第75話

「なんじゃこの破壊的な食い物は!?油か!?油を大量に使ったんじゃな!?人類は100年の間にどれだけ贅沢な料理をするようになっとるんじゃ!?」


「いや……多分100年前でも揚げ物はあったんじゃないですかね……?」


「うーむ……わし基本人間とはあまり会わんからのう……よく考えたら、人間の作る食い物なんて、神社の者たちが奉納してくれるもんくらいしか食ったこと無いかものう……」


「あー、よくあるのは稲荷寿司とかですかね?」


「そんな名前のもんもあったのう……」


「アレも酢飯を包んでる具材は揚げ物ですよ?」


「なんじゃと!?」




 なんだろうこの龍の人?


 結構な御年に見えるけど、揚げ物行けるタイプ?


 鹿カツをガツガツ食えるって相当だぞ。




「あのぉ……お爺さんは本当に龍なんですか……?」




 理衣が果敢に攻める。


 いいぞ!聞いてやれ!


 龍が何当たり前の顔してこんな所で鹿カツ食ってんだって!


 本当はただのシルバーコスプレイヤーなんだろって!




「そうじゃよ?もっとも、見ての通りヨボヨボじゃから、大したことはできんがの」


「見ての通りって言われても、マンガとかのすごい強キャラの爺さんっぽい雰囲気しかないんですけど」


「そんな事言われても、龍だって人間じゃもん。歳とったら腰も痛くなるし、膝もズキズキじゃよ」


「龍って人間なんですか!?」


「人造人間というやつじゃな。ほら、エルフとかと一緒じゃ。人間のために働く強い存在を作ろうとして出来上がった存在じゃ」


「魔物か伝説上の存在かと思ってましたよ俺」


「まあわしらと区別するために始祖龍と呼ばれるとる伝説上の、それこそ本物の龍もおるがの」




 えー何それすごい。


 めっちゃファンタジー。


 そうそう、俺そう言うのが好きなの。




 てか、これまでの炎華祭ではその人造人間も狩ってたんだろうか?




「会長、魔物じゃないらしいですよ」


「らしいわね……そもそも、歴史上たまに現れる龍とまともに戦えたのって、結局てふ子様くらいだから、今までだって追い返すのがやっとだったのよね。そんな存在が、こんなに普通な感じでご飯食べてるなんて……」


「いや、わしらだって食事くらいするわい」


「あまりにも強いから、もう崇めてしまいましょうって事になって、小さな祠に月1で料理を奉納してたのが無駄じゃなかったみたいで良かったわ……」




 それにしても、マジで龍なのか……。


 ってか、月1で奉納してて、料理が無くなっていたなら、100年寝てたこの爺さん以外にも龍がいたのかな?


 カラスに食われた可能性も高いが。




「龍のお爺さんは1人でこの山に住んでんですか?他にも龍がいるとか?」


「いっぱいおるぞ?というか、この山に限らず至る所におるわ。人間の社会に紛れ込んどるのもいるはずじゃしの……お!噂をすれば、わしが目覚めたのを感じて孫娘がやってきてくれたみたいじゃ!」




 俺達の後ろを見て喜ぶ爺さん。


 まって?


 あまりの脅威に前しか警戒していなかった俺達の後ろに別の龍がいるの?


 それもうパニックホラーとかの演出じゃん!




「じいちゃま!起きたん!?」


「おうおう起きたぞう!そういうおぬしは何という名前なんじゃ?親がわしの息子だってことは匂いでわかるんじゃがな!」


「あんなー!茜なー!茜いうんよ!6さい!」


「ほうほう!茜は賢いのー!」




 そこには、なんかチンマイ女児がいた。


 賢いか?


 6歳ならこんなもんだろ……?




 いや、孫相手だとじいさんってのは結局こんなもんか。


 それより、面識ないのね。


 判別方法が匂いなのがすごいわ。




「あれー?じいちゃま、なんで人間と一緒におるん?」


「たまたまこの家で会っての。茜も仲良くするんじゃぞ?」


「うん!えっとなー!茜なー!茜いうんよ!仲良うしてなー!」


「あ、はい」




 にぱーっと笑うドラゴン(ロリ)。


 それを見てデレデレになっているドラゴン(ジジ)。


 これもうお正月の親戚んちのノリだな?




「ただ、今この山の中は、魔物を倒しにきてる人間がいっぱいだから、早めにどこかに隠れた方が良いですよ?俺達としても、龍と戦いたくはないので……」


「心配せんでも、わしらは隠れるのが上手いからのう。敵意がある者たちに見つかりなどせんよ」


「俺達には見つかってるじゃないですか……」


「いやぁ……ついつい見た事のない造りの家に興奮して術が解けてしまってのう……」




 ダメじゃん!?


 ……てか、本当に隠れるのが上手な強キャラが山にいたんだな。


 それこそ、狩猟王でもないと見つけられない類のが……。




 にしても、この後どうしよう?


 この龍2人放置していくのもちょっと怖いなぁ……。


 うーん……。




「なぁ皆、今日はこの山小屋に泊まることにしないか?それで、他の参加者がこの龍の2人にケンカ売らないように見張ろう」


「魔物が倒せなくて順位が厳しいかもしれないわよ?」


「山小屋の周りには魔物が集まってこないって話だから、そのセーフゾーンのギリギリのところで魔物を倒していこう。かなりリードしているはずだし、午後はその位ゆっくりしても大丈夫だと思いますよ」


「……龍を放置するほうが危険か……そうね。ではそうしましょう!じゃあ、私が索敵して、遠距離攻撃が可能な理衣さんとマイカさんが攻撃。倒した魔物は、大試君が全力ダッシュで解体しに行って、アレクシアさんは全力ダッシュで山小屋周辺を警戒でお願いします!」


「どうして私と大試さんだけ全力ダッシュなんですか!?」


「……ニコッ」




 ナイーブな内容に触れた怒りは、簡単には解消できないらしいぞ。




 しかたないので、会長の指示通り走り回る。


 やっぱりこの山小屋があるセーフゾーンの周りにいるのも、どいつもこいつもデカい鹿らしい。


 龍見た後だと、流石にこの鹿程度じゃ地味に感じちゃうな……。




 セーフゾーンからの攻撃限定にしたため、午後は20頭程度しか狩れなかった。


 そのまま、午後4時のアナウンスが流れる。




『2日目が終了となりました!皆さん、お気をつけて下山してください!無理そうな方は、山小屋へ避難をお願いします!明日の夕方救助に向かいますので!現在の1位チームは、昨日と同様に『チームJK巫女』となっています!』




 うん、やっぱり今日も俺たちが1位だったか。


 ……そうだ、俺が、俺たちがJK巫女だ……。




「JK巫女ってチーム名考えたの誰なんです……?」


「私よ?大試君がどんな顔するかと思ってウキウキしながらつけたわ」


「会長ってそう言う所ありますよね……」






 さて、夕食にするか。


 肉なら大量にある。


 それは良いんだけど、問題は龍2人を満足させて変なトラブル起こさせないようにすることと、この山小屋に余計な人員が集まってきたらどうするかってことだな……。




「龍だぜ!ヒャッハー!死ねぇ!」




 みたいな奴が来ないとも限らない。


 出来れば、夢か幻だったかのようにどっかにいなくなっててくれないかなと思いながら山小屋の中に戻ったけれど、普通に龍の爺さんに孫が甘やかされていた。




「はぁ……。龍って何食ったら満足してくれるんだろ……」


「大試さん!ここは一つ揚げ物を!」


「流石にここにそんな大量の油は持ってきてない……いや待てよ?猪の脂身からラードを……」


「……お肉ならなんでもいいのでは?」




 俺がエルフたちと思案していると、後ろから肩をツンツンと指でつつかれた。


 何かと思って振り返ると、決意したような表情の理衣と目が合う。




「あのね大試君!私、試したいお料理があるの!これならきっと龍のお爺ちゃんも茜ちゃんも喜んでくれると思う!」


「ヤダ……理衣が珍しく自信とやる気にみなぎってる……そんな目で見られたら、俺……理衣に全部任せちゃう……」


「ありがとう!じゃあ……いくね!えいっ!」




 掛け声とともに、理衣が指を鳴らす。


 すると、空中に何かが出現した……。


 これは……。




「な!?これはエルフの里に伝わる秘技!十勝産エルフ小豆100%小倉トーストでは!?」


「……すごい……見ただけで美味しいってわかる……!」


「あ……その術もできるんだ……やべぇなラッキーガール……」


「えへへぇ!私も食べてみたかったんだよねー!皆の分も出すね!」


「流石よソフィア!」


「あの……今の私は理衣なので……だから抱き着いて匂い嗅がないで下さいよー!」




 テンションが上がった会長を羽交い絞めにして落ち着かせてから、理衣に人数分の小倉トーストを出してもらう。


 直後、昼に木霊したあの龍の雄たけびが再現された。


 しかも、幼女のハウリング付きだった。


 龍の習性なのかな?






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