第43話
「聖羅、後で話があるから、伝説の桜の木……なんか、裏庭にある桜の木の下に来てくれないか?」
「うん……ずっと待ってた」
もう俺が何をするつもりか完全にわかってるじゃないかこの女!
エキシビションが終わってから、休む間もなく聖羅を誘う。
桜花祭の夜に、伝説の桜の木の下で婚約を申し込めば確実に成功するというこの世界の設定を利用しようってわけだ。
まあ、本当にそんな仕組みがあるのかは知らないけれど、伝説なんて結局は雰囲気なものが多いからなぁ……。
「……で、アンタちゃんと準備できてるんでしょうね?」
「指輪はちゃんと用意してある。リンゼに紹介してもらった店で買ってきた。言われた通り、予備と、予備の予備で3つ。それと俺用のも合わせて4つと完璧だ。あとは、俺の胃が耐えられるかどうかだな」
「吐血してもやりなさい!」
「血生臭いなぁ……」
後ろから追いついてきたリンゼにあれこれ言われる。
何だかんだでサポートしてくれるのはありがたい。
俺だけじゃ絶対に出てこない発想だらけだ。
こういう場合、味方に女性がいるっていうのはとても心強いな……。
よし!胃薬飲もっと!
「大試、お待たせ」
「大丈夫、今来たとこだ」
「嘘、30分前から待ってるの見てた」
「見てたんなら来いよ……」
「ごめん、喜びを噛みしめてた」
よーし、俺の胃に穴開くまでのカウントダウンに挑戦してるんだな?
いいだろう受けて立つ!
可能な限り素早く勝利を収める!
「あー……聖羅、この桜にまつわる伝説、知ってるか?」
まずい。
早速日和って話題を迂回してしまった。
「知ってる。桜花祭の夜に婚約を申し込めば100%成功するっていうやつでしょ?」
「……やっぱり知ってるよな……うん……」
だと思ったよ……。
好きそうだもんなそういうの……。
あーもう……!
覚悟決めるぞ!
「天野聖羅さん!」
「……!はい……!」
俺は、箱に納められた指輪を取り出す。
「俺と婚約してください!学園を卒業したら、開拓村に戻って夫婦になってくれませんか!?」
「……」
……あれ?
反応が無いぞ?
即OKしてもらえると思っていたけど……己惚れていたか……?
「…………ヒグッ」
「うお!?」
あれ!?泣いてらっしゃる!?
「……はい!10年以上前から、他の誰でもなく貴方の事が好きでした!私をお嫁さんにしてください!」
そう言って、左手を前に差し出してくる聖羅。
そのまま、俺は彼女の左手薬指に指輪を嵌める。
……………………………………………………あー、そうか。
これ、死ぬほど嬉しいんだ俺。
感情が上手く自覚できなかったけど……これは……ヤバイ。
「聖羅、奇麗だ」
「はい!」
「聖羅、好きだ!」
「うん!」
「聖羅、愛してる!」
「私も!」
気がついたら、抱きしめていた。
あれ?俺ってこういう大胆な事できる人間だったか?
まずいな……雰囲気に酔ってる……。
冷静にならないとどこまで行くかわからないという恐怖と、それがわかりつつもこのまま行く所まで行ってしまいたい欲望がせめぎ合っている!
聖羅の瞳を見つめる。
彼女も、嫌がってはいないようだ。
それ所か、目を瞑った。
これは……いいんだよな!?
「はいはい、そこまで!それ以上は、今ここでやるとヤバくなるから我慢しなさい!」
「な!?リンゼ!?」
「あのぉ……すみません!私もいます!」
「有栖まで!?」
見てるかもしれないとは思っていたけど、話しかけてくるとは思ってなかったぞ!?
なんで2人で出てきた!?
「お待たせ、2人も頑張って」
「へ?聖羅……?」
聖羅は、この2人が出てくるの知ってたのか……?
どういう……?
「ねぇ大試、アンタさ、この世界における聖女って何だと思う?」
「聖女?なんか……すごい大切な存在?」
「……まあ、詳しい事は知らないわよね……。でも、その認識でも別にいいわ!そして、そんな存在の婚約者って、社会的なステータスが中々高いわけよ」
「……そうか」
あんまり考えてなかったけど、そう言うもんかもしれないか……?
魔王倒すのに必要な存在らしいし、そりゃそうか。
「ズバリ言うけど、アンタは今この時、相当重要視される存在になったの。ここまではいいわね?」
「……ああ」
「つまり、王女や公爵令嬢の娘と婚約することも可能な存在になったの」
「……んん?」
まて、話の方向性が……?
「大試さん!私と婚約してください!」
「いや待て!落ち着け!」
「アタシとも婚約しときなさい!」
「どうしてそうなる!?」
「だって、この日この場所での婚約申し込みは100%成功するのよ?女から申し込んだってダメじゃないわ!」
いや、そのルールが存在するならそうかもしれないけどさ!?
お前たち自分の立場とかわかってるか!?
王女様と公爵令嬢様だぞ!?
「別にそこまで無茶な事言ってるわけじゃないわよ?アタシたちとの婚約は、貴族のパワーバランスをガラッと変えてしまうくらいの出来事だけれど、アンタは、どうせあの未開の土地に引っ込むわけでしょ?つまり、他の貴族たちからしたら、自分たちのプラスになる事は無いとしても、マイナスになることも無いベターな結果に見えるのよ」
「えぇ……?でも流石に聖女と王女と公爵令嬢が集中してもそう思ってもらえるのか……?」
「大丈夫よ。そう思われるように、アンタが聖羅から告白されたって聞いた日から根回し沢山したもの!そのせいで寝不足になったわけだけど……」
「アレは大変でした……」
あの涎ダラダラ事件の原因はそれだったのか……。
でもなぁ……。
流石に無理が過ぎないか……?
「大試、アンタが考えるべきは一つだけよ」
「なんだ?」
「……アタシと有栖のことが、女の子として好きかどうか……今ここでそれを決めなさい!」
好きかどうかって……そりゃ2人とも凄い美人だと思うし、話しやすくていいけどさ……。
「大試さん!」
「はい!?」
「10年前のあの日、貴方に助けて頂いてから、この日を夢見続けてきました!私を貰って頂けませんでしょうか!?」
「貰ってって……有栖……」
「……大試、アンタは知らないみたいだけど、アタシは前世の段階から割とアンタの事……気に入ってたんだからね?」
「えぇ……?面識あったっけ……?」
「無いわよ!」
「無いのか!?」
あーもうわからん!
大体聖羅はどうなんだ!?
嫁が増えてもいいのか!?
「大試、私は構わない」
「なんで!?」
「聖女と王女様と公爵令嬢、これだけいればこれ以降早々他の女が寄ってくることなんて無い」
「合理的理由があるのね……」
否定する理由をどんどん潰されていくこの感覚。
最近よく体感させられてるなぁ……。
でも本当にいいのか?
だって相手は俺だぞ?
わかってるのか?
「アンタがそう簡単に決められないのは分かってたわ。だから、もう一つアタシたちと婚約を結んでおくべき理由を作ってあげる。……今、国王陛下とアタシの両親がこの場所を屋上から眺めてるの。婚約が結ばれるの、楽しみにして下さっているわ」
「……あ、本当だ……めっちゃ見てる……」
手振られちゃった……。
もう……いいか!
正直俺の方は嫌ではないんだぞ!?
いいんだな!?
「俺は、学園を卒業したら開拓村に帰る。王都とは比べ物にならないくらい住みにくい所だ。それでも俺と結婚していいんだな?」
「ええ!」「はい!」
「そうか……。わかった!2人とも、婚約しよう!」
俺は、予備の指輪と、予備の予備の指輪も取り出して、2人の左手薬指に嵌めた。
ほんと、どうしてこうなったんだ……?
聖羅に告白して今日のミッションは全部終わったつもりになってたのに、何で婚約者が更に2人ふえてるんだ……。
「おう!義息子殿よ!おめでとうさん!」
「陛下……ありがとうございます……」
「リンゼをよろしくね大試君」
「貴方なら娘を幸せてしてくれると信じているわ」
「頑張ります……」
いつの間にか観戦していた人たちが下まで降りて来ていた。
楽しみすぎだろこの人たち……。
ここだけ権力の集中率がヤバイ。
はぁ……伝説なんて本当にあったのかどうかは俺にはわからないけど、少なくともこの場で婚約を結ばないという選択肢は用意されてなかったな……。
「大試、私、今幸せ!」
「アタシもよ……」
「私もです!」
まあ、この笑顔が見られるなら、多少の無茶を強いられるのも悪くないか……。
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