第74話

『それでは皆様!『炎華祭』2日目を開始します!夜通し戦っていた方は、体に気を付けて戦ってくださいね!』




 山狩り2日目が始まった。


 昨日は、鹿カツと猪カツという非常に脂っぽい食事を堪能し、朝は朝で角煮という暴力的な食生活を送っている。


 キャベツとネギも食べたけど、この山狩りが終わったら死ぬほど野菜食べるんだ……。


 昨日は結構運動したけれど、それでも体重増えてたりしないだろうか?




 まあ、俺は多少太ったところで構わないんだけれど……。




「皆!今日は昨日よりいっぱい歩き回るわよ!」


「はい!1kgくらい体重落とすつもりでいきます!」


「……お供します」


「どうして皆さん今日はそんなにやる気なんですか……?」




 3人程やる気に満ち溢れている。


 アレクシアは、それ以上話すとヘイトを稼ぎそうな状態だけれど。




「あーなるほど!体重の話ですか!私は、食べると身長と胸に行く体質なのであまり気にしないんですよねー!」




 あ、ダメだこいつ。




「……私、今日は調子が悪いから索敵魔法使えない気がするわ」


「……私もちょっと調子が悪くて……」


「……魔眼が発動しません……」


「なんですと!?先ほどまであんなに調子よくやる気に満ち溢れていた筈なのに!?」




 はい、今日はまずアレクシアがメインで戦う事になりました。


 となると、自然とペアは俺と言う事に。


 まあいいか、別に俺が怒られてるわけじゃないし……。




「ねぇ大試君、大試君はウェイト管理ってどうしているのかしら?」


「ウェイト管理ですか?そんな事考えた事な……」


「そう……」




 何故か会長に尻を抓られた。






 尻を摩りながら山を歩く。


 今朝聞いた所だと、昨夜は殆どの参加者は、大して居残りせず下山したらしい。


 毎年初日はみんな余裕があって、2日目3日目と段々余裕がなくなって行くらしい。


 戦闘に魔力を使う以上、戦い続けていれば効率がいいかというとそうでもないため、冷静に考えられるうちは暗くなる前に戦うのを止める。


 だけれど、やはり優勝賞品が魅力的だから、毎年後半になると無茶をする奴が出て来て、夜通し戦って大怪我を負ったり、最悪死ぬ奴が出てくるわけだ。


 そういう奴ら対策で、山小屋というセーフポイントを用意するようになったんだとか。




 初日は、特に用が無かったため近寄らなかったけれど、今日明日はもしかしたら山小屋に厄介になる可能性も無くはないということで、魔物を倒しながら山小屋の一つへと向かっている。


 俺達『チームJK巫女』は、初日に1位だった為にそこまで追い詰められてはいないから、そこまで確率が高いわけではないけれど。


 どちらかというと、そのチーム名のせいで俺の心が追い詰められているところはある。




「理衣、巫女服を着てる男ってどう思う?」


「え!?えっと……2人きりの時ならギリギリ……?」


「何がギリギリなのかわからないけど今の質問は忘れてくれ」




 これ以上話していると、後戻りできない事を言われそうだ。






 今日も今日とて鹿を倒す。


 なんか、本当にボス鹿みたいなサイズのがいっぱいいる。


 5頭に1頭がボスサイズだ。


 流石にもう解体もしたくなくなってきた……。




「会長、この原因って考えられるとしたら何ですかね?」


「そうね……これより更に上位の存在へと至った魔鹿がいるのかもしれないわ。でも、そんな強力な力は今の所感じないのよね……。私の杞憂なのか、それとも力を隠すのまで上手い厄介な相手なのか……気になるわね」




 うん、それはもうボス鹿のボス、ボスボス鹿がいますね。


 絶対います。


 俺にはわかるよ。


 それこそ、索敵魔法に反応しなくて、狩猟王の能力じゃないと見つけられないとかいう限定的な条件の奴がいる。


 だよなぁクリエイターたち!?




「まあこれだけ探して見つからない以上、俺達は俺達で気にせず頑張りましょうよ」




 どうせ主人公じゃないと見つけられないよ。




「それもそうね。他にも人はいっぱいいるんだし、もし本当にそんな敵がいるならそのうち見つかるでしょ!さぁ!ダイエ……散策を続けるわよ!」


「はい!」


「……ですね!」




 昨日の1.5倍くらいの進行速度だなぁ……。




(大試さん大試さん、私学びましたよ!体重に関することは聞こえない振りをした方がいいです!)


(そうだなアレクシア。でもな、こうやってコソコソ話してても意外と聞かれているもんだぞ?)


「何のことかわからないけれど、アレクシアさんと大試君は今日のお昼抜きにしようかしら♡」


「そんなぁ!?」


「俺は悪く無いですよね!?」


「酷いよ大試君……」


「……勧誘の話……無かったことにしてもらってもいいですか……?」


「なんで!?」




 そのまま昼頃まで歩いて、山小屋へ到着することが出来た。


 それにしても、鹿だらけだったなぁ……。


 小さな都市の食料を1日なら賄えるくらい解体したぞ……。




「とりあえず中入ってみます?それで昼食にしましょうよ」


「あれ?大試君お昼ご飯食べる気なんだー?」


「食べたいです会長!」


「しょうがないなー……でも私はどうしよう……抜こうかしら……」


「食べてください会長!体に悪いです!」


「そうかしら……?そうよね!やっぱり食べるべきよね!」




 痩せたい人は逆に食べるべきって話もあるしな!


 俺もご飯食べたいのに、会長たちが食べてなかったら食べにくいもん!




 本日のお弁当は鹿カツサンド。


 前日あれだけ食べたのに、翌日にはついつい食べたくなってしまう揚げ物の魔力。


 父さんは、「もう俺は肉の揚げ物は一生食わない!」って言って魚専門になっていたけれど、アレが老化なんだろうか?


 それはそれとして昼飯が楽しみだ!早く食べたい!




 そんなわけで、玄関から中へと入る。


 さて、中に誰かいるだろうか?


 2位以下のチームは、そろそろ焦ってくる頃かもしれないし、こんな所で休んでる暇はないかもだけれど……。




 そう思いながら室内を進んでいると、食堂のような造りのテーブルがある場所に誰かが座っていた。


 チームではなく個人のようだけど。


 おじいさんっぽいな。


 今回のこの山狩りは、安全のためにチーム単位での参加になっているはず。


 1人だけってことは、遭難でもしたんだろうか?


 それとも、建物内の他の場所に他のメンバーがいるのか?


 ボケて徘徊している老人って線もある。


 前世の俺の爺ちゃんは、頭はボケてるのに体が元気なせいで大変だった。


 酷い時なんか、20km離れた場所にあるセメント工場で保護されてたからな……。


 それを考えれば、この程度の山の中にいた所でそこまで不思議ではない。


 とりあえず話しかけてみるか。




「こんにちわ、『炎華祭』の参加者の方ですか?」


「……ん?なんじゃ?」




 そう言って、その人はこちらへと顔を向ける。


 頭に何か変なアクセサリーでもつけているように見えるけど、なんだこれ?


 角か?




「おぉ、久しぶりに人間を見たのう!何やら見たことが無い建物があったからお邪魔しとったんじゃが、ここはおぬしらの家だったのかの?」


「俺らの……っていうより、山のふもとの神社のって所ですかね?」


「成程のう。100年ほど寝ている間にこの辺りも変わったようじゃな」




 100年寝ていた?何?あんたはエルフか何か?


 てか、このいくつかの又に分かれている角って……。


 は!?閃いてしまった!




「もしかして、鹿の神様だったりしません?」


「なんじゃそれ?わしはただの龍じゃが?」




 ただの龍というパワーワードが聞こえた気がした。




「……大試君、この人今自分の事を龍って言った?」


「どうかな理衣?只野龍さんって可能性もあるぞ」


「そ……そうだよね!龍なんてそんなの……」


「大試君、理衣さん、言ったでしょ?数十年に1度の頻度で龍は出るわよ?」




 そんな現実見たくない!




「おぬしら、何やら旨そうな匂いをさせておるの?何か食い物を持っておるなら分けてもらえんかの?」


「……あー、これかな?鹿カツサンドっていうんですけど。ここで会ったのも何かの縁ですし、一切れどうぞ」


「シカカツ……鹿で作ったカツという料理かの?ほうほう……では遠慮のう……はむっ………………………………………………………………………」




 自称龍さん、何故かカツサンドに一口食いついて動かなくなる。


 俺達は俺達で状況を飲み込めていなくて動けない。


 えーと……どうしよう?




「う……」


「う?」


「ううううううううまああああああああいいいいいいいいいいぞおおおおおおおおおおお!」




 料理バトルが始まりそうなシャウトが轟いた。






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