第44話

「正直、何故約束していた焼肉の席で妹の婚約が発表されているのかまだ理解できていないのだが……」


「奇遇ですね、俺もです」




 日曜日、桜花祭の疲れをとるのも兼ねて、1年生チームの面々が王子に焼肉を奢ってもらっている。


 この1週間非常にハードな訓練の日々だった。


 俺を除いてな!


 俺は殆ど荷物持ちだったから、1日1回のボス戦以外は割と楽ちんだった。




 大変だったのは、桜花祭前日から当日にかけて。


 そして、今この時だ。




「「有栖様!ご婚約おめでとうございます!」」


「あの……ありがとうございます……!」


「「リンゼ様からプロポーズしたというのは本当なのですか!?」」


「そうよ!」


「「聖羅ちゃん!婚約指輪見せて!」」


「うん、これ!」




 ここは宴会とかで使われるであろう大き目の部屋だけど、20人以上いるというのに、男は俺と王子だけ。


 そんな状況で、俺が3人の女の子と婚約したなんて話が広まればどうなるか?


 そりゃ女の子たちは焼肉そっちのけでワイワイキャアキャアし始めるわ。




「ニャー……ニンゲンは爛れてるニャ……」


「キスすらしてないんだから逆に清いだろ?」


「それはそれでヘタレだと思うニャ」


「理不尽」




 建前上は、エリザとリンゼに仕える侍女って事になってるネコミミ超時空メイドのファムは、侍女の仕事など知った事かとばかりに肉を食っている。


 なんなら、隣で食べているエリザが焼いた肉すらたまに盗って食べている。




「もうファムー!自分で焼いてよー!」


「この場に限っては主従とか魔王様とか関係なく一人のハラペコとして行動するニャ!」




 魔族的には、色気より食い気らしい。




「……大試さん、婚約、おめでとうございます……で、いいんですよね……?」


「あぁマイカ、ありがとう。嬉しいよ」


「……どうかしましたか?ちょっと疲れた顔してますけど……」


「プロポーズする所とされる所を国王陛下と公爵夫妻にしっかり見られ、そのままワイワイと感想を話されたと思ったら、今日ここで婚約者の兄である王子の隣に座ってるって状況のせいかな」


「……私なら、気絶してます……」




 魔眼少女マイカは、どうやらこちら側の人間らしい。


 わかるかい?この気持ち。


 嬉しいんだよ?間違いなく嬉しい。


 はっきり言って、今まで生きてきた中で最高と言えるくらい喜んでる。


 でもね、流石に恥ずかしさってのはあるんだよね……。




「でも、こうなることが分かってたとしても、やっぱり婚約するくらいには好きだったんでしょ?」


「委員長……まぁ……そうなんだけども……」




 委員長の京奈がカットインしてくる。


 こいつは多分こちら側の人間じゃない。


 キャーキャー言う方だ。




「いいなー!私も犀果君狙ってたんだけどなー……。貴族に任命されたばかりで多分婚約者はまだいないんじゃないかってさー……。長女じゃないからどこかに嫁に行かないといけないのに、大抵の男はもう婚約者いるのよねー……。2人目以降って言うのも考えたんだけど、流石に愛が無い体目的ばっかりって言うのもね……」


「婚約者いなかったのか?早い段階で決まるもんかと思ってた」


「……この前、犀果君にぶっ飛ばされて行方不明になりました……」


「それは……申し訳ない……」


「いいのよ!あんな風に女の子に寄ってたかって危害加えようとする奴なんかと結婚せずに済んだし!」




 王子様の側近するような奴らってなると、やっぱりゲームでも有名なキャラが多いんだろう。


 そうなると、明らかにネームドキャラっぽい美少女であるこの委員長も、そこに婚約者がいた可能性も高かったか……。


 もしかしたら、他にも1年生チームにはそれっぽい美少女だらけだったし、同じように破談になってしまった婚約者たちもいたんだろうか?


 俺に責任は無いと思うけど、ごめんな?




「まあその……もしいい縁談来なくてもう嫌になったら、俺の村来たら良いよ。住人全然いないし、人口増やしていかないと早晩人がいなくなる」


「……まさか、私を第4夫人にするつもり!?」


「冗談でもそういう事言ってると本当になっちゃうかもしれないんだから気をつけろ」


「私は、それならそれでいいんだけどねー……」




 既に3人も将来の嫁がいる俺相手に不用心な奴め。


 そういえば、この娘は何作目のキャラクターなんだろうか?


 1作目だとしたら、聖羅と協力してストーリーを進めていくキャラなんだろうけど、今の所聖羅との絡みは大して無いしなぁ……。


 どこの場面で重要になるキャラなんだろう?




 そういや、マイカはネームドキャラじゃないんだった。


 だったら、開拓村に連れて行って仕事振ってもいいんだよな?


 こんな便利な能力持ちが来てくれたら滅茶苦茶捗るんだけどなぁ……。




「マイカは、もう将来の仕事って決まってるのか?そもそも貴族なのかも知らないけどさ。何にも予定ないなら開拓村来てくれたら仕事山ほどあるぞ」


「……私は、えっと……実は、ちょっと特殊な事情でこの学園に通っているので、将来の事は今決められないんです……」


「そっか。まあ、気が変わったら教えて」


「……はい」




 残念、フられてしまった。


 卒業するまでにもう何回かは勧誘したいけどな……。




「犀果、我が妹と婚約しておいて何故女生徒ばかりこの場に呼んだのだ?先ほどから女子とばかり話しているし、貴様、まさか早速他の女を……」


「違いますよ。男子生徒は全員王子のチーム行っちゃって、残ったのがここにいるので全員ってだけです」


「……私が犯人だったか……」




 そうです。


 貴方のせいでここまで女子比率が高い事になっているんです。


 反省してください。


 この肩身の狭さは貴方が引き起こしたんですよ。




「ホント勘弁してくださいよ宏崇先輩!私に恨みでもありましたか!?」


「む?武田か。何故ここにいる?」


「生徒会の打ち上げで来たらやけに騒がしい部屋があるのでチラっと覗いたら貴方がいたんです!」


「そうか。苦労を掛けるな。だが、私は後悔していないぞ!」


「あーもー!してください!」




 何故か生徒会長まで来た。


 王子が生徒会の打ち上げでここをよく使ってたって言ってたけど、その伝統は継承されているらしい。


 ……先輩相手に敬語で話す会長、なんか新鮮だなぁ……。


 顔は大分疲れてるけど……。


 新入生歓迎パーティーの時のカリスマ性は大分薄れてる。


 苦労してるんだろうなぁ……。




 そして王子は、生徒会の部屋に連行されていった。


 俺達の部屋の支払いは王子へ請求されるらしいので、まあそれはいいか……。


 王子は、今回色々やらかしてたので会長の愚痴を聞かされる程度には責任とるべきだと思う!




「ファムとエリザも開拓村くるか?まあ、魔王倒してからって事になるから、お前たちにはちょっと辛いかもしれないけど」


「どうせ使役されてるんだしニャーはお前についていくニャ。仕事も果たせなかったから帰っても消されるニャ」


「ウチもあと100年は大試に責任とってもらうからついてく!」




 住人2名確保。


 開拓村の魔族比率が上がった。


 その内、魔族たちの極東戦線みたいになったりしてな……。




「大試、ちゃんと食べてる?」


「聖羅か……。もうあっちはいいのか?」


「うん、しばらく大試と一緒にいる」




 聖羅が来たので、一応ギャラリーたちへの対応について聞いてみる。


 どうやら、聖羅も話すことは話したらしく、周りも俺と話しに行くなら邪魔しないようにしようって雰囲気になっているらしい。




「……結婚するんだなぁ俺達」




 周りが俺達の婚約の事について盛り上がっているからか、改めてその事を実感してしまう。


 嬉しすぎて、ちょっと現実感が無かったのかもしれない。




「うん、お母さんとお義母さんの言う通り、頑張ってよかった」


「あんまりあの人たちの事参考にしない方がいいぞ?荒っぽくなる」


「でも、恋愛に関しては、結構参考になる」


「……それは……落とされた俺には反論できないな……」




 まんまと惚れさせられ、プロポーズした間抜けだからな……。




「まあ、聖羅に落とされるなら満足かな。幸せだよ」


「私は、小さい時に大試に落とされてからずっと幸せ」


「……ほんと、お前はそういうのずるいと思う」


「うん!」




 焼肉の匂いが立ち込める所でするような話じゃない気もするけど、婚約してすぐなんだ。


 この位のイチャつきは許されるだろ?


 恥ずかしさはあるし、聖羅が俺の腕に自分の腕を絡みつけたのを見て、1年生チームの面々がキャーとか言ってるけど、スルーだスルー!




「では、聖羅さんの反対側は私が貰いますね!」


「え!?ちょっとまって!そこはアタシが……じゃあもう膝の上でいいわよ!」


「!?ずるい!私もそこが良い!リンゼは私と場所を交換してほしい!」


「椅子取りゲームでもしてるのか?」




 前方と左右に婚約者が来て、その後一切肉が食べられなかった。


 大岡裁き展開も、あーん展開も無かったと言っておこう。




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