


「不憫……」




 エリザがどこから出したのかデカい包丁を持ってイノシシへと向かう。


 自分から言い出した通り、その腕前は中々の物らしく、デカいイノシシがどんどん解体されていく。


 そして、あっという間に肉と骨と毛皮、そして魔石に分けられた。


 因みに、内臓は即埋められていた。


 エリザは、やり切った顔でニッコニコだ。




「ファムは手伝わなくてよかったのか?エリザって魔王の娘なんだろ?」


「ニャーはもう大試様に隷属する哀れな魔族だからあんなきったねーことしませんニャー」




 ここにいる女性の中で一番ワイルドな見た目してるくせに……。


 しかも、一応肩書は侍女なのに……。




 いや、侍女はイノシシ解体しないか?


 ならしゃーなし!




 その後、イノシシの素材を有栖達のかばんに入れてもらってからテレポートゲートへ移動。


 そこで、数人の強い希望で今日はこのイノシシの肉で豚丼を作れと言われ、二日続けてかぁ?と思いつつも渋々作って食べさせる。


 熟成もさせていないからどうかと思ったけど、特に問題もなく美味しかった。


 しっかり熟成させたらどれだけおいしかったんだろうか……。




「そういえば、北海道で豚肉といえば焼き鳥弁当なんてもんもあったな」


「あーあれだっけ?豚串の!」


「そうそう!俺も食べたこと無いけどさ」


「どうして焼き鳥なのに豚串なのですか?」


「昔は、鶏肉よりも豚肉の方が入手しやすかったから、鳥の代わりに豚を使ったって聞いたな」


「でもこんな大きなイノシシ、普通の人は倒せない」


「いや……イノシシじゃなくて豚な……」


「大試!ウチおかわりしていい!?」


「持ち帰りも可」


「ニャーは豚串ならタレもいいけど塩コショウがいいニャー」


「塩コショウしてからタレも美味しかったぞ」




 とりあえず腹が満たされた所で解散とする。


 ファムに皆を寮まで送ってもらった。




 1人を除いて。




「それでなんだけどさ、マイカってエルフか?」


「……え!?」


「いや、ピリカが言ってただろ?魔眼もちをダメもとで人間の街へ送り出したって。アレってマイカの事じゃないのか?」




 だって、魔眼持ちが早々いっぱいいるとも思えないし、システム復旧直後アレクシアと一緒にぴょんぴょんしてたもん。


 魔石回収にも意欲的だったし……。




「何よりさ、同年代の中では体が小さめだし。エルフの成長が遅いからなんだろ?」


「……いえ、エルフは20歳くらいまでは人間と成長速度はかわりませんが……?私も耳を幻術で誤魔化している以外は普通です……」


「……」




 気を取り直して!




「どうやって王都まで来て学園に入学できたんだ?戸籍とかあったのか?」


「……管理システム様に送り出される前に、私のデータを改ざんするウィルスが入った端末を渡されました。人間社会のネットワークのどこかに繋げるだけで、人間社会に私が15年いたことがデータ上明らかになるようになっていました。それと、この目も管理システム様によって解放されたものです。エルフは元々こういう事が出来るものだったそうですが、世代を経るごとに強制開放しないと使えなくなったとか……。私の場合は、あの集落で一番情報技術に強かったために選ばれ、単体で王都まで辿り着くのは難しいとの判断から魔眼を解放して頂いたという風に聞いています。集落を出てからは、人間の村から出ていた木材の運搬船に乗り込んで王都まで行きました」


「へぇ……え?木材の運搬船?」




 なんか聞いたことある気がするな?


 そう……凄く身近な所で……。




「それって、人間の村から運び出された木を本州へ運び出すやつ?」


「……だと思います。とても強い人間たちが住んでいる村でした。ステルスの魔道具を使っていたのに、その中の魔法使いと目が合いましたから……」


「あー……」




 それって、俺の出身地じゃないでしょうか?


 しかも、目が合ったのは俺のママンじゃ……?




 やっぱりあの開拓村は北海道だったのか!


 しかも帯広とかいうとこにあったか!




「いやー良い事聞いた!」


「……あの、この事は内緒にして頂けると……」


「別に広める気はないぞ。確認したかっただけ。なんで秘密にするのか興味はあるけれどな」


「……それは……その……いつまでも技術者も情報も持ち帰ることが出来なくて、自分が情けなかったのと……その……」




 そこまで言ってから言葉を一旦やめ、恐る恐るという目でこちらを見上げるマイカ。




「……エルフの中だと、体が小さくて発育が悪いほうがモテるんですよ……私は、同性愛者ではないので……圧倒的に少数派ですが……」


「あー……」




 そういえば、アレクシアも色々やばかったもんなぁ……。


 ピリカの妹キャラで媚びてるだけの声にデロデロになってたし……。




「アレクシアにマイカが『お姉ちゃん♡』って言ったらショック死したりしてな」


「……いえ……その……あの人は実際に私の姉で……」




 美人だって事以外似てない姉妹ですね……。




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