第243話
「……あのな犀果、宿題を忘れてくるのは良い。いや、良くはないんだが、貴族は何かと忙しく、宿題まで手が回らないやつも多い。だがな、その言い訳があまりに突拍子もなさすぎる!もう少し説得力のある事を言え!」
「いや、本当に魔族の領域で農地改革して戦争の火種を消して回ってて、宿題のことなんか頭から完全に抜け落ちてたんですよ」
「まだいうか!?もういい!明日までに全部やってこい!」
「それは……はい!すみませんっした!」
この学園の夏休みの宿題に、自由研究はないらしい。
芸術発表と言って、夏休み中に制作したり練習した何らかの芸術作品を披露することで追加の単位をもらうことができるらしいけれど、もちろんそんなことはしていない。
あの広大な農地は芸術的ではあるけれど、ここで改めて発表したところで、さっきの反応から察するに逆に怒られそうだしな……。
あと出来る芸術関係のものって言ったら、ピアノくらいか?
前世では、学校の音楽室が使われていない時に、ピアノを使わせてもらって独学で弾けるようになったんだ。
ピアノ弾けたらカッコいいんじゃないかっていう厨二極まりない理由でだ!
もっとも、誰かに聞かれるのは恥ずかしかったので、誰にも披露したことはないけれども!
しかも、楽譜は読めない。
あのオタマジャクシの羅列を見て、音を再現できる人たちは化け物だと思う。
楽譜を見て俺にできるのは、オタマジャクシの上に「ド」とか「レ」って振る事だけだ。
なので演奏は、アニメとかで好きな曲を耳で聞いて、それをピアノの音で再現しているだけ。
何故か、ピアノで演奏するために作られた曲は苦手だったなぁ……。
トルコ行進曲?亜麻色の髪の乙女?月光?何それ?
結局ピアノに関しては、神也にすら話す事はなく爆死したわ。
なんというか……音楽室にたまたま誰か入ってきて、たまたま聞かれてしまうシチュエーションに憧れてたというか……。
そのくらいの偶発性でもないと、恥ずかしくて自発的に発表することなんて無理だったというか……。
まあ、結局誰も入ってこなかったわけだが……。
「にしても、聖羅たちはよくあの忙しさの中宿題終わらせてたな?」
「もらった日に終わらせた」
「もらった日の休み時間に終わらせました!」
「ウチ、授業中に終わらせちゃった!」
「釣りしながら片手間で適当に終わらせたわよ?」
くっ!
忘れてたけど、コイツらゲームのヒロインだったり、メインキャラだったり、ラスボスだったり、元女神だったりで、すげー優秀なんだった!
「いっぺんにやっても夏休み明けに忘れちゃうから、私は1日にやる量を決めて勉強してたわね」
「あはは……、皆すごいなぁ……。私は、昨日と一昨日に必死になって終わらせたよ〜」
委員長は、びっくりするくらい優等生の回答。
理衣は、ものぐさな印象を受ける行為ではあるけれど、しっかり終わらせているだけすごい。
「私は、宿題がありませんでしたので」
「転入生だもんな」
「はいっ」
この教室に、夏休み前には居なかった女学生がいる。
彼女の名はリリア。
京都自治区からやってきた、『妖精姫』というギフトを持った女の子だ。
なんでここにいるかというと、王様とかが手を回してくれて、開拓村出身の女の子だという事になって、そのまま学園へと入れてもらったわけだ。
構造色的な、不思議といろいろな色に見える不思議な髪が目立つ。
いくらフェアリーファンタジー3で登場する名ありキャラらしいとはいえ、本人曰く今まで通ったこともないという学校にいきなり入れて大丈夫かと最初は不安だったけれど、天皇さまから色々と勉強を教えられていたらしく、俺よりよっぽど優秀な生徒だったように見えた。
京都の外の世界が見たいと出てきた彼女にとって、こうして学校にやってきて、勉強の話をするだけでも新鮮で嬉しいらしく、ニコニコしっぱなしだ。
そんな彼女にクラスの男子たちも興味津々で、チラチラと見ているのが俺からでもわかる。
リリアに慣れてきた俺ですら、やっぱり雰囲気が特殊というか、聖羅とはまた別ベクトルの聖なるオーラが出ているように感じるからな。
今日初めて体験している男子共には刺激が強かろう。
しかも、最初に会った時より、なんというか……その……色々な所がデカくなってるし……。
王都で色んな物を食べた影響かね?
そんなこんなで、今日中に宿題を終わらせなければいけない俺は、休み時間もノートやプリントとにらめっこをしている。
おっかしいなぁ……。
大して休んだ覚えも無いんだけど、休んでいる時に怠けさせないようにするための宿題がこんなにあるなんて……。
だがしかし!聖羅たちに頼んで宿題を写させてもらうなんて無粋な真似はしない!
だって負けた気がするじゃん!
魔族の領域で頑張って来たんだ!こんな高校生向けの問題に負けてられるか!
「……大試さん」
「うおっ!?……マイカか、久しぶりだな。どうした?」
勉強に集中していた俺の背後から、テンション低めの声が聞こえ、思わず仰け反ってしまう。
何かと思えば、相変わらず前髪で目が多少隠れた状態の比較的ロリっぽい女子高生(実はエルフ)が立っていた。
いつも雰囲気が暗くて、そこまでハッピーになっていることも無いけれど、夏休み前より輪をかけて暗いように見える。
幽霊かなにかみたいだ。
「……助けてください」
「宿題か?それは自分の力でやった方が良いぞ」
「……宿題は、夏休み1日目に終わりました」
「くっ……!……だったら何で困ってるんだ?」
ここにもハイスペックガールがいやがった!
まあいい、友達が困っているというなら、多少は力を貸してやろうではないか。
……あれ?友達で良いんだよな?友達だって言ったら引かれた人しないよな……?
「……姉に、私が妹だという事がバレました」
「姉?」
「……アレクシアです」
「あーあの食っちゃねして、水着を褒めても『男に褒められても……』って言ってくる奴?」
「……その姉です」
感動の再会だな!
よかったじゃないか!
表情を見る限り、ちっともよくなさそうだが。
「それで、何をどう助けてほしいんだ?」
「……私は、姉の性癖ドストライクらしいんです」
「業が深いな」
「……交配しないかって誘われています」
「姉妹でか!?マリアナ海溝突破する深さだな……」
「……エルフの交配は、魔術によるものなので、遺伝的には問題ないらしく、家族間でも行われることがあります。ですが私にそのつもりはなく……」
うん、俺にどうしろと?
いい加減食っちゃ寝やめて真面目にトレーニングしろって叩きのめせばいい?
他に碌な案思い浮かばないんだけど……、
「……大試さん、姉を……アレクシアを、誘惑して頂けないでしょうか……?」
無理じゃねぇかな?
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月曜日の投稿が上手く行っていなかったため、240話を新しく投稿し、それ以降の話が1話ずつズレております。申し訳ありません。
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