第76話

「それで爺さんはこれからどうするつもりなんだ?何か目的があって100年ぶりに起きてきたのか?」


「爺さん爺さんと……わしには相川あいかわ源龍斎げんりゅうさいという立派な名前があるんじゃが?」


「いや爺さんまだ一回も名乗ってなかったじゃん。そういや俺達も名乗ってないか……?」


「そうじゃったかの?」




 正直、それどころじゃ無かったからなぁ……。


 恐竜映画で言えば、ホテルに泊まろうとしたら部屋の中にティラノサウルスがいてシャワー浴びてたくらいの衝撃だったよ。


 絶対B級映画だな。


 関係ないけど、俺はモサモサのT-レックスは認めない。




 それぞれ自己紹介をした。


 ゲンさん(龍の爺さんにそう呼べって言われた)によると、「寝るのに疲れたから」らしい。


「歳を取ると寝るのにも体力が必要でなぁ……」とも言っていたけれど、100年寝こけておいてよく言えたもんだ。


 じゃあ、茜ちゃんが寝たら何百年起きてこねーんだよ?




「茜ちゃんは、普段どのくらい寝てるの?」


「うーんとね!よるの9時にはねとるよ?」




 理衣が果敢に聞きに行く。


 少なくとも茜ちゃんにこちらへの敵意は無いらしい。


 それにしても、睡眠時間普通じゃん。


 ぜってー爺さんおかしいって。




「茜ちゃんはどこに住んでるの?人間の街?」


「うん!あんなー?茜たちはなー?人間のまちでくらしててなー?学校も行ってる!」


「わしの息子……お父さんとお母さんは元気かの?」


「うん!……あ!でも、パパはこの前うわき?してママに髪の毛むしられてた!」


「……あやつ……まあ、龍の本能で牝1人に縛られたくないのは分からんでもないんじゃが……嫁が嫌がるならダメじゃろうよ……」




 婚約者既に3人いて申し訳ない……。


 流石に俺もどうかと思ってるんだけども……。


 でも責任は果たすよ!


 その為にもお金稼ぎたいんだ俺。


 働かないでお金モリモリ入ってくる方法ないかなぁ……。


 ……って考えて何かすると、猶更仕事量増えそうな予感がある。




「それとねー!もうすぐおねえちゃんも来ると思う!でもおねえちゃん龍になれないからおそいの!」


「ほう?大分血が薄まっとるようじゃな。わしでも龍の遺伝子を以てして老化すら防げんからのう。その孫となれば、仕方ないのかものう」


「でもすっごくキレイなんよ?それに、飛べないだけで脚は速いの!」


「飛べないけれど龍のスペックもってて超スピードで走り回る美女とかもう怪談話の存在だな……」




 って話が完全に脱線したわ。




「んで、結局ゲンさんは今後どうするんだ?できれば人間と敵対的な行動はしないでくれるとありがたいんだけどな」


「あっちから攻撃されんかぎり大丈夫じゃろ。大体、今はわし、もっと腹立っとるヤツが調子こいとるから、そっちを何とかしようと思っとる所だしの」




 それはそれで大変な事になったりしない?


 大丈夫?


 龍に目障りに感じられる程の調子のコキ方ってどんなん?




「具体的には、それってどんなやつなんだ?」


「おぬしらもここに来るときに見んかったか?あの鹿たち。あれの親分じゃな」




 見たよ。


 見た見た。


 超見たよ。


 もう見たくねぇってくらいに……。


 しかもやっぱりボスボス鹿がいるのか……。


 今ならたとえ理衣の嫌な記憶を掘り起こしたとしてももう2~3頭イノシシ出てほしい……。




「その親分のせいでこんなに鹿だらけなのか?もう魔鹿肉がすごい量とれちゃって困ってるんだけど。このままだと素材も買いたたかれるだろうなぁ……」


「ここら辺でその親分鹿と勢力を二分しておった親分猪が遠くに遠征したまま帰ってこないらしくての。じゃったら自分たちが天下とっちゃるって思ったんじゃろうなぁ。それに巻き込まれた猿たちもほとほと運が無いことよな」




 あ、猿は巻き込まれただけなのね。


 めっちゃ食われてたけど。


 美味しいのかな?


 美味しいとしても猿は食べたくないな……。




 それにしても、親分猪までいたのか。




「じゃけど、この家の中入ったら出るのも面倒でのぅ……。やけに快適なんじゃもん」


「じいちゃま!エアコンっていう機械で涼しくなったり温かくできるんよ!」


「氷の魔術を使う機械かの?技術は進歩しとるんじゃなぁ……」




 100年前ってどんな感じだったんだろう?


 前世の世界でも良くわからないけど、この魔法が存在する世界だともっとわかんないわ。


 世界大戦とかあったのかな?


 あったとしたら、何をメイン武器にして戦ったんだろうなあ……。




「それに、やっぱり足腰が痛むし、できればやりたくないんじゃよな。でも鹿だらけになると山が死ぬしのう……」


「じいちゃま!茜がやろーか!?」


「茜には無理じゃよー?じゃからじいちゃまに任せときなさい」


「でもじいちゃま痛い痛いって」


「茜の応援があれば山の1つや2つ吹き飛ばして見せるわい!」




 やめて……。




「ゲンさん、じゃあ俺らが代わりにそのボス鹿倒してこようか?元々俺たちは、この山の魔物を間引くためにこうやってやってきてるからさ。明日中にそのボス鹿倒せば、俺達にも利点があるし」


「ほう?まあ、おぬしらがやってくれるというのであれば、わしとしてはありがたいんじゃが……ふむ……。じゃけど、おぬしらは親分鹿を見つけられるんかの?魔術を妨害しよるから、普通の索敵魔術では見つけられんぞ?」




 そう言われると、まあ難しいんだよなぁ……。


 俺だって狩猟王のギフトは無いけれど、今までに結構狩りはしてきた。


 だけど、龍がわざわざ見つけられないと言ってのける相手をどうにかできるかというとなぁ……。




「たいし!じゃあおねえちゃんと一緒に行けばいいと思う!どうぶつ見つけるの得意なんよ?」


「お姉ちゃん?茜のか?走って来てるっていう」


「うん!あと……あ!きた!」




 茜がそう言うのとほぼ同時に、玄関ドアの開く音がする。


 だからさぁ……それってホラーの演出なんよ……。




 ギィっと床を踏みしめる音が続く。


 空は飛べないけれど、身体能力は龍並で、茜曰く滅茶苦茶美人という存在とは果たして……。




「茜!お爺ちゃんはいたか!?」




 そう言って部屋にやってきたのは、凄い美少女だった。


 俺よりは年上か?


 会長と同じくらいに見える。




 ……ただ、正直もっとヤベー見た目を想定してたから、ちょっとだけ肩透かし。


 こう……頭から角生えてて、肌には龍のウロコがあって……。


 それを理由に迫害されていた悲しい過去とかあったりするのかなって……。


 でも、弓道部で部長してて女子からも男子からも人気がありそうな、そんなすごいんだけどありきたりな感じの女性だ……。


 嫌いじゃないけどな!




「……おい、何故貴様がここにいる!?」




 っと、ぼーっと見ていると、そのお姉ちゃんがこっちを見て驚愕している。


 何?知り合い?俺は知らないよ?




「ちょっとバイトで魔物退治をしてたら、龍だっていう爺さんを見つけたんで世間話を。ところで、どちら様でしょうか?」


「貴様……まさか私を覚えていないのか!?」




 覚えてないって!


 誰よ!?




「貴様が卑怯な手を使ったせいで、桜花祭で恥をかかされた女だ!」




 ……やっぱりわからない。


 ごめんなさい。


 理衣は、「あーあの!」って思い出せたけれど、こっちの人はそれすら無い。


 強いて言うなら、くっころせって言いだしそうな見た目だなぁって印象。


 ゴブリンとかオークとは戦わない方が良いと思う。




「大試君、この娘は魔法学園の生徒よ。弓道部の副部長で、この前大試君がゴミだらけになりながら指令室を剣で薙ぎ払った時に何もできずに敗退した……」


「水城!?なぜ水城がここにいるんだ!?」


「何故って……ここ、私んちの敷地なんだけど?」


「なんだと!?」




 一々反応が大きい。


 カルシウムが足りてないんじゃないだろうか?


 鹿は、角を維持するためにカルシウムが大量に必要で常にカルシウム不足に悩んでいると聞くけれど、この人はどこにカルシウムを使われているんだろう。


 角は無さそう。




「いいだろう……良く聞け!私は相川みるく!魔法学園弓道部副部長にして、龍の血を引くものだ!」




 バーンと自己紹介なさる先輩様。


 でもさ、龍の血を引くって言っちゃっていいのか?


 もうちょっと慎重になりなさい?


 ってか、




「……みるく……?」


「貴様!まさか私の名前をバカにするつもりか!?確かに私にはちょっと合わないかもしれないがしかし」


「いや、可愛くていいんじゃないですか?」


「……そ、そうか?ふむ……私は君を誤解していたのかもしれない……」




 あれ?


 この先輩チョロいのでは?




「大試君大試君……この人もしかしたらちょっと……」


「……傍から見てても不安になるくらいちょっと……」


「ええそうなの……。悪い男に引っ掛かりそうだなって私も思っちゃうくらい……」


「チョロいですね!」


「なんだと!?」




 アレクシアが止めを刺し、驚愕の表情で固まるみるくちゃん。


 姉の反応を見てゲラゲラ笑ってる茜。




「まあ、龍って割とチョロい生き物じゃよ?生贄だって言われて女を寄越されると、大して興味なかったのについつい孕ませて血を薄めてきた種族じゃからなぁ」


「聞きたくなかったそんなファンタジー」




 現実は、大抵理想とはかけ離れている物らしい。






 ――――――――――――――――――――――――




 そんな出来事を日課のテレビ通話で聖羅に報告する俺。


 正直眠いけれど、聖羅の為なら頑張るさ。


 何だかんだで、寝る前にこうやって話せるのは嬉しい。




「って事が有ってさぁ」


『ふーん……大試、その人って美人?』


「美人だな」


『私より?』


「聖羅の方が美人だな」


『そう、ならいい』


「判断基準そこなんだ?」


『当然。私の尺度は、大試が基本になってるから』


「メートル原器みたいなもんか」


『それは分からないけれど、大試が私を綺麗って言ってくれれば私の心の安寧は保たれる』


「100年先でも見ていたくなるくらい綺麗だぞ」


『これで明日も生きられるかも……』




 話題は違うけれど、何故か毎日似たようなセリフを言われるこの通話。


 それが嫌じゃない俺のほうも、聖羅と相性がいいんだろうな。




『大試、そのボスボス鹿、私も食べたい』


「なら狩って帰るよ」


『楽しみにしてる。すごく楽しみにしてる』




 絶対に狩らなければならなくなった!




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