第39話

 王子様の奢りで散々焼き肉を食べ、それ以上に王子様のために肉を焼いて帰って来た。


 宏崇王子の提案を蹴ってきたんだけど、本人はご機嫌だった。


 最後、送ってくれた車から降りる時も




「ではまたな。私が言うのも何だが、健闘を祈る」




 なんて言っていたし。


 敵の総大将に塩を送られた形だ。


 味付けはどっちかって言うとタレだったけど。


 家で食べる時は味塩コショウ派ですけども。




 それにしても、焼き肉屋行ったから今の俺は凄い焼肉臭い。


 このまま砦の中に無警戒で入っていくと、他のメンバーに焼肉に行ってきたことがバレそうだ。


 初日こそあんパンで何とかしていたとはいえ、今日は食堂でお弁当を作って届けてもらっている筈だけど、俺が焼肉を食べてきたと知られたら文句言われそうなんだよなぁ……。


 特にリンゼやエリザ辺り……あ、ファムも怪しい……。


 聖羅はそういう時、何もいわずに「でも今度連れて行ってくれるんでしょ?」って顔をしてるからそれはそれで怖い。




 俺は、慎重に砦の入り口の様子を窺う。


 どういう技術が使われているのかいまいちわからないけど、今は俺達1年チームの人間の生体データを何らかの方法で読み取って自動ドアが開くようになっているらしい。


 桜花祭前日の早朝からは、試技バッジが配られるためにそれがキーとなるらしいけど、今現在は俺が生身で行くだけで入れる筈だ。




 こそこそ近寄ってみるけど、中は夜間用の設定なのかいくつか間接照明がついているだけで薄暗い。


 だけど、人影は無いように見える。


 そりゃそうだ、こんな時間にこんな所で誰かいるとしたら、それはもう待ち伏せか何かでしかない。


 俺は、安心して自動ドアを潜った。




「おかえりなさい大試さん」


「ひょっ!?」




 玄関の陰になる部分から声をかけられて、変な声が出た。


 何故か有栖が顔を半分だけ出してこちらを見ている……。




「……何してんだ?めっちゃ怖いんだけど……」


「お待ちしていました」


「……いつから?」


「2時間ほど前でしょうか?」




 なるほど、つまり俺がまだ貴方のあどけない姿を写真で見せつけられていた辺りからここにいたんですね……?




「兄上とは、どんなお話をしてきたのでしょうか?」


「どんなって……裏切って有栖の妨害しないか?って誘われた」


「……それにはなんとお答えに?」


「有栖が泣くので絶対に嫌ですって」


「むっ!泣きませんよ!?」




 泣くと思うなぁ……。


 俺なら有栖に裏切られたら泣く……。




「後は、有栖の小さい頃のアルバムを解説付きで見せられまくった」


「なんでそんなことに……」


「有栖のアルバムは10冊も予備があるらしいぞ」


「どうしてそんなに!?」




 知らなかったのか?


 ハイスピードカメラで撮られてたぞ?




「あー、それと勝ったら今日行った焼肉屋でチーム全員に焼肉奢ってくれってご褒美要求しておいた。OKだってよ」


「焼肉……。兄上が焼肉……?」


「有栖の手料理の次に好きらしい」


「それは知りませんでした……」


「有栖も何か勝った時のご褒美要求しておいた方が良いんじゃないか?」


「ご褒美……ですか……」




 普通に戦ったら勝ち目なんて無い戦いなんだ。


 その位は要求しておいて損はない。




 ご褒美について悩み始めた様子の有栖だったけれど、少し考えただけで決めたようだ。


 そして、俺に向かって発表する。




「大試さん!あの……ここで待ち伏せしてた事も関係してるんですけど……お願いがあります!」


「お願い?」


「私も勝ったらご褒美が欲しくてですね……でも兄上ではなく大試さんから頂きたいというか……こちらからも渡したいというか……」




 なんでそんなしどろもどろに言うのかわからんけど、わざわざ俺から欲しいのか……?


 俺、大したもんやれないと思うんだけど……。


 王女様が欲しがるものを渡せるほどの経済力今の所無いぞ……?




「いいけど、俺そんなに金ないぞ?小さい時からコツコツと木を売ったお駄賃で貯めた金ならあるけど、王女様が喜ぶほどの物を買うとなると……」


「いえいえ!そうではなく……何かを買うとかでは無くて……」




 目が右往左往している。


 何をそんなに慌てているのか。


 そんなヤバいもん要求したいのか?




「あ!でもその前に大試さんは、桜花祭の後に聖羅さんに告白なさるんですよね?」


「……まあ、うん。その予定なんだけど……、リンゼから聞いたのか?」


「はい!頑張ってください!それで、私のお願いは、聖羅さんと大試さんの間で無事婚約が結ばれたら言いますね!そうじゃないと実現できないので……」


「何要求されるのか想像できない……」




 聖羅へ告白することが広まってる時点で恥ずかしいのに、それが成功しないと実現しないお願い……?


 なんだ……?


 ブーケトスの方向の指定とか……?




「ととっとというわけでですね!私からは以上です!よしなにおやすみなさい!」


「お……おやすみ……?」




 結局何だったんだろうか?


 わからん……。


 よしなにを混ぜられたらもっとわからん……。




 まあ、有栖だって俺の経済状況とか今までの生活なんかも知っているだろうし、そこまで無茶な事は要求してこないだろう。


 お金もかからなそうだから、できるだけのことはやってやるさ。


 勝ったらな!


 また焼肉も食いたいしな……。




 そういえば、宏崇王子に引いてもらったガチャ結果を確認していなかった。


 何が出たんだろうか?






 カラドボルグ(SSR):神から与えられた無限に刃が伸びる剣!本当に無限だと使いにくいだろうと思って最大延長10mくらいにしてある!リミッター解除で無限に伸びるけど1度で使用者の魔力が枯渇する!装備時に身体能力を100%増加!






『してある』ってなんだよ?


 メタい事言うなよ女神!


 いくら自分で作ってるからってさぁ!




 まあ確かに、10mくらいで止めておかないと使い辛くてしょうがないだろうけど……。


 10mの剣かあ……練習しないと味方がスッパスパ斬れるな……。




 最も有効に使うとしたら、密集した敵を薙ぎ払うのがいいだろうか?


 でも、密集してる敵を倒すなら、他のぶっ放す系のSSR君たちでいいか?


 その位しか使いどころ無いからなぁアイツら……。


 寧ろ伸びるだけで他に特殊な効果無さそうなカラドボルグが一番使い勝手が良さそうって気すらする。




 ねぇ女神様、神様を倒したとか神様に作られたって設定つけただけで変に燃えたりビリビリするエフェクトつけなくても良いんだぞ?


 戦場でそんな目立つ効果は、大抵の場合逆効果だからな?


 示威行為には使えるだろうけど、そんなの素人相手に戦うことの多い警察官とか、有栖みたいに先頭に立って戦う奴くらいしか有効に使えん。




 まあカラドボルグはカラドボルグで、伸びる効果使わないならSSRとしての価値が身体能力あげる所くらいしかなくなっちゃうんだけども……。


 無限に伸ばせるなら狙撃武器としても使えるけど、1発撃つたびに気絶する火器なんて誰が喜ぶというのか……。




 あ、でも射程10mの射撃武器と考えたら十分か?


 ハンドガンだって実際に使うとしたらその位じゃないと早々リアルでは当たらないって言うし。


 どのくらいのペースで伸縮できるのかわからないけど、頑張ればフルオートのハンドガンみたいな連射性能を実現できるかもしれんか!?


 ロマンあるよなぁ超連射!


 必要性があるかはわからない。


 連射数が増えれば増える程狙いがブレて雑になるし……。




「あら?アンタ帰ってたの?」


「ん?リンゼか。ただいまー」


「おかえり。って、別にここ家でもなんでもないはずなんだけれどね」




 武器の使い方で悩んでたら、シャワー浴びた直後の様子のリンゼに見つかってしまった。


 なんで風呂上がりの女子ってこんないい匂いするんだろう?


 シャンプーとかリンスの違いなんだろうか?


 もっと違うものも使っているのか?


 俺なんて酷いと頭まで石鹸で行くからな……。


 髪がガッシガシになるけど……。


 でも、似たようなことしてた聖羅ですら風呂上りはいい匂いするし……わからん……。




「……ちょっと、アンタいい匂いするじゃない?」


「え?そう?確かに昨日はちゃんとシャンプーで頭洗ったけど……」


「シャンプー?そうじゃなくて、アンタ……焼肉の匂いしてるじゃない!?」


「………………………………………………あ」


「何1人でお楽しみしてるのよ!?連れて行きなさいよー!」


「いや俺も行きたくて行ったわけじゃ」


「言い訳するな!聖羅!エリザ!ファム!今度コイツの奢りで焼肉行くわよ!」


「「焼肉!?」」


「どっから出てきたお前ら!?あと公爵令嬢が俺にタカるな!」


「……」


「聖羅!その曇りのない澄んだ瞳でタカるのもやめろ!」




 桜花祭、絶対勝って皆で焼肉食べよう……。






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