第242話

「おう大試!報告は聞いてるぞ!……いや、本当なのかアレは?」

「どれのことでしょう?嘘はついてないつもりですが……。魔族の領域で魔族たちの意識改革を行いつつ、広大な荒野を肥沃な大地へと改造して食糧問題を改善し、それらを通して種族間での争いをかなり抑えられるように、他種族共同事業を立ち上げました。あと、ついでにドラゴンをリクルートしてきました」

「ああ!そのとおりだ!魔王の俺が保証するぞ!」

「そうか!ならいい!」


 夏休み最終日、魔王のバカ魔力で無理やり転移した王都東京の王城にて、忙しい王様用にとレポートを提出して帰ろうとした矢先、すぐさま引き止められて今に至っている。

 王様ってこんなに気軽に会える人なんだろうか?

 田舎でコンビニに行くほうがまだ時間かかる気がするぞ。


「確かに大試には期待したぞ!したが!それは、戦争を仕掛けようとする勢力に対する対抗勢力になるような奴らができればいいな程度だったんだがな!」

「はっはっは!カレーに出会ったのと同じくらいワクワクさせられた1ヶ月だったぞ!」

「夏休みを有意義に使ったと初めて思えた夏でしたよ。逆に夏らしいことなんらしてないですけど」

「すまんな!はっはっは!」

「許せ!」


 王2人が、ビールジョッキ片手に肩を組んで笑っている。

 先程までは、腕相撲みたいなことをしていた。

 仲がよろしいことで。


「じゃあ、説明も済みましたし、俺はこれで帰りますね」

「おう!ゆっくり休んでくれ!」

「うちの娘をよろしくな!」


 居酒屋か何かみたいな雰囲気の場所を後にし、皆と城の外に出る。

 そこには、いつか見たデコトラが停まっていた。

 それはもうカラフルな光を放ちながら……。

 あれ?ってか、前より鮮やかになってない?

 これ、何K?

 また強化したの?


「お待ちしておりました、最果様」

「ただいま。なぁ、電飾っていうか、モニターが貼り付けられてないか?」

「どんなハイスペックゲームでも、数十年先まで問題なく使用できる程度の性能を実現いたしました」

「どこで使うんだそのスペック?」

「もちろん、光らせるんです」

「そこらのLEDで十分だと思うんだ……」

「あんな解像度の低いもので私の理想は実現できませんので」


 アイは、何を実現したいのか?

 まあいいや。


 兎にも角にも、謎技術で中が高級ホテルの一室みたいになっているデコトラに乗り込み、家へと向かった。

 結局途中で殆ど帰ってくることもなく、魔族の領域で頑張ってたなぁ……。

 はたして、俺への貴族社会からの風当たりはどうなったのか?

 ほとぼり冷めていると良いなぁ……。


 家についたけど、俺の予想というか不安というか、とにかく、夏休み中にアイによる魔改造が行われたかどうか、外観から見分けられるほどの差異はない気がする。

 最悪、建物が浮かんでいたりしないかと多少心配していた。

 アイにも、やっと現代社会的な価値観が生まれたのか、それともリンゼが手綱を握ってくれていたのか……。


「そういや、リンゼたちはいるのか?」

「はい、現在は皆さん家の裏にいるようです」

「皆さん?誰がいるんだ?」

「リンゼ様、水城様、理衣様、アレクシア様、リリア様、仙崎様、柴又様ですね」

「多いな……」


 ホームパーティーでもしてんのかって位の人数じゃないか!

 うちに引きこもることに決めたという仙崎さんと、地縛霊か何かの柴又画伯画伯はともかく、なんでそんなに人がいるんだ?

 まさか、本当にパーティーを?

 しかも、バーベキュー的なアレを!?

 ずるいずるい!そんな夏らしいイベントをしてるなんて!


「俺達も行くぞ!遅れるな!肉が無くなっても知らんぞ!」

「肉?食べたいの?」

「どっちかっていうと、自分で食べるより焼きたい!」


 もっというと、炭の火起こしがしたい。

 バーベキューで一番楽しいのは、炭の火起こしだと思うんだ。


 帰ってきたメンバーを引き連れ、裏庭へと向かう。

 そこでは、皆で楽しくバーベキュー……なんて光景は広がっておらず……。


「あらおかえり。夏休み中に帰ってこれたのね?アタシはてっきり、もう魔族相手に戦争することになるのかもって多少不安に思ってたんだけれど?」

「あ……ああ……そっちは問題なく終わった。それより、お前のその格好……」

「アンタ、こういうの好きでしょ?」


 そこには、ビーチチェアで横になるリンゼの姿があった。

 しかも、競泳水着で!


「大好きだ!」

「なら着た甲斐があったわ。感謝しなさいよね?」

「ああ!」


 神様ありがとうございます!

 あ、そういやこの1ヶ月、結局一度もリスティ様に会いに行ってないや。


「あのぉ……私たちもいるからね?」

「大試くんが競泳水着好きなのは知っていたけれど、そればっかりじゃ飽きるかもって思ったから、私達は違う水着にしてみたんだけれど、どうかしら?」

「最高だと思います!」


 理衣と会長もられた。

 しかも、当然のように水着。

 結構際どいビキニを恥ずかしがりながら着ている理衣と、堂々と際どいビキニを着ている会長の対比が素晴らしい!


「大試くぅん……そろそろ男の子が作ってくれた味噌汁が飲みたいよぉ……」

「仙崎さん、マジで家に帰ったほうが良いんじゃないですか?」

「ふふふ!そんな物はとっくに引き払っている!」


 セクシーなビキニに、腰にパレオを巻いて、仙崎さんも横になっていた。

 っていうか、何してんのこの人?


「水着、というものは初めてでしたが、いかがでしょう?」

「良い!良いとは思うんだけど……なんか、肉付き良くなったね?」

「食事が美味しいので……」


 リリアさんは、京都からここにつれてきたときとは全く違うと言ってもいい体型になっていた。

 ボインボインにボンキュッボンだ。

 何が起きた?

 もっと儚い感じじゃなかった?


「そして、そっちのアレクシアは、流石はエルフって感じだな」

「男性に褒められてもちょっと……」


 見た目はすごく良いのに、押しが強めの同性愛者なせいで、なかなか喜ばせる褒め方ができないな……。


「こっちはお構いなく。絵描いてるので」

「あ、うん」


 幽霊になってみ絵を描いてらっしゃる画伯だけど、日中のこの直射日光でも大丈夫なんだな幽霊って……。


 それにしても、わざわざ水着で居てくれたのは、俺が夏らしいイベントを行えていないであろうという予想によるものだろうか?

 感謝の念が尽きない!


「ありがとうなリンゼ、この空間が存在しているというだけで、俺の夏休みは素晴らしいものになった!」

「でしょう?もっと見ておきなさい!」


 元女神、ドヤ顔である。

 しかし、すぐに表情が心配げなものになる。

 そして、俺にヒソヒソと話し始めた。


「……ちょっと大試、なんでルージュがここにいるのよ!?」

「あれ?リンゼはこの子知ってるのか?」

「知ってるも何も……。アンタ、本当に何も知らないの?リリアまで連れてきてるのに?」

「知らんわ、ゲームの内容だとしても未プレイの俺にはまったくわからん」

「そう……。まあいいけれど……。危険はないのよね?」

「大丈夫なんじゃないか?本人にはもう人間に対する怒りとか無いみたいだし」

「あのルージュが……?一体どんな魔法使ったって言うのよ……」


 リンゼの反応から察するに、ゲームでは相当理不尽な強さを持っていたのかも知れないなルージュは。

 しかも、リリアも関係している存在であると?

 ただ、無理に教えるような内容でもないのか、リンゼからの追求はすぐ終わった。

 それと入れ替わるように、聖羅が話し始める。


「アイ、私にも水着」

「お部屋にご用意してございます。もちろん皆様の分も」

「流石」

「感謝します!」


 俺と一緒に夏休みを駆け抜けた面々も、走るように部屋へと戻っていく。

 まったく、どいつもこいつも水着で浮かれやがって……最高の夏休みだな!


「こんな場所で水着になってどうするんだろうニャ?」

「プールを作りましたので、存分にお楽しみください。波も出せますよ?」

「マジにゃ!?」


 斜に構えようとしていたファムも、プールと聞いて部屋へと走っていってしまった。


 そっかぁ……。

 プールが出来たのかぁ……。

 釣り堀兼ねた渓流だけじゃなく……。


「アイ、お前頑張ったんだな……」

「はい、主が居ないこの屋敷を全力で快適空間へと改造しておりました」


 一瞬で水着に着替えていたAIメイドが、フンスとやる気をアピールしてくる。

 その視線の先には、俺の背中にくっついてプルプル震えているロボが。

 そういや、お前も似たようなAIだったな?

 水着になるか?


 え?なになに?「錆びるから遠慮しておく」だって?

 そっか……錆びる素材なのか……。




 こうして、高校1年生の夏休みは、最高の思い出として俺の中に保存された。

 翌日、宿題の大部分を忘れていたという事実に気がつくまでは。

 自由研究、魔族の領域の話でいいかな?

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