第63話
俺達は今、やけにデカい神社の本殿だか拝殿だかとは別の建物、恐らく会長一家のお家にいます。
恐らくというのは、これはこれでデカい上に、リンゼの家とはまた別のタイプの和風なデカい豪邸なもんだから、神社の建物であるという可能性も捨てきれないというだけです。
前世で言えば、時代劇で京都の御所とか言って映される様な建物だ。
2階部分が殆どなく、ほぼ全てが1階建てでとにかく土地を贅沢に使っている。
それだけでも既に威圧感たっぷりだけれど、現在、そんな建物の中で年頃の女性のご両親と対面で座っている訳です。
しかも、父親の方は明らかに敵対的……というか、最早これは殺意を持っていると言っていいだろう……。
「じゃあ皆、改めて紹介するね?こっちの大試君が私の姉だって言ってくれた人がお母様で、そのお母様によって地面にキスしてたのがお父様よ」
「初めまして皆さん、娘が何時もお世話になっております~。私が水城のお母さんの絹恵です。こっちの煩いのが夫の信蝉よ。」
「む゛ー!!!!むむ゛ー!!!!!」
改めて聞いても、やっぱりお母さんはお姉さんにしか見えない。
精々が女子大生って見た目だ。
なのに、本人曰くもう38歳らしい。
どう考えても、高校2年生の娘がいる人妻には見えない。
そして、隣で縛られながらもこちらを睨んでくる大男、先輩の父親なんだけれど、先輩とは似ている要素がまるで無い。
どちらかといえば、筋骨隆々さは国王に近いものがある。
因みに、奥さんより年下の36歳らしい。
こう見えても普段は、というか娘が絡まない時は冷静沈着でクールな性格らしいんだけれど、本当だろうか?
どうみてもバーサークしてない?
怖いので、父親の方と目を合わせないようにしながら自己紹介をする。
「初めまして、犀果大試と申します。水城先輩にはいつもお世話になっており、今回も丁度面白そうな行事があると誘われてお邪魔してしまいました。これから数日間よろしくお願いします」
「あらぁ!水城ちゃんがお友達連れてきたのなんて初めてだからこっちも嬉しいわ!数日なんて言わず、何日でも好きなだけいてくださいね!」
「いえ、連休が終われば学園に戻りますから……」
「そう……残念ね……」
そこから、他のメンバーたちも自己紹介していった。
先輩から、この辺りの部分はかなり巻きで行ってほしいと言われているため、皆必要最低限のものだ。
ベストは、父親に会わないように紹介を終えてさっさと滞在予定の部屋に連れて行きたかったらしいけれど、その目論見は速攻で潰されているわけで……。
不幸中の幸いで、母親が父親の近くにいたから止めてくれたけれど、アレが無ければ先輩が父親を地面にキスさせていたらしい。
父親……ってことは、この人って侯爵なんだよな?
侯爵に対してこの対応と言う事は、普段からよっぽど積み重ねた何かがあるんだろう。
「本当は、ゆっくり皆さんからお話を伺いたい所なのですけれど、今日うちは大忙しなのよね……。旦那は、こんなことになっているし……」
そう言って奥さんは旦那さんの方をちらっと見る。
ほんと、何でこんなことになってるの?
「でも安心してくださいね?皆さんの部屋には私が結界を張りますから。この人を絶対に通さないように設定されたものを!」
「お母様は結界の専門家なのよ。様々な場所でお母様が作った結界が今も平和をまもっているわ」
「へぇ……巫女服姿が物凄く似合っているだけありますね」
「いやぁねもう!そういうのは娘に言ってあげて!」
「まだ巫女服姿見せてもらってないんですよ。それを見せてもらうのも今回の報酬の一つで」
「楽しみにしててね?」
終始にこやかに会話を終えた。
お母さんからの印象は悪くなかったと思う。
だけども……。
「む゛ううううう!!!!」
こっちはダメだ!
馬用の麻酔薬を打ってくれ!
「うぅ……なんで先輩のお父さんはあんなに大試に怒ってたの……?」
「ヒューマンにも色々いるという事でしょうか……?できれば関わりたくないですね……」
「……お茶菓子美味しい……!」
気配を消して話を振られないようにコントロールしていた3人娘たちにとっても、この手の人間に会うのは初めてのことだったらしく相当驚いていた。
お茶菓子を俺の分まで食べていたマイカを除けばだけど。
エルフは、普通の人間と比べるとエネルギーを大量に摂取しなければならないらしく、今まではかなり我慢していたけれど、もう俺にエルフだってこともバレたしと割と開き直って存分に食べることにしたらしい。
特に糖分が必要なんだとか。
頭を回転させないといけないんだってさ。
どっかのエルフも朝からバクバク小倉トースト食べてたもんな。
それと比べるとまだアレクシアの食欲は普通なほうか?
その分頭使ってないって事は……無いよな……?
その後、先輩とお母さんに案内されて、俺達が滞在する部屋へと向かった。
「ここに泊まっていいんですか!?旅館みたいです!」
「おー!この……なんていうんだろう?窓際の謎スペースもあるぞ!?」
「……窓から、大きな池が見えます……」
「これが管理システムのヒューマン資料集にあったワビサビですか!?」
話を聞くと、この部屋は客が訪れた際に泊まる部屋らしい。
この家には、そう言う建物が色々あるらしいけれど、その中では普通の規模なんだとか。
最上級となるとどんなことになってんの?
この時期は、色々な所から客が来るらしくて、こういうタイミングでもなければ最上級の所を用意したかったと絹恵さんは言っていたけれど、この部屋の時点で温泉旅館なら一泊5万円くらいしそうな感じなんだが……。
「あ、大試君は当然だけど別の部屋よ?これから案内するわね」
「はい!お願いします!」
当然だけど俺は男だ。
テンション上がって考えが及んでいなかったけれど、他の面々とは部屋が別らしい。
そのまま絹恵さんと会長に連れられて歩く事5分。
随分離れた所に部屋があるんだな?
そういや、客室がいっぱいあるって言ってたっけ?
そうなると、他の部屋に行くとなったらそりゃ遠くなるか。
「……あの、お母様?こちらは客室ではなくて……」
「ごめんなさいねぇ?丁度お客様がいっぱいで客室は満杯なのよぉ。どうしてもこの季節は訪れる方が多くて困っちゃうわねぇ。だから……」
そう言いながら絹恵さんが立ち止まった。
そこにあったドアには「♡水城♡」と書かれたプレートが付いている。
「滞在中は、この部屋を使ってくださいね?夫は入れないように結界を張っておくし、防音の効果も持たせておきます!」
「いやいやいや……どうみても水城先輩の部屋じゃないですか」
「大丈夫よ?水城と2人で寝るくらいのスペースは十分にあるわ」
「2人って事自体がダメなんじゃないでしょうか……?」
「……とりあえず、中入って?」
「会長も何普通に引き入れようとしてるんですか!?」
「他に部屋が無いっていう大義名分があるもの!」
「あるもの!じゃないですって!」
話し合った結果、会長は理衣たちと一緒に客室で寝ることになり、俺は会長の部屋に滞在させてもらう事になった。
会長のお兄さんの部屋もこの近くにはあるけれど、本人は同敷地内に家を建ててそっちで暮らしているらしくて、今はこの家族用のスペースはかなり静からしい。
だったらお兄さんの部屋を貸してくれんか……?
お風呂は大浴場があるらしいけれど、家族用のお風呂もあるし、理衣たちが滞在する部屋にもそこそこ大きめの風呂がついてるらしいので、空いてる時間に使わせてもらう事もできるらしい。
というか、客間で入浴することを会長と絹恵さんから推奨された。
他にも偉い人が大浴場には来ちゃうから、俺が緊張してしまって羽を伸ばせないだろうというもっともらしい理屈で。
大浴場楽しみだな!
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