第40話
桜花祭まであと2日となった。
今日も今日とてダンジョンでレベル上げ。
ただし、今日は有栖が最後尾付近まで下がって俺と作戦会議中だ。
これまで有栖が担当していた先頭付近には、代理としてファムがいる。
強くて可愛くてネコミミでメイドだから非常に便利に利用させてもらっている。
因みに、1か月のお小遣いは、ファムとエリザそれぞれ5万円と設定させてもらった。
「お金が貰えるニャ!?」って驚かれたんだけどお前は今までどういう立場で生きてたんだ?
「開始まで攻撃魔法と防御魔法と索敵魔法の使用が禁止って言われても、俺にはどの魔法や魔術が該当するのかわからないんだよね」
「直接攻撃する魔法と、結界を張る魔法と、索敵をする魔法だけ気をつければ、後は好きに使って良いのではないでしょうか?」
「例えば岩の防壁を作るとかはセーフなのかな?設置型の地雷みたいな魔法は攻撃魔法かなぁ……」
「落とし穴のように穴を掘るだけであれば問題ないと思います。魔法自体で攻撃するタイプでなければ大丈夫でしょう。逆に魔法ですぐ埋められてしまうかもしれませんが……」
俺の剣魔法は、『剣を作る』魔法だから恐らくセーフだろう。
事前に使っておいてどこまで意味があるかはわからないけど……。
「試技バッジとかいうのが配られるのが前日早朝って事は、その日のうちに装備して使い心地確かめろって事なんだろうから、明日は砦周りに魔法でできるだけ防壁や、落とし穴をいっぱい作ってから模擬戦かな?」
「私たちが立てこもるのは指令室なんですよね?外に防壁などは必要なんですか?」
「できるだけ外で足止めをして、相手が中に戦力を逐次投入していくしかない状態に持ち込みたい。それが難しくても、相手が俺達の目的を勝手に想像して警戒するようにしたい」
「そうですか……わかりました!ではそのようにしましょう!」
ここ数日とにかくレベル上げばかりしていたので、やっと具体的な作戦を立てている事に安心している様子の有栖。
最初の体育館での会議時に4人もいた軍師希望者も、皆在校生側に行ってしまっているようで今は0人。
まあ、アピールしたい人たちばかりだったんだろうからさもありなん。
仕方なく、俺が相談役をしている。
レベルが低かった女子たちも、現在皆平均で30レベル近くまで上がっている。
1年生どころか、3年生でもこのくらいまで行けばそこそこ褒められる程度らしい。
それでも、100倍以上の人数差があるはずなので、安心材料にはならない。
打てる手は打っておこう。
「明日俺は、試技バッジを受け取ったらそのまま本番まで単独行動する」
「え!?どうしてですか!?」
「勝ちたいから、下準備だ」
「……そう……ですか……できれば隣にいて頂きたかったのですが……」
「ごめんな。その代わり、上手くいけば勝利をプレゼントできるぞ。上手くいかなかったら開始前に失格だけど」
「……わかりました。貴方を信じます!」
少しだけ寂しそうな顔をしながら、それでも送り出してくれるらしい。
なんだか……勝ちたいって気にさせられる!
これが王族の能力なんだろうか!?
いや、単純に友達だからとか美少女だからってだけかもしれんけど!
「ただ先に謝っておく。もし俺の作戦が成功したら、多分すごい肩すかしというか、消化不良起こしたような結果になると思う」
「大試が勝つために行動した結果であれば、どんなものであれ私は受け入れます。ですから、存分に行ってください!」
姫のために戦う許可を得たので、全力で狡い事をする覚悟を決めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
桜花祭当日。
私は、指令室で開始の時を待っています。
周りの皆さんは、総じて緊張と不安を表情に滲ませている様子。
当然ですね。
実戦など、今週に入ってレベル上げを行うまでは、皆さん殆ど経験していなかったでしょうから。
貴族は、魔物への対応を男女問わず行うことが使命ですが、流石に15歳以下で積極的に魔物討伐に参加する者は少数派と聞きます。
大試さんのように、入学時点で50レベルに達している者となるとほぼ皆無でしょう。
もっとも、あの人は少々貴族の枠組みから外れた存在ではあるので、参考にはできませんが……。
ましてや、今回の相手は魔物ではなく人間です。
どれだけ覚悟をしていた所で緊張や不安はあるでしょうし、実際にその時になれば躊躇いも生まれるでしょう。
私だってそうです。
大試からもらったこのエクスカリバーは、魔物の血は大量に吸わせましたが、人間の血は未だに一度も吸っておりません。
それでも戦うって決めました。
だって、勝ちたいから。
私自身が負けず嫌いというのは確かにあります。
ですが、私の大切な友達は、仲間は、こんなにもすごいんだぞと見せつけたいのです。
世間にも、そして兄上にも。
宏崇兄上が、私を大切に思ってくれている事はわかっています。
それでも……いえ、だからこそ、私はもう守られるだけの女では無いと証明したいのです。
たとえ、勝ち目が殆ど無いとしても。
こんな私の我儘に、この指令室にいる皆さんを付き合わせてしまったことが後ろめたい気もするのですが、先程それを謝ろうとしたら、
「アタシたちも勝ちたいからここにいるに決まってるじゃない!まだ負けって決まっていないんだから、謝られる筋合いなんて無いわ!」
とリンゼを先頭に言われてしまいました。
だから、私が後言える事は一つだけです。
「勝ちましょう!」
歓声を上げてくれる皆さんを見て、私はいい仲間を得られたなとしみじみと実感します……。
私たちにできる事は、この指令室に陣取って、1つしかない入口から押し寄せる者たちを随時殲滅していく事だけ。
遠距離攻撃を結界で防ぎ、近接戦闘を仕掛けてくる者を集中攻撃。
これでどこまで戦えるのか、私にもわかりません。
それでも、勝つつもりで行くことに決めましたから……。
それに、あの人ならもしかしたら簡単に勝敗を決してくれるかもしれないという期待も少しだけあります。
何でもない事のように、私の命を救ってくれたように。
……あの人は、私があの時どんな気持ちだったのか、きっと理解していないのでしょうね……。
幼心に、自分の命が長くない事を理解しながらやって来た未開の土地。
そこで初めて会った男の子に、命を救われた女の子。
その娘が男の子をどう思ってしまうのかなんて、簡単にわかってしまいそうなものなんですけど……。
10年も会いに来てくれませんでしたし……。
確かに遠いですし……無茶だとは思いますけれど……会いたかったんです……。
でも、そちらに関しては、リンゼと準備を整えました!
覚悟もでき……できて……ます!
きっと彼はびっくりするでしょうけど、10年も待たせて、私の気持ちだけ大きくさせたあの人が悪いんです!
「大試は来てないけど、そろそろ時間」
「……そうですね。では、皆さん用意を!」
聖女の聖羅さんもこちらにはいます。
彼女には、今日の夜、是非とも思いを遂げてもらわないといけません。
できれば、この戦いに勝利して気持ちよく行きたいものです!
誰かのスマートフォンからカウントダウンのアラームが鳴ります。
5、4、3、2、1……。
『ウゥゥゥゥゥ ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!』
演習場全域に、開始を告げるサイレンが鳴り響きました。
「総員!戦闘開始!」
砦の中に相手の兵士が雪崩れ込んできます。
例え密集しているところをまとめて吹き飛ばされたとしても、人数差で押しつぶしてしまおうという事でしょう。
実際に、この戦力差であればそれが一番確実です。
別に今回のルールでは魔法を受けた所で実際に死ぬわけではないのですから、ゴリ押しが有効なのでしょう。
先頭の方々には、一番槍として何か褒賞でも約束されているのでしょうか?
だとしても、私の仲間たちはとても強くなりました!
だから、全てを跳ねのけます!
「「「「ファイアーボール!」」」」
訓練を開始した時とは全く規模の違う基本魔法がさく裂します。
これで、相手の先頭付近は壊滅状態になっているでしょう……あら!?無傷!?
どういうことですか!?
『状況終了!勝者、1年生チーム!』
アナウンスが流れ、一瞬何を言われているのか理解できませんでした。
……え?これで終わりですか?
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