第73話
「あっちよソフ……理衣さん!」
「えいっ」
パチンッ。
「次はこっちね!」
「えいっ」
パチンッ。
会長が獲物を見つけ、それを理衣が倒していく。
先程までマイカがやっていた事を2人で分担しながらやっている。
2人分の魔力で行うため、長時間続けることが可能なようだ。
いやぁ……凄いな魔法って……。
そして未だに討伐数0の俺です。
討伐数1のアレクシアよりも下です。
解体数ならもうすぐ100体超えますけどね……。
「それにしても、ボス鹿ってまったくボスじゃなかったみたいですね……」
「そうね……有象無象も良い所よ」
「あの大きい鹿、もう30頭以上倒してるよー……?」
「ねぇもう帰りましょうよー!?絶対何かとんでもない事になってますよー!」
「……でも、普通に倒せてますよね……?」
そうなんだよね。
明らかに普通より強い魔物だらけだけど、俺達5人は特に問題なく倒せている。
……違うな。
俺は含めないで4人だな……。
山に入る前に、今回の山狩り中の儲けはパーティーで山分けって事に決めてはきたけど、このままだと流石に受け取りづらいなぁ。
期間中に多少は活躍しておかないとな!
アレクシアもな!
「アレクシア、午後からは俺たちがメインで狩っていくぞ。じゃないと晩飯を食う権利が無くなると思え!」
「そんな!?こんな化け物だらけの場所で狩りをしないと夕食が食べられないなんてあんまりですよ!?」
「御託は良い!食い扶持は自分で稼ぐんだよ!あと俺まだ全く稼げてなくてごめんなさい!」
「許します!許しますから私も許してください!」
「ダメだ!許さん!何より俺が俺を許せん!」
「自分にもっと優しくなられては!?」
とりあえず、皆で休憩して昼食にする。
パーティー5人のうち3人が魔力を多用したため、しっかりと休んでもらうのにも丁度いい。
結局解体しかしていない俺や、斥候が得意であろうアサシンのアレクシアと2人で周囲を警戒しつつ、絹恵さんが作ってくれたお弁当を食べる。
美味い……美味いが……美味ければうまい程焦りがでる!
俺も仕事しないと!
というわけで、昼休憩を終えてからは俺とアレクシアが先頭に立つ。
「じゃあ確認するぞ。アレクシアが斥候として敵を見つけて、俺が雷切で相手を麻痺させるから、アレクシアが急所に止めを頼むぞ」
「結局私も戦うのですね……」
「一緒に晩飯権を手に入れないとだろ?」
「……くっ!やはり戦うしかない!」
意思統一が図れた所で、張り切っていこう!
そこから歩いて5分、早速アレクシアの危機察知ビビリレーダーに反応があったらしい。
「うぅ……あっちにいます……絶対います……!」
「またデカい鹿か?」
「わかりませんが……とにかく強いやつです……!」
つっても今日鹿しかいないじゃん。
どうせ今度も鹿だよ。
多分イベント名は、『鹿の嵐』とか、『鹿しかいねぇ』とかそんなんだよ。
しばらく魔鹿肉相場が崩壊しそう。
あるのか知らんが。
しかし、休憩していたはずの会長が待ったをかける。
「ねぇ大試君、これは私の勘なんだけれど……あっちにいるのは鹿じゃない気がするのよ」
「え?どういうことですか?」
「なんというか……もっと獣臭さがあるというか……」
「ふむ……」
何にせよ、行ってみるしかない。
そして狩る!ただそれだけだ!
「ブモッ……ブモモッ」
「おおう……イノシシ……」
「大試君……私、嫌な思い出が蘇っちゃった……」
「あの時の委員長や理衣たちの逃げっぷりは凄かったな」
「思い出さないでぇー……」
いつだかのオクタマヌシ様に勝るとも劣らないサイズのイノシシがいた。
コイツ1頭いるだけで、周辺の食料が消え去りそうなサイズ。
うわぁ……生態系ぶっ壊れそう……。
「会長、この辺りってあんなデカいイノシシもいるんですね」
「……私はあまり見たことが無いけれど、いるのね」
「異常事態起きすぎでしょう……?なんなんですか今年?」
「そうね……。でも、その分バイト代は弾んでもらえるんじゃないかしら?」
「やる気がちょっとだけ出ました!狩りましょう!」
モンスターをハントしてやる!
主に金とプライドのために!
「アレクシア!計画通り止めは頼むぞ!」
「わかりました!トンカツが食べたいです!」
「いくらでも食わせてやるから本当に頼むぞ!?」
多少不安はあるけれど、雷切を準備する。
同時に村雨丸を出して、雷切の周りに水で膜を張ることで可能な限りビリビリエフェクトを抑えながら。
小さくしている時なら何故か平気なんだけど、普通サイズの時だとビリビリが抑えられないんだよなぁ。
エフェクトだけで、実際に痺れたりするわけじゃないけれど、隠密作戦への適性は0。
ましてや、野生動物相手だったら、何の対策も無しじゃ見つけてくれと言っているようなもんだ。
もっとも、今回俺が担当するのは、あのクソデカイノシシを一時的に麻痺させること。
どちらかというとこの騒音対策は、うるさくして周りの魔物まで引き付けないようにするためというだけだ。
雷切で麻痺までしかさせないのもそのためだ。
殺すだけならいくらでも他に方法があるけれど、可能な限り静かに事を遂行しないと、周りからモリモリ魔物が集まってきてしまう。
といっても、この辺りの魔物は知恵があるらしいから、逆に逃げる可能性もあるかもだけど……。
それに、素材を回収するにも麻痺だけに留めて、アレクシアに急所をスパッとやってもらう方が都合がいいわけだ。
「アレクシア、俺がツッコむから、気配を消して別方向から向かってくれ!」
「わかりました!角煮というのも食べたいです!」
「わかったから!」
そのまま踏み出す。
すぐにデカイノシシ様もこちらに気がついたようだ。
だけど、こちらとしても想定内。
正面から突撃する!
「ブモモモォ!!!!!」
「100グラムいくらになるかなぁお前はああああああ!!!!!」
食うか食われるか!
俺は食われそうになったら逃げるけど!
俺ってグラムいくらなんだろう?
猪がすごいスピードで突進してくる。
俺はその鼻の上に飛び乗り駆け抜けながら、一瞬の間に頭に雷切を触れさせて雷を流す。
といっても、触れていられたのは一瞬であり、そこまでのダメージにはならない。
それでも、一瞬相手を麻痺させるのには十分なようだ。
「焼豚もいいですねええええええええええ!!!!!!」
一瞬体を硬直させた猪の頸椎をアレクシアが三好左文字で断つ。
やっぱり鮮やかだなあ……。
でもな……こっそり攻撃しようって時にわざわざ大声出さない方が良いぞ?
首から血を吹き出しながらデカイノシシが倒れる。
ビクビクと痙攣はしているけれど、これは完全に死んでいるだろう。
流石アサシンと言った所か。
「アレクシアも大分戦うのが上手くなってきたんじゃないか?」
「何となく自信がついてきました!大試さんと一緒なら狩りもできる気がします!」
「アレクシアなら1人でもできるようになるって。それまでは一緒に頑張ろうな!」
「はい!お腹もすきました!」
食欲だろうが何だろうがやる気があるのは良い事だ。
そのはずだ……。
その後も俺とアレクシアで倒しつつ、解体して素材を回収していく。
途中からは、会長たちも復帰して効率はマシマシ。
そして、丁度4時頃に魔物の領域から出られるように下山してきた。
『午後4時を回りました!本日の山狩りを終了します!現時点での1位のチームは、『チームJK巫女』となっております!』
インカムや会場に設置されているスピーカーから絹恵さんのアナウンスが聞こえる。
どうも、今日の1位は取り逃してしまったようだ。
それにしても、誰だそんな変な名前のチームを作ったのは……。
あれ?俺たちのチーム名ってなんだ?
「やったね大試君!1位だよ!」
「きっとダントツだと思うわよ?例年だったら、3日間かけてトップの1チームが稼ぐポイントを超えているもの」
「……………………えっと、ちょっと待ってくださいね?俺たちのチーム名って……」
「ん?チームJK巫女だけど?」
まさかの俺がJK巫女だった。
ジョウダン カナ?
「私も流石にJKを自称するのはちょっと……」
「アレクシアって何歳なんだ?」
「20歳ですが?」
「ならギリギリJKって言っててもいいだろ……」
もう俺も巫女服着るか?
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